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GW1日目



「お、やってますな」

「紫月君久しぶり、お邪魔します」

ペコリ


ゴールデンウィーク1日目、昼に玄さんの店にやって来たのは葵、亮先輩、恵梨香という珍しい組み合わせだった。


「いらっしゃいませ。珍しい組み合わせだな」

「いやー、昨日色々ありましてな」

「あはは、大変だったね。僕は見てるだけだったから楽しかったけど」

フイッ


葵は苦笑い、恵梨香は顔をそらしてこっちを見ない。


「何したんだ、葵」

「おおぅ、迷わず自分のせいですか。そんなに信用ないですかね?」


少し不貞腐れてる葵。

普段なら傷ついたふりでもしてふざけてる所だ。

何かあったんだろうか。


「昨日警察沙汰になりまして」

「は!?」

「誤解だと何度も言ったのですが」

『すいませんでした』


またも苦笑いな葵。

恵梨香は申し訳なさそうにしながらタブレットに書き込んでいる。

もうこの状況だけで十分カオスなんだが。


「警察沙汰って、大丈夫だったのか?何があったんだよ」

「えー、昨日いつものように公園で子供達と遊んでいまして」

「僕の妹の面倒を見てもらっていてね」

「いつものようにふざけて遊んでいまして」

「妹とかくれんぼしてもらってたんだけどね。いつもの『おらおらー!』って言いながら走るやつ」

「そこを恵梨香氏に見られて誤解されまして」

「凄かったよねぇ。急にダッシュして。足、早いんだね」

フルフル


......会話が頭に入ってこない。

葵が教えてくれているのだが、亮先輩からののほほんとした説明で全部流されてしまう。

振られた恵梨香は真っ赤になって首をふっている。

誤解とはいえ知り合いを疑い警察まで行ったみたいなので恥ずかしいのだろう。

もしくは亮先輩の色気にやられているのかもしれないが。


「ま、何事もなかったみたいで何よりだ」

「そうですな。警察の方は苦笑いでしたがね」

『本当にすみませんでした』

「ああ、もういいですよ。誤解も解けたみたいですしな」


平謝りの恵梨香を苦笑いしながら相手している葵。


(珍しいな)


葵は話し方も気分によって変えるし、人と関わる時もふざけて対応することが多かった。

少なくとも知り合いに対してはそうやって対応していた。

だから、苦笑いしながら余りふざけることなく会話しているのが珍しく感じた。


「んで、注文は?」

「僕はワッフルにしようかな。何かジュースはあるかな」

「そうですね、ジンジャーエールがあったと思います」

「じゃあそれで」

『私もワッフルで。後コーヒーをお願いします』

「はい、コーヒー豆は何にします」

『お任せで』

「あ、じゃあ自分もそれで」

「はいよ、じゃあちょっと待っててくれ」



***



玄さんにメニューを伝えに行く。

今日は朝から佳奈美さんと恵真さんが来ていた。

他のお客さんは帰られたので玄さんは佳奈美さんたちと話していた。


「玄さん、ワッフル3つとジンジャーエール1つとコーヒー2つお任せだそうです」

「うん、分かったよ。今から行くね。じゃあ佳奈美、その話は後で」

「ああ」


席を立ち、厨房に入っていく玄さん。

佳奈美さんと恵真さんは、コーヒーを楽しみながら話していた。


「そういえば紫月、リヴィエラやってるんだって?」

「ええ、柚に誘われてやってますよ。先生もやってるんですか」

「まぁな」


意外な事実に驚いてしまう。

基本的に面倒くさがりで、プライベートでは自堕落な佳奈美さんがゲームをしているなんて思いもしなかった。


「へぇ、長いんですか?」

「ああ、結構な。少し前まで辞めてたんだが、また始めることにした」

「そうなんですか。じゃあゲームで一緒になる事もあるかもしれませんね」

「ああ、そん時はよろしくな」


互いにプレイヤー名を言うようなことはしなかった。

リヴィエラをプレイしていれば、いずれ出会うだろう。

名乗るのはその時でもいい。

どうせこっちの名前は分かりやすいんだし。

この人だったら直ぐに気づく。


「紫月はGWのイベントは参加しないのか?」

「イベント?いえ、知らないんですが」

「なんだ、まだ柚から聞いてないのか?この時期は初心者向けのイベントがあるんだよ」

「へぇ、そうなんですか」

「ああ、まぁ興味があったらやってみたらどうだ」

「そうですね。今日は取り合えず柚と宿題するつもりなんで、どうするか話してみます」

「ああ」


初心者向けのイベントか。

この手のゲームは経験がないので、イベントと言われても見当がつかない。


(ま、どうせ柚が誘ってくるだろうから、その時でいいか)


