選択
「全快したか?」
「ああ。でも良かったのか?」
「ああ、MP0にしたのは俺達だしな。ポーションの方も、腐るほどあった内の1つだ。気にすんな」
一騎討ちすることになり、万全の状態で始めようとクウネルが提案してきた。こちらのMPは敵の攻撃で0になっていたので、まともにスキルを使えない状態だったのだ。
まさか貴重なポーションを別けてくれるとは思っていなかったが。
「んじゃまあ、始めるとしようぜ」
「ああ」
広場で向かい合う。
相手はあの『マルチウェポン』だ。
明らかに俺よりも格上。
刀を装備し構えをとるが、緊張が半端ない。
「へぇ、侍か」
「そちらは装備をしないのか?」
「心配しなくてもちゃんと装備するさ。遠慮なく、どっからでもどうぞ」
「では遠慮なく!!」
相手のペースになれば、万が一にも勝ち目はない。
反撃させる隙をあたえずに一気に攻め立てる!
相手は未だに手ぶらの状態。何をしてくるのか検討がつかない。
恐れず、一気に近づき一閃——
「へぇ、随分早いな」
「!!」
驚いたのはこちらの攻撃が防がれたからではない。
驚いたのは彼の装備だ。
「……なぜ、初期装備なのだ?」
あの『マルチウェポン』がどのような装備で、どのような戦い方をするのか興味はあったが、装備している物がショートブレードとスモールシールドだ。
「俺が作った自慢の一品でね。ああ、誤解するなよ。別に舐めてるわけじゃないから。ほら、一応俺も鍛冶師の端くれですから、改造とかに憧れるんだよ。男ならこの浪漫が分かるだろ」
「……そういった感情は、よく分からないのだが」
「あり、そんなもんかね。男ならだれでも強い装備に憧れるもんだと思ってたんだが」
「……」
話している隙にさらに一閃お見舞いするが、
ガキンッ!
これも盾で弾かれる。
ヒュンッ!
その癖こちらの隙をついて容赦なく切りかかってくる。
「どうだ、初期装備も馬鹿にしたもんじゃないだろ?」
「チッ」
正直隙がなさすぎだ。
例え装備は初期のものだとしても、装備している者が変わればこうも戦いずらくなるものなのか。
「神風の構え!」
距離をとって侍のスキルを使用する。
『神風の構え』は使用者のスピードを飛躍的に上げるスキルだ。
スキル使用後の隙もカバーできる。
「ほぅ、神風の構えねぇ。侍のスキルだったんだな。んじゃ、俺も」
「な!!?」
「神風の構え!っと、よし、出来た」
流石マルチウェポン。簡単にこちらの想像の斜め上をいく。
『神風の構え』は侍専用のスキルだ。
刀装備専用のスキルでもあるはずだ。
それがなんで初期装備の状態で使用できるのか。
「……まさか、全職業のスキルが使用できるのか?」
「ちょっと違うな。武器職専用のスキルだけだ。魔法職のスキルは使えないよ。まぁ、他にも色々と制限があるんだが、『神風の構え』は使いやすそうだな」
「そんな……」
「おいおい、止まってていいのか?」
「!!?」
一気にこちらに接近して斬りかかってくる。
慌ててこちらも応戦する。
キンッ、キンッ、キンッ
何度も切り会うといやでも相手の力量が分かってくる
「デタラメだっ」
「失礼なっ」
デタラメという言葉を否定してくるが、武器職のほとんどのスキルを制限つきとはいえ使用できたり、他の装備のスキルを別の装備で使用できたり、今回初めて使うであろう「神風の構え」を使いこなすやつが、デタラメ意外のなんだというのか。
それでも——
「こちらのほうが、速い!」
「ッ!?」
何度も切り会うことでようやく見いだした隙。
これを逃す手はない!
ザシュッ!!
