表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/75

道草+ビリー+トキ

「ふぅ、もうこんな時間」



装着していたapoを外して机に置く。

いつの間にか外は真っ暗になっていた。



「ここも変わらないなぁ」



人口300人の過疎村である深霧谷村は、私の故郷だ。

今回仕事の都合で 久しぶりに深霧谷村に帰ってきたが、見慣れた顔は変わらずに優しく迎えてくれる。



「今日も収穫はなし、か」



机に置いてあったプリントを手に取る。

『雲海山で起きた神隠し!?』

『リヴィエラで、ある人物を探してほしい』



「ふぅ、色々と無茶な話よね」



一枚目は4年前に発行された新聞の切り抜き。

霧谷村の雲海山という裏山で起こった神隠し事件。

私はこの時上京していたので詳しく知らなかった、ある親子の行方が急に分からなくなった。

親子が返ってこないので無理心中じゃないのかと村中が騒いでいたのだが、ある時ひょっこりと子供が返ってきた。

しかし居なくなっていた間の記憶がなかったので神隠しと噂されるようになったんだとか。

当時佳奈美さんと玄さんが物凄く心配していたのを覚えている。

結局真相は分からずじまいだとか。

今回私は依頼があって、居なくなった男を探しに深霧谷村にやって来たわけだ。


これだけでも十分頭が痛いのだが、問題はもう一枚のプリント。

『リヴィエラで、ある人物を探してほしい』

聞き込みの際中に新たに依頼されたもう一つの仕事。

普段私は仕事中に別の依頼をされても受けないのだが、今回は奇妙な関係性があって受けることにしたのだ。



「ふぅ、早まったかなぁ」

「・・・・・・」

「うわっ、帰ってたんだ。お帰り」


コクッ


「ああ、ごめんごめん。今からご飯作るから、少し待っててくれる?」 

『何か手伝うよ』

「ん、ありがと。じゃあ資料片付けてから台所行くから、先に行っててくれる?」


コクッ



素直に部屋から出ていく恵梨香。

両親が事故でなくなってしまい塞ぎ込んでいたため、親戚の私が一緒にいてあげてたのだが、懐かれて今は一緒に住んでいる。

仕事の都合で引っ越すことになった際に、私についてこず親戚の家で今までの学校に通えばいいと言ったのだが、頑なに私と一緒に来ると言って聞かなかったのだ。

ここまで懐いてくれて嬉しいと思う反面、転校せずに向こうの学校で友達と一緒の方が良かったのではないかと不安にもなる。



「ま、やるしかないんだけどね」



今回の二つの依頼は今まで比べ物にならないほど難題だ。

なにしろ調べれば調べるほど不可解な点が出てくるのだ。

居なくなった人物を探していたら同じ人物をゲームで探してほしいという不可解な依頼をされ。

今まで普通に使っていたVRヘッドギア『apo』の中に正体不明のアプリ『Rewrite』がいつの間にかインストールされていて。

『Rewrite』を調べても、何も情報は出てこなくて。

結局詳しい事は分からずにリヴィエラでも収穫は無し。

依頼である以上妥協は無し、最後まで責任もって依頼を完遂させる!・・・・・・つもりなんだけど。



「ほんと、どうしよ」




***



「ふぅ、もうこんな時間か」



机の裁縫セットを片付ける。

もう直ぐ妹が帰って来る時間だ。

父さんと母さんは集会があって帰って来るのが遅いから、今日は僕が料理番だった。



「うん、上手くできた」



今まで妹の手提げに花の刺繍を縫っていた。

妹は小学生なのだが、友達の手提げに可愛い花の刺繍があって羨ましかったらしい。

それで僕に「私も私も、可愛いのが欲しい!」と手提げを渡してきたのが昨日の事だった。

昔からこういった手芸が好きで、パッチワークづくりにも区切りが出来たので、折角だからと妹の手提げに花の刺繍を縫っていたのだが、どうも熱が入り過ぎてしまったかもしれない。



「うん、まぁ、真奈も喜んでくれるでしょ」



ちょっとやり過ぎてしまったような気がするが、深くは考えない。

きっと真奈もこの出来栄えを見て狂喜乱舞するはずだ。

こんないいお兄ちゃんをもって幸せ者だなぁ、妹よ。



「ただいまぁ!亮おにぃちゃん、ただいまぁ!」

「はい、おかえり。ほら、真奈。昨日言ってた手提げ」

「ええ、もう出来たの!」

「うん。ほら」

「おおぅ、亮おにぃちゃん。手抜き無しのガチだねぇ」



そうだろうか。

もっと色々やろうと思えばできるんだけど。



「うん、ありがとね!」

「はい、どういたしまして。それじゃあ今からご飯作るから宿題終わらせてきなよ」

「はーい!」



まぁ喜んでくれているのなら良しと思おう。

正直喜んでもらえるとすごく嬉しい。

周囲から馬鹿にされてから外で裁縫することはなくなった。

今では家の中だけで黙々とパッチワークを作る日々だ。



「やっぱり喜んでもらえると嬉しいな」



今では裁縫で喜んでもらえるのは家族ぐらいのもので。

後はゲームの中だけだ。

リヴィエラで裁縫が出来ることを知った僕はオネェキャラでプレイすることを決めた。

女性キャラを使うとそれはそれで男性プレーヤーが群がるので面倒だったし、男性のままでプレイすると、またあの嫌な目で見られることになるからだ。

もう嫌だったのだ。

自分が好きなことをやってるだけなのに、気持ち悪いものを見るような目で見られることが。


今では好きなだけ裁縫を満喫でき、嫌な目で見ないフレンドも出来た。

今では彼女と接するのに緊張なんてしないが、昔は相当緊張したものだ。

自分のオネェキャラが崩れそうになった時もあったが、恐らくバレていないはずだ。

中身18歳の高校生ってバレてないハズだ。



「よし、ご飯作るかな」



妹とご飯食べて、その後はリヴィエラだ。

あの居心地のいい店で、いつ来るともしれない客を待ちながら。

彼女とのんびり談笑しつつ、パッチワークを作るとしよう。




***




(ふぅ、もうこんな時間ね)



