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少女藤四郎  作者: 筆上一啓


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9/15

第八話「小豆長光」①へし切長谷部対北谷編

 多くの作品の中からお選びいただきありがとうございます。

 この作品はフィクションです。実在する個人名、団体名、企業名、商品名、刀剣とは関わりございません。

 また、都市伝説界隈で聞く秘密結社とも関わりのない事、刀剣擬人化のコンテンツとも関わりない事をご理解の上お楽しみください。

 今回の第8話「小豆長光」は12000文字くらいいきそうなので(上)(中)(下)に分けて投稿させていただきたいと思っています。第8話「小豆長光」(上)はへし切長谷部と北谷菜切の戦いがメインになりますのでお楽しみ下さい。

「随分と楽しそうな話してんな。俺も混ぜてよ?」

「「「北谷(ちゃたん)!?」」」

 物音ひとつ立てず、物陰から現れた北谷の姿に三人の顔が緊張する。しかし、それと同時に得物(えもの)を同時に構えた。

「物騒だねぇ、俺から話を聞きたいんじゃねぇのかよ。それが人にものを聞く態度かよ?」

(どこから聞かれていた?)

 三人は同時にそう思った。

(つまり、私がふざけている間に襲うことも出来た。)

 へし切(きり)は冷静に分析する。

 藤四郎(とうしろう)はひたすら睨(にら)みを利(き)かしている。

「北谷菜切(ちゃたんなきり)。あなたは話し合いを望んでいるのですか。貴方の任務の目的を話してくれるんですか?」

 薄緑(うすみどり)は、静かに北谷に尋ねる。

「話してもいい。が、あんたら三人のうち一人でも、俺に勝てたら教えてやるよ。」

「随分と自信が御有(おあ)りのようで。いいでしょう。乗ります。お二人は?」

 と薄緑は二人に確認を取ろうとするが、

「ただし、教えるのは薬研藤四郎(やげんとうしろう)にだけだ。あんたら二人は勝てても聞かせられねぇ。」

 と北谷は口を挟む。

(全員負けてもわたしだけ命が保証されてる?本当に保護が目的なの?)

 藤四郎はそう思ったが、へし切は違うようだ。

「ふざけるな!フェアじゃない。薬研にだけにして始末することも出来るじゃないか!勝利したら生きてる者、全員に話せ!!!」

(そうも考えられるか。)

 と思うと藤四郎は背中に冷たいものを感じた。

「・・・どこにも行かねぇから、息があったら勝手に聞けよ。」

 北谷は唾(つば)でも吐き捨てるかのように、面倒臭(めんどうくさ)そうに答える。

(話す気が無い訳では無さそうですが、簡単に話す気も無さそうですね。ただ、薬研の命だけは保証されるのですね・・・。)

 薄緑は静かに考察する。

「分かりました。私も乗ります。先鋒(せんぽう)は私でいいですね。」

 そう言うとへし切は前に出る。それと同時に薄緑は藤四郎の前にでて、庇(かば)うかのように北谷との間に入る。

(二人でケリをつける気だ。私の意見は聞かれてない。それとも多数決で決まったの?)

 藤四郎はどこか他人事(ひとごと)のように考える。

「いざ、尋常(じんじょう)に勝負!!!」

 正眼(せいがん)に構え、そう言うと踏み込み、北谷に突っ込む。

「おいおい、こっちが構える前に突っ込んできておいて正々堂々はないんじゃね?」

 そう軽口を叩きながら、北谷は距離を詰められないようバックステップでヒョイヒョイっと後方に下がる。それを追いかけるようにへし切は間合いを詰めると、袈裟(けさ)切り、左袈裟、横一文字と次々に刀を振るう。

 北谷はそれをギリギリのところで躱(かわ)す。へし切の振るった刀の切っ先が廃工場内に雑に放置された機械類に触れる。何かの機械の筐体(きょうたい)は、段ボールを切ったかのように切り裂かれる。機械上部を支えていた支柱やストラットは、鉄製のはずなのにストローでも切ったかのようにあっさりと切られ、支えを失った機械の本体はバランスを崩す。

(噂通りの切れ味。こんなの北谷菜切で受けたら刀ごとへし切られる。へし切長谷部(はせべ)とはよく言ったもんだ。

 さて、どうしたもんか。本来ならこう言う狭い場所なら短刀の俺の方が有利なはずなのに、鉄製でも紙切れのように切ってしまう刀にとっちゃ障害物なんて在って無いようなもんだ。)

 北谷はへし切の攻撃を避けつつ、冷静に手を考えるがその背中には一筋の冷たいものが走る。

「どうしたんですか。攻撃してこないんですか。噂通りなら、北谷菜切は離れた物でも切れる妖刀なんじゃないんですか?」

 へし切は攻撃する手を緩めず、北谷を煽(あお)る。

「そんなオカルト信じる方がどうかしてんだろ。」

 北谷はそう言うと、北谷菜切を抜いて横一文字、空を切る。

へし切も間合いを詰められていなかったので、受ける事もなかったのだが、

(しまった!!!)

