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魔法少女

「ここか?」

「ああ、ここだぜ」

「さあさあ、行くでござるよ!」



目の前には一軒のお店。

こじんまりとした店で表札には『笑う釜には福来る』と書かれている。



「で、いるのか?魔法少女がここに?」

「ああ、いるな」

「いるでござるよ」



カンパネルラに連れられてきた店。

俺たちはこの店に魔法少女を見に来ていた。



***



「いやー、昨日のアニメは良かったでござるなぁ」

「ああ、あれな。あれはよかったな」

「へぇ」



ある日の昼休み。

俺と薫と葵はパンを食べながら駄弁っていた。

話題は先日見たアニメの話だった。



「何だよ紫月、見てねぇの?」

「ああ」

「何と勿体ない。良いでござるか紫月氏、アニメはですな——」



そこから始まるアニメ談義。

『アニメの面白さ』から始まり、『如何にアニメが人格形成に役立つか』まで脱線し、最終的に『アニメを見なさい』で終わった談義だったが。

そういえば、今振り返ると俺は余りアニメを見てこなかった。

アニメが面白くなかったわけではなく、別に嫌いだったわけでもない。

単純に他の事でいっぱいいっぱいだったからなのだが。



「アニメねぇ。さっき話してたアニメはどんな話なんだ?」

「ああ、さっき話してたアニメは魔法少女もののアニメですな」

「魔法少女ねぇ・・・・・・」

「おや、紫月氏は嫌いですかな?魔法少女」

「いや、見てないから好きも嫌いもないんだが」

「まぁアニメ見ない人間からするとそうだわな。でもマジでいい話なんだって、一回見てみれば分かるからさ」

「そうでござるな。紫月氏、今日はバイトは?」

「いや、今日はないな」

「なら今日は拙者の家でアニメ鑑賞会と行きましょうぞ!」



そんな話をした後、学校が終わり、葵の家に集合。

そしてアニメ鑑賞会が始まったわけなのだが。


いやぁ、驚いた。

今のアニメって凄いんだな。

設定は作り込まれているし、こちらが引き込まれるような演出もあるし。


昔柚と見た、食欲旺盛なピンクの丸い物体が敵やらなんやら、とにかく捕食しまくるアニメも面白かったが、今回見たものも興味深かった。

友情物の熱い展開だったり、予想外の驚愕パックンチョ事件。

それはもう色んな魔法少女もののアニメを全て葵のダイジェストで見せてもらったのだが、まさかそれぞれのアニメのダイジェストをわざわざ作ってるとは思ってもみなかった。

それだけアニメに込める熱い感情があったのだろう。

葵と薫がハマるのも理解できた。



「いやぁ、色々と興味深かったんで、今度DVD借りて見てみるよ」

「おおぅ、それは良かった。いつか熱く語りあかしたいものですな」

「ま、感想を言い合うだけでも面白いしな。俺もオススメがあっから、今度紹介するわ」

「ああ、ありがとう」



確かに、自分が感動したエピソードを語り合うのも十分楽しめるだろう。

流石にダイジェストを作るまではのめり込めないが。



「しかし魔法少女か」

「ん、どうした?」

「いや、リヴィエラとかさ、そういったロールをする人っているのかなって思ってさ」

「魔法少女のロールですかな?いるでござるよ」

「ああ、そういやユグドラでもそういうロールやってた奴いたな」

「え、そうなのか?」



この手のものは、あくまでアニメだからこそ盛り上がるのであって、実際にロールをしたところで冷めるだけじゃないのか?



