これからだ!
「で、お前はいつまでそのままでいるつもりだ?」
久しぶりの再会を喜ぶ前に、のんびりと尋ねる。
目の前には一体のスライム。
全く、何を食べたらこんなに大きくなるのやら。
まぁ、何を食べたのかは分かっている。
日が暮れたころにこいつを連れて帰ってきたシズとユズキが釣れた魚を上げたのだ。
大体9匹か、10匹ぐらい食べて、二回りも大きくなり、現在目の前でバルムンクと一緒に酒盛りをやっている。
どんどん大きくなっていくこいつが面白いのか、どこまで大きくなるか実験しようとユズキが言い出し、私とアノス道具店の分の魚を残して全ての魚を上げていた。
「ほらー、すぃー、久しぶりなのです。ガンガン飲んでくださいなー、えいー」
バルムンクも久しぶりの再会が嬉しいのだろう。
ニコニコ笑顔でスライムに直接酒瓶を突っ込む。
すると面白いように瓶から酒が消えるのだ。
とはいえそれも6本目。
そろそろ本題に移ってもいいだろう。
「ほら、いい加減『変化』解かないか」
「いいヨー」
しびれを切らしだしたこちらを見てようやく間延びした返事をよこす。
するとスライムの水が内に内にと吸い寄せられ、どんどん人の形に姿を変えていく。
「うん、こんな感じカナ?」
首を傾げながらこちらに尋ねてくるくる姿は紛れもなく我らの同胞、すぃだ。
もっとも少しだけ変わっている部分もある。
「お主、今回は男にしたのか?」
「うん、ソダヨー」
以前は少女の姿をしていたすぃ。
それが今ではすらっとした男の姿をしている。
声は男でも女でも全く変わっていないのだが。
本人曰く気分によって変わるらしい。
そもそも男性女性の概念がないのだとか。
「最初から人の姿をしていれば良かっただろうに」
「そなんだけどモ、仕方ないじゃナイ。スライムの方が楽なんだもノ」
「相変わらず気まぐれなやつだな。私としては少女の姿の方が見慣れているんだが」
苦笑しながらすぃを見る。
基本ノー天気な同法は全く変わってない。
えへ―、っと笑いながら酒瓶を手に、
「あー、アレネ。ムネ重くて肩凝っちゃうからヤダ」
そんな事を言いながら笑っているのだ。
***
「さて、お主が来たのはいいとしてだ、すぃよ。そろそろ本題に入ったらどうだ?」
「んー?」
「いや、ディノス坑道から中々出てくる事のないお前がわざわざ『分裂』してまで会いに来たのだ。何か用があったのではないか?」
「うん、ソダヨー」
「何かあったのか?」
「一つはGardenに新入りが来たって水に聞いたからだヨ」
相変わらずの情報網だ。
水の精であるすぃは、水から直接話を聞くことが出来る。
あらゆる町から流れる水は地下水道を通ってディノス坑道に集められ、それをすぃが浄化して自然に戻す事で循環していた。
その過程で水と会話できるすぃはあらゆる町の情報を手に入れる事が出来るのだ。
「まぁ、たまたまルミナリア樹海で会っちゃってネ。流石に男性女性どちらで出ても問題カナって思ったから、スライムになったんだヨ」
確かにそれはそうだろう。
いくら水の体とはいえ、全裸の男、もしくは女が出てきたら大問題だ。
そこら辺に気をつかってのスライムだということだろう。
「二つ目はネ、魔物の様子が最近おかしいんだよネ」
「ほう」
「ディノス坑道にも本来いるはずのない階層に別の魔物が居たりなんかしちゃってサー」
「ふむ、こちらでも調べておこう」
「うん、お願いネ。それで三つ目、Gardenを探ってる連中がいるヨ」
「ほう」
「ほら、トラベラーはクリアに躍起なってるからサ」
「全く、困ったものだ」
「まぁ、何があるか分からないからサ。あの子たちが巻き込まれるのはイヤだからネ」
「確かに、お前なら適任であろうな」
「あ、一応本体はディノス坑道にちゃんとおいて来てるから心配いらないヨ」
「ああ、分かっている。よろしく頼むぞ」
「うん、任せテー」
呑気に笑うこいつを見ていると、不思議と不安が無くなる。
モンスターの急な異常行動。
こちらを探っている者。
随分ときな臭い話だが、大した問題でもない。
こちらには頼りになる同胞がいるのだから。
***
「お前ら、少し話を聞いてくれねぇか」
ギルドに帰った俺はメンバーを集めて話をすることにした。
案の定メンバー同士で険悪なムードを漂わせていたが、こちらが珍しく話を振ったからだろう。
一旦メンバー同士でいがみ合う事をやめ、こちらに集まってくれた。
「あー、なんだ、そのだな・・・・・・」
いざ言葉にするとなると、何から話していいのか分からなくなる。
今日俺が受けた勝負を話せばいいだけなんだが、中々言葉が出てこない。
「今日、喧嘩をうられてきた」
「何ですって!」
「どこのどいつですか!」
「取りあえずしめねぇとな」
・・・・・・あかん、俺何か間違えた。
と、とりあえず、誤解を解いて行かねぇと!
