注文
「おつー」
「おつでござるよ」
20分かけてようやく倒れたタイラントドラゴンを呆然と見ていると、男2人がやってくる。
片方はマルチウェポン。火炎による攻撃を受けても平然と攻撃し続け、吹っ飛ばされてもピンピンしている姿をみてようやく服が耐性付きの防具であることを理解する。
ドラゴンに殴り飛ばされる寸前、エプロンを脱いでいたので、服が恐らく物理攻撃への耐性に特化しているのだろう。よく思い返してみると私と戦う時はエプロンを外していた。万全の準備でもって相手されていたわけだ。そりゃ敵わない。
そしてもう一人の男。カンパネルラと呼ばれていたサポートの男だ。この男はマルチウェポンとは違った得たいの知れない雰囲気がある。
正直ドラゴンと戦ってなお、何をしているのか、どのようにサポートしているのか、いつサポートをされたのか、全く分からなかった。気づいたらMPが増えていて、スキルを思う存分使うことができ、敵の猛攻を紙一重で避けることができた。
戦闘中は全く姿を見せず、スキルすら使った痕跡がない。ログにすら表示されていないのだ。もっとも、そのおかげで検討はついた。
恐らくこの男は「牙」のメンバーで、「無音」と呼ばれていた吟遊詩人だろう。吟遊詩人のスキルは対象を選んで発動するものではない。音を使うことでその場に影響を及ぼすスキルを使うジョブだ。スキル自体に味方か敵のどちらに影響するのか決められていて、使用すると範囲内全てに効果が出るのでログには表示されないのだ。
「無音」の戦いを直接見たことはなかったが、噂だけは知っていた。その音は聞くことができず、その動きはとらえることが出来ない。
故にPKされたことがなく、対人戦においてはほぼ負けなしとすら言われている。
「……」
今目の前にはあの頃ライバル視しつつも憧れていた「牙」のメンバーが立っている。そして一緒に戦ってタイラントドラゴンというレイドモンスターを倒すことが出来たのだ。
はっきりと言える。今私はかつてないほど歓喜していると。顔には出さないようにしているが、ログアウトした瞬間に叫びたくなるほど感情が高揚している。
「どうだった。レイド戦をやった感想は?」
「ああ、達成感と充実感が凄いな。久しぶりだ。レイドやったの」
「お、そうなのか?そのわりには役割をきちんとこなせていたじゃないか」
「緊張してたからな。余計なこと考えてる余裕がなかっただけだ」
実際は少し違う。最初は確かに緊張していたが、しばらくするとレイド戦に夢中になっていた。
敵の攻撃を喰らわない事へのスリル、頼もしい二人のサポートによる安心感を楽しみながら、敵の攻撃を避けては切り付ける。ただひたすら没入していった。
久しく味わっていなかった感覚だ。
「戦利品の方はどうだった?」
「あ、まだ見ていなかった。少し待ってくれ」
クウネルに言われてようやくドロップの確認がまだであることを思い出す。
慌ててアイテム欄を開いて確認していく。
表示されていくのはその全てが素材だった。
「全部素材だった」
「そうかい。それは良かった」
「良かったのか?」
「ああ、その素材で新しく武器を作るのもいいし、売って金にするのもいい。何しろタイラントドラゴンの素材だからな」
確かに、3人で倒したことで忘れそうになるが、私が相手したのはディノス坑道最下層のレイドモンスターなのだ。目の前の二人が強すぎて忘れそうになるが、本来は20分で倒せるようなモンスターでもないのだ。それを危なげなく3人で討伐というのだから恐れ入る。正直自分が居なくても二人なら討伐できていたのだろう。
「それで、どうするんだ?」
「武器と防具の消耗が激しいからその金にあてるつもりだ」
「あれ、そうなのか?」
「何で驚くんだ?」
「いや、てっきり俺に新しい武器でも注文するんだろうとばっかり思ってたからな」
「いや、それは……」
確かに注文したい。
あの戦いを見ているだけでクウネルの武器の性能が優れていることはよく分かる。
タイラントドラゴンのHPをガリガリ削っていく武器も、切られようが殴られようが火炎を浴びせられようが平然としていられる防具もとても魅力的だ。
それは分かるのだが……。
「私はPKをしようとしていたから……」
「おいおい、こんなに楽しかった時間の後に、その話はいくらなんでも野暮だろ。別に注文されても構わないぞ」
「そ、そうなのか?」
「そりゃそうだろ。ってかそんな事考えながらゲームしてて楽しいか?」
「いいや……」
「だろぅ、ほらほら、どうするんだよ」
「分かった。武器と防具を頼む」
「あいよ、毎度ありー♪」
先程までとは別人のような笑顔に低姿勢だ。
恐らく商人プレイなのだろう。本当に楽しんでいる事がよく分かる。
その笑顔につられて、私は久しぶりにゲームで笑った。




