第四話「北谷菜切」
多くの作品の中からお選びいただきありがとうございます。
この作品はフィクションです。実在する個人名、団体名、企業名、商品名、刀剣とは関わりございません。
また、都市伝説界隈で聞く秘密結社とも関わりのない事、刀剣擬人化のコンテンツとも関わりない事をご理解の上お楽しみください。
今回も魅力的な登場人物たちが増えますので、楽しみにして頂ければ幸いです。
北谷は、同じ因幡白兎の衣装を纏った男に手首を引かれ、ビル火災の現場を脱兎の如く離れる。
「ちが兄、そろそろ手を放してくれよ。5歳児じゃないんだからさぁ。」
「ちっ。」
と舌打ちをすると『ちが兄』と呼ばれた男、治金丸は北谷の腕を放す。
「千代金丸と落ち合うまで離れるなよ!」
と治金丸は言うと黙って走り続ける。わざとらしく速度を上げるが北谷は何ともないと言った顔でその後をついてくる。
「可愛くないやつめ。」
治金丸はそうぼやくとチラリと北谷を見やる。何が楽しいのかニコニコして付いてくる北谷を見て、治金丸は一層北谷を不気味に思うのであった。
「ちが兄、どこまで行くんだよ。」
「ちっ、黙って付いて来い。」
「はいはーい。」
「『はい』は一回でいい。」
「うん?もしかして、千代兄?」
急に同じく因幡白兎の衣装を纏った男が治金丸の横に来て並走する。
「全く、千代金丸は俺の真似下手くそだなぁ(笑)」
「お前が下らんこと考えたんだろ。治金丸!」
「はぁ。千代兄も、ちが兄も何やってるんだよ・・・。」
呆れる北谷に二人はそっくりな含みのある笑顔を見せる。
「「生意気なお前を揶揄ったんだよ(笑)」」
「そんな入れ替わりとかガキのやることだろ。いいから、早く本題に入ってくれよ。」
見事にユニゾンした二人に呆れながら北谷は答える。
それと同時に、適当なビルの屋上の物陰に三人は隠れる。
「んで、何なんだよ。あのビルの爆発も二人の仕業?」
「『仕業』とは失礼だろ!危なかったお前を助けたんだからさ。」
と治金丸。
「余計なお・・・。」
「実際、正面に二人、後ろに狙撃手一人。しかも、目の前の小柄な方の腕前はお前と同程度。危なかったのは確かだろ。」
と千代金丸は北谷の言葉を遮った。
「お前がやりたい放題やってるから、丙子椒林剣様に遣わされてお前を止めることになったんだよ!一体何がやりたいんだ!?」
「すまん、ちが兄。個人依頼だから言えないんだ。」
「いつまで続けるつもりだ?丙子様にはお前を止めるよう言われている。このままお前を野放しにして八咫烏の奴らを襲わせ続ければ、今までのようなただの対立では済まないのはお前でも分かるだろ。」
「・・・ごめん、千代兄。でも、やっと目標が分かったんだ。もう、余計な被害者は出さない。」
「被害って!そもそもお前がいつもちゃんと面をしていれば、態々殺さなくても済んだかもしれないんだろ!?」
千代金丸は今度は治金丸の言動を手で制した。
「チッ!」
と納得のいかない様子の治金丸。
「とりあえず、二人とも本部に戻るぞ。」
千代金丸は一息吐いて場を整えると帰還を促すが、行動に移す前に北谷を見遣る。
「北谷、丙子様から何かしらあることは覚悟しておけ。」
「・・・ああ。」
千代金丸の言葉が叱責にも心配にも聞こえて、北谷は返事に迷い濁してしまう。
―—— 因幡白兎本部 ―——
「三人とも良く戻った。」
丙子椒林剣。八咫烏と同じ裏社会で動く因幡白兎の首長。簾の向こうに姿を隠しているが、現場主義なところもありその姿を知らぬ者はいない。面はしているがその声と容姿から女性と言うことは分かっている。