「あー、いや、すまん。言い方が悪かった。喧嘩じゃねぇんだ。何つーか、そのー・・・・・・挑戦?」
「よし、今からしばきに行きましょう」
「随分舐めた真似してくれますねぇ」
・・・・・・あれ、これもちがう?
くそ、面倒だなぁ!
「ええい、黙って聞け!勝手に相手探して集団でボコりに行くなよ!これは八咫烏が受けた挑戦状だ!内容はこのリヴィエラを余すことなく楽しみつくす事!いいかっ、これは俺たちにとって避けては通れねぇ挑戦状だ!」
勢いのまま、思ったことを口にしていく。
聞いてる連中も目を丸くしている。
当然だ。
こんなに声を荒げて話したことは今までなかったのだから。
今までギルドマスターとして命令することなんて殆どなかったのだから。
メンバーの一人が手を上げる。
「質問いいっすか?」
「何だ?」
「避けては通れねぇってのは、どういう意味っす?」
「そのままの意味だ。俺たちがリヴィエラを続けていく上で、絶対に無視する事の出来ねぇ挑戦状だってことだ」
勢いで話しているが、もう仕方がない。
俺にはギルドマスターとしてカッコよくメンバーをまとめることが出来ない。
ギルドマスターとしてのカリスマもない。
しっかりとメンバーと向き合って、こちらの思いを伝えるだけだ!
「さっき俺は面白れぇ奴らと会って来た。そいつらはルーキーで碌な装備もアイテムも持ってない状態で消耗している中ミノタウロスの亜種に勝っちまいやがった」
聞いている連中は驚愕している。
こいつらもミノタウロスの亜種にトラウマ植え付けられた連中だ。
それほどまでにミノタウロスの亜種は面倒なのだ。
「そんな奴らが言ってくんだ、楽しいのかと」
そこで一呼吸置く。
本当は『つまらない』だったが似たようなもんだ。
「楽しいわけあるかあああああああああああああああ!!!!!!!」
叫んでいた。
あの時に言われた『つまらない』を思い出したから。
そしてもう止まらない。
「3年間だらだらと弱っちい雑魚をボコって、強い奴から目ぇそらして、こそこそ悪さしてるゲームが、楽しいわねぇだろっ!!!」
何度も止めようと思った。
でも出来なかった。
このギルドからメンバーが離れていくのが嫌だったから。
腐れ縁ながらここまで一緒にきた最高のメンバーを、こんなことで終わりにしたくなかったから。
「・・・・・・ふう、すまん。正直俺は、今の八咫烏がこのままでいいと思ってるわけじゃねえ。ただのPK集団で終わるなんざまっぴらごめんだ。何より面白くねぇ!」
楽しそうだった。
本当に楽しそうだったんだ、あいつらの戦いは。
それほどまでに心躍るものだったんだ。
そして、それよりも凄いことが出来るはずの俺たちの現状が、あまりにも情けなかったんだ。
3年が無駄って言われても当たり前だ。
あのレイドボスに負けてから俺たちは殆どレベルは上がってねぇ。
あまりにもブランクがある。
「リヴィエラを初めて数日のルーキーが言いやがったんだ。戦闘では敵わないと。でも自分たちの方がよっぽどリヴィエラを満喫していると。ああ、そうだろうさ!あんな異常事態が起きて、あんな戦いしてやがるんだ。そりゃ、楽しいだろうさ」
本当に、今の俺たちに無いものを見せられて、魅せられた。
俺たちが憧れた強敵との戦い。
一瞬一瞬気の抜けない緊張感の中で勝機を見出して戦い抜く、ゲーマーとして一度は憧れる瞬間。
それはただのルーチンワークでモンスター倒しているのとはわけが違う。
「いいか、ルーキーが出してきた挑戦状はただ楽しむことだ!まだパーティーも少なけりゃギルドもねぇ。装備もなくアイテムもなく、ユグドラにしか行った事のねぇルーキーだ!比べて俺らはギルド『八咫烏』だ!リヴィエラ3年のベテランだ。加えてまだレイドボスだって倒しちゃいねぇ!いいか、これは俺たちに有利な挑戦状だ!」
そう、俺たちの方がやれることは多くあるのだから。
「そして何より!相手は真剣に俺たちと競おうとしてくれてんだ!俺たちの初めてのライバルだ!」
そう、何より初めて、真剣にギルド同士(相手は2人だが)で競いあう機会なのだ。
「これは今までで一番の大勝負だ!敵を直接ボコろうなんてつまらねぇ真似すんじゃねぇぞ!従えねぇ奴は今すぐギルド出ていけ!!」
きっと残るだろう。
話を聞いてくれているメンバーの目を見れば分かる。
ギルドマスターとしてのカリスマがなくたってわかる。
しばらくたっても誰も立って出て行こうとするやつはいなかった。
それが何よりもうれしい。
「一緒にこの挑戦状を受けてくれるようだな。ありがとう」
ここから始めればいい。
「そんじゃあ今から、レイドボス狩りにいくぞおおおお!!!!」
ギルド八咫烏は——
『おおおおおおおおお!!!!!』
——ここからだ!!!!




