第八話「小豆長光」②薄緑対北谷編
多くの作品の中からお選びいただきありがとうございます。
この作品はフィクションです。実在する個人名、団体名、企業名、商品名、刀剣とは関わりございません。
また、都市伝説界隈で聞く秘密結社とも関わりのない事、刀剣擬人化のコンテンツとも関わりない事をご理解の上お楽しみください。
前回、第8話「小豆長光」は12000文字くらいいきそうなので(上)(中)(下)に分けて投稿させていただきたいと前書きで書いたと思いますが思ったより薄緑戦長くなりましたwww
中編だけで5500文字くらい。ここまでトータルで約9000文字くらいです。薬研戦で第8話のトータル文字数15000文字くらいは行くかもしれないです(;^_^A
今回の第8話「小豆長光」(中)は先述していますが、薄緑と北谷菜切の戦いがメインになります。何度も変わる戦局の変化をお楽しみ頂ければ幸いです。
藤四郎は機械類の下からへし切を救い出すと、安全な床に横たわせる。ハンカチを広げるとへし切の露わになった胸を隠すように、それをへし切の胸元に被せる。
(立派だなぁ。ハンカチで隠しきれないや。)
と暢気にも目の前の物の立派さに関心を取られる。
(いやいや、薄緑さんがもしやられたら次は自分だ!集中しろ!)
そう自分に言い聞かせると、藤四郎は二人の様子を伺う。
緊張した面持ちで刀を構える薄緑に対して、北谷はへし切を投げ飛ばす際に投げ捨てた北谷菜切を拾い上げると、ヘラヘラと笑みを浮かべながら薄緑の元へ向かっている。
「髭切・・・、いや蜘蛛切さんだっけ?あんたには聞きたいこともあるし、帝直下とか殺したらマジで因幡白兎ごと潰されそうだから殺しはしねぇ。だが、あんたも強いんだろ?手加減は出来ねえから手足の一・二本は覚悟してほしいね。」
「心外ですね。戦う前から私に勝つ気ですか。あなたも一人で任務を行うだけの実力者でしょうが、私も単独任務です。さらに、事情を知られるわけにはいかない特殊任務についているのですよ。そう見縊られては傷付きますね。」
そう言いながらも薄緑は爽やかな笑顔を北谷に返す。その爽やかさが逆に不気味さを醸し出していて藤四郎は背中に寒いものを感じた。
「その言い草、情報引き出したら俺を殺す気かよ。」
「私が手を下さなくても、今回の問題の解決には貴方の首は必要になるでしょう。」
「まあ、そりゃそうだなっ!」
そう言い終わると同時に北谷は切りかかった。
キンキンキンキン
刃金が激しくぶつかり合う音が響く。障害物が多い廃工場内では北谷の短刀が有利だが、薄緑も百戦錬磨の達人。肘や手首を軸にして刀を細かく振り回し、北谷の攻撃を去なす。
しかし、やはり北谷の方が優勢なのには変わりはない。次第に薄緑が押され始める。
「蜘蛛切さんには別に聞きたいことがあるっ。」
北谷は攻撃の手を緩めることなく薄緑に話しかける。
「何でしょうか。特殊任務に係わる私に答えられる事があるんでしょうかね。」
薄緑も余裕そうに答えているところを見るにお互いに手の内を探っているかのようだ。
「薬研藤四郎の命を保証しながら、保護するのにあんたらの組織に最初から相談してたらこうはならなかったと思うかい。」
「・・・どうでしょうね。詳しく聞いてみないと何とも言えませんよ。任務の内容を教えてくれるんですか。」
「ふっ、それはあんたが勝ったらな。」
「融通が利きませんね。」
薄緑はそう言うと刀を横一線に払い、北谷との距離を取る。
「腹を割って話したいなら、まずはその腹の内を明かして下さいよっ!」
と言うと、今度は薄緑から攻撃を仕掛けた。
キンキンキンキン
再び激しく刀同士がぶつかり合う。
(くっ、さっきより早い。しかし、真面目な蜘蛛切だからこそ、まるで教科書通りの攻撃だ。何とか読みで凌げる。)
「そっちだって、手の内隠してた癖によく言うっ!」
嫌味で返すがその実、北谷も余裕はなく北谷菜切を横に払い薄緑との距離を取る。
(さて、どうする?冷静な蜘蛛切に心理戦は通じない。へし切との戦いで体術も見せたから、簡単には間合いも詰めさせてはくれない。)
北谷は思考を張り巡らせながら、勝ち筋を探る。
「私の方が優勢ですかね。投了するなら今ですよ。」
「ふざけろよっ!」
北谷の方から切りかかる。しかし、手立てはない。先ほどとあまり変わらない応酬が続くばかりである。
薄緑の刀が袈裟切り、逆袈裟、切り上げ、横一文字と続いて教科書通り上段の構えになった所に光明をみたと思い、北谷は懐に潜り込もうとする。
素早く振り落とされる刀の手元を狙い、蹴り上げようとするが、やはり読まれていたか薄緑は馬手(=右手)を刀から放すと弓手(=左手)で刀を振り下ろす。
(このくらいは想定済みっ!)
