逃走
投稿が遅れてしまい申し訳ございません。
今後も不定期更新が続くと思いますが、気長にお付き合いください。
「ガアァァァァ!!!」
『ヒイイイイ!!!』
只今絶賛鬼ごっこ中です。
......どうしてこうなった。
「ほら、シズ!もっとスピード上げて!」
「無茶言うな!あ、呪符の効果切れた」
「ちょっ、モンスター来たよ!急いでっ」
「げ、うぉあああ!」
ズンッ、ズンッ,ズンッ、ズンッ!
振り返るのも恐ろしい。
その巨体に似合わないスピードで斧を振りかぶって追ってきているのが分かってしまう。
本当にどうしてこうなったんだか......
***
——15分前
「ふぅ、ここまではモンスターと会わずにすんだね」
「ああ、順調だな。後はこの樹海か」
眼前に広がるのは深い樹海だ。
モンスターと接触することなくカルミナ平原を抜けてきたが、問題はこのルミナリア樹海だ。
平原のように視界が開けてる訳でもないから、敵と遭遇する危険性が上がってしまう。
おまけにどんなモンスターがいるのかもまだしらないのだ。
明らかな情報不足ではあるのだが、
「いやぁ、ワクワクするね」
「......そうだな」
どんなモンスターがいるのか。
どんなイベントが起こるのか。
どんな出会いがあるのか。
どんな景色が見られるのか。
未知の世界に飛び込むのはいつだって心が踊るものだ。
「どう、モンスターはいる?」
「いや、確認した限りはいないな」
双眼鏡で見た情報を伝える。
とは言えモンスターが全くいないということはないだろう。
ひょっとしたら木に擬態しているモンスターもいるかもしれない。
隠密系統のスキルをモンスターが使用しているのであれば、それを見破る術を俺達は持っていない。
いや、手がない訳ではないのだが、流石にリスクがデカいからなぁ。
油断は禁物だ。
***
——10分前
改めて警戒しながら樹海を歩いているのだが、
「うーん、何かさあ、変だよね」
「やっぱりそうなのか?」
「絶対おかしいよ。モンスターが全然いないのは別にいいとしても、この森の惨状は......」
そう、この森の惨状はおかしい。
外から見たときは気にならなかったが、所々木の枝が不自然に折れ、ひどい所では幹から荒々しく斬り倒されている状態だ。
ハッキリ言って嫌な予感しかしない訳だが・・・・・・
「ねぇ、これってさ、結構ヤバ」
「いい、ユズキ。その先は何となく分かるから。その先は言わなくてもいい」
言われなくても分かるとも。
今この森にヤバいモンスターがいることぐらいは、ゲームに詳しくない俺でも分かる。
で、正直なところ、そんなモンスターがいるぐらいは何も問題はない。
問題なのは、
「ねぇ、折角だからさ」
「ユズキ」
「なに?」
「俺たちの目的は何でしたっけ?」
「・・・・・・湖で釣を楽しむことです」
「ああ、良かった。共通の認識で安心したよ」
案の定興味を持ったようだ。
ハッハッハッ、冗談じゃない。
今日はのんびり釣りの気分なんですよ。
木をなぎ倒すようなバケモノと好んで戦いに行ってたまるか。
「ちぇー、つまんないなぁ。あ、そうだ!」
「言っておくが、トラブルメーカーは禁止だからな」
「うっ」
ハッハッハッ、考えてる事はお見通しだよユズキさん。
確かにトラブルメーカーを使えばこの森の惨状をつくりだしたモンスターと出会えるだろうが、そうはさせない。
大体そんな事をしたら森にいるモンスターがもれなくやって来ることになるんだから、死に戻り確定だ。
折角ここまでアイテム使いながらモンスターと会わずにやって来たのだから、このまま無事に湖まで辿り着きたい。
「そういえばさ、なんでバルムンクは召喚しないの?」
「ん?いや、別にモンスターと戦う訳でもないから呼ばなかったんだが」
モンスターと戦う訳でもなく、ただ見つからないように通りすぎるだけだから、特に呼ぶ必要もないかと思っていたのだが。
「バルムンクとマザーにも声かければよかったのに」
「あぁ、そう言えばそうだな。声かけるの忘れてた」
まぁ今回はそこまで長居するつもりもなかったから、誰にも声をかけていなかったのだ。
今回釣りが楽しめたのなら、次からバルムンクやマザー、イインチョーも連れて行くといいかもしれないな。
「バルムンク達、拗ねてるかもよ」
「はは、いくらなんでも流石に拗ねてはないだろう」
「あはは、そうだよね。バルムンクもマザーも誘わなかったぐらいで拗ねはしないか」
「笑顔で『楽しかったですか?』って聞いてきそうだな」
「そだね。あ、折角だから『交信』してみたら?」
「え、今からか?」
「うん。折角話題にも上がったんだし、連絡もとれるんだし、もし来たそうだったら召喚すればいいじゃん」
「......ま、それもそうか」
確かに連絡とろうとすればとれるんだし、来てもらうことも出来るわけか。
よし、そうと決まれば早速『交信』だな。
***
——5分前
『もしもーし、あははぁ、シズさーん。どうしましたー?』
『も、もしもし、バルムンク?』
あ、あれ?