しかし、女性でもこの組織を束ねるだけの実力とプレッシャーは持ち合わせている。それは、流石の北谷も丙子の前では面をつける程だ。
「丙子椒林剣様、申し上げます。」
まずは千代金丸がこれまでの流れを報告し始める。丙子の第一声の前に『すーっ』と息を吸って感情を整えているのを察して、無難な自分の報告から始めることを決定した。
千代金丸の報告が一通り終わると、丙子は『シッ』と短く息を吸ってその短い時間に言葉を選ぶ。
「北谷、今回の件に関して報告せよ。」
平常心を装っているが丙子の『シッ』と言う呼吸音を聞くと三人の間に緊張感が走る。
言動の前に呼吸を整える丙子の癖だが、それが常に平常心で情報を短期間で精査し、次の行動を選ぶ頭の回転の速さと感情を読ませない底知れなさが、単純な呼吸を整える癖だけで大きなプレッシャーを相手に与えていた。
「丙子椒林剣様、申し上げます。」
言い知れぬプレッシャーに顔をあげることが出来ぬまま北谷は報告を始める。
報告が核心に触れると丙子は北谷の発言を制止する。そして、千代金丸と治金丸を退席させ、再度呼びつけるまで外で待つように指示する。
「・・・それで、北谷。薬研藤四郎を探していたのは理解した。この社会のルールも理解はしているが、我らにも烏共にも混乱を招いておる。悪くはしない。私だけにでも依頼者の意図を教えてくれぬか?」
北谷は、拙い自分の知能で一生懸命考えるが、何と答えるのが正しいのかその道筋を見つけ出せない。
「・・・申し訳ございません。丙子様でも依頼者の保護と秘匿から申し上げられません。」
自分で言っておいてぶわっと汗が噴き出るのを感じる。
「・・・まあ、よい。報告を続けよ。」
北谷は、恐る恐る報告を続ける。
報告が一通り終わると、丙子は独特の間を置きながら、
「それで、八咫烏にはどういい訳するつもりだ?4人も切っておいてお前の言うように『人違いでした』が通じるとでも?」
「自分の首で・・・。」
「随分と安い首だな。そんな簡単に差し出す首などでは吊り合いは執れぬ。もっとマシないい訳でも考えておくんだな。」
と吐き捨てると北谷は退出を言い渡された。
それと入れ違いに、再び千代金丸と治金丸は丙子の前に戻り跪く。
空気が落ち着いたのを確認すると丙子は二人に命令を下す。
「千代金丸、治金丸。やつの依頼人は八咫烏と因幡白兎の共倒れを画策している可能性もある。改めて北谷の周囲を調査せよ。」
「「はっ!」」
二人の返事が気持ちよく揃う。
「北谷の監視は、どうされますか?」
「これ以上無茶なことはしないと思うが、引き続きそちらも頼む。」
「「はっ!」」
二人が丙子の部屋から出ると、既に面を外して立ち尽くす北谷が待っていた。
治金丸は自身の面を外しながら、ニヤニヤして北谷に近づくと腹に一発入れ込む。
「どうした?首を差し出せって言われたのかぁ?」
「いや、首はいらないって・・・。」
「それは良かった!俺たちスリーマンセルだろ?兄貴と二人になったら喧嘩ばっかりで任務どころじゃねえからな。」
治金丸の言葉は本心でもあったが、丙子に命じられた任務を悟られない意図も含まれていた。
「まあ、今のところは見逃してくれたと思っていた方が良いだろう。ただ、お前の今後の行動次第では、本当に首を差し出すことも覚悟はしておけよ。」
面を外しながらそう言う千代金丸の顔には不安が滲み出ている。その言葉にも叱責と心配が垣間見える。
未だ表情の晴れない北谷を見て、治金丸はもう一発拳を北谷の腹にぶち込む。
「いってーーー!ちが兄、今のはマジだったろ!?」
「ははっ!いつまでも暗い顔してっからだろ。うまいもん食えば元気出るって!最近見つけたラーメン屋がイケるから連れてってやるよ!」