北谷も冷静だった。素早く半身に構えながら薄緑の弓手を掴みにかかった。
だが、それも薄緑に読まれていたのか素早くその手は攻撃をやめて引っ込められる。ヤケクソでもう一歩踏み込み、横蹴りを送り込むが薄緑の空いていた馬手に簡単に塞がれてしまう。北谷は態勢を取り戻すために後退する。
「流石に幾多の修羅場を潜ってきたと見える。一筋縄では行きそうにねえな。」
「私、『蜘蛛切』は妖怪退治が十八番ですよ。妖刀『北谷菜切』とは相性が良いのかもしれませんね。」
「はっ、それで煽ってるつもりかよ。俺は妖刀なんかじゃねぇ。只の包丁っつってんだろっ!」
(何だろう、この違和感。北谷はへし切さんの時もだったけど『妖刀』って言葉に変にムキになってるような気がする。)
藤四郎は傍らから見ていて、薄緑も気付いていない北谷の言動に違和感を覚えた。薄緑もこの返しはしっかり煽りが効いてるくらいにしか感じていない様子だ。
「おや、こっちの心理戦にはしっかり引っかかるんですね。もう余裕がないんですか。」
薄緑は更に北谷を煽る。
「クソッ!こっちは結構ギリギリのところまで手の内も腹の内も見せてんのに、そっちはまだまだ隠し玉もっていそうだなっ!」
北谷は多少の焦りと苛立ちを隠せなかった。
しかし、薄緑の方から意外な行動に出た。
「では、私の方から手の内を全て晒しましょう。ですから、あなたも全力で来て下さい。その上で私が勝った時は腹を割って話しましょう。」
そう言うと薄緑は背中を見せて後退する。北谷が呆気に取られていると、薄緑はアジャスターケースを拾い上げる。
そして、その中からもう一振りの刀を取り出す。蜘蛛切も一旦納刀し、二振りをベルトに差し込むと懐から製図用手袋の様な物を取り出し、それを馬手に被せる。
その後薄緑は低く姿勢を構えると二振りの刀を同時に抜刀して見せる。
「はっ!?あんた、ホントに薄緑でもあり髭切でもあったのかよ。」
そう。薄緑の手に握られたもう一振りの刀は蜘蛛切の兄弟刀、鬼切安綱であった。
「私が皇様より拝領したときの銘『鬼切安綱』と呼んで頂けたら幸いですね。『蜘蛛切』と併せて妖怪退治と帝への貢献を表しますからね。」
「おいっ!いい加減にしろよ。人を妖怪扱いばかりして楽しいかよっ!マジであんた性格悪いぜ。」
冷静を装うが、明らかに苛立ちを隠しきれていない北谷。
(やっぱりだ。『妖刀』『妖怪』って言葉に異様に反応してる。)
藤四郎はある確信を得るが、その原因までは予測しきれない。
「妖ではなくても、あなたは十分常人離れした強さですよ。」
「一応、誉め言葉として受け取っとくよ。あんたの方が強ぇ癖にホント嫌味だぜっ!」
そう言うと、再び北谷から切りかかる。
(怒りに任せてスピードは上がってますが、攻撃は単調ですね。)
薄緑は冷静に分析して北谷の攻撃を去なすと、二刀流を活かして素早く攻撃に転じる。
(二刀流くらいで勝った気になってんなよ。こちとら双子相手に毎日稽古してんだっ!)
