迷惑をかけたら謝らないと
場所はGardenのリビング。
そこに俺とユズキ、シハンとセン、そしてカンパネルラが集まってマザーに淹れてもらった紅茶を飲みながらカンパネルラの冒険を聞いていた。
因みにイインチョーはログインしてはいたのだが、用事が出来たと言ってGardenを出て行った。目が全然笑っていなかったが何かあったのだろうか。
カンパネルラは今日が久しぶりのログインだったようで、俺らと会う前に勘を取り戻すために昔の知り合いであるクウネルさんと狩りにでかけていたらしい。その最中にPKされそうになり、それを返り討ちにしたら今度はタイラントドラゴンとかいうモンスターと戦うことになったようだ。
「————ということがありましてな」
「へぇ、クウネルさんと」
俺がログインした後、シハンとセンからカンパネルラを紹介された。カンパネルラの中の人は葵なのだが、小人族を見るのは初めてだったので驚いてしまった。リアルでは自分よりも身長の高い葵が、今は自分の腹ほどの身長というのも不思議なものだ。
「結局そのタイラントドラゴンが浅い層に現れたのはイベントだったの?」
「いや、違うようだったでござるな。結局あの後は何事もなく坑道を抜けれましたからな」
「ふぅん、結局分からずじまいなんだ」
シハンはどうやらタイラントドラゴンと戦ってみたいようだ。
聞く限りでは相当強そうなのだが。二足歩行をし、その巨体に似合わない素早い攻撃、攻撃範囲が広い上に火炎までだしてくるようだ。
出来る事なら一度も目にすることなく過ごしたいものだ。
それよりも驚きだったのは俺に装備を売ってくれたクウネルさんが「マルチウェポン」と呼ばれる凄腕のプレイヤーであったことだ。「牙」と呼ばれるギルドに所属していたようで、トラベラーの中では伝説とされていたらしい。カンパネルラもそこに所属していたらしく、大暴れしていたようだ。
まぁ、ゲーマである葵がこのリヴィエラをプレイしていたのは予想していたし、基本的にやり込むタイプだから相当強いのだろうとも思ってはいたのだが。
「しかしお前、その鼻は何なんだ?」
あった時も思ったが、この男の鼻だけ不自然に長い。
小人族なので身長が低いというのは分かる。だが、果たしているのか、その長い鼻……。
「何を言うのでござるか、シズ氏!遊び心は大事であろ!」
「遊び心ねぇ……」
「チュートリアルの時にそういった設定まで変えられるの?」
「そうでござるな。もっともチュートリアルの担当に物凄く迷惑をかけてしまいましたが」
「迷惑って?」
ユズキも気になったようで質問しているが、何となく嫌な予感がする。
チュートリアルの担当はメルヴィさんだったはずだ。
こいつが無茶を言って困らせてしまったのでは——
「いやぁ、容姿設定の際に何度も「いいんですか?」と聞かれましてな。その度に『倍プッシュで』って頼んだのでござるよ。最初はかなり長かったのでござるが、チュートリアルの戦闘の時に全然敵の攻撃を避けられないことに気づきましてな。最終的に今の長さになったのでござるよ。まぁ、メルヴィさんは終始苦笑いを浮かべていましたな」
————すいませんっ、メルヴィさん。
この馬鹿が下らない無茶を言って本当にすみませんっ。
「いやぁ、苦笑を浮かべながらこちらの要望を律儀に聞いてくれるメルヴィさん、マジ天使!」
「やかましい!一度ちゃんと謝ってこい!」
***
カランカラン!
「ただいまぁ」
「おかえりなさい」
「っ!?」
クウネルが驚いたのは自分の工房に、既に人がいたからではない。
帰ってこないはずの挨拶に返事があったからでもない。
「イ、イインチョー?」
顔は笑顔だが青筋を立てている自分の幼馴染が立っていたからだ。
いや、別にイインチョーが自分の工房にいることは別に不思議じゃない。
リアルで話した時に自分もリヴィエラをしている事を話して、その後フレンド登録をしたのだから。
因みに、紫月と柚にはまだ正体を明かしていないことも話しているので、紫月と柚には黙っててもらっている。
「薫」
「い、いや、イインチョー。一応ゲームの中なんだから、クウネルの方で呼んでくれないか?」
「薫」
「はい」
ダメだ。相当怒っていらっしゃる。
こちらの話を全然聞いてくれない。
まあなんとなく何に怒っているのか予想は出来ているのだが。
「何で体調不良で早退したあなたがゲームしているのです?」
「あ、いや、そのぉ、体調が大分楽になったというか……」
「あなたが早退したせいで、今日の日直の仕事を全部私がすることになったのですが」
「……」
迂闊だった。
確かに今日は体調が悪くて早退することになったのだが、時間がたって大分体が楽になると暇になってしまったのだ。
少しだけログインして直ぐにやめるつもりだったのだが、葵からの久々の誘いについついテンションが上がってしまい、影狼やらタイラントドラゴンやらが出てきて熱中してしまい、直ぐにログアウトするのをすっかり忘れていた。
「す、すまん!直ぐにやめるからっ。じゃあまた!」
「あっ、こらっ、薫!」
返事を待たず、すぐさまログアウトをする。
あの幼馴染は基本的に他人には優しいくせに、俺には厳しいのだ。
ただでさえ体調が悪いというのに、幼馴染からの説教を聞くのは御免だった。
明日すこぶる機嫌が悪いだろうが、謝って何かしら奢って機嫌直してもらうとしよう。
「すまん、恵。後日何かしら埋め合わせするから、今日は許してくれ」
「ほぅ、それは良いことを聞きました」
「っ!?」
今度こそ、心臓が飛び出るほど驚いた。
何故忘れていたのか。恵が家の合鍵を持っていることに。
何故気づかなかったのか。いつもの恵ならお見舞いに来る可能性の方が高い事に。
「全く、チャイムを鳴らしても全然返事がないからまさかとは思いましたが」
俺の親は単身赴任で出稼ぎしているので殆ど家に帰らない。たまに休日帰って来るぐらいだ。
だから俺が風邪の時はいつもお見舞いや差し入れを持ってきてくれるのだが。
「何か申し開きは?」
「……すみませんでした、大人しく寝ています」
「よろしい」
見下ろしてくる冷たい目に耐えられなかった。
やはり人間素直が一番だ。悪い事をしたら素直に謝るにかぎる。
「で、体調の方はどうですか?」
「ん、大分楽になった」
「でしょうね」
まあゲームしてたぐらいだしね。
勢いあまってタイラントドラゴンを倒しちゃったぐらいだし。
「リンゴいりますか?」
「ああ、いただくよ」
体を起こし恵が用意してくれたリンゴをいただく。
シャリシャリとした食感。ゲームで疲れた頭を癒してくれる甘さ。微熱で火照った体を冷たいリンゴが冷ましてくれる。
「それよりも聞いてくれよ。今日久々に葵がログインしてきてさ————」
「————へぇ、それは良かったですね」
今日起こった事を話す。特に今日は葵がログインしてきたリ、影狼のメンバーと絡む切っ掛けがあったり、タイラントドラゴンが出てきたりと、イベントが盛りだくさんだったのだ。
誰かに話したい気分だったのだ。
薫が嬉々として語り、恵も笑顔を浮かべて静に話を聞く。
楽しい時間がゆっくりと過ぎて行った。




