共闘
「さぁて、覚悟はいいか?」
「ああ」
刀を握る手が汗ばむ。
目の前に立つ強大なドラゴンを相手に、これから3人で討伐するというのだから、緊張してしまうのも無理もない事だ。
「おいおい、でかいトカゲ倒す程度でそんな緊張してどうすんだ」
「でかいトカゲって……」
「なに、心配すんな。俺とカンパネルラが後方から援護するから、お前さんは気の向くままに速さ活かして引き付けてくれ」
「ちょっと待て!前衛私一人か!?」
「口調口調」
「っ、俺一人なのか?」
「そりゃそうだろ、ボウガンでどうやって前衛するんだ?」
「ボウガンって……」
いつの間にかマルチウェポンの手には先程のスモールシールドでもショートブレードでもなく、ボウガンが現れていた。
「さっきのショートブレードとスモールシールドで前衛すればいいじゃないか!」
「いやぁ、流石にあれじゃあ傷一つつかないだろ」
「っ、な、ならそのボウガンならダメージがとおるのか?」
「まぁ、それなりにだな」
「正直俺の武器じゃ殆どダメージ与えられないぞ。良いのか?」
「ああ、大丈夫大丈夫。カンパネルラのサポートもあるんだし心配することはないだろう」
「そのもう一人も、さっきから見かけないんだが……」
「あっちは既に準備万端だよ。俺たちに合わせてサポートしてくれるから」
「……本当に、私一人で前衛するのか?」
「大丈夫だから、心配せずに行ってこい、ほらっ」
「く、くそ」
背中を押され、仕方なく前に出る。
眼前には見上げるほどの強大なドラゴンの腕が。
幸いなことに、こちらにはまだ気づいていない。
だがそれもこちらがスキルを使えば戦闘行動をとったとみなされてヘイトが一斉に自分に向く。
(落ち着け、落ち着け。あいつは敵を引き付けろとしか言っていない。私の攻撃が聞かないことも承知しているのだから、私はこのドラゴンのヘイトを稼いで、攻撃を避けるだけでいいんだ)
そう、今回の自分の役割は敵の攻撃を避けつつ、適度に攻撃してヘイトを集めればいいだけだ。
何も特別なことをする必要はないんだ。
速さに特化している自分ならではの役割でもあるのだ。
(やってやる!)
肩の力が自然と抜ける。緊張が少しマシになってくれたらしい。
「神風の構え!」
自分の体が軽くなると同時にタイラントドラゴンの顔がこちらを向く。
「瞬突!」
自分の位置とドラゴンの距離を一気に詰めると同時に、右足に突きをお見舞いするが、
ガキンッ!
「ぐっ、痛ぅ」
手を鈍い振動が襲う。硬さが尋常ではないのだ。
だが痛みをこらえる暇もない。
今にもこちらを踏みつぶそうと右足を上げているのだから。
「っ、瞬突!」
急いで敵の左足に向かってスキルを放つ。
この瞬突は一直線に対象に向かって突きを放つスキルだが、敵の攻撃を回避しながら攻撃することも出来る。
もっとも、攻撃自体はそこまで威力はない。敵の5本もあるHPのゲージが少しも減っていない。
この手の硬い相手に対してはむしろこちらの手が痺れてしまうほどだ。
だが、今回はそれでいい。私には他に元「牙」のマルチウェポンと、もう1人のサポートがいるのだから。
それらに攻撃がいかなければ、何とかなる。
「七輪!」
そう自分に言い聞かせて、恐ろしいドラゴンに向かって、刀による7連撃を繰り出していく。
***
「ラピッドショット!」
ボウガンから連続して矢が放たれる。
先程から連発しているスキルで、少しづつではあるが敵にダメージを与えている。
本来ボウガンは、威力が低く、矢は使い捨てで金がかかる人気のない武器ではあるのだがーー
「お、効いてる効いてる」
クウネルは鍛治でボウガンは勿論、矢まで製作している。
高い攻撃力を有するボウガンに、高威力を有する矢を大量に所有しているのだ。
デメリットは解消済みだ。
少しずつではあるが、モンスターのHPが削れていっている。
5本もあったHPゲージが2本も減っているのだから。
「カンパネルラは大丈夫だろうけど、もう1人の方は」
見ると先程使用した構えのスキルを使って敵の足元で攻撃を繰り返している。
やはりドラゴンが硬いせいもあって、中々ダメージが入っていないようだ。
(予定通り、俺とカンパネルラで削っていくことになりそうだ。ま、今回は敵を引き付けてくれるタンク役がいるから楽そうだな)
「牙」では俺がよく敵を引き付けていたので、あの辛さはよくわかる。
しかも今回ロドリーは討伐の準備が出来ていないのだ。
耐性のある防具も全くなし。1発でも食らえば結構なダメージになる。
(様子見ながら交代しようと思っていたけど、あの集中を見ている限り、その必要はなさそうだな)
シールド使えば前衛が出来ない訳ではないんだが、折角だから任せることにした。
正直、自分達「牙」と競いあっていた「影狼」が、現在無法状態であることは気にくわないとは思っていた。
関わるかどうか考えて、以前から道草に情報収集を頼んでもいたのだ。