「だったら今日これから行ってみるか?」

「え、今からか?」

「そうでござるな。折角なので一緒に行きましょうぞ」

「どうせ今日はバイトないんだろ。最近一緒に遊ぶことも少なくなってたわけだしさ、いい機会じゃないか」



確かに、ここ最近は俺はバイトがあったし、薫と葵も最近忙しかったみたいだから、あまりつるむ機会がなかった。

いい機会かもしれない。

たまには柚以外の友人ともゲームするのも面白いか。



「とは言っても家に置いてきたぞ」

「あ、俺もだわ」

「まぁ、学校帰りなので仕方ないですな。解散しますかな」

「いや、折角なんで紫月の家でやろうぜ」

「え、俺の家?」

「ああ、恵に聞いたぜ。親睦会やったんだろ?俺たちもやろうぜ」

「何ですと!羨ましい!何で誘ってくれなかったのでござるか!」

「ああ、あの時は確かバイト中に委員長がやって来たんだったな。そんで俺の家で親睦会する流れになったんだったか」

「随分楽しかったみたいだぜぇ。次の日いきなり俺の家に来て自慢されたからな」

「ぐぬぬ、考えてみますと紫月氏も薫氏も随分と羨ましい環境にいるのですよなぁ」

『?』

「二人してキョトンとしないで頂きたい!紫月氏は柚氏、薫氏は恵氏というガールなフレンドがいるではござらんか!」

「ガールなフレンドって言われてもなぁ、俺と恵は別に付き合ってるわけじゃねぇぜ」

「俺も柚とは付き合ってるわけではないな」

「たとえ付き合っていないとしても、仲のいい女子がいるだけで羨ましいものなのですよ!」



随分ヒートアップしてるがそんなもんかね。

確かに俺は柚と一緒にいることは多いし、薫も委員長と家が隣だから昔から一緒にいる。

だが、葵だって全く女子との関わりがないかと言えばそんな事はない。



「葵だって女子との関わりが全くないわけじゃないだろう」

「自分は親密度の話をしているのでござるよ!家に遊びに来るとか、泊っていくとかsneg状態ではござらぬか。あなた方がやっているのはギャルゲーで、私がやっているのはRPGなのでござるよ。商店街の奥様方とのエンカウントは除外して考えて頂きたい!」