「はい、紫月君。先に飲み物持って行って」

「分かりました」

「ああ、呼び止めて悪かった。仕事頑張れよ」

「はい」


些細な会話ではあったが、ある予感を感じるには十分だった。



***


玄さんから飲み物を受け取ると、葵たちのテーブルに持っていく。


「はい、先に飲み物からな。まず先輩のジンジャエールです」

「うん、ありがとうね」

「んで、二人がコーヒーっと。コーヒーはキリマンジャロだとさ」

「お、初めて聞きますな」

「ああ、最近玄さんが取り寄せたらしい。まぁ、飲んでみ」

「うむ、ではいただきますかな」

『いただきます』


それぞれがカップを口に運んでいく。


「んっ、はぁ。たまに飲むとおいしいねぇ」

「そうですか。先輩はあまりジュースは飲まないんですか」

「んっく、そうだね。基本的には妹たちが飲んでるかな。おやつにジュースと消耗が激しいんだよね」

「はは、確かにあの二人だ育ち盛りだし、たくさん食べるでしょうね」

「んっ、ぷはぁ。ま、程々にするよう言ってるんだけどね」

「まぁ、あの二人は元気がいいし食べた分も動くから太りはしないでしょう」

「そうだねぇ。元気がいいからねぇ」


本当に健康的な生活をしていなさる。

だからこそのこの細さなのかもしれない。


「ん、これは」

コクッ、コクッ


葵はカップをまじまじと見ながら、恵梨香は両手でカップを持ちながらキリマンジャロを飲んでいる


「紫月氏、これ飲みました?」

「ああ、飲んだよ」

「なんかこれ、ニカラグアに似ていません?」

「ああ、そうだな」

「ただ、なんというか」

「広がり方が違うよな」

「そうなんですよ。なんといえばいいですかな。インパクトのある苦みが香りを残しながら駆け抜けていく感じ。口の中を一瞬で広がっていくのに、霧のように消えていく感覚。んー、上手く例えが出ませんな」

「波紋みたいに、飲み込んだ先から広がっていくよな」

「そうなんですよな。ニカラグアに似てはいるんですが、どこか違うというか、広がり方に透明感があるというか」

コクッコクッ


ああでもない、こうでもないと意見を出している横でマイペースにコーヒーを楽しんでる恵梨香。


「ま、取り合えず新しい感覚を楽しんでくれ」

「そうですな」


上手く言葉に出来ないのなら、そのままでもいいのだ。

あまり深く考えすぎても仕方がない。


「あ、そういえば紫月氏、お泊り会の案内見ましたぞ。楽しみでござるなぁ」

「ああ、参加したいって言ってたからな」

「感謝感謝でござるよ」

「案内にも書いたが、各自一品持ってきてくれると助かる」

「了解ですよ」

ジィー

「ん、どうした?」


お泊り会の話をしていると、恵梨香がこちらを見ているのに気づく。

そしてこちらが質問すると、タブレットに文字を打ち込んでいく。


『坂巻さんからお誘いを受けました。私も参加していいんでしょうか』

「ああ、そうだった。茜から聞かれてたんだったな。こっちは別に構わないぞ。赤根が参加したかったらするといいさ」

『それじゃあ、参加します』

「あいよ」

「おおぅ、じゃあ歓迎会ですな!」

「あ、そうだな」


急に葵が割り込んでそんなことを言うので、俺も同意した。

赤根はキョトンとした後、慌てて文字を打ち込んでいく。


『歓迎会なんて申し訳ないです』

「別に遠慮しなくていいでござるよ」

「ああ、気にしなくていいぞ」

「料理を作るのは紫月氏ですからな」

「分かった。腕によりをかけてつくるさ」

ペコッペコッ


恐縮した感じに頭を下げる恵梨香。

少し悪乗りしすぎたかもしれない。

なにしろ恵梨香は引っ越してきたばかりなのだ。

しかも先輩相手では気を使うなというのも無茶なはなしだ。


「大丈夫でござるよ、恵梨香氏。参加者は全員優しいですから、楽しむといいでござるよ」


葵が気づいてフォローしている。

俺は隣でのんびりとジンジャエールを飲んでいる亮先輩に参加するか聞いてみる。


「亮先輩もどうですか?」

「僕はむりかなぁ。妹の面倒見ないといけないから」

「そうですか。別に一緒に来てもらっても大丈夫ですよ」

「うーん、そうだねぇ。やっぱりやめておこうかな。予定もあるし」

「そうですか。じゃあまたの機会に是非」

「うん、また誘ってね」


本当に、いつも思うのだが、この人は本当に男なのだろうか。

葵はふざけて「先輩は男の娘でござるよー」とか言っていたが。

まぁ、言いたいことは分かる。

仕草の節々に、色気がどうしようもないほどにじみ出ているのだ。

その色気にやられそうになり、坂巻姉妹の道場に瞑想しに行く生徒がいるとかいないとか。

迷走してるのかもしれないが。


「さ、仕事仕事」


まだ仕事は終わっていない。

残りの仕事をすませるために、とりあえず今は皿洗いだ。


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