 と焦り、まるで相手の間合いだったかのように胴受(どうう)けをする。

「ほら、何も切れてねぇだろ。」

 ハッとして刀やメイド服、自身の身体を確認するへし切。何も切れていない。

「いやいや、ここは美少女の服だけ切れて『いやん♡』ってなって勝負が決まる流れでしょ!?」

「・・・ちょっと、何を言ってるのか分からないんだが。髭切(ひげきり)は分かるのか?」

「何で私に聞くんですか?少なくとも今は貴方、私を敵として見てるのに。」

 そう言いつつも薄緑は、へし切に対して苦言(くげん)を伝えるように北谷からの質問にも答える。

「へし切さん、そんなのは昭和から平成初期の漫画やアニメだけですよ。今どきの若者には通じませんよ。」

 へし切はギャグが滑った事に対して『あはは』と照れ隠しを見せた後、真面目な表情に戻し、

「冗談は扠置(さてお)き、北谷ちゃんはそんな簡単に手の内明かして大丈夫?私に常人離れした遠隔攻撃隠し持ってるって思わせてた方が、心理戦は有利だったんじゃない?遠隔攻撃が無いと分かった今、私は貴方に攻撃する暇(ひま)さえ与えず攻撃の手を続ける必要もなくなった。貴方が私の間合いに入った瞬間、その全てをへし切るだけよ。」

「急なちゃん付けとかも意味わかんねぇよ。だけど、あんたの言う通り、この場所とへし切長谷部の切れ味の良さは今の俺にとっては不利でしかない。でも、真剣勝負ってのは、そうじゃなきゃ楽しくねえだろ?」

 そう言って笑ってみせる北谷の姿は、まるで新しいおもちゃを貰った時の子供のように純粋だった。しかし、それ故(ゆえ)に人殺しすらも純粋に楽しんでいるかのような不気味さも感じさせた。

「北谷ちゃんはイケナイ子ね。真剣勝負は命のやり取り。相手への敬意と命の尊さを重んじなさいっ!」

 へし切は言い終わると同時に切り込んだ。真っ向切りからの切り上げ、袈裟斬り、逆袈裟、横一文字とあらゆる手で攻撃の手を緩めない。

 だが、刀を抜いた北谷はそれらの攻撃を柳(やなぎ)に受け流し、少しずつへし切との間合いを詰めてくる。そして、先程までとは変わって北谷もへし切の攻撃を去(い)なした流れから切り付ける。

 しかし、それは芯を捉えておらず、へし切の受けに流されて簡単に弾かれる。

 そんな流れが暫(しばら)く続くと、

「真剣勝負を楽しんでいらっしゃる割には、巫山戯(ふざけ)た攻撃してくるんですね?」

 と流れが止まったところでへし切が尋ねる。

「あんたは服を切り刻まれるのが好みなんだろ?」

 北谷は厭(いや)らしくニヤけると答える。

 へし切のメイド服は改めて見ることも無く、弾き飛ばした北谷の攻撃の代償としてボロボロになっている。

「はぁ。」

 へし切は嘆息(たんそく)をつくと、自身の胸を両手で持ち上げ、揺らしながら、

「それならもっと芯を狙って、ここら辺の露出が増えませんと視聴者は喜びませんよ。」

「一々、調子を崩してくるやつだな。視聴者ってなんだよ?髭切!?」

「だから、私に聞かれても困りますって・・・。」

(コントかな?)

