とある放課後
いつもの放課後。
玄さんの店でバイトしてると、見慣れた顔が店に来る。
いや、一人は見慣れた顔ではないな。
「やっほー、紫月にぃ!来たよー」
「こんにちは、紫月にぃ。何か飲み物ほしい」
ぺこっ
顔を出したのは茜と千鶴、それと赤根恵梨香だったか。
珍しい組み合わせだと思ったが、村に来て日の浅い恵梨香を茜と千鶴が案内していたのだろう。
3人とも私服だから、一度家に帰ってからここに来たんだろうな。
「いらっしゃいませ。席はカウンターにするか?それとも奥の席にするか?」
「んじゃカウンターで」
「分かった。はい、これメニューな。麦茶持ってくるから待っててくれ」
「はいはーい」
厨房の方に戻り、麦茶とおしぼりを取る。
ついでに厨房でコーヒーを淹れていた仁さんに茜たちが来たことを伝えてカウンターに戻る。
「ほい、麦茶」
「紫月にぃ、少しは愛想良くしたら」
「・・・・・・そんなに愛想悪いか?」
「いや、悪くはないんだけどさ。無表情だから愛想悪く見えるよ」
「ふむ、そうか。少し待ってくれ。今やり直してみよう」
後ろを向いて笑顔をつくる。
普段あまり表情を意識していないものだから、こういった意見はありがたい。
気づかない内にお客さんを不快にさせてるかもしれないから、改善出来る面は改善していかないとな。
「お待たせしました、お客様。お冷になります。メニューがお決まりになりましたらお呼びください」
『・・・・・・』
おや、反応がない。
目を丸くしているが、おかしかっただろうか。
自然な笑顔をつくったつもりなんだが。
態度も落ち着いた感じで、店員とし違和感ないものだと思ったんだが。
「どうした、何か変か?」
「し、紫月にぃ。もう一回やって」
「は?」
「だから、さっきの笑顔。もう一回やって」
いや、笑顔をもう一回って。
そんなにおかしかっただろうか。
店の店員として自然な笑顔のハズだよな。
「これでいいか?」
『・・・・・・』
はぁ、無愛想だとか無表情だとかは良く言われるが、まさか笑顔をつくっても固まられるとは。
若干ショックを受けていると、今度は葵が店にやってくる。
「おすおす、紫月氏!来たでござるよー!とりあえずスマイルプリーズ!」
「いらっしゃいませ」
「————」
おい、お前も固まるのか・・・・・・。
お前がスマイルプリーズって言ったんだろうがよ。
むぅ、少し笑顔の練習もした方がいいのかもしれないな。
玄さんに迷惑をかけたくはない。
「好きな席で待っててくれ、今麦茶持ってくるから」
「あ、はい」
***
ショックを受けた紫月が厨房に消えていくのを見ながら葵は茜の隣の席に座る。
そして小声で事の顛末を聞いていく。
「ちょっと、茜氏!一体何があったでござるか!」
「いや、ちょっと、愛想良くしたらって言って」
「凄い破壊力だった・・・・・・」
コクコク
茜は顔は赤くしながら話している。
ふと見ると千鶴の方も赤くなっている。
反面、恵梨香の方は顔は赤くはなっていないが、目を丸くしている。
多分、自分も驚いた顔をしているのだろう。
何しろそれだけ衝撃を受けていたからだ。
葵は久しぶりに見たのだ、紫月が笑っている顔を。
千鶴が言う事も分かる。
普段の無表情を見慣れていたから、笑顔を見た一瞬誰か分からなかったぐらいだ。
(そういえば久しぶりだな、紫月が笑ったの)
すこし胸に宿るモヤモヤとした不満。
でも今は、何で不満を感じているのか、ハッキリと分からなかった。
***
麦茶持って戻ると、皆が恵梨香に色々聞いている最中だった。
「いやぁ、今日は色々連れて行ったけど、どうだった?村の事は少しは慣れた?」
コクコク
「良かった。都会に比べたら不便な村だけど、何か困ったことがあったら言って。相談のる」
コクコク
「ふむ、慣れたようでなによりでござるな!どれ、今度は拙者が案内するでござるよ!」
フルフル
「何故に!」
普通であれば、転校して来て最初の頃は友人も出来ずらく孤立するものだと思うんだが、恵梨香は運が良かったのだろう。
茜は佳奈美さんに面倒見てもらった経験から後輩たちの面倒見がいい。
千鶴は人付き合いが得意な方ではないが、それでも後輩の面倒を見ることに慣れている。
葵はまぁ、いつも通りだな。
「ほれ、葵。麦茶」
「ほいほい」
「メニューは決まったか?」
「そうでござるな、ニカラグアを一つ」
「あたしはグアテマラで。後はワッフルにしよっかな」
「私は生姜湯とワッフル」
『私はワッフルをお願いします』
「はいはい、葵がニカラグアな。んで茜がグアテマラとワッフルな。で、千鶴が生姜湯とワッフルね。二人ともワッフルはザラメだよな。んで、赤根がワッフルな。ワッフルには何を掛ける?」
『オススメでお願いします』
「あいよ、少し待っててくれ」
赤根はタブレットに文章を書いて注文をしてくる。
不便ではないだろうかとも思ったが、あの打ち込むスピードを見るに大したこともないだろう。
