GW2日目 7
筆者の都合により更新が遅くなり大変申し訳ございませんでした。
4年ぶりの更新となります。
楽しんでいただけますと幸いです。
「っ」
思わず息を吞む。
目の前の攻防、金と青の軌跡に目を奪われた。
一人は初めて見るプレイヤー。
大柄な男で、両腕に黄金に輝く斧が握られている。
「っらぁ!」
その巨体から想像できない速度で両腕の斧を振るっている。
暴風、そう錯覚するほどに、攻撃は苛烈を極めている。
一撃ごとに風が荒れ、地面が抉れる。
眼光鋭く、獰猛で果敢な攻めを見ると、職業が山賊だと言われても納得してしまいそうだ。
「イヤー、まさかのグラヴァトですカ。先輩が苦戦する訳ですネ」
「グラヴァト、ですか?」
「トッププレイヤーの一人ですヨ。ギルド『ベルセルク』のマスターですネ」
「…これって初心者用のイベントなんじゃ?」
「そうですネ」
「何でそんなトッププレイヤーが参加しているんです?」
「期間限定のイベントでしか手に入らないアイテムなんかが目当てのプレイヤーも結構いますヨ」
話している間も視線は二人の戦いから離れない。
グラヴァトというプレイヤーは八咫目掛けて両手の斧を振るい執拗に攻めている。
その様は反撃の隙間を一切与えないかのように一心不乱に攻めているように見えるが、どこか余裕があるようにも見える。
対する八咫も決して負けてはいない。
襲い来る攻撃を紙一重で躱しながら、僅かな隙をついて一撃を与えている。
…いや、違うのか?
攻撃が来る前に一撃を与え、紙一重で避けている。
恐らく八咫のスキルであろう『ジャブ』を唱えるたびに、一撃を与えているのだが……。
こちらから見たら八咫の姿がスキルの瞬間ぶれているように見えた。
構え、一撃を放ち、構えに戻る。
その一連の動作があまりにも早い。
軽やかにフットワークを刻み、相手の隙に躊躇う事なく鋭い一撃を打ち込む。
「すごい」
自然と呟いていた。
何とか目で追えてはいる。
これが高レベルプレイヤーの戦い何だろう。
(自分のスキルやベストな戦い方を熟知しているんだろうな。無駄がない)
俺のレベルが上がっても、あんな動きができるとはとても思えない。
そもそも俺は前衛ではなく後衛な訳で、あんな動きをする必要はないわけだが。
(柚と連携について打ち合わせれば、お互いに動きの無駄は少なく出来るだろう。後は俺と召喚獣との連携が問題か)
折角の機会なので学べる事は学んでおく。
「久しぶりに見ましたヨ。あんなに集中してる先輩ㇵ」
「そうなんですか」
「ヤッパリ、カッコイイですネ。ウンウン」
「……」
なんかワンダーさんの目がキラキラしている。
でも気持ちは分かる。
それほどまでに凄まじい戦いなのだから。
八咫が戻ってこないので、闘っているのだと予想し、様子見に出てきた。
ワンダーさんが攻撃に参加するなり、ディープミストを使って逃げるなり、色々と方法を考えていたのだが、その必要はなかったようだ。
こちらの助けは邪魔でしかなく、余計な手出しをするべきではない。
折角の闘いが台無しになってしまう。
「とはいえ、さすがグラヴァトですネ。カタイカタイ。先輩の攻撃を散々くらってるのにHPが半分にもなってないですヨ」
「本当だ…」
良く見るとグラヴァトと八咫の頭上に青い線が見える。
これがそれぞれのHPって事なんだろうが、グラヴァトは殆ど減っていない。
八咫の攻撃を結構くらっているように見えるのだが、それでも殆どHPが減っていない。
1発の威力が低いスキルなのかもしれない。
「本来グラヴァトが得意なのはレイド戦ですからネ。対人戦が得意な先輩相手だと押されているようにも見えますカ」
押されているようにも見える、か。
斧の連撃を悉く捌き、一撃を叩き込んでいる八咫の方が優勢の様に見える。
しかし、グラヴァトは怯むことなく攻撃を繰り出し、八咫が追撃できないようにし、受けるダメージを最小限におさえているようだ。
攻撃が入っても殆どダメージがないのではジリ貧になるのは明らかだ。
「様子見に出てきましたけど、邪魔するのも悪いですよね」
「そうですネ。楽しそうですシ」
確かに、楽しそうなんだよな。
こちらが手助けするのが躊躇われる程に。
「おや、八咫の助太刀ですか?」
声の方を向くと、大きな盾を背負いフルプレートに身を包んだ女性が1人、こちらに歩み寄ってくる。
どこか冷たさすら感じる程整った顔つきで、見るからに生真面目そうな顔つきで、話し方も淡々としている。
「久しぶりですね、ワンダー」
「げっ、ナザリアさん」
「…はぁ、ショックですよワンダー。会っていきなり「げっ」はひどいです」
「うっ、すいません」
「ふふ、冗談ですよ」
ワンダーさんに親しげに話かけているので知り合いなのだろう。