ようやく一太刀与えることが出来た。
とはいえダメージは少なそうだが。
「いやぁ、早い早い。流石速さに特化しているだけはあるな」
「……」
速さに特化している事を話していないのに、あっさりと見抜かれる。
それに、褒められても全く嬉しくない。何しろ相手は初期装備なのだ。
(流石にへこむな)
こちらは今の中では考えうる限りの最強の装備をしているというのに、改造しているとはいえ初期の装備に手を焼いている状態なのだから。
「PKばかりしていて腕が鈍ったか?」
「っ!?何で……」
「おいおい、一応『牙』と『影狼』はライバルだったろうが。それなりに相手の情報は集めているっての。今の『影狼』の状況もな」
もう『牙』は解散したけどな、といって笑っている。
それがどうしようもなく羨ましくて、嫉妬してしまう。
「何で……」
「ん?」
「何でそんなに笑っていられるんだ!」
気づいたらそう叫んでいた。
「あれだけ活躍して!あれだけ周囲から憧れの目で見られて!それが急に解散してしまったというのに!何でまだ楽しめるんだ!なんでそんなに笑っていられるんだ!」
様々なクエストやレイド、その他冒険の情報など、思えばあの頃から惜しげもなく提供していた。
初心者は憧れ、熟練者は負けてはいられないとより一層活性化した。
それほどまでの、憧れの的だったわけだ。
『影浪』のギルドマスターは『牙』のギルドマスターとライバルで、よくギルド同士で競い合ったものだ。
そのギルドマスターが2人とも辞めてしまい、『影狼』は無法状態と化し、『牙』はあっさり解散した。
私は初心者の頃、困っていた時に『影狼』に拾われた。
あの頃は自分もギルドマスターと一緒に戦いたいと思ったものだ。
ライバルである『牙』とも競い合い、共に研鑽した。
マルチウェポンの事だってもちろん知っていたし、素直に尊敬していた。
だからこそ、今の現状を知ってなお笑っていられるこの男が、理解できず、それでいて羨ましくも思うのだ。
「……」
目の前の男は、こちらの言葉を聞いて目を丸くしている。
「そりゃあ、お前」
そしてゆっくりと、何かを言おうとしたその時、
「クウネル氏、ロドリー殿、一旦そこから離れるでござるよ、新手でござる!!」
『!!』
後ろに控えていたもう一人の仲間が叫び、二人して慌ててその場から離れる。
ズ、ズ、ズ、ズ……
地面から何か引きずるような音が聞こえ、それがどんどんこちらに近づいてくる。
グルゥゥゥゥッ!!!
激しい息遣いまで離れていても聞こえてくる。
「おいおい、嘘だろ……」
「何がだ?」
「タイラントドラゴンだよ、最下層の」
「はぁ、そんなわけあるか!なんでそんな奴がこんな浅い層に出てくるんだ!」
「……あっと、落ち着け。俺にも分からん。後、叫んでた時から声変わってるぞ。折角変えてたんだろ?元に戻しておけ」
「!!?」
いつの間にか、素の声が出ていたみたいだ。
感情的になったばっかりに!
この手のゲームは女の姿のままプレイすれのは面倒事が多い。リアルでもそれは変わらないが、ゲームでまでそんな思いをしたくなくてわざわざ男の姿を選んでいるというのに!わざわざ口調も変えたというのに!
「ま、そんな事は後だ後。ほら、お出ましだ」
「なっ」
オオオオオォォォォォ!!!!
どうでも良くない!と言おうとした瞬間、とてつもない咆哮が広場全体に響き渡る。
そして、その巨体が遂に姿を現す。
爬虫類の頭にでっぷりと肥えた体、二足歩行のそのドラゴンは、本来こんな浅い層にいるモンスターではない。本来なら最下層にいるレイド級のモンスターだ。
「さて、色々と考えなくちゃいけない事があるが、とりあえず狩るか」
「狩るのか!?」
「そりゃ狩るだろ。何かのイベントかもしれないしな」
何度も言うが、最下層にいるレイド級のモンスターだ。
確かに何かのイベントかもしれないが、本来ならしっかりと準備をして、10人以上のパーティをしっかりと組んで相手をするものなのだ。
とても2、3人で「とりあえず狩るか」みたいなノリで戦うような相手ではないのだ。
だというのに——
「何でそんなに楽しそうなんだ……」
こんなアクシデントの中でさえ、目の前の男は楽しそうに笑っている。
「それで、どうする?」
「どうするって?」
「一緒にパーティー組んであいつ倒すか、俺らが戦ってる間にサッサとお前だけこの場を去るか」
「一緒にパーティーを組むって、俺はさっきまでPKだったんだぞ」
「折角こんな面白そうなイベントが転がってきたんだ。そんな事どうでもいいだろうが」
「そんな事って……」
「あのなぁ、楽しい方を選べばいいだけだろうが。さっきの続きをするのか、協力して強そうなモンスター倒すのか。どっちが面白そうか、考えるまでもないだろうがよ」
「……確かに、それはそうだ」
ケジメのためにこの男と戦うのと、憧れた相手と組んでこの強大なモンスターと戦うの、どっちが面白いかなんて考えるまでもない。
気づくと私もつられて笑っていて、マルチウェポンから来ていたパーティー申請を、いつの間にか承認していた。