「別に商店街のおばちゃんだけじゃないだろ」

「確かにいますよ、拙者の近所にも可愛い女の子たちが」

「だったらいいじゃないか」

「小学3年生の真奈ちゃんでしょ、小学4年生の空ちゃんでしょ、今年中学生に上がった美咲ちゃんでしょ」

『・・・・・・』

「拙者が何が言いたいか理解していただけましたかな?俺がしたいのは恋愛であって育児保育ではないのでござるよ!」

「あ、ああ」

「まぁ、とりあえず落ち着け」



どんどんヒートアップしていく葵を落ち着かせる。

何だかんだで面倒見のいいこいつは近所の子供から人気なのだ。

学校でも遊んであげている姿をよく見る。

とはいえ、葵の求めている事がそれではないことは流石に分かる。



「ほら、俺の家でゆっくり聞いてやるから、とりあえず行こう」

「そうだぜ、俺も聞いてやっからさ」

「おっと失礼。つい我を見失ってしまいましたな。それでは行きましょうか」




***




そんな感じで俺の家まで行き、葵の愚痴を聞きつつカップ麺を食べ、リヴィエラを始めたのだった。

ユグドラにある面白い場所の情報や、戦い方を聞けたので今度柚と遊んだ際は実践してみるとしよう。


で、ある程度遊んだ後は、今日話題になった魔法少女を見に行こうとカンパネルラが言い出し、魔法道具店『笑う釜には福来る』まで来た。

来たのだが、カンパネルラとクウネルがニヤニヤしてるのが気になる。

何か俺に悪戯でも仕掛ける気なのかもしれない。

例えば魔法少女の中身が実はオッサンだったり。

それとも実は俺の知り合いだったり。

クウネルが実は薫だと知ってから、意外と身近な人がリヴィエラをプレイしている事を知った。

だから今回もそのパターンかもしれない。



「ほれ、シズ氏。とりあえず入りましょうぞ」

「分かった分かった」



カンパネルラに押されて店の入り口に立つ。

どんな悪戯を仕掛けてくるのかは分からないが、とりあえず中に入ってみることにした。

玄関を開けて、



「フヒヒ」

「あらぁ、駄目じゃない。まぁた材料間違えてるわよん」

「フヒ、フヒヒ」

「そうそう、黄金蝶の鱗粉が先よぉ。順番も間違えると失敗しちゃうからねぇ」



玄関を閉めた。

後ろを振り返ると二人して此方に目を合わせない。

とりあえずこれだけは聞いておくべきだろう。



「どっちだ」

『・・・・・・』



目を合わせず、肩を震わせてる二人。



「不気味な笑い声を出しながら錬金術している幼女と、その隣で編み物をしているオネェ。魔法少女はどっちだ」

「ぶほっ」



最初に我慢できなかったのはクウネルでした。



「いや、悪い悪い。とりあえず魔法少女は錬金術してる方だ」

「お前本気で言っているのか?「フヒヒ」って不気味な笑いを浮かべながら釜をぐーるぐーるかき回してる奴が魔法少女って本気で言ってんのか!?」

「ぶふっ」



次の脱落者はカンパネルラだった。

さて、そろそろ説明してもらうとするか。



「ここでは貴重な魔法道具が買えましてな。冒険の役に立つ物が沢山あるんで、紫月氏にも紹介しようと思っていたのですよ。今日魔法少女のアニメ見て思い出したので、折角だから今日紹介することにしたのですよ」

「まあ、小さい方のジョブが魔法使いだから間違ってはないだろう」

「さ、とりあえず入りましょうぞ」



そう言って入っていくカンパネルラ。

それに続くようにクウネルも入っていくので、俺もついて行く。



「こんにちは、ビリーさん、トキさん。久しぶりでござるよ!」

「こんちはー、冷やかしに来たぜー」

「あらぁ、カンパネルラちゃんとクウネルちゃんじゃないの。久しぶりねぇ」

「おひさ」



カンパネルラとクウネルは初期の頃からの付き合いらしい。



「こちらは同郷の友人、シズ氏でござるよ。シズ氏、こちらはビリーさん」

「シズです、よろしく」

「ビリーよぉ、よろしくお願いするわぁ」

「んで、このちっこいのがトキだ」

「ちっこいは余計。トキです。よろしく」

「シズです、よろしく」



紫の髪に整った顔立ち、青い甚平を羽織った彼がビリーさん。

華奢な体で、うふふと笑いながら妙な色気を漂わせて近づいてくるオネェ。

正直、実際にオネェと会ったのは初めてな俺としては、どう接すればいいのかが分からなかったが、カンパネルラやクウネルが親しくしているところを見るに、難しく考えなくても良いようだ。


もう一人の幼女トキさんは、今は眠たそうなジト目をしているが、錬金術をしている時は目を大きく開けて口が三日月に割れていた。

ピンクの髪に、顔立ちも幼い感じなので可愛らしいのだが、目が台無しにしている。

普段は眠そうにしていても、興奮するとそうなるのかもしれない。

ビリーさんが長身なのもあって、余計に小さく見えてしまう。

黒いローブを身にまとい、不気味な笑い声をあげて釜をぐーるぐーるかき回してたら、魔女に見えてしまっても仕方ないと思う。



「とりあえず冒険に役立ちそうなアイテムをシズに教えようと思ってさ。少し見て回るぜ」

「あら、そうなの。『牙』が直々に指導してくれるなんて、シズちゃんは恵まれてるわねぇ。ゆっくり見て行って頂戴な」

「何か欲しいものがあっったら言って。私が作る」

「ありがとうございます。ゆっくり見させてもらいます」



この後は、「フヒヒ」と笑い声が響く店内で、クウネルやカンパネルラに役立つアイテムを教えてもらった。

随分と個性的な人との出会いだったが、これからお世話になる機会も多いだろう。

仲良くしていきたいものだ。




***



「ふぅ、珍しいお客さんだったわねぇ」

「確か『牙』が解散して以来。クウネルはプレイしてたみたいだけど、カンパネルラは最近までインしてなかった」

「そうねぇ、これから面白くなりそうじゃない」

「恐らく彼の存在が大きい」

「真っ黒な彼ね。彼は彼で面白そうよ。道草の情報だと、庭の住人見たい」

「へぇ、あそこ入れたんだね」

「みたいよ。かなりこの世界に愛されてそうだけど、これからどうなるか楽しみだわ」

「クウネルとカンパネルラが目をつけているプレイヤー。それだけで十分興味深い」

「ふふ、それもそうねぇ。他にも彼の影響を受けて八咫烏が動き出したみたいだしね」

「停滞していたあのギルドをルーキーがねぇ。フヒヒ、面白い」

「あら、トキも興味が沸いたみたいね。今度冒険に誘ってみましょうか」

「それもいい。楽しみ」



客が居なくなった店内で、ビリーは編み物をしながら、トキは釜をかき回しながら、笑いあう。




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