もっとも、ワンダーさんの方は苦手意識があるのか顔を逸らしている。
「あなたが噂のルーキーですね?」
「噂?えっと、多分。貴方は?」
「私はナザリアといいます。よろしくお願いしますね」
「俺はシズです。噂ってなんですか?」
「八咫が絡んでいるルーキーがいると聞いたものですから今回見にきました」
「先輩の素行調査ですカ?」
「デュラハンを連れた新規プレイヤーの方も気になったというのが正直なところですね」
「あー」
ワンダーさんとナザリアさん、二人してバルムンクの方を向く。
向かれた本人は気にせずすぃと話している。
「やっぱり、序盤からデュラハンと契約しているっておかしいですか?」
「まぁ、そうですね」
「普通はスライムとかゴブリンとかが定番ですからネ」
「スライムなら一応いますよ」
「あの方がスライムなのですか?人の姿を取っているように見えますが…」
「先輩からはウィンディーネだって聞きましたヨ」
「……」
ジト目を向けられるが、顔を背けるしかない。
こればっかりは運だ。
偶々の出会いが重なった結果、こうなっているのだから仕方ないじゃないか。
ワンダーさんは溜息をつきながら周囲を見渡す。
「まぁ、良いですヨ。それよりも、うーん、もうすぐですかネ?」
「そのようですね」
「何がですか?」
「ほら、マップを見てくださいヨ」
言われるままマップを見るとそれまで表示されていなかった黒い円が自分たちの現在地を覆っていた。
「…なんか黒くなってません?」
「レイド級モンスターが居る地点を表すアイコンですヨ」
「レイド級ですか?」
何その不吉な響き。
確かバルムンクにもそんな感じの不吉なフレーズがついていた気がするのだが。
「大規模で攻略するようなボス級のモンスターですヨ」
「でもそんなモンスターは何処にも」
周囲を見渡しても、モンスターは何処にも居なかった。
相変わらず闘っている八咫とグラヴァト以外はモンスターらしき姿は何処にも見当たらなかった。
「多分条件付きですネ。レイド範囲内で特定の条件をクリアする事で出現するタイプのボスですヨ。だから周囲にトリガーとなるような物が無いか探しているんですけど。うーん、無いようですネ」
「それって条件を満たせば急にでてくるんですか?」
「いや、カウントダウンがありますヨ。ただその条件が何なのかは明らかにされてないんですヨ」
「あれ、そうなんですか」
少し意外だ。
数年前に配信されたゲームだ。
既に条件が発見されているものだと思っていた。
「仕方ないですヨ。何しろこのイベントがGWの間しかやっていないんですかラ」
「そっか、試行回数が少ないのか」
「そもそも、初心者用のイベントにレイドモンスターが居るなんてなかなか思いませんからね。最初にレイドモンスターが確認された時も偶然だったらしいですよ。急にアナウンスが鳴ってカウントダウンが始まったみたいですから相当慌てたって聞きました」
「成る程」
「他にも、このイベントで登場するNPCの依頼を攻略すると、イベントが終わった後も依頼があったりするようなんです」
「へぇ」
「ひょっとしたら、まだ明らかになってないイベントもあるんじゃないかって噂ですヨ」
途方もない話だ。
このゲームが配信されてある程度経っているに、未だに明らかにされていない要素があるなんて。
まだ俺たちも楽しむ要素が残っているらしい。
わくわくするな。
「このイベントのレイドモンスターは『報復のシダーウッド』っていうトレント型のモンスターですね」
「へぇ、じゃあ今回もそいつと戦うことになるんですね」
「そうですネ、攻略法も分かってますし楽勝ですヨ」
「じゃあ——」
「オラァァァァ!」
ズガンッという重たい音ともに地面が揺れる。
グラヴァトの攻撃が遂に八咫を捉え、軽々と吹き飛ばしたところだった。
そのまま後ろの木に激突し、ようやく止まる。
恐ろしい事に、グラヴァトの周囲の木がメキメキと音をたてて倒れていっている。
「……うっへぇ。今のってスキルですか?」
「多分。ワンダー、スキル名は聞こえました?」
「全然デスヨ。いやー、呆れた威力ですネ」
満足そうに立つグラヴァト。
ようやく当たった会心の一撃だ。
そりゃ気持ちがいいだろう。
「っ、くっそ」
土煙からのそのそと出てくる八咫。
今の一撃でHPが殆ど削られたようで、色が青から赤に変わっている。
だが戦意は衰えておらず、油断なく構えている。
「はっ、いよいよ追い詰めたなぁ、八咫よぉ」
「ったく、こんの馬鹿力が、一撃が重すぎんだよ。クッソ、危うく——」
『条件を満たしました。3分後に『報復のドライアード』が出現します』
『……は?』
唐突に、目の前に表示されるアナウンス。
誰一人、準備は出来ていない。
マイペースではございますが、少しづつ更新していく予定です。