交信を使ったはいいものの、なんかバルムンクのテンションおかしくないか?
何か妙に間延びしてるというか。
甘ったるいというか。
『えーと、バルムンクさん?今何してるんです?』
『あー、今ですかぁ?マザーと飲んでますよぉ』
『え、飲んでるの?』
思わず空を見上げる。
うん、まだ昼だ。
『えぇっと、何で真っ昼間から飲んでんの?』
『だぁってぇ、シズさんってばぁ、今回誘ってくれなかったじゃないですかぁ』
『は?』
『私もマザーもぉ、いつ誘ってくれるか楽しみにしてたのにぃ、シズさんってば全然誘ってくれないんですもん。二人で飲むしかないじゃないですかぁ』
『そ、そっか』
『はい。えへへぇ、でもいつでも呼んでくださって結構ですよぉ。今どこに居るんですかぁ?』
『ああ、今ルミナリア樹海にいるよ』
『あはぁ、ルミナリア樹海ですかぁ。懐かしいですねぇ。とにかくぅ、困ったときはいつでも呼んでくださいねぇ。私が思い切って樹海を消しますから』
『・・・・・・』
そっかぁ、思い切れば樹海を消し飛ばせるのか。
『あ、こぉら!マザー!その酒はまだ————ブツッ』
どうやら「交信」の効果時間が切れてしまったようだ。
スキルレベルを上げれば話せる時間が延びるかなと現実逃避をしていると、ユズキがどうしたのか聞いてくる。
「ねぇ、どうだった?」
「すまん」
「へ?」
「どうやら今回も俺は役立たずらしい」
「え?ちょっ、急にどうしたの?」
「誘ってもらえなかったことに不貞腐れて、マザーと一緒に酒を飲んでいるようだ」
「・・・・・・」
ユズキも予想外だったのだろう。
ただ、次第に笑いを堪えるように肩を震わせている。
「いやぁ、分かっちゃいたけど、本当にゲームと思えないね」
「・・・・・・ああ、確かにそうだな」
確かに、普通のゲームならサモナーの召喚獣にプライベートがあるはずもない。
主が冒険している最中に町で酒を飲んでいるなんて何の冗談だ。
改めてバルムンクやマザーは生きているのだと実感する。
ただ、そうなると——
「不思議なもんだな」
「ん?」
「俺たちは『リヴィエラ』というゲームをしてこの世界を楽しんでいる訳だろ」
「うん」
「なのにバルムンクやマザー、ゲームの中の住人が生きていることも認めてしまっている」
そうだ。俺はもうマザーやバルムンクや、いわゆるNPCが生きている事に納得してしまっている。
ゲームをしていながら、その世界の住人が生きている事を認めているという矛盾。
ハッキリ言って異常でしかない。
俺が異常なのか、この世界の住人をゲームのキャラと認識しているプレイヤーの方が異常なのか。
それとも——
「あのさぁ、シズ」
「ん?」
「難しく考えなくていいんじゃない」
「・・・・・・」
「今私たちは生きていて、マザーもバルムンクも生きている。ただそれだけでいいんだよ」
「おいおい、そりゃまた投げやりすぎやしないか?」
「そっかな?」
「そうだよ」
ユズキがそんなセリフを言う事に少し違和感を感じてしまう。
「そりゃ私だって気になるけどさ。でも今考えても答えなんて出ないんだからさ。今は考えなくてもいいんじゃない」
「ま、それもそうだな」
確かに今考えても分からない事ではあるか。
そこでふと考えることをやめる。
・・・ゥゥン、・・・ゥゥン
「・・・・・・ねぇ、これってさ」
「やめろ、聞くな、考えるな」
・・ゥゥン、・・ゥゥン
「・・・・・・どんどん近くなってるように聞こえるんだけど」
「きっと気のせいだ」
・ゥゥン、・ゥゥン、
「あはは、シズ。フラグ建っちゃったね」
「・・・・・・はぁ」
建っちゃったか。建てちゃいけないフラグが。
ズゥゥン!ズゥゥン!
「ガアアアアア!」
「っ、うわぁ」
「・・・・・・マジか」
雄たけびを上げながら姿を荒らしたのは斧を持った二足歩行の化け物。
牛の角からミノタウロスだろうと予想がつくが、こんな序盤のエリアで出てくるようなモンスターなのか?
明らかに出てくるところ間違えてるだろ、コイツ。
「ほら、シズ。ぼさっとしてないで、さっさと逃げるよ」
「ああ、そうだな」
まあ、何はともあれ、あれだな。
——現在
「ガアァァァ!!!」
『ヒィィィィ!!!』
リアルラックだけはどうしようもなかったよ。




