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燻る思い

「それで、こいつは何が出来るんだ?」


「そうだな、スキルは『分裂』、『変化』、『吸収』だな」



すぃを仲間にした俺は、すぃの性能を確認していた。

スキル欄に現れているのは取りあえずその4つ。

これだけ見たら正直微妙な強さだ。


しかし俺は知っている。

こいつがLV70のレイドボスであることを。



「うわー、これ気持ちいねぇ」



すぃを椅子にして座っているユズキ。

あれだ、たしか「人をぐうたらにするイス」だったはずだ。

最近柚がはまったのでオススメされたんだった。



「あー、ひんやりー、座り心地さいこー」



うん、ぐうたらにしてるわ。

それをうずうずして見ている八咫。



「お、おい。そんなに気持ちいのかよ。少し俺にも変わってくれよ」

「むーりー」

「おい、シズ!ユズキが変わってくんねぇぞ!」

「・・・・・・」



うん、この図も見たことあるわ。

「せんせー、○○くんがおもちゃを貸してくれませーん」だ。


これが「人をぐうたらにするイス」の魔力か。

ユズキの顔も蕩けきっている。



「あ、そうだ。すぃ、『分裂』してくれ」



そう頼むとこちらのやりたいことを理解してくれたのか分裂体が2体出来上がる。

後はこの2体に魚をやるだけだ。

それだけでみるみるうちに大きくなり、ユズキが座ってるサイズが合計3つになる。



「おお、こりゃ便利だな」


「はは、本来の使い方ではないかもだが」


「まぁいいじゃねぇか。んじゃ、失礼して」



そう言ってすぃに座る八咫。



「あ゛ー、こりゃ楽だわー。夏はこれに座ってるだけで乗り切れる気するわー」


「おぉ、確かにな。座り心地もなかなか」



程よい弾力に加えて、こちらの座りやすい形を察して形を変えてくれるものだから座り心地が素晴らしい。

おまけにすぃの体が冷たい事もあって、ひんやりとした空気が体を包んでくれる。

うん、素晴らしい、素晴らしいぞ、すぃ。

君はただのスライムじゃない。

これから君はチェアースライムだ!



「ま、実際のところはウィンディーネなんだが・・・・・・」


「あー、そうだな。しかしウィンディーネねぇ。初めてみるなぁ」


「ん、そうなのか?」


「ああ、俺もリヴィエラ配信当初からやってるけどよ、この3年見たことも聞いたこともねぇぜ」


「へぇ、そうなんだな」


「そもそもウィンディーネって見た目スライムなんだな」


「・・・・・・」



・・・・・・どうなんだろうか。

すぃのスキルに気になる項目がある。



『変化』

自身の見た目を変更することが出来る。



恐らくバルムンクのようなパターンだ。

この見た目も本当の姿ではないのかもしれない。



「しかし『分裂』に『吸収』ねぇ」


「どうした?」


「いや、嫌な敵を思い出してな」


「へぇ、どんな敵だったの?」



珍しく嫌そうな顔を八咫がするので、ユズキも気になったようだ。



「ディノス坑道の地下水道でな、昔レイドボスと戦ったことがあるんだが、それはもう面倒でな」


「へぇ、レイドボスねぇ・・・・・・」


「ボス部屋入ると最初水のドラゴンが1体いたんだが、時間が経つにつれ際限なく分裂していって手が付けられなくなってな。分裂するとレベルが半減になるんだが、1体倒すと別のドラゴンが吸収して回復しだしてな。いやぁ、あれには参った」


「それ、勝ったのか?」


「いや、勝ててねぇな。俺らと好き好んで組もうとするギルドも居なかったからなぁ。結局クリアを諦めて後はPK集団に様変わりって訳だ」


「それはまた・・・・・・」



自業自得とはいえ勿体ない話だ。

レイドボスまでたどり着くだけの実力があるのなら後少しだと思うのだが。



「ま、自業自得だわな」


「自業自得なのが分かっているならやめればいいじゃないか」


「あほ、そんな簡単にやめることが出来るか」


「何でだ?」


「んなもんお前、俺がギルマスだからに決まってんじゃねえか」



ギルドマスター。

ギルドのリーダーだからこその責任という訳か。



「つまらないな」



責任があるから仕方なくやっているなんてあまりにもつまらない。

責任もってギルマスをやっている事を否定しているのではない。

責任に振り回されてゲームを楽しむ目的がないのがあまりにも勿体ないと思ったのだ。

折角自分のギルドを持っていて、3年も続けていたのだ。

もっと色々あるだろうに。



「ア゛?何がつまらねぇんだ?」


「せめて『ギルドメンバーとつるむのが面白いから』、ぐらいは言ってほしかったと思ってさ」


「・・・・・・」



ユズキは俺が話すのを静かに聞いてくれている。

それに比べて八咫はスライムチェアーから立ち上がってこちらを睨みつけている。

まぁ、お前の3年のゲーム生活がつまらないと言われたようなものだ

そりゃ怒りもするか。



「別に俺は八咫やそのギルドメンバーが迷惑行為をするのを否定はしてないよ。PKも住民とのトラブルも俺はリヴィエラの醍醐味の一つだと思ってるからさ」


「醍醐味だと?」


「リヴィエラはトラベラーだけじゃない、住民との交流もできる。全員と仲良くなれないならトラブルだってあるだろうし、意見の食い違いで争うこともあるだろうさ。ま、限度はあるだろうけど」


