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少女藤四郎  作者: 筆上一啓


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第八話「小豆長光」③薬研対北谷編前編

 多くの作品の中からお選びいただきありがとうございます。

 この作品はフィクションです。実在する個人名、団体名、企業名、商品名、刀剣とは関わりございません。

 また、都市伝説界隈で聞く秘密結社とも関わりのない事、刀剣擬人化のコンテンツとも関わりない事をご理解の上お楽しみください。

 前回、第8話「小豆長光」は12000文字くらいいきそうなので(上)(中)(下)に分けて投稿させていただきたいと前書きで書いたと思いますが、藤四郎対北谷も思ったより長くなりそうですwww

 藤四郎対北谷戦だけで10000文字くらい行きそうなのと、なるべく毎週投稿を止めたくないのでここで一旦区切って残りは後編にて追加しようと思います。

「勝負ありだ。」

 北谷(ちゃたん)は薄緑(うすみどり)に対して勝利宣言を行うと鬼切安綱(おにきりやすつな)を向けたまま数歩後退する。

 藤四郎(とうしろう)は薄緑に駆け寄り、

「大丈夫ですか?薄緑さん!」

 と声をかけると、本人の了解も得ずに履物(はきもの)を脱がせる。そして、バッグから軟膏(なんこう)と晒(サラシ)を取り出すと薄緑の止血の処理を行う。

「有難(ありがと)う御座(ござ)います。」

 薄緑はそう言って笑うが、申し訳なさから苦虫(にがむし)を噛み潰したような笑顔だった。

 止血処理が終わると、刃を向けたまま北谷が再び薄緑に近づき、藤四郎は一歩下がる。

「蜘蛛切(くもきり)さん、悪いがちょっと大人しくしててくれ。」

 そう言うと薄緑の腰から蜘蛛切まで奪うと、そこら辺の機械に埃避(ほこりよ)けで掛けてあった布を縛っていた紐を手に取る。

「まあ、それは敬意の裏返しだと受け止めて置きましょう。」

 抵抗しようと思えば出来そうなくらいの余裕は残っているだろうに、薄緑は北谷に背を向けると後ろ向きに両手を差し出し、自ら拘束される事に従った。

 藤四郎もそれらの意図を理解して一歩下がる。ふと何かを思い出したかのように通学用リュックサックを漁(あさ)る藤四郎。

 何かを取り出すと、凛とした顔を北谷に向ける。

「もうちょっといいですか?」

 藤四郎のその手にはウォーターボトル型の水筒が握られていた。北谷がその手に握るものを確認すると、返事を待たずに薄緑に駆け寄り、

「スポーツドリンクです。飲んでください。」

 拘束されて自由の利かない薄緑の口元に水筒を運ぶ。

「ありがとうございます。」

 そう言うと数口水筒を口にする。顎が少し下がると藤四郎ももう充分であることを肌で感じ水筒を下げる。

「ありがとうございました。」

 薄緑の二度目の感謝は幾分(いくぶん)表情が和らいでいるように感じた。

「どういたしまして。」

 藤四郎は薄緑の言葉に笑顔で返す。

 北谷はその行動を見守りつつ、鬼切安綱と蜘蛛切を鞘(さや)に納めて薄緑の手の届かない範囲にその二振りを立て掛ける。

 視線を外した蜘蛛切と鬼切安綱を立て掛ける一瞬から視線を薄緑と藤四郎に戻すと、無防備にも北谷に駆け寄る藤四郎が視界に映る。警戒する間もなく狼狽(うろた)えると、『ドン』と藤四郎の握る水筒が北谷の胸に突きつけられる。

「何で俺に?」

「何でって・・・、『敵に塩を送る』って言うの?薄緑さんとの戦いであなたの手の内は殆(ほとん)ど見せてもらったから、少しでもハンデを無くす為にも、先ずは息を整えてもらおうと思って?」

 戸惑う北谷に藤四郎は屈託なく答える。

(相変わらず、こいつには調子を崩されっぱなしだな。)