 藤四郎は緊張感を忘れて、そんな事ばかり思っていた。

「じゃあ、薬研藤四郎。あんたなら分かるのかよ?」

「『萌』です!!!」

 予想外の北谷のフリに不意を突かれた割には、両拳をしっかり握り、ガッツポーズで力説する様に答える藤四郎。

「「お前もそっち側かよ!?!?!?」」

 意外な事に薄緑と北谷の意見が合い、思わず二人は視線が合う。

「はぁ。へし切長谷部と薬研藤四郎の二人には俺の心理戦が通じないのは分かった。逆にこっちが調子を狂わされる。こっからはもう少し真面目に行かせてもらう。」

 そう言うと、この戦闘で初めて北谷から切り付けてきた。しかし、へし切も二本差しの実力者。北谷を間合いに入れず、切っ先だけで去(い)なす。

 が、やはり北谷に先手を取られると短刀の素早さに受けが多くなり、徐々に間合いは詰められる。

 北谷の突きが芯を狙う。天と地で弾くと最後は正中(せいちゅう)を狙われる。それも素早く弾こうとするが、北谷は体重と勢いで突っ込んでくる。それをへし切も力技で上に弾き飛ばす。

 しかし、間合いに入れすぎた所為で、鋩子(ぼうし)がメイド服のブラウスに引っかかり盛大に引き裂く。露(あら)わになるへし切の豊満な胸。

「やっと本気を出してくれたんですね。視聴者も喜びます。2つの意味で。」

 へし切も真剣勝負を楽しむかのような顔をする。

 今度はへし切から仕掛ける。突進とも言えるその攻撃はへし切の間合いも潰し、互いに刃金(はがね)で受け合う。それでも勢いを止めないへし切は、体格でも力でも上回る男性の北谷を何度も後方に押し飛ばす。



 ガタンッ



 北谷がロッカーのようなものに背中を打ち付ける。

「へし切る!!!」

 へし切がそう叫ぶと真っ向切りが北谷を襲う。

 北谷はロッカーを掴むと力任せにへし切に投げ付ける。中身は入っていなかったらしく、簡単に動いたロッカーはへし切に向かって倒れて行く。

 へし切はそれをまるで豆腐でも切ったかのようにスルリと切り裂く。北谷が立て続けに投げたらしい二つ目のロッカーが倒れ込んでくると、今度は横一文字にそれを切り裂く。

 刹那、上下に切り別れたロッカーの下半分の影からヌルリと手が伸びてくると、へし切の手首を掴(つか)む。

「しまっ・・・。」

 へし切が言い終わる間もなく、北谷は倒れ込むロッカーの下半分を足場にし、へし切に一本背負いを仕掛ける。へし切はまだ空中に漂うロッカーの上半分に背中を打ち付けられると、ロッカーごと地面に叩きつけられる。




 ガッシャーンッ




 ロッカーが邪魔で受け身を取れなかったへし切は、背中を強打し呼吸が止まり、意識を失いかける。

 しかし、北谷はその手を離さない。へし切の腕を掴んだまま、ジャイアントスイングのようにその手を引くとへし切を振り回し、機械類のある方へと投げ付ける。

「うぐっ」

 へし切の空気の漏れるような声が聞こえると、散々へし切が切ってきた機械類の支柱やストラットは耐久力を失い、上に支えていた機械類をへし切に振り落とす。




 ごつっ




 と鈍い音が響く。へし切の声は無い。

「へし切!」

「へし切さんっ!!!」

 薄緑と藤四郎が叫ぶように呼び掛けるが、やはりへし切の返事は無い。

「薬研はへし切の元へ!」

「はいっ!」

 薄緑の言葉にすぐさま反応して、藤四郎はへし切に駆け寄る。

 藤四郎はへし切の元に駆け付けると、へし切に覆(おお)い被(かぶ)さる機械類を跳ね除(の)ける。

 へし切は頭や肩を強打したらしく出血はあるが、幸(さいわ)い息はあった。気を失っていただけのようで、藤四郎は胸を撫で下ろす。

「薄緑さん!息はありますっ!!!」

「それは僥倖(ぎょうこう)です。」

 そう言うと薄緑も胸を撫で下ろすが、その視線は北谷から外さなかった。


 北谷は一本背負いの際に投げ捨てた北谷菜切を拾い上げると、ゆっくりと薄緑に近づく。


 ご覧いただきありがとうございます。

 感想やこのキャラが好きなどありましたら教えていただくと、今後の制作の励みにもなりますのでよろしくお願いします。

 普段から地の文がカメラワークのようになっているので、戦闘シーンは想像しやすかったのではないでしょうか?へし切のおふざけや薬研の天然、セリフもそこそこあったので単調で読み疲れすることはなかったとは思いますが、ご指摘などあれば今後の参考にさせて頂きます。

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― 新着の感想 ―
ハラハラドキドキの展開でした。 どう決着がつくのだろうと思っていたら、貼られていた伏線が勝敗のきっかけになっていたのもよく作られているなと思いました。 この後の薄緑と北谷の戦いも楽しみです。
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