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gw2日目 5


ジリジリと焼けつくような空気。

猛禽類のような目をしてこちらを見据えてくるグラヴァト。


「くく、いつ以来だぁ?てめぇとやりあうのはよ」

「一年前か?」

「おぅ、それくらいになるか」


あれは忘れられない戦いだ。

お互いに持てる技術を持ち寄って、互いの全てをぶつけ合った。


「そん時に比べれば、お互い変わったか」

「あぁ、そうだなぁ」

「あの時はハルバート使ってただろ。発光もしてはいなかったしな」

「まぁな。てめぇは腑抜けたなぁ」

「・・・・・・」


本当に、懐かしい話だ。

あんな事がなければ、今俺はどうなっていたんだろうか。

ギルド『八咫烏』は、周囲から煙たがられてなんかいなかっただろう。

周囲から尊敬されるような強豪ギルドになっていたのかもしれない。


「そうだな」


自然と出た言葉は、肯定だった。


夢は閉ざされた。

周囲から煙たがられもした。

強豪ギルドへの道も遠のいた。

何もかもが灰色に見えて、何もやる気がしなくなった。

思い返せば散々な有様で、それでも——


(今は、後悔はしていない)


心は妙に穏やかで、足はすごく軽やかだった。


***


「ふん」


どうやら邪魔は消えたらしい。

こちらを見ていた奴の気配が少なくとも2つは感じられた。

ただ、巻き込まれない為にすぐに消えた。

その程度の相手だっただけだ。

そんな程度の相手に、この勝負を邪魔されてはたまらない。

そんな無粋な真似は許さない。

なにしろ、余計な事に気をまわしてる余裕なんて持てない相手だ。


「くくっ」


二本のトマホークを両手に持ったまま、戦いの流れをを予測する。


(普通なら避けに専念。隙をついてダメージを稼ぐ。互いのレベル差がありすぎるんだ。まともな近接戦闘じゃ勝負にならねぇ。なら普通は勝ち逃げを狙う。避けることに集中してれば、スキル次第じゃあそれが可能だしな)


レベル差がありすぎる相手と闘う際のセオリーの1つだ。

しかし、それはあくまでセオリーなだけで、必勝法な訳ではない。

ステータスの差がある以上、いくら避けに専念してても、避け続ける事は至難の技だ。

大抵避けきることは出来ずに、ステータス差による痛い一撃をもらい、そのままズルズルと勝負が流れ、そのまま敗北の流れ。

レベル差があるということは当然スキルレベルにも違いが出てくる。


(他に考えられるのは、バフをかけまくった上での速攻戦か)


勝つ可能性でいえば、こちらの方が高いだろう。

スキルの種類やレベル次第でどうとでも化けるのがこのゲームの醍醐味だ。

とはいえ、それでも届かない場合が殆どだ。

こちらだって馬鹿ではないのだ。

相手が何を狙ってくるのか予想を立てているのだから、対処だって当然出来る。

それに武器やアイテムだって質が違ってくるのだから、いくらバフ盛りになられても、そうそうHPが消し飛ばされることはない。


完全に俺に有利な状況がそろっている。

こちらが徹底して攻撃していれば100%負けのない勝負。


(まぁ、普通ならな)


大抵の相手ならほぼこの流れだが、目の前の八咫相手だとまた変わってくる。


(それで前回痛い目見ているからな)


1年前の戦いで、互いに不完全燃焼で終わったあの勝負。

あの頃はレベル差もなく、純粋に己が磨いた技術をぶつけ合っていた。

リアルで磨き上げた技術と、この世界で磨いた技術。

それを純粋にぶつけ合える相手がいることが嬉しくて。

HP、NPの残量すら気にすることなく、時間すら忘れてひたすら戦っていた。

あれの続きが出来る事に、体が昂っていく。


(しかし、どっか吹っ切れやがったな)


さっきの挑発も「そうだな」の一言ですまし、あの落ち着き。

表情からは清々しさすら感じさせる。


(これは期待できるかもな)


一時期から変わってしまった、腑抜けた戦いじゃない。

あの時の戦いのような、いや、それすらを凌駕するかのような。

そんな、一瞬一瞬を楽しめたら最高に違いない。


(ま、制限時間付きだがな)