 北谷はそう感じながらも、

「悪いな。でも、負けても後悔すんなよ。」

「えへへへぇ。このまま勝っても実力じゃないからねっ!」

 そう言って屈託の無い笑顔を向ける藤四郎に戸惑い、北谷は思わず視線を逸らす。

「気持ち悪いヤツだな。」

 北谷の顔は仄(ほの)かに赤みを帯びながらも悪態をつく。

「なんで、みんなわたしが笑うと『キモイ』っていうの!?」

 藤四郎は頬(ほほ)をぷくっと膨らませると北谷の悪態に文句を言う。

「ははっ。お前は『キモイ』奴だよ。全然何考えてるんか分かんねえし、何をするかも分かんねえ。きめぇよ。」

「なっ!?」

 言いかける藤四郎を無視するように北谷は言葉を被せる。

「・・・だが、ありがとな。」

 北谷は心からの笑顔を藤四郎に向けると礼を述べる。

 水心は純粋な北谷の笑顔を見ると顔が熱くなるのを感じる。

「飲むなら早く飲めっ!」

 そう言って水筒を北谷の胸に押し付けると、気持ちを悟られないように顔を反らす。

「じゃあ、遠慮なく頂くわ。」

 無理やり渡された水筒を受け取ると、北谷は水筒の口を開けてそれを口にする。体が欲していたのだろう。体が重くなることも気にせずゴクゴクと勢いよく飲み物を体に注ぎ込む。

(やばい。飲み過ぎだ。)

 そう思っても口が、喉がそれを止めない。結局水筒の中身を半分以上飲み干すと漸(ようや)く体が言う事を聞いてくれてその手を止める。

 ジワジワと胸の辺りから何かが全身に沁(し)みていくのを感じ、北谷は自分が予想以上に消耗していたことを自覚する。

「礼は言わねぇぞ。」

 ぶっきらぼうにそう言うと水筒を藤四郎に突き返す。何となく気恥ずかしくて顔が見れなかった。

「先に『ありがとな』ってお礼言ってたよ?」

 藤四郎はニヤニヤしながら北谷の顔を覗き込む。

「何だよ。」

「間接キスだね。」

「はあ!?そんなん気にすんのは中学までだろ!!!」

「薄緑さんと(笑)」

 それを聞くと一瞬でも動揺し、顔が熱くなるのを感じたのが一気に冷めて全身の力が抜けるのを感じた。

「お前、俺を揶揄(からか)ってるだろ。」

「えへへへぇ。バレた?」

「はぁ。今から戦う相手にすることじゃねえだろ。」

 と呆れてみせると、ふとある思いに行きつく。

(そうか、こいつは俺の心理を揺さぶる為にこんな巫山戯(ふざけ)た事してんじゃねぇ。自分の為だ。自分の精神を保つ為にわざと巫山戯てんだ。)

「お前と俺は似てんのかも知れねえな。出会い方が違ったら違う運命だったかもな。」

「えっ!えっ?えっ!?どういう意味?似てないから!!!」

 北谷の心の声が不意に零れると、藤四郎は理解できず戸惑い驚く。

「・・・なんで赤くなってんだよ。」

 そう言う北谷も照れ臭そうに頬を指で掻(か)く。

 水心は慌てて自分の顔をペタペタと触り、

「べ、別に赤くなってなんかないからっ!」

「ははっ。おもしれーやつ。」

 気が抜けた北谷は腹を抱えて笑う。

「もうっ!みんなして『キモイ』とか『おもしろいヤツ』とかいっつもバカにしてっ!」

 と怒って見せるが、屈託なく笑う北谷の顔を見ると何故だか幸せな気分になる。

「・・・えへへへぇ。」

 水心も所在なさげに笑ってごまかす。

(はぁ、私は何を見せられているのでしょうか。)

 薄緑は二人だけの世界になっていることを感じ、自分の存在の居たたまれなさと、このまま存在を忘れられるのではないかと言う一抹の不安を覚えた。




 藤四郎はくるっと後ろを向くと、水筒をリュックサックに戻しに行く。その後ろ姿は照れ隠しなのか、メトロノームのようにリズミカルにほんの少し左右に揺れている。どこかご機嫌な様子も伺える。

 しかし、水筒をリュックサックに戻し振り返ったその顔は覚悟の決まった顔をしていた。

「お待たせ。じゃあ、始めよっか?」

「ああ。」

 藤四郎の言葉に北谷も返事を返すと、二人はゆっくりと刀を構える。

 睨(にら)み合うとそのまま時間だけが過ぎていき、両者一向に動く気配がない。互いの力が拮抗し、お互いが攻撃のきっかけを探っている。

(ったく、スイッチ入った瞬間これかよ。まるで別人だ。あの夜もあっさりと俺の後ろを取った。油断はできない。)

 北谷は薬研藤四郎と初めて邂逅(かいこう)した夜を思い出していた。五虎退(ごこたい)を追い詰め、多少は意識がそちらに向いていたとしても援護が来ることには充分に警戒していた。にも関わらず、一瞬で関節を決められ首筋に刀を突き付けられた。