ようやくこの面倒な客から解放されると思うと清々する。

今回のお客は酷かった。

自分の自慢話から始まり部下の悪口、職場の機密情報なんて聞かされて私にどうしろというんだか。

おまけに視線が露骨過ぎる。

全く、脂肪の塊の何が魅力的なのか。



「いやぁ、楽しかったよ。聡美ちゃん、またねー」

「私も楽しかったです。また来てくださいねー」



はい、お仕事終了。

これで帰ってリヴィエラ三昧。

明日休みだしこれは徹夜かな。



「聡美さん大変でしたねー」

「はぁ、ほんとねー。他の娘たちは?」

「今日は特に何もなかったみたいですよ」

「そっかー、よかったねー」

「あはは」

「明美ちゃん、悪いけど他の皆にも伝えといてくれる」

「今日のお客さんですよね。大丈夫ですよ、皆分かってます」

「そっかー、ならいいや。じゃあ私はママの所行ってくるね」

「はい」



明美は私の後輩だ。

私が勤めているキャバクラに1年遅れて入って来た。

素直で、何故か私を慕ってくれているので面倒を見ている。

他の子たちとも関係は良好で、明美同様に何故か私を慕ってくれている。



「あら、聡美ちゃん。お疲れ様ね」

「乙ー。超しんどかったー」

「ふぅ、気持ちは分かるけどね、聡美ちゃん。一応お客さんなんだから、次来られた時もそんな顔しちゃダメよ」

「心配無用ですヨ。ちゃんとほら、営業スマイルしてるんで」

「ほんと、オンとオフの差が酷いわねぇ」

「ふひひ、よく言われる」



椎葉聡美、それが私の名前だ。

22歳、独身。

18の頃にママに拾われて、そのままキャバクラの手伝いをするようになって、今に至る。

最初は皿洗いや掃除ばかりをしていたのに気づいたら後輩から慕われるキャバクラ嬢になっていた。



「何故こうなった」

「何よ急に。どうしたの?」

「あのさ、やっぱり私には向いてないと思うんだけど」

「あれだけリピータ増やしておいて何言ってるのよ」

「・・・・・・」



確かにリピーターは増えてはいる。

まぁ、その大半が下心剝き出しの野獣たちなんだけどね。

自分に向けられる目にどんな感情が込められているかなんて、何年もキャバ嬢やってれば流石に分かる。

分かってしまうからウンザリしているわけだけど。



「まぁ、聡美ちゃんの言いたいことも分かるわよ。本当に嫌なら言っていいわよ」

「ん、いや、まぁ大丈夫ですよ。程々に息抜きしてますんで」



ママには拾ってもらった恩がある。

その恩返しが出来るのであれば、多少の苦労はなんともない。

・・・・・・まぁ本当に嫌になったら、また雑用させてもらえばいっか。



「息抜きね。今も愛しの彼と一緒なの」

「愛しの彼って・・・・・・。ただのオネェモドキだよ」



頭に思い浮かべるのは、いつも店で編み物をしているオネェの姿。

私は、彼のオネェが崩れる所を何度も見た事がある。

本人は誤魔化しているつもりみたいだけど、バレバレ。

私は良いと思うんだけどなぁ、男が裁縫趣味でも。

家庭的だとも思うし。

私出来ないし。



「ふふ、だって彼ぐらいじゃない、聡美ちゃんと関係続けてるの。もう3年ぐらいでしょ?」

「そう言えばそうかも。ってか付き合ってるわけじゃないよ」

「でも彼の話をしてる時は楽しそうにしてるじゃない」

「そう?」

「そうよぉ。普段のジト目が嘘のように輝いた笑顔なんだから」

「・・・・・・」



・・・・・・おかしいな、そんな顔してたっけな。

ママに拾われた時は相当酷い顔をしていた自覚がある。

目つきは悪く、目の下に隈もあり、髪もボサボサ。

拾われてからは店に迷惑をかけないように、笑顔には人一倍気をつかっているのだが。



「オンラインゲームの友達なんでしょう。オフ会とかしないの?」

「んー、どうなんだろうね。特にそんな話はしなかったな。あたしも別にリアルに興味があるわけじゃないし」

「はぁ、この子はほんとにもう」



ママの目が冷たい。

未だに誰ともくっつかずにいる私を心配してくれているのだろう。

ここ最近、この手の話がやたら増えているのも気のせいではない。

といってもこちらにはその気がないのだから仕方がない。

正直今はママへの恩返しで忙しいのだ。

あとオンラインゲーム。



「んじゃ、そろそろ帰るね」

「あ、こら、待ちなさい!」



退散退散。

この手の話が始まると長いからね。

逃げるなら今の内ですヨ。



「さぁて、帰ったら何調合しよっかなー」



もう頭の中にはリヴィエラの事しか浮かんでこない。

あの店で彼は椅子に座りながら編み物をして、私はのんびり好きなものを作っている。

そんな居心地のいい空間が。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