帰還
「っ、ここは、Garden?戻ってこれたのか?」
『そのようですね』
「シズ!やっと戻ってきた」
「あ、シズ君。お帰りなさい」
PKから命からがら何とかGardenに逃げ帰ると、ユズキとイインチョーが出迎えてくれた。
しかし、シハンとセンはいないようだ。
「あれ、シハンとセンは?」
「シズが中々帰ってこないから、もう一度さっきのカルミナ平原に行ったよ」
「そうですよ。中々帰ってこないシズさんを心配