 油断はしていなかった。だからこそ、スイッチの入っている時の薬研藤四郎を北谷は最大限に警戒していた。

(さて、睨み合ってても進まないなぁ。でも、北谷の恐ろしさは速さじゃない。順応力だ。長引けばわたしが不利になる。かと言って実力はほぼ同等。一瞬で決まるような勝負でもない。なら・・・。)

「「考えてもしょうがないっ!!!」」

 まるで息を合わせたかのように二人のセリフが被ると同時に動いた。

 お互いに受けることなく激しく攻撃を繰り返す。短刀の北谷菜切(ちゃたんなきり)と太刀の水心子正秀(すいしんしまさひで)の違いはあれど、両者の長所を上手く使っているのでどちらかが押されるという状況にならず、ただただ、同じ力が同じベクトルでぶつかり合っている。




 キンキンキン、キン、キン、・・・キン。




(リズムが変わった。蜘蛛切の真似か?)

 北谷は藤四郎の攻撃が少しずつ間が空くようになったのに気付く。

 しかし次の瞬間思わぬことが起きる。




 カキンッ




 北谷の方が力で押し負けて刀を弾き飛ばされそうになる。

「なっ!?」

 思わず後退し、態勢を整える。

 しかし、藤四郎は迷わず追撃の手を止めない。速さはないのに重い太刀が降り注ぐ。それを柳(やなぎ)に受け流し、藤四郎の変化を観察する。

(なんだ。この違和感は?それほど速くもないのにやたらと一撃が重い。)

 尚も続く藤四郎の攻撃に北谷は押されながらも、一つの解を得る。

(まるで踊っているようだ。そうか!遠心力を利用して一太刀(ひとたち)一太刀に重さを与えているのか。弧を描く大きさが変わったからリズムが変わってきてるのか。)

 カラクリが分かると北谷は反撃を開始する。藤四郎の攻撃を真っ向からは受けず、遠心力の分、次の一手が遅れるのを狙って柳に流すと懐に飛び込む。

 しかし、それも想定済みと言わんばかりに水心子正秀をマーチングバンドのバトンのように手元でくるりと回転させると、握りを持ち直しながらもその遠心力をも使って北谷の攻撃を去(い)なす。

 再び距離を取る北谷。

「・・・太極拳(たいきょくけん)か。」

「正解っ!」

 北谷の質問にニコリと答える藤四郎。

「そのくらいじゃ、すぐに俺に見抜かれるぞ。」

「そんなの分かってるよ!」

 と言って藤四郎は頬を膨らませる。しかし、すぐに厳しい表情に戻ると、

「でも、それだけじゃない。」

 そう言うか否か、藤四郎は攻撃を仕掛ける。

 同じく太極拳の様な流れるような剣撃が北谷を襲う。

「そう何度も同じ手は食わねぇ!」

 北谷もそう言うと、藤四郎の攻撃を去なすと深く懐に入る。左フックを狙うが藤四郎の右の拳がそれに併せて腕を狙ってショートフックで軌道をずらされる。

 それに動じず北谷は右ボディブローを当てに向かうが、今度は藤四郎の肘でガードされる。北谷菜切を握ったままの右の指が肘にあたれば骨折は免れない。北谷は慌てて力を込めて寸止めで止める。

 それを見計らったかのように藤四郎は素早くガードを解いてそのまま左手に握った水心子正秀で北谷の面を狙って突きを繰り出す。

 北谷はそれを紙一重で避(さ)けるが、肩を狙うようにそのまま刀が振り落とされる。

 半身に翻(ひるがえ)して二の太刀(にノたち)もかろうじて避(よ)ける。しかし予想外に振り落とされた刀は握り直されることなく、そのまま鋩子(ぼうし)が北谷の顎を狙って斬り上がって来る。

 これも当たれば命に直接関わることはなくとも脳震盪(のうしんとう)、下顎骨(かがくこつ)の骨折は免れない。北谷は堪(たま)らず上半身を反らして、何とか三の太刀(さんノたち)も躱(かわ)す。

 藤四郎に反撃するなら今しかないと、大きく脇の空いた所を狙って北谷は胴の突きを狙う。

 しかし、それも素早く最短距離で振り落とされた藤四郎の左手が、柄の頭で北谷の刀を叩き落とす。

 



 カランカラン




(勝負あった。)

 藤四郎は勝利を確信した。

 ご覧いただきありがとうございます。

 感想やこのキャラが好きなどありましたら教えていただくと、今後の制作の励みにもなりますのでよろしくお願いします。

 舞台化についてですが、ベテラン声優、人気のある若手声優さんにも興味を持っていただき、スケジュールが合えば豪華なキャストになるかもしれません。舞台化もワクワクが止まらないのに、剣戟シーンを描くのもワクワクが止まらずテンションマックスの筆上でしたwww

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