GW2日目4
ベースキャンプの中は真っ白な空間で、辺り一面見回しても何もなかった。
「あちゃー、やっちゃいましたネ。まさか「咎喰らう蛇」の対象に八咫先輩が選ばれるとは。完全に誤算でしたヨ。ま、「すみませんテヘペロ」で許してくれるでショ」
「いやいや、流石にそれじゃキレると思いますよ。それよりも、味方のスキルって当たるものなんですか?思いっきり吹き飛ばしてましたけど」
「いえ、基本的に言えば当たりませんヨ。「咎喰らう蛇」が例外なだけです」
まぁ、聞いておいてなんだが、それはそうだろう。
敵との戦闘中に味方の攻撃まで当たっていたら戦闘どころじゃないからな。
「あれは自身が最後に攻撃を受けた対象を狙って攻撃が行われる復讐系の攻撃スキルですネ」
「……」
なんでそんな物騒なスキルを騎士が持っているんだろう。
前にカンパネルラがイベントでもスキルは手に入るって言ってたからそれかもしれない。
「まさか先輩が弾いた石まで攻撃判定に加わっているとは流石に思いませんでしたヨ」
「あぁ、あれか」
復讐スキルだったとして、八咫は何が原因で吹っ飛ばされたのかが分からなかったのだが、まさかの弾いた石が復讐スキルのトリガーだったとはね。
確かにそれじゃぁ、攻撃が八咫の方向に向くなんて思わないな。
「ま、起こってしまったものは仕方ないのですヨ。さて、先輩が戻ってくるまで少し待ちまショウ。また狙われるのもヤですし」
「そうですね。八咫が戻ってからどうするか決めましょうか」
「そうしまショウ。じゃあその間、ベースキャンプの使い方を教えますヨ」
「あ、お願いします」
***
「おわっ」
全く、ひどい目にあった。
ワンダーのスキルで吹っ飛ばされた俺はマップを見ながら青いマークへ向けて走っている。
青いマークは自分たちのベースキャンプだから、これに向かって行けば取り合えず合流できる。
「っ、この!」
嫌がらせの様に飛んでくる石を避けながら走らないといけない分、余計に面倒な訳だが。
(ったく、まだ『危機感地』のスキルに慣れてねぇってのに)
敵からの攻撃の際に、ターゲットが自分だった場合に知らせてくれるアクティブスキルの『危機感地』。
使用している間、敵からの攻撃が分かるスキルで、スキルレベルを上げていくことで攻撃が来る方向や当たるタイミングなど、知らせてくれる情報が増える、らしい。
(体感するまでは分からなかったが、リブが言ってた意味が良く分かる。確かにこいつは訳が分からない)
嫌な予感と言えばいいのか、それとも直感だろうか。
うまく表現できない。
ただ、狙われている事が何となく分かるのだ。
どういった原理でこんな事が出来るのか意味が分からない。
本来であれば、食事の際に味を感じることも、触感があることも、攻撃を受けたときに衝撃を感じることも意味不明なのだ。
自分はただヘッドギアを着けてゲームをしているだけなのだから。
一時期は脳に悪影響があるのではないか等の噂が流れていたが、そういった悪影響がでたケースは全く出ておらず、時間が経つにつれて「そういうものだ」と皆受け入れるようになっていった。
「『受け入れなければ愛されない』か」
ふと思い出す一文。
それは最初のダンジョンでボスからドロップしたレリーフに書かれてあった一文だ。
最初は専用のクエストでも始まるのかと思っていたが、町やフィールドでそれらしい兆候はなく、売れもしない、交換も出来ないとあって、謎のアイテムとしてボックスの中で眠っている。
何かしらの確信があったわけじゃない。
でも、何故かあの一文が頭を過った。
「確かに便利だな、っと」
敵からの攻撃は石による投擲だ。
飛んで来るスピードは凄まじいが、手を抜いているのか一つずつしか飛んでこない。
であれば、スキルレベルの低い『危機感知』でも十分対処可能だ。
「お」
そうこうしている内にベースキャンプを設置した場所に到着する。
「おや」
「げ」
ただ、その場所に赤い鎧を着たこの女がいることは流石に予想外なわけで。
(なんて面倒なタイミングでこいつと会うんだよ!)
