表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/28

第十四話 和平交渉

円形の軍議室に、空席が一つあった。

誰も、その席には触れなかった。

触れれば、死天使アズリエルが敗れ、捕縛されたという事実を、改めて認めることになるからだ。


魔王は上座に座り、残った三人の将軍を見渡した。


不落の盾、ゼルドリヒ。

黒い全身鎧に身を包んだ巨躯の騎士。

兜の奥の目が、静かに魔王を見ていた。


教皇ベネディクトゥス。

白いローブに金の刺繍。穏やかな老人の顔をしているが、その目だけが笑っていない。


暗殺者、無名。

そこに座っているはずなのに、誰かがいる感覚がない。


「和平交渉を行う」


三人の反応は、それぞれ違った。


ゼルドリヒは微動だにしなかった。

ベネディクトゥスは目を細めた。

無名は何の反応もしなかった。


沈黙を破ったのはゼルドリヒだった。


「……理由を」


「屍霊騎士団は瓦解した。この十日、正面突破の可能性を探ったが、守護者と古竜が揃っている以上、答えは出なかった。正面衝突は愚策だ」


「魔王様のご命令さえあれば、我ら一命を賭して守護者と古竜を……」


「まあ聞け」


魔王は指を組んだ。


「アルディア皇国の龍脈を掌握すれば、幽世への回廊を開ける。和平交渉はそのための時間稼ぎだ」


ベネディクトゥスが、穏やかな声で言った。


「なるほど。彼奴らが呑気に交渉の席に着いている間、我らは龍脈に手を伸ばす」


「そうだ」


「代表は私めが務めましょう。教皇という肩書きは、人間の警戒心を緩めるのに都合がよい」


魔王はベネディクトゥスを見た。

この男は常に自分の役割を心得ている。便利な駒だ。しかし便利すぎる駒は、いつか別の盤面で動く。


「護衛はゼルドリヒ。お前の冥鉄蹄騎士団を連れて行け」


ゼルドリヒは無言で頷いた。


「無名」


気配が、わずかに揺れた。


「龍脈の位置を特定しろ」


返事はなかった。しかしそれが了承の意味だと、魔王は知っていた。


軍議室に沈黙が落ちた。


燭台の炎が、風もないのに揺れた。


ゼルドリヒが、静かに言った。


「アズリエルは」


魔王は答えなかった。

しばらくの沈黙の後、低く言った。


「捨て置け」


ゼルドリヒの目が、わずかに細くなった。


「……御意」


しかしその声には、何かが混じっていた。

魔王はそれを聞き流した。


将軍たちが退室した後。


魔王は一人、窓の外を見た。

遠く、アルディアの方角を。


回廊さえ開けば、全ては終わる。


この世界も、あの世界も。


人間の物語ごと、全部。


「……待っていろ」


誰に言うでもなく、呟いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