北谷は余裕で薄緑の怒涛の攻撃を受け止める。馬手の袈裟切りのタイミングでそれを受けると素早く持ち手を変えて、鍔迫り合いを軸に薄緑の右手に回り背後を取ろうとする。
しかし、薄緑も一瞬遅れて同じく競り合う刀を支点に身を翻し、素早く北谷と向き合う。勢いに流された二人の間に再び距離が生まれる。
今度は二人同時に斬りかかる。
キンキンキンキンッ
再び激しく刀同士がぶつかり合う。次第にそのスピードも上がってきており、響き合う金属音も激しさを増してきている。
刹那、薄緑の蜘蛛切を握る弓手が握りを返して軌道を変えて再び北谷を襲う。それに反応し北谷も握りを返して蜘蛛切の攻撃を受けようとしたが、反対からも鬼切安綱が襲い掛かる。袈裟切りの鬼切安綱と切り上げの蜘蛛切が鋏のように襲い掛かる。
(クソッ!)
北谷は声に出す余裕もなく、そう思うと蜘蛛切の攻撃を外から内に払うと、その力を利用し横方向に宙返りをして、鬼切安綱の攻撃を躱す。
地上に膝をついて着地すると北谷は薄緑を睨む。薄緑も空振りに終わった鬼切安綱の攻撃で肩口が北谷に向いていたのを素早く態勢を戻したところだった。
藤四郎は薄緑の背中に何か見えない湯気のようなものを感じた。殺気とも違う何かだ。
(これが覇気?オーラってやつかな?こんなの出されたら戦う前から逃げ出したくなる。殺気よりも恐怖感を感じる・・・。)
「人を化け物呼ばわりしといて、そっちこそ充分バケモンだろうよ。帝直下の組織ってのはみんなあんたくらい強いのか?」
「そうですね。貴方達組織の二本差し五・六人なら同時に相手しても、皆さん勝てるでしょうね。少数なだけに一人ひとりが一騎当千の強さだと思って下さって結構です。」
「随分とあんたの組織の事話してくれるんだなぁ。」
「隠すほどの事ではありませんよ。両組織の上層部なら周知のことですが、君には冥途の土産です。」
「生憎、あっちにお土産渡すような知り合いいないんでね。くれんならもう少し気の利いたもんが助かるね。鬼も裸足で逃げ出すような・・・、それこそ鬼切安綱なんて持ってったら面白いんじゃね?」
「これは渡せませんが、腹の内を見せると言った以上私の全てを見せますよ。」
そう言うと薄緑は鬼切安綱を鍔より上身で握り、構えも左に変える。
「あはは、あんた教科書通りにしか戦えない頭の固い奴だと思ってたけど、そう言うことも出来んだ。じゃあ、俺の手が通じねぇのも道理ってもんだ。」
北谷は強がって笑うが、その笑いは乾いている。
「序でに教えておきますが、馬手の攻撃が単調とは思わないで下さい。この製図用手袋にはワイヤーが編み込まれていますのでしっかり握れますよ。」
北谷は立ち上がると服を叩いて埃を落とす。
「そのくらいでドヤられちゃ笑っちゃうぜ。こちとら毎日、千代金丸と治金丸っていう双子と稽古してんだ。んで、その治金丸って奴は左利きだし二刀流だろうが左利きだろうが、こっちは対処できるってもんだ。」
「その二人は私より速いのですか?」
「・・・。」
「それはお生憎様。」
そう言うと薄緑から攻撃を仕掛ける。北谷も一の太刀に備えて構える。
薄緑の弓手の袈裟切りに北谷は受けを合わせるが、タイミングがずれる。思っていたより遅い剣撃に馬手の切り上げへの反応が遅れる。何とかそれも受け止めるが押し負けて後退させられる。
薄緑の素早い追撃に間合いをあっという間に詰められる。慌てて北谷は体勢を立て直し、薄緑の攻撃に備える。馬手の横一文字を受け止めると、短く握られた鬼切安綱は握りを変え、垂直に斬り上げてきた。何とかそれを上体を反らして避けるが、案の定、弓手の蜘蛛切が襲い掛かる。それを上体をさらに反らし、体も捻り、しゃがみ込むことで何とか避けると、次は足元を狙って鬼切安綱の横一文字が飛んでくる。それも小さくジャンプして避けるが態勢を崩していたために浮いた足に対して両手をつく。次は蜘蛛切の真っ向切りが北谷の胴を狙う。
北谷は次々に薄緑の攻撃を寸でのところで避けきるが、その姿はまるでブレイクダンスを無理やり踊らされているようだった。
(あの北谷が押されている。それに薄緑さんも明らかな急所を狙っていない。どこか遊んでいるようにも見える。)
藤四郎も薄緑の攻撃を見てその気迫に気圧される。
(クソッ!今までのスピードに慣れさせておいてのコレかよっ!攻撃も変則的だし!攻撃速度も変速出来るのかよ!読みでも反応でも詰みじゃねぇかよっ!!!)
