第一回お茶会inGarden2
「何やってんだか」
シズとカンパネルラが必死になって道草さんを止めている。
耳を傾けると、その内容は実に滅茶苦茶だった。
『落ち着いてくださいって!』
『いえ、まずシズさんが落ち着いてください』
『いくらゲームでもやっていい事と悪い事がありますよ!』
『いやいやいや、ただ風呂に行って確認するだけじゃないですか!』
『だったら男風呂に行ってください!』
『何で私が男風呂に行かなくてはいけないんですか!』
『いやいや、女風呂に行く方が問題ですから!』
『何で問題なんです!』
『全く、仕方ないですなぁ。それならば3人で行きますか』
『カンパネルラさんも何言っているんですか!』
ああ、シズは道草さんが女性だってこと知らないのか。
ちなみにカンパネルラは悪乗りしつつも、苦笑いで二人を落ち着かせようとしていた。
カンパネルラも道草さんが女性だってことは知っているのだろう。
まぁ面白そうだし、止めないでおこうかな。
「シズさんが道草さんが女性であることに気づいて土下座するに一票で」
「賭けにならないよ、クウネルさん」
「じゃあユズキさんは賭けませんか?」
「それじゃあ私は、道草さんが女性であることを説明をしなかったカンパネルラに被害が行くに一票」
「む、それは卑怯ではないですか?」
「大丈夫大丈夫、どっちも実行されるから」
「ま、そうでしょうね」
本人は否定するだろうけど、騒動の中にはいつも彼がいる。
本当に、見ていて飽きないなぁ。
「それよりクウネルさん。イインチョーに聞きましたよ。——いつシズに明かすの?」
「あらら、バレてたか。ま、お茶会の最後にはネタバレするさ」
「あはは、シズ驚くだろうね」
「いや、どちらかというと『何で誘わなかったんだ』って言われそうだな。正直少し心配なのよね」
「それは心配ないと思うよ」
全く、世間は広いようで狭い。
クウネルが松咲薫であることをシズが知ったらきっと驚くだろうな。
今考えてみるとこのお茶会って他のプレイヤーからするとすごく羨ましいものなんじゃ。
攻略組として最前線で戦って来たギルド『牙』のメンバーの一人、『マルチウェポン』のクウネル。
同じく『牙』のメンバーで、対人戦で無敗と言われている『無音』のカンパネルラ。
『牙』のメンバーで、その戦いぶりから恐れられた『戦姫』シハン。
『牙』のメンバーで、他を寄せ付けない踊るような戦いで魅せる『舞姫』セン。
あらゆる情報を格安で売り、初心者から熟練者まで愛用されてる情報屋『幾万の瞳』道草。
他の追随を許さないソロPK『狩人』赤夜叉。
全てネットで閲覧した情報なんだけど・・・・・・。
うん、参加者が豪華すぎるね。
しかもその殆どが良く知る友人たちだ。
3年前からギルド作って面白い事をしていたんだと知っていたら私も参加したかった。
けど、それは無理。
だって3年前と言えば——
「しかし、まさかGardenがただのペンションだったとはなぁ」
「ん?」
「いや、昔は結構噂になってたんだよ。『何かしらゲームクリアに関係しているんじゃないか』ってさ」
「ふーん」
「あくまでも噂に過ぎなかったんだが、3年経って未だにクリアされてないからさ。結構躍起になって情報を探す奴らがいたんだよ」
「へぇ、そうなんだ」
「まぁ何も分からなくて、結局『クソゲー』って結論づけて辞めていったって話だ」
「それはまた、勿体ないね」
随分と早まった決断だと思う。
私が3年プレイした訳ではないし、その人たちがどれくらい探していたかも知らないけど。
でも、自分たちがクリア出来なかったから『クソゲー』と決めつけてゲームを辞めるのは勿体ないと思った。
「何でそんなにクリアすることに拘ってたんだろうね」
「さあなぁ、有名になりたかったんじゃね」
「有名に?」
「3年間未だにクリアされなかったゲームだ。最初にクリアしたら一躍有名だろ」
「うーん」
やっぱり、よく分からないな。
ゲームの楽しみ方なんて人それぞれだし、考えても仕方のない事なんだけどさ。
有名になるためにゲームをクリアする。
それって楽しいのかな。
何か物凄く損をしているような気がする。
「色んな人たちがいるねぇ」
「ああ、そりゃもう、沢山いるぞ」
「私には分かりそうもないや」
「はは、そうだろうな。ユズキはシズと冒険できりゃあそれでいいんだろ?」
「うん、そうだよ」
あれ、どうしたんだろう。
クウネルの顔がポカーンとしてる。
何かおかしなこと言ったっけ?