何しろこの後にも勝負が控えているのだ。

悠長に戦ってる暇はない。

ま、何はともあれーー


「久々に、楽しもうじゃねぇか」



***


「ふぅ」


腕の痺れはとれた。

先程のグラヴァトからの一撃を受けた結果だ。

盾で防いでも、その上から襲い来る衝撃。

モンスターの攻撃にすら耐えられるというのに、それでも吹っ飛ばされてしまった。


(恐ろしいものですね)


決してレベル差がある訳ではない。

私のレベルは78だ。

グラヴァトは80代だったはずだ。

ステータス差はそこまでないはず。

武器の性能の差だろうか。


(それに、あの赤い光は一体?)


グラヴァトのジョブは『狂戦士』だった。

未だ習得条件がはっきりしてないレアジョブだ。

いま明らかになってるスキルで当てはまりそうなのは『バーサークオーラ』だろう。


(でも、色が違う。『バーサークスオーラ』は黒い光だったはず)


ギルド『ベルセルク』のギルマス、グラウンドは豪快な闘い方で有名なプレイヤーだが、決して力押しで闘う訳ではない。

スキル秘匿という情報戦、対戦相手との一瞬一瞬の心理戦、それらをしっかりと勝ち続けてきたからこそ、ギルド『ベルセルク』のリーダーが務まっている。


(あそこは本当に、戦闘狂の集まりですからね)


だからこそ、この状況に疑問を持っている。

あのグラヴァトが、八咫に勝負を挑んでいる状況が。

たとえ、以前戦った相手だとしても、熱が冷めれば興味すら抱かないような男がだ。

レベル差がある、勝ちが完全に確定している八咫との勝負を望むなんて。


「この勝負、楽しみになってきましたね」



***



グラヴァトは遠慮なくこちらを叩き切ってくるだろう。

今にもこちらに切り込みたくて仕方ないのが分かる。


「――っ、ふぅ」


目の前の強敵に集中する。

気を抜くとあっという間に流れを持っていかれてしまう相手だ。


「虚しいなんて言ってられないな」



***



「お」


八咫は軽く飛びながらいつでも動けるよう体を慣らしている。


(縛りもなく、全力ってことか。いいねぇ)


ある時期から八咫は全力で戦わなくなった。

俺は事情を知らなかったから腑抜けたのだと誤解した。

結局『八咫烏』もただのPK集団になってしまった。

俺はそれがただ悲しかった。


「さぁて」


もっとも、それは過去の話。

今目の前にいる男は腑抜けた雰囲気など欠片も無く、ただ勝つためにこちらを見据えている。

ならばこちらも全力だ。


「ねじ伏せてやる」



***


戦いの合図などいらない。


「バーサークオーラ!」

「ラビットフット!」


二人とも最初にした行動はバフ掛け。

グラヴァトのバーサークオーラは防御力を減らし、攻撃力を上げるバフ。

八咫のラビットフットは敏捷力を上げるバフ。


だからこそ、グラヴァトは八咫が突っ込んでくるであろうと予測。

八咫は足に力を籠めて、一気に加速、何の攻撃スキルも使わず、ただ拳で殴りにかかる。


(何のスキルも無しか)


予想通り、いや予想を下回った八咫の初手に、グラヴァトは内心落胆する。

ラピッドフットの敏捷増加は確かに脅威ではあるが、他のバフが一切ないとなるとレベル差によるステータスの開きで、敵からの攻撃は脅威ではなくなってくる。

また、こちらのバーサークオーラはスキルレベルを上げていることによって、敵の攻撃を受けてもひるむことなく攻撃ができる。


(狙うはカウンター!)


一気に詰め寄り、殴りかかってくる八咫。

その速度は速くとも目で追えない訳ではない。

こちらはその攻撃に合わせて一撃を叩き込めばいい。


「ふっ」

「らぁっ!」


たった一振り。

本来であるならこれで終わる一撃。

失望はしても油断は全くなく、全力の一振り。


「あ?」


しかし、斧はかすりもせず、一撃で終わるという予想は容易く裏切られ、視界がブレた。

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