「・・・・・・」


「でも八咫を見てると全然楽しそうに見えなかったからさ。だったら辞めればいいのにって言ったんだが、やめられないって言うし、やめない理由がギルドマスターの責任だというんだから、これからも全然面白くないギルドマスターを続けていくんだろうなって思ってな」


「随分好き勝手言ってくれるな」


「気に障ったなら謝るよ」



まぁ、楽しみ方は人それぞれだ。

俺は今日みたいにのんびり釣りをしたり色んな人と話をしたり、そんなのが楽しい。

まぁ強敵との戦いは遠慮願いたいが。



「ッ、俺だってなぁ!・・・・・・俺だってこのままでいいとは思ってねぇよ。悪い事をしている自覚だってある。結局今もメンバー同士でいざこざがあるし、ギルド解散しそうだしなぁ」



顔を歪めて言葉を絞り出す八咫。

参ったな、無神経な発言だったか。

ギルド解散の危機にまで追い込まれていたとは。



「でもなぁ!俺は楽しかったんだよ!俺がこの3年一から築いてきたギルドだ!思い入れだってある!メンバーだって最高のやつらだ!だからっ」



***



分かってんだよ、言われなくたって。



「でもなぁ!俺は楽しかったんだよ!俺がこの3年一から築いてきたギルドだ!思い入れだってある!メンバーだって最高のやつらだ!だからっ」



俺が面白く思っていないってことぐらい、俺が一番!


最初はパーティからだった。

一緒に組んで敵倒して、お宝の結果に一喜一憂して。

そんなのがどうしようもなく楽しかった時が確かにあったんだ。


ギルドを作ってからか。

周囲と比べられ、自分たちも周囲と比べ出して。

それまで全く気にしていなかったのに。

憧れだった『牙』、そのライバルだった『影狼』。

そいつらが競い合っているのを見て、いつか自慢のメンバーで戦ってみたいと何度思ったか。


いつからだ。

『牙』や『影狼』と自分たちとの間に絶対的な実力の差があることに気づいたのは。

自分たちに足りないものがあり過ぎることに気づいてしまったのは。


気づいたら全部手遅れになっていた。

迷惑行為だって本当なら止めるべきだったのに。

この居心地のいい空間を壊すのが嫌で。

一人になるのが嫌でズルズルと、気づいたら町どころかゲームから居場所がなくなっていた。



「だから、このままギルド解散するのが嫌なんじゃねぇかよ・・・・・・」



自分がひどい顔をしているのが分かる。

こんなルーキーに話したって仕方がない事だ。

だけど、大切だった思い出が侮辱された気がして、折角押し込めていた感情が暴走してしまった。



「・・・・・・すまん。言っても仕方のない事だった」


「いや、こっちも軽率な発言だった」



相変わらず表情の変わらない奴だが、申し訳なく思ってくれている事は伝わってきた。



(ほんと、どうしようもねぇな)



今日会ったばかりの奴に愚痴だけならまだしも八つ当たりまでしてしまうとは。

自分でも分かっているのだ。

自分がギルドマスターの器でないことぐらいは。



「はぁ、お前の言う通りだ。周囲にも迷惑かけてるしな。今日限りで『八咫烏』は解散だな」



感情をぶちまけた事で冷静に現状が見えてくる。

自分が上に立つような人間でもなく、周囲に流されて生きて来た人間であり、結局流されるまま迷惑行為を繰り返す。

大切な思い出を、大切なメンバーを侮辱していたのは何よりも俺だったのかもしれない。

結局訳の分からないモンスターに瞬殺され、今ではギルド解散の危機だ。

因果応報だな。



「いや、それは違う」


「あ?」


「そこまでの思いがあるのならやめるべきじゃない」



何を言い出してんだこいつ。

そもそもやめればいいじゃないかと言って来たのはこいつなのに。



「大した思いもなく、責任から仕方なく続けていると思っていたからやめればと言ったんだが、それだけ熱い思いがあるんならやめるべきじゃない」


「けどよ、もうどうしようもねぇ。先の戦いでメンバー同士険悪だ。他のプレイヤーと協力することが出来ねぇからリヴィエラ自体を引退しようとしてんだ。止める資格なんざねぇ」


「止める資格ならある」


「はぁ?」


「八咫はギルドマスターじゃないか」


「っ、今更ギルマス面できるか!」


「出来るさ、だって3年もついて来てくれた自慢のメンバーなんだろ?なら大丈夫だろ」



本当に、大したことなさそうに話す。

まるでそれが当たり前だと言わんばかりに。



「勝負しよう」


「勝負?」



急に何言いだすんだこいつ。



「そっちのギルドと俺たちのパーティ。どっちが面白いか」


「——」


「どちらが戦闘強いかを競ったら俺たちは敵わない。けど、どちらがリヴィエラを楽しんでいるかを競ったら俺たちだって負けてない」



相も変わらず無表情。

けどその瞳には揺るぎない自信が宿っていた。



「どうだ?面白そうだろ?」



それは俺に対する挑発だ。


俺が楽しむためにはギルドを何とかする必要がある。

そのためには問題は山積みだ。

それをどうにかして、ルーキーよりも楽しむことが出来るか。


そう言われているのだ。

明らかな挑戦。

なら俺は、



「上等だ!その勝負『八咫烏』が受けて立つ!」



ギルドマスターとして、引くわけにはいかない!

なにより、折角こいつがくれた機会。

無駄にするわけにはいかない。


落ちぶれたギルド『八咫烏』を再興する!

そして諦めたこのリヴィエラを楽しみつくす!


それが俺の、俺たちの勝利条件。

やってやるさ!

リヴィエラ始めて数日の奴に負けてたまるか!




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