「どうしたの?」
「いや、そんなあっさり返されるとも思ってなくてな」
「そう?だって楽しいよ、シズと冒険するの」
「......恥じらいとか期待するだけ無駄か。いや、気づいてないのか?」
「?」
小声で聞こえなかったけど、何て言ったのかな?
「しかし、クウネルがあのマルチウェポンねぇ......中二心を随分くすぐられる名前じゃん」
「あー、まぁ恥ずかしいんだけどな。でも周りがそう言ってくれてるんで、否定するわけにはいかんからなぁ」
まぁ、普通は恥ずかしいかな。
でもそれだけリヴィエラを楽しんだ証拠だとも思うんだよね。
私も二つ名で呼ばれることがあるのかな。
・・・・・・うん、やっぱり恥ずかしいかも。
「お、始まったな」
クウネルの視線を追うと土下座して謝っているシズとカンパネルラが。
カンパネルラが責任をシズに押し付けようとしているけど、多分無駄だろうな。
シズの勘違いは当然だし、説明せずに悪乗りしたカンパネルラにお咎めが行くのは当然だよね。
ま、カンパネルラはそこまでよんだうえで、あえて悪乗りするタイプだから仕方ないけど。
「賭けは引き分けだね」
「だなぁ」
***
赤夜叉は現実逃避していた。
その原因は目の前でセンが座っているスライム。
シズの説明ではウィンディ―ネらしいが、どう見てもスライムにしか見えない。
もっとも、サイズや特徴から普通のスライムではないことも理解している。
とはいえ、そんな事は大して問題ではなかった。
問題なのは、シズが話すスライムの内容が、聞き覚えがあったからに他ならない。
しかも、ここ最近とても身近で。
ゲーム内ではなくリアルで。
最初は、いやいやそんなはずはないと思っていた。
だけど、シズとユズキの名前を見てピンときてしまった。
『あ、中の人紫月先輩と柚先輩だ』って。
そうなってくると見えてくるものがある。
目の前で『あ゛ー』って声を上げ、全力でだらけているセンは恐らく千鶴だ。
そしてセンがたまに「姉さん」って言っているシハンが、茜だ。
あと、カンパネルラのこのノリ。
何処かで見た事があると思っていたが、喫茶店で会った葵先輩だろう。
うん、この状況はマズイ。
クウネルを除いた全ての人が、自分の知人であるなんて予想できるはずもない。
しかも学校でお世話になっている人たちを、一度PKしてしまったこともある。
絶対に自分の正体を明かさないようにしようと心に決めた。
大体この集まりは何だ。
最初にお茶会のメンバーを見て思った。
『どっかのギルドと抗争でもするのかな』って。
殆どの『牙』のメンバーが揃っているなんて聞いていない。
クウネルは勿論、シハンとセンも相当の実力だし、カンパネルラもああしてふざけているけどPvPで負けなしの実力者だ。
自分も一応『狩人』と呼ばれてはいるが、それでも『牙』は別格なのだ。
正直憧れの気持ちはあった。
何しろ最前線の攻略組だ。
戦っている姿を見た事があるが、それはもう惚れ惚れするほどかっこよかった。
あんなふうに強くなりたい。
ギルド作ってメンバーと一緒に強いモンスターと戦いたい。
まだ誰も見ていないような景色を探しに行きたい。
そんな憧れてた人たちが、今目の前にいた。
一人は道草に土下座し、一人はスライムに座って満喫しており、一人はマザーと呼ばれているGardenの管理人の所につまみ食いに行き、一人は土下座している二人を見ている。
何だろう、このコレじゃない感。
自分勝手だが、もうちょっとカッコよくいてほしかった。
少なくとも自分がイメージしていた憧れの人たちは、こんな残念な方々ではなかった。。
まぁ、でも考えようによっては自分は恵まれているのかもしれない。
憧れた存在が集まるお茶会に、自分も参加できたのだから。
自分だけの秘密にしようと心に決めながら、マザーが持ってきたクッキーを頬張った。
***
「あ、そうそう。俺、薫だから」
「はあ!?」
「——」
お茶会の終わりにクウネルのネタバレによって、シズは驚愕し、赤夜叉は胃がちょっと痛くなった。




