第二話「陸奥守吉行」
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この作品はフィクションです。実在する個人名、団体名、企業名、商品名、刀剣とは関わりございません。
また、都市伝説界隈で聞く秘密結社とも関わりのない事、刀剣擬人化のコンテンツとも関わりない事をご理解の上お楽しみください。
吉行と藤四郎は五虎退と別れると吉行の仕事部屋へと向かう。
「まずは手入れから済ませよう。」
「はい。」
二人は部屋に入ると部屋の中央の応接セットのソファーに腰を掛け、それぞれの得物の手入れ道具を取り出すと各々メンテナンスを始める。
二人は懐紙を口に挟むとそれぞれの刀に打ち粉を降る。藤四郎は|薬研藤四郎に加え、新しく拝領した水心子正秀の二振りを順々に手入れをする。吉行も陸奥守吉行、続いて脇差の備前長船勝光宗光と続けて手入れを行う。二人はほぼ同時に刀の手入れを終えたが、吉行は今度はすぐに拳銃の方のメンテナンスキットを取り出し、スミス&ウェッソンを分解し始めて手入れを始める。その間、薬研は息を殺してそれが終わるのを待つ。
銃の手入れが終わると吉行は一度席を離れる。戻るとその手には紅茶のセットを盆にのせて戻ってくる。席に戻ると二人分の紅茶を入れてその片方を薬研に差し出す。
「ご馳走になります。」
「今日はダージリンだがお口に合うかな?」
薬研は一口紅茶を口に含むと、
「・・・はい。おいしいです。」
「それは良かった。」
二人は無言で紅茶を口に運ぶ。会話もなく静かに時間だけが過ぎていく。
薬研は紅茶を口に運ぶたびに吉行の様子を伺う。吉行は何も語らず、紅茶をゆっくりと味わうようにカップを眺めている。それに倣うようにカップを眺め、もう一口紅茶を口に運ぶが、今の薬研には香りも渋みも分らなかった。
「・・・分かりません。」
「ん?確かにこのダージリンはファーストフラッシュで発酵が浅いから渋みが分かりづらいな。いつものセイロンティーの方が良かったかな?」
「紅茶の話じゃありません!!!」
吉行は静かにカップをテーブルに置く。薬研も静かに姿勢を正す。
「・・・もう、反省はしているのだろう?」
「・・・はい。」
「次はどうしたらいいか分かるかい?」
「はい・・・。」
「じゃあ、もう十分だ。」
そう言うと吉行は立ち上がり薬研の頭をなでる。
「なんで!!!」
薬研はテーブルを叩きつけ大きな音を立てるとその手を振り払い立ち上がる。
「・・・なんで怒らないのですか!吉行様は怒っていらっしゃるのでしょ?それなら感情のままに怒って頂いた方が私も心が晴れます!!!」
そう叫ぶと薬研は傍らに置いていた二振りを握り締め部屋を飛び出していった。
吉行は再びソファーに腰を掛け、冷め始めた紅茶を一口口にする。
「はぁ、薬研様。私はあの子の親代わりになれるのでしょうか・・・。」
「勝光宗光、そこまで。」
「はい!薬研様」
「おかあさま~。」
と、折時を狙っていたかのように稽古場の隅から走り出し、当時の薬研藤四郎に抱きつく幼き姿の水心。
「さあ、水心も勝光宗光も朝ごはんにしましょ。早くしないと学校に遅れるわよ。ほら、水心も早くしないと保育園に遅れるわよ。」
「はい。」
「は~い。」
先ほどまでの師匠としての顔から一変して母親の顔になる薬研を見て勝光宗光も穏やかな気持ちになる。
道具を仕舞い稽古場を離れようとする勝光宗光を水心も追いかける。
「かちゅみちゅむねみちゅおにいさま、だっこ~。」
といって抱きついてくる。
「こらっ。水心!降りなさい。」
「薬研様、大丈夫ですよ。このくらい修行に比べればなんともありません。」
諌める薬研に対して勝光宗光は本当の妹のように愛おしい気持ちから水心の甘えを受け入れる。
「おにいさま、へんそうのしゅぎょうです。」
水心はそう言うと勝光宗光の顔を引っ張ったり押しつぶしたりして変顔をさせる。
「じゃあ、水心も修行だ。」
と言うとしっかりと抱きかかえていた片手を空け、その手で水心の脇をくすぐる。
「あははは~。くすぐった~い。」
「おや、水心は修行が足りないみたいだ!これはくすぐったいのを我慢する修行だよ。ほら、もっとこちょこちょするからな~。」
「あははは~。うぐ、うう~、ぷっ。あははは~。まって、まって~~~!」
「あれれ?水心は修行が足りないみたいね~。」
「おかあさままで、あはは。ずるいってぇ~~~!あははは~。」
急遽参戦した薬研に水心は我慢してみようとするも二人掛かりでは敵わず笑いが止まらない。そんな水心の様子を見て勝光宗光も薬研も笑いだす。