と明るく取り繕う治金丸。
「全く、お前はいつも食う事ばっかりだな。」
「別に兄貴はさそってねぇし!食いたくなきゃ来なくていいぜ。」
と治金丸は意地悪そうな表情を浮かべて千代金丸を煽る。
「誰も行かないとは言ってない。北谷!行くぞ!」
と言うと千代金丸が先に北谷と肩を組んで歩き始める。
「ちょっと待てよ!俺が誘ったんだぜ!?」
と慌てて後を追い、反対から北谷と肩を組む治金丸。性格は全く違うが同じ顔をして笑う二人を見て、北谷は改めて良い兄貴分を持った事に感謝を覚えた。
豚骨の独特の香りが店の外まで漂い、胃袋をこれでもかと言わんばかりに刺激する。
「大将~!三人だけど、席空いてる~?」
と元気よく治金丸が声をかけて、三人が暖簾をくぐると厨房の奥の一番体格のいい男性が答える。
「よお。最近よく来る元気のいい兄ちゃんじゃねえか。今日は友達も一緒かい?ありがたいね~。席は空いてるから好きなところ座ってくれ。」
確かに席はいくらか空いているが、大将は他の従業員と忙しそうに作業をしながら治金丸に応える。
三人はカウンター席に北谷を挟むように座る。
「ここのラーメンマジでうまいからさ!」
とメニューを配る治金丸。
大将がカウンターに近づくと三人分のお冷を出す。
「兄ちゃん、双子だったんかい?お兄さんの方は同じ顔なのに利発そうだな。」
「なんで、俺の方が弟って分かんだよ!大将?」
「自明の理だ。」
「そうだな。こんだけいつも人を見てると自然とわかるってモンだな。」
と言って笑う大将。どこか納得がいかないと言った様子で少しいじける治金丸。
「あはっ。そう言うとこだろ。」
とやっと北谷の顔に笑顔が戻った。
「お?やっと笑いやがった(笑)」
そう言うと治金丸は憎々しげに北谷の頬を抓る。その手を北谷は振り払う。
「仲がいいねぇ。みんな兄弟かい?」
「こいつは後輩っす。」
と全て治金丸一人で答える。
「そうかい。兄ちゃんも良い先輩を持ったなぁ。まあ、注文が決まったら呼んでくれや。」
大将はそう言うと奥に引っ込む。
「俺は決まってるけど、二人は?」
「俺は・・・特製ラーメンかな。」
「あ、自分も。」
と三人の注文が決まったところで治金丸が店員を呼ぶ。
「あ、すみません。注文良いですか?」
「はい、よろこんで。」
「じゃあ、特製ラーメン3つと替え玉2つ。オプションのチャーシュー3つ、煮卵4つ、もやし、めんま、きくらげ1つずつ!」
「おまえ、そんなに食うのかよ・・・。」
「まあ、いいからいいから。」
呆れる千代金丸に飄々と応える治金丸は嬉しそうにしている。
やがて注文の品が届くと、治金丸は北谷の前の器を奪い取り替え玉二つをそれに投げ込むとチャーシューを花弁のように飾り付け、その他のオプションもきれいに飾り付ける。
飾り付けが終わると再び北谷の前に器を戻す。
「激励会だからな!このくらいはしねーと(笑)」
屈託のない笑みを北谷に送る治金丸の顔は悪気はないといった感じだった。北谷はその笑顔と大将の『良い先輩』と言う言葉を思い出して少し照れ臭くなる。ついでに、
(普段はガサツなところが目立つのに、こう言う盛り付けや絵を描かせたら、ちが兄って意外と上手いんだよなぁ。)
と普段の行動も顧みて、再評価していた。
「代金のことは気にすんな!兄貴が払うから!あ、あと残すと大将の機嫌悪くなるから残すなよ(笑)」
今度の笑いは意地の悪さの出たいつもの治金丸の顔だった。それと併せて奥にいた大将の視線を感じる。『残すなよ』と言う重圧を感じるところから、これは激励も兼ねているが意地悪も兼ねていると判断し、北谷は先ほどの再評価を取り下げることにした。
「なんで俺持ちなんだ。お前が勝手に注文した分だろ。」
と不服気な千代金丸だが、その顔は自分が支払いは持つと言っている。
「冗談だよ、兄貴。これはおれが持つって!」
「ふん。」
少し機嫌悪そうに千代金丸は自分の器に目を遣る。
ぴちゃっ
チャーシューが2枚、北谷の器に飛び込んできてスープが跳ねて北谷の顔にかかる。
「俺からもだ。」
とぶっきらぼうに言うと千代金丸は自身の目の前のラーメンを啜り始める。
(千代兄は、いつもは冷静で言葉にも思いやりを感じるんだけど、こうやってその思い遣りを行動で示そうとするとぎこちないんだよなぁ。)
北谷はおしぼりで顔に跳ねたスープをふき取りながらそんなことを思い、苦笑いをした。
改めて、絢爛豪華な超特製ラーメンを目の前にして笑みがこぼれる。感情があふれ出しそうになって、それを誤魔化すように勢いよくラーメンを啜り始めた。
「んんん!うまい!!!」
「だろっ!」
「確かに。」
悔しいが治金丸の言う通り、美味しいラーメンを食べて元気を取り戻したが、それだけではないのを心の奥深くで感じていた。嬉しいのと美味いのとで頬が緩む。
ふと、治金丸の人差し指が北谷の頬を突く。思わず反応してその方に顔を向ける。
「やっと心の底から笑ったな。」
治金丸の本当に嬉しそうな顔にこっちが恥ずかしくなり、器に顔を戻し、自分の表情を探られないように一心にラーメンを啜る。
一心不乱にラーメンを啜っていると、今度は反対側からレンゲに乗った煮卵が視界に入り込んできて、北谷の器の中にそれが移される。
千代金丸の方を見遣ると照れ臭そうにラーメンを啜る千代金丸の顔がそこにあった。
そんな三人の様子をニヤニヤしながら見守る大将の姿が厨房の奥に見えた。
「三人は大学生かい?」
合間を見て大将は三人に語りかけながら、グラスにお冷を注ぎ足しに来た。
「はい。」
「はい。俺が3回生で、こいつは1回生です。」
「俺は社会人ッス。」
「あ~、元気な兄ちゃんはそんな気がしてた。あんまり賢そうじゃねえからな(笑)」
「大将、それひどくないっすか!?」
『ガハハ』と笑いながら厨房に戻る大将の背中はどこか満足げだった。
「ごちそうさま~~~!」
「ごちそうさまです。」
「ごちそうさまでした。」
それぞれが挨拶をしながら暖簾をくぐって店を出た。
店を出る前も北谷の分の代金をどちらが持つかで、お互いが譲らずひと悶着あったが、奢られる身の北谷は『割り勘にすればいいのに』と思いつつもそれを口にはできなかった。
そんな様子にしびれを切らした大将が、
「レジの前で騒がれちゃ、こっちが迷惑だ!今回はオレからの奢りにしてやるからとっとと帰りやがれ!!!」
と怒号が厨房から飛んできて、お礼を言いながらもいそいそと店を出てきたのであった。
「はぁ。流石に食いすぎた。ちょっと、夜風に当たってくるわ。」
北谷はそう言い懐から刀を取り出すと、千代金丸に預ける。
「遅くなるなら手入れをしておこうか。」
「千代兄、悪いが助かる。」
「お?女か!?」
と茶化す治金丸に、
「んなわけねぇだろ。」
と苦笑いを返す。
「あれ?図星だった?」
と口にすると、『野暮なことは口にするな』と言わんばかりに千代金丸の蹴りが脹脛に入る。
見送る二人に背を向けながら手を振ると、北谷は夜の街に消えていくのであった。
ご覧いただきありがとうございます。
感想やこのキャラが好きなどありましたら教えていただければ、今後の制作の励みにもなりますのでよろしくお願いします。
※個人的には北谷の頬を突いて、心から嬉しそうな顔をしている治金丸をみると「これ惚れるやつだろ」なんて思いながら書いていましたwww