クラスメートが戸惑い距離をおかれ、コミュニケーションがとりずらいのではないかという心配も、茜の話では心配いらないらしい。
基本的に皆田舎者だから、「都会から珍しい娘が来た」程度にしかなっていないらしい。
厨房に入り、注文を玄さんに伝えると笑顔で「少し待っててね」と言ってくれる。
その間俺の仕事は皿洗いだったり、机を綺麗にしたり、そんなこまごまとした雑用だ。
たまに、新作の試食を頼まれたりするのが密かな楽しみだったりする。
「最近はどうでござるか、紫月氏」
「最近どうって。特に何もないぞ」
「いや、リヴィエラの事でござるよ。最近変わった話とかないのでござるか?」
「ああ、リヴィエラね。最近変わった事と言えば、ルミナリア樹海で柚と一緒に釣りしてきたぞ」
「おお、ルミナリア樹海でござるか。あそこのモンスターたちだったら紫月氏もそこまで苦戦しないで進めたのではござらぬか?」
「いや、確かに途中まではスムーズに行けたが、途中からミノタウロスに追っかけられてな」
「ミノタウロスですと!」
「ああ、結局柚と一緒に戦って何とか勝ったが、もう二度と戦いたくない」
「勝ったんでござるか・・・・・・」
「なんとかな。あれは柚の火力のおかげだな」
正直今考えてもマグレとしか言いようのない勝利だった。
準備不足であったりバルムンク不在であったり、色々な要素が重なったとはいえ、もう少し安心して戦えないものか。
戦闘のたびに心臓に悪い思いしてるのは流石につらい。
「もう少し楽に戦いが出来ないものか」
「ふむ、なら紫月氏。スキルLVをMAXにまで上げてみるといいでござるよ」
「MAXにまで?」
「うむ!MAXになったスキルにはレベルの欄にMAXって書かれるのでござるが、使い勝手が物凄く上がるのでござるよ」
「へぇ、スキルをマックスにねぇ」
「ただ注意しないといけないのが、スキルMAX出来るのは1つまででござるよ」
「そうなのか?何でまた」
「それだけスキルLVMAXは壊れ性能なのでござるよ。だから早くにスキルをMAXにすると難易度が大分変ってくるのでござるよ」
「へぇ。でも確かスキルの振り直しって出来るんじゃなかったか?」
「まぁ、そういうアイテムもあるにはあるでござるが、物凄くレアなのでござるよ」
ふむ、だとするとスキルのレベル上げはかなり慎重にする必要があるな。
「それに、稀にMAXにしたことで新しいスキルだったりジョブだったりが出てくる事もあるしね」
話を聞いていた茜も会話に参加してくる。
千鶴と赤根はのんびりと麦茶を飲みながらこちらの話を聞いているみたいだ。
「へぇ、それは知らなかったな。ん?でも新しいジョブはともかく、新しいスキルはもうレベルをMAXに出来ないよな。どうするんだ?」
「ああ、それは心配いらないよ。スキルLVMAXで出て来たスキルはLV上限が1で、スキルを取ったらLVを上げる必要がないんだよ。LV1でも十分壊れ性能なんだよね」
「ふーん、そうなんだな。ジョブの方はどうなんだ?新しいジョブって事はLV1だろ?上げるの大変じゃないか?」
「そっちはまあ、大変だけどね。でも1次ジョブのスキルで出たジョブは基本的に2次のジョブだからさ。多少ステータスが低くはなるけど、そこまで大変でもないよ。ま、新しいスキルが出る事自体レアケースだから新しいジョブが出る事自体稀だよ」
そうなのか。
ということは基本的にスキルのレベルをMAXにまで上げると戦闘が楽になる事を覚えておけばいいな。
ま、俺の場合殆ど敵の妨害してることの方が多いから、スキルの種類を増やした方がいいかもしれないが。
とはいえ、折角の情報だ。
スキルLVMAXも意識してみるかな。
「後変わった事といえば、面白い出会いもあったぞ」
「面白い出会いって?」
「ああ。『八咫烏』の八咫に偶々会った」
「え!八咫烏のギルマスじゃん!?何でまたそんなのと、ってかPKされなかったの?」
「いや、ミノタウロス倒したら笑いながら来てさ。そのまま色々話しながら釣りしてた」
「どうしてそんな流れに!?」
紫月は気づいていないが、八咫烏の八咫に対する悪評をしっている茜と千鶴、そして葵は衝撃を受けていた。
攻略組と比べると見劣りするとはいえ、初期の頃から3年間続けているベテランギルドの一つである。
しかも悪い方面で有名なギルドだ。
紫月や柚みたいなルーキーがあったらすぐにPKされるイメージを持っていたがために、一緒になってのんびり釣りをしてきたという話に唖然としてしまう。
もっとも、そんな事をまるで理解していない当の本人は
「折角フレンド登録したんだし、また釣りにでも誘うかな」
のんびりと再会を楽しみにしていた。
***
「そういえば新しいモンスターと契約したぞ」
『!?』
「種族がウィンディーネのスライムだ」
『はぁ!?』
「明日休みだし見に来るか?」
『絶対行く!』