そこに今回のPK襲撃だ。
ロドリーに見覚えはあったのだが、誰だったかを完全に忘れていた。
あの心からの叫びを聞いたときにようやく思い出したのだ。
だからこそ今回のドラゴン狩りに誘ってみた。
信頼できないPKなら誘わなかったが、1度は面倒をみたことがあるのだ。
変わる余地もありそうだから、これがきっかけで何かしら変化が起きればとも思った。
「しかし流石カンパネルラだ。抜群のサポートだな」
パーティーのHPとMPを回復しつつ、敵からの攻撃を避け姿を消し、敵のHPを適度に減らしている。
自分にヘイトが向かない様に動きつつも、他のパーティメンバーに攻撃が集中しない様、時には自分にヘイトを集めるなど、臨機応変に立ち回っている。
もっとも、これらは『無音』を知っているからこそ、認識できることでもあって、恐らくロドリーはサポートを受けているという実感もないだろう。
今ドラゴンのHPを削っているのが半分はカンパネルラによる功績であるなど夢にも思っていないはずだ。
スキルを使う中で、自分のMPが減っていないことに気づいてようやく、カンパネルラの活躍に気づくだろう。
「ありゃ、少し変わった方がいいかね」
見るとロドリーが敵が噴き出す火炎をかろうじて避けていた。
直ぐにドラゴンの腕による叩き潰しの追い打ちが入るが、先程の構えのスキルや、他のスキルを併用して使っているのだろう。それも避けてみせる。
しかしドラゴンの方もでかい図体に似合わない速さで叩きつけや踏みつぶしを行っている。
何とか避けれてはいるが、あれではジリ貧だろう。
「仕方ない、もう少しダメージ与えておくかね」
ボウガンを上に構える。
「流星!」
矢が上空に向かって放たれる。
時間差で対象範囲に向かって無数の矢が襲ってくるスキルだ。
「ラピッドショット!」
さらに追い打ちをかけるように無数の矢を放つ。
両方のスキルを同時に喰らい多少怯んだが、直ぐにこちらを向いて火炎を放ってくる。
「よしよし、こっちにヘイト向いたな」
こちらとしては火炎による攻撃はむしろサービスだ。
自分が付けているエプロンは火炎耐性の防具でもあるのだから。
火の中突っ立ってても全く問題ない。
問題は叩き潰しや踏みつぶしによる攻撃だが、
「神風の構え!」
丁度いい事に先程習得したスキルによって敵の攻撃を楽々避けられる。
「お、HP半分切ったな」
ドラゴンのHPのゲージがようやく残り2本になった。
ドラゴンの動きに変化がないか、注意しながら攻撃を繰り返す。
「げっ、構えのスキル効果が切れたな」
先程使ったスキルの効果が切れる。
体感1分の効果時間だ。
「仕方ないとはいえ、もう少し使いやすくならないかねぇ」
『マルチウェポン』の制限その1。スキルレベルを上げることが出来ない。
本来なら構えのスキルレベルを上げることで効果時間が上がり、リキャストタイムが減って、効果量が上がる。
先程のロドリーとの戦闘でも、スキルレベルを上げて効果量が高くなっているロドリーの方が速さで勝っていた。おまけに途中でスキルが切れてしまってもろに攻撃を受けてしまった。
(ま、耐性のおかげでそこまでダメージはなかったが、もっと練習しないといけないな)
ロドリーは気づいてなかったが、ショートブレードとスモールシールドを装備した時、エプロンを外していた。服自体にPK対策として武器による攻撃への耐性を付与していたのだ。
だから何度切り付けられても特に問題はなく、万が一にもクウネルがロドリーに負ける可能性はなかった。
「さて、あと一回流星撃っておくか」
またヘイトがロドリーの方に集中しだしたので、ロドリーの負担を軽減するためにスキルを放つ。
「流星!」「ラピッドショット!」
ヘイトがこちらに向き、叩き潰そうとしてくる。
「あ、やべ」
神風の構えを使用しようとするが、スキルが発動しない。
仕方なくエプロンを外して攻撃を受ける。
耐性が付与されているためでかいダメージはなかったが、思いっきり吹っ飛ばされる。
『マルチウェポン』の制限その2。消費MPとリキャストタイムが2倍かかってしまう。
これによって同じスキルを再度使用するのに時間が掛かってしまい、消費MPも高いためスキルを連発することが出来ない。
ラピッドショットのような射撃系の基本スキルなら消費も高くないので使いやすいのだが、流星は攻撃力も範囲も高い分、リキャストタイムも消費MPも高いので連発できないのだ。
今回は神風の構えのリキャストタイムがまだ残っていたせいで使えなかった。
「ふぅ、久しぶりにこんなに飛ばされたな」
ただ、カンパネルラによるサポートのおかげでデメリットが多少軽減されてはいる。
そして今回はロドリーが敵を引き付けているのだ。
多少のミスをカバーできる体制は心に余裕を生んでくれる。
それ以降大したミスもなく、順調にダメージを与え続け、それから10分が経過した頃、ようやくタイラントドラゴンが崩れ落ちた。