「久しぶりですね、八咫」
「あー、久しぶりだな、ナザリア」
ギルド『ナイトメアロード』のメンバー『ナザリア』。
金の髪に青い瞳、赤い鎧を身に着けた騎士だ。
真面目な性格で、俺が腐ってた頃に何度も注意をしてくる苦手な相手だ。
まぁ、今では感謝してるわけなんだが、堅物なうえに頑固な相手なのだ。
たかがゲームでマナーの悪い相手に注意するような奴だ。
当初は面倒な奴に絡まれたなぁと思ったっけな。
「丁度良かった。あなたを探していました」
「それはそれは、熱烈なお誘いだな、っとぉ!」
振り返りながら飛んで来る石を拳で粉砕する。
いい加減うんざりしてくる。
ちまちま石投げて来るだけで、全く仕掛けて来ない。
仕掛ける隙はここに来るまで結構あったはずだ。
「はぁ、何がしてぇんだか」
「狙われているのですか?忙しいのでしたら出直しますよ」
「見ての通りですよ!ったく、せっかく今回は友人と組んで楽しむつもりだったってのに」
「そう、それです。あなたが新規プレイヤーに絡んでいたという情報が入っています。それについて聞きたいのですが」
「相変わらず真面目だな、っちぃ!」
体を反らして避ける。
面倒ではあるが「危機感知」のスキル慣れには適していた。
「げっ、効果切れたな。リキャストタイムもまだ少しあるか」
「ああ、感知スキルですか。八咫も取ったんですね」
「ああ、取り合えず1だけ取ってみた」
「便利ですからね。守りましょうか、私の後ろに」
「ああ、サンキュー」
騎士であるナザリアは基本的に防御専門のスキルを豊富にとっている。
というか、基本的に騎士の役割はディフェンスだ。
騎士でアタッカー目指しているワンダーの方がどうかしている。
「あー、守りがいると安心するわー」
「ふふ、そういえばワンダーは守り専用のスキル取っていなかったですね」
「盾すら持っていなかったぞ」
「彼女らしいです」
ナザリアはよくワンダーを自分のギルドに誘っているのだが、ワンダーは断り続けているようだ。
ワンダーも自分が変わったプレイをしている自覚があるんだろう。
ギルドに入って人に迷惑をかけるのは嫌だろうし、かといってギルドに合わせてプレイスタイルを変えるのも嫌なんだろう。
「プレイスタイルは人それぞれですからね。私のギルドはそこまで気にする人はいないのですが」
「ま、本人が乗り気じゃないんじゃなぁ」
ナザリアが前にでてから投擲が来なくなった。
相手もそこまで投擲スキルが高くないのだろう。
高レベルの騎士が前に出てきたら無意味だと感じたようだ。
諦めて去ってくれたかと思った次の瞬間、
「ガァァァァァァ!」
森が燃えた、様な気がした。
叫び声と共に、目の前の木々が赤黒い光が光りだしているのだ。
森から両手に斧を持った赤毛の男が弾丸スピードで突っ込んでくる。
「オラァ!」
「ぐっ」
勢いそのままに両腕の斧を振り抜く。
ナザリアが前に出て盾で防ぐが、衝撃に耐えきれずに俺の後ろまで吹っ飛ばされた。
顔をしかめるところを見ると、相当威力が高かったのだろう。
それよりも問題なのは、
「よぉ!」
「む、あなたはっ」
「お前かよグラヴァト」
突っ込んできた人物に見覚えがあったことで。
バトルジャンキーが集うギルド『ベルセルク』のギルマス、グラヴァト。
荒々しい見た目通りなパワーファイターで、でかい体躯から想像できない速さで繰り出される斧の一撃が恐ろしい。
斧の攻撃スピードの遅さを全く感じさせない速さと、攻撃をものともしないタフさ。
何度か戦った事はあるが、巨大な熊を相手にしている気分になり、とても勝てる気がしなかった。
「何のつもりだよ、グラヴァト。あんたが遠距離から投擲なんてらしくないじゃないか」
「あ?あぁ、悪かったなぁ。たまたまてめぇを見つけてな。珍しい組み合わせなもんでよ!からかってみた」
豪快に笑うグラヴァト。
こういう豪快で細かい事を気にしない性格だから舎弟が増えていくんだろう。
実際ギルド『ベルセルク』はグラヴァトのファンが大多数を占めている。
「あの黒い奴ぁ新参者だろぅ?新入りかぁ?八咫よぅ」
「あぁ、ルーキーだよ。ただ八咫烏のメンバーじゃねえよ」
「なんでぃ、まだなのかよ。早く勧誘しとけ。ありゃ多分化けるぞ」
「化ける?」
「あぁ、俺の投擲をスキルなしで避けやがった。スキルレベル1だったとはいえ大したもんだ。勘なのかわからねぇが、咄嗟の判断としちゃあ悪くねぇだろ」
「......」
グラヴァトが言ってるのは、俺が咄嗟にワンダーを庇った時のシズの反応の事だろう。
スキルレベル1だったとはいえ、グラヴァトのステータスも合わさってとんでもないスピードだったはずだ。
俺ですらかろうじて見えてた程度なのだから。
「危機感知」のスキルがなけりゃ殴り落とすなんて出来やしなかった。
「確かに、それは」
「異常ですね」
恐らくは唯の勘だろう。
だがそれは本来は有り得ないことだ。
戦い慣れていても、ステータスに差がある相手の攻撃を避けるのは至難の業なのだから。
(それを、スキルも無しに......)
グラヴァトが興味を持つわけだ。
あの、戦い意外に殆ど興味を示さないグラヴァトが。
「さぁて、とぉ」
生温い風が周囲を包みだした。
両手の斧を肩に担ぎ、凶悪な笑顔でこちらを向いて一言、
「殺しあおうぜぇ、八咫ぁ!」
「っ」
威圧と共に言い放ってくる。
ナザリアを攻撃して消えていた、燃え上がるような赤黒い光が、グラヴァトの周囲を包み込んでいった。