「はははっ。」
「うふふっ。」
身寄りのなかった自分を迎え入れてくれ、さらに家族のように接してくれた前任の薬研藤四郎と水心。この二人に吉行の心がどれ程救われたことか。
また、前任の薬研藤四郎は師匠としても素晴らしく、剣術に収まらず銃の扱いまで仕込んでくれた。
「勝光宗光、あなたは使用人でもなければ客人でもないわ。洗い物は私がするわよ。あなたは宿題を終わらせて早く寝なさい。」
「薬研様、弟子は師匠の身の回りの世話までするものです。」
「うふふ。それは稽古の時だけよ。普段は私たちのことを家族のように思ってほしいわ。」
「・・・。」
「さあさあ、そんなにお手伝いがしたいならあの子をお風呂に入れてちょうだい。あの子ったら元気すぎてお風呂に入れるのも一苦労なんだから。」
「はははっ。薬研様でも敵わない者がいるんですね。」
「あなたも人の親になれば分かるわよ。」
紅茶のセットを洗いながらそんなことも思い出していた。
「おめでとう。陸奥守吉行。私の目が黒いうちにあなたの二本差しの姿を見れるなんて。」
「そんな、薬研様はお若いですし、薬研様の指導あっての賜物です。それに実力で言えば二本差しの最年少記録は水心の方が確かでしょう。」
「・・・。」
「どうかなさいましたか?」
薬研の顔が先ほどまでの師匠の顔から一変し、母親の顔になる。
「はぁ。代々裏稼業を組織と共に受け継いできたけれど、このご時世、闇に隠れて生き続けるのも難しいじゃない?それなら、家の事、血の事、そんなのすべて捨ててあの子には普通の女の子として生きてほしいわ。」
「・・・薬研様には珍しい物言いですね。」
「そう?あなたも人の親になれば分かるわよ。」
食器を乾燥棚に置き、水道を止め、軽く手をふくとため息をつく吉行。
「・・・分かりません。私に分かる日が来るのでしょうか?」
その問いに答えるものはいないのを知って空に語りかける。
「薬研様、大丈夫ですか!?」
「吉行、大丈夫よ。かすり傷だわ。」
「すぐに手当をします。」
「ありがとう。」
吉行はすぐに懐から軟膏を取り出すと薬研の怪我口にそれを塗り、晒を巻き付ける。薬研は静かにそれを見守る。
「七星剣様はご無事でしょうか?」
「私は薬研藤四郎よ。守り刀の命においてそれだけは守り続けるわ。」
「流石でございます。」
吉行の手際のよい手当てが済むが、薬研はその場に蹲ったまま動かない。
「・・・。」
「どうかなさいましたか?」
「守るものが増えると弱くなるとはよく言ったものね。」
訝しむ吉行。
「昔はあの方だけを守ればよかった。他は何も考えずに済んだ。今は、水心にあなた・・・。生きて帰りたいと思えば思うほど考えが鈍って、いざという時の判断が遅れてしまうわ。」
「・・・。」
「私も歳かしら?若い子達には敵わないわぁ。」
「薬研様は今でもお強いです!」
「お世辞でもありがたいわ。吉行。」
まだ任務中だというのに薬研は親の顔になって吉行の頭に手を置く。それを見て吉行も薬研の中で何かが変わり始めているのを感じた。
「私にもしものことがあれば、あの子のことをよろしくね。吉行。」
「縁起でもない!薬研様はお疲れなのです。早く本部に戻りましょう。」
吉行は薬研の腕をつかみ肩に回す。
「大丈夫よ。一人で歩けるわ。」
そう言うと、薬研は一人で立ち上がる。遠く炎の上がる争闘の後を見つめる。
「・・・お願いね。」
そう呟くと薬研は帰路に就く。吉行もそのあとを黙って付いていく。
吉行は自分のデスクに腰を掛けると鍵付きの引き出しから化粧箱を取り出し、それを開けると中に収まっている珊瑚の簪を眺める。
「あの子は強いですよ。私よりもあなたよりも・・・。」
吉行は簪に語りかけるように呟くとそれを再び引き出しに仕舞い鍵をかける。顔を上げると吉行は手入れを終えたはずの備前長船勝光宗光だけを懐に仕込み、上着を羽織って部屋を出る。
「あなた様の願いは必ず・・・。」
お楽しみ頂けたでしょうか?吉行の回想と現実が交互に現れるので読みづらいとは思いますが、日常の中でふと思い出す、何度も思い出す思い出を表現したかったのでご理解ください。このペースで週1で新しい話をアップできれば9月第1週には全話投稿できるのですが期待しないでください(;^_^A
(注釈)
「折時」って言葉に馴染みないですよね。意味としては「タイミング」とか「チャンス」に近いです。「折を見て」「時を見計らって」と書くところですが、この言葉を使った理由は物語の雰囲気の為です。「折時」の由来はありますが、説明難しいので造語だと思って下さい。




