第二十三話 咎人
あまりにも不甲斐ない、俺は守護者失格だ。
20分か、あるいは30分、気絶していたのだろう。
目覚めたときに見た光景。
魔王軍には自衛隊の兵器が一切通用していなかった。
玄鉄盾騎士団たちはそんな相手とどうやって戦っているのか。
そういえば皇国の魔術師達が騎士団の武器や防具に加護を授けていたが、あれが功を奏しているのか。
アリアは古竜に乗って指揮をしながら戦っていた。あれに乗るとは豪胆な奴だ。
自衛隊の兵器が通じない連中も、古竜の吐き出す地獄の業火には耐えられないようだ。
無限に存在するかに見える魔王軍も古竜が火焔を吐き出すたびに少しずつ押されてるように見えた。
玄鉄盾騎士団とその他の騎士団の連合軍三万は、俺が無様に気を失っていた間も持ち堪えてくれていたのだ。
そういえばフィレーネはどうしているのか。
騎士団に守られてるのだろうか。
この身が一つしかないことがもどかしい。
とにかく、不覚を取ったが、これ以上魔王軍の思うようにはさせない。
俺は息吹で呼吸を整える。
下腹部に位置する丹田に意識を集中し、全身に力を漲らせ、拳を握りしめる。
そして逃げる群衆に目を向けたとき。
そこにさくらを見つけた。
「さく……ら……」
そしてさくらに怪物の巨腕が振り下ろされようとしていた。
「ああああああああ!!!!!!」
俺はアスファルトの地面を踏み割り、遅ればせながら黒い鎧の化け物どもの群れに突撃した。
三メートルを超える異形の黒騎士達。
鎧の隙間からは謎の肉塊がはみ出て蠢いている。
もはや生きてるのか死んでるのかも定かではなく、どう見ても尋常ではない。
その奇怪な腕がさくらに。
……振り下ろさせるかよ。
さくらと怪物の間に割り込んだ俺は、激しい衝撃に襲われた。
だがこんなもの、籠城戦で喰らった破城槌に比べれば屁でもない。
「にげろ」
九年が経っていた。
でも一目でわかった。
さくらによく似た子供を抱いていた。
そういえば結婚したんだったな。
幸せになれたのかな。
さくらが俺の名を叫んだ。
そして、後方の玄鉄盾騎士団の方に走っていた。
あいつらならきっとさくらを保護してくれる。
———
俺の拳が、蹴りが、音速を超え、衝撃波を放つ。
吹き飛ぶ化け物達。
通用する。
俺の守護者の力と鍛え抜いた体技は、まだ通用する。
陥没させ、断ち切り、ぶち抜き、へし折る。
後方にはさくらがいる。
たとえ死んでも絶対に通さない。
……気づけば俺は、とっくに不殺の誓いを破っていた。
周囲にいる怪物達はぐちゃぐちゃに飛び散っていた。
多分俺の顔は殺戮の喜びで歪んでいるのだろう。
「また同じ事をする」
神との対話を思い出す。
そう、俺はまた同じことをする。
さくらを守れるなら俺はいくらでも殺す。
俺は咎人でかまわない。
———
化け物共を破壊しながら進むと、一際大きな個体に出会した。
俺は少し前、そいつが手に持つ身の丈を超える異形の盾に吹き飛ばされた。
「てめえ……ゼルドリヒ……か?」
ゼルドリヒだったものの巨大な腕が薙いでくる。
俺は潜って、懐に入った。
五メートルを超える巨体。
甲冑と肉が溶け合った異形。
もはや武器も戦術もない。
暴風雨のように腕を振り回すだけ。
生前のゼルドリヒの面影はない、速いだけの単調な動きだ。
俺は巨体の動きを読みながら、ただ受け、捌き続けた。
そして一瞬、動きが止まった。
奴の目の奥に、何かがあった。
無念のようなものが。
俺は息を吸った。
左後ろ回し蹴りの踵を、ゼルドリヒの膝に打ち込む。
異形の巨躯は自身を支えられず、崩れ落ちた。
そのまま飛び上がって脳天に右踵落とし。
ゼルドリヒが四つん這いの形になる。
そして俺は着地と同時に右足を引き、右の拳を脇まで引き絞り、超音速の正拳逆突きを一直線に人中へ打ち込んだ。
ゼルドリヒだったものは、べちゃりと音を立てて崩れ落ち、ドロドロと溶け、残ったのは、砕けた甲冑の欠片だけだった。
「……お前とは、ちゃんと戦いたかったな」