北谷の表情にも余裕はない。
「あーーーっ!クソッ!!!」
北谷はそう叫ぶとカポエラでもしているかのように上下反転したまま両足を振り回す。タイミングよくそれが薄緑の馬手の甲にあたり、薄緑の執拗な攻撃がやっと止む。
(上手い!今の機転とブレイクダンス!)
藤四郎は平常心を取り戻す為にもいつもの天然ではなく、敢えて巫山戯たことを考えて心を落ち着かせてみた。しかし、いつの間にか北谷を応援していた自分に気付いて慌てふためき、返って平常心を失ってしまっていた。
北谷も足の遠心力を使って勢いよく立ち上がる。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・。」
柄にもなく息を切らす北谷。再び構え直す薄緑。高まる緊張感が次の一撃で勝負が決まることを予感させる。
スー、ハー。
北谷が大きく深呼吸をすると、両手をだらりと下ろし無防備な体勢になる。しかし、その瞳に闘志は消えておらず、しっかりと薄緑を視界に収めている。
「・・・。」
薄緑もそれを茶化すことなく、真剣に北谷と向き合う。
ガタンッ、ガシャーン
どこかで何かが落ちた音がする。おおよそへし切が切り裂きまくった廃工場内の機械の一つが形を崩し、床に落下した音だろう。まるで、それを合図にしたかのように薄緑は斬り付ける。
北谷は棒立ちのまま薄緑の攻撃を迎えると、その剣撃を紙一重でヒラリヒラリと避ける。北谷のその足捌きはまるで地面を滑るかのように滑らかだ。
何度かの薄緑の攻撃を躱すと北谷はボクシングのようなファイティングポーズを構えると一気に薄緑の懐に飛び込む。
(北谷菜切を握っていない!?)
薄緑が北谷のその手に刀が握られていないのに気付くと同時に前に出していた左足の甲に痛みが走る。北谷菜切が薄緑の足ごと地面に突き立てられていた。
北谷は素早く薄緑の顔面にフックを三回、ボディブロー、レバーブローと次々に叩き込むとトドメにアッパーカットを薄緑の顎にクリーンヒットさせる。
脳震盪を起こし後ろへ倒れこむ薄緑。その手から離れた鬼切安綱を瞬時につかみ取る北谷。
北谷は鬼切安綱を右手に握り直すと、倒れこんだ薄緑の胸を踏みつけ刀を喉元に突きつける。
数秒して意識を取り戻した薄緑に対して北谷は告げる。
「勝負ありだ。」
ご覧いただきありがとうございます。
感想やこのキャラが好きなどありましたら教えていただくと、今後の制作の励みにもなりますのでよろしくお願いします。
最初に書きましたが、この作品は元々台本として考えていた内容になります。自身が役者をやっていたこともあり脚本や演出は初めてでも見てきた経験はあります。しかし、制作側として運営にかかわる役者の手配や音響、照明の手配、舞台の手配などの経験はないので舞台化はいろんな意味で初挑戦でもあります。
そんななか良い縁に恵まれまして、朗読劇のワークショップ運営者されている方とこちらの小説を朗読劇として動かしていく運びとなりました。今から舞台が楽しみで仕方ない筆上です。




