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第二十一話 世界の終わり

最初に異変を報告したのは、気象庁だった。


東京都心部に、観測史上類を見ない局地的な地殻変動。震源地は皇居周辺。マグニチュードの計測不能。


次いで警視庁に通報が殺到した。

「空が割れて、裂け目から何かがこちらを見ている」

「千代田区に突然中世ヨーロッパみたいな城が現れた」

「化け物がそこらじゅうに溢れかえってる」


———


東京都千代田区。

アスファルトの上に、石畳が広がっていた。

中世ヨーロッパの如き城塞が、オフィスビルの谷間に鎮座していた。

城壁の上に、見たことのない旗が翻っている。

最初に駆けつけた警察官は、拳銃を抜いたまま動けなかった。


あたりには黒い甲冑の騎士たちが溢れかえっていた。

騎士たちだったものというべきか。


一人一人が三メートルを超える。

目が、ない。

口が、ない。

ただ、何かを探すように首を動かしている。


「な、なんだこれは……」


警察官のスマートフォンが鳴った。

画面を見た。

SNSに動画が上がり始めていた。


『千代田区に謎の城が出現、化け物が人を襲ってる、マジで死ぬ』


『ファンタジーの軍隊が東京に攻めてきたwww』


『草じゃないこれ普通にやばい』


動画の向こうで、悲鳴が上がった。


———


NHKが速報テロップを流したのは、それから十分後だった。


『緊急速報 東京都心部に正体不明の武装集団 多数の被害者か』


キャスターの声が、わずかに震えていた。

街頭ビジョンに、映像が映し出された。


黒い甲冑の群れが、大通りを進んでいく。


逃げ惑う人々。


ひっくり返った車。


砕けたガラス。


スマートフォンを向けたまま逃げ遅れた若者が、甲冑の巨腕に薙ぎ払われ、弱々しい悲鳴をあげてちぎれた。


やがてNHKのスタジオが大混乱に陥った。


スタジオに大量の怪物が現れた。


そしてスタッフが皆殺しにされる様子を映したカメラが破壊されて、映像が止まった。


———


陸上自衛隊が展開したのは、事態発生から三十分後だった。

89式小銃の銃声が、都心に響いた。

効かなかった。

5.56ミリ弾が、黒い甲冑に当たる。

火花が散る。

甲冑が、揺れない。


「効いてません、全弾命中してますが効いていません!」


無線に怒号が飛び交った。


10式戦車が展開した。


120ミリ滑腔砲が火を噴いた。


爆発。


砂煙。


砂煙が晴れた。


甲冑の群れは、まだ進んでいた。


「戦車も効果なし……なんなんだこれは!」


———


怪物化した冥鉄蹄騎士団の先頭に、ひときわ大きな影があった。


かつてゼルドリヒと呼ばれた存在。


もはや人の形を保っていなかった。


身の丈は五メートルを超え、黒い甲冑は肉と溶け合い、瘤のように膨れ上がっていた。

目は赤く光り、口からは黒い靄が漏れている。


進んでいた。

ただ、進んでいた。


その意識の奥底に、かすかな灯りがあった。


残念だ。


ゼルドリヒだったものは、思った。


守護者と決着をつけたかった。


武人として。


正面から。


力と力で。


残念だ。


そして、黒い靄が、ゼルドリヒだったものの意識を塗りつぶした。


———


俺が瓦礫の下から這い出た時、周囲はすでに別の世界になっていた。


見上げれば、見慣れたビルの群れ。

足元には、知っているはずのアスファルト。

遠くから、サイレンの音。


「……日本だ」


呟いた。


二つの月が見えていた。


空には亀裂が走り、そこから何かが愉快そうにこちらを見つめている。


二つの世界が、重なっていた。


遠くで、銃声と爆発音がした。

小銃の発砲音と、戦車の砲声だった。


効いていないのは、見ればわかった。

黒い甲冑の群れが、何事もなく大通りを進んでいく。


逃げ惑う人々。


スマートフォンを向けたまま固まっている若者。


泣き叫ぶ子供。


俺は立ち上がった。

……守らなければならない。


だが一体、どうすれば。


その時、群衆の中に、見知った後ろ姿があった。

九年経っていた。でも忘れるはずがなかった。

彼女は幼い子供を抱えていた。


「さく……ら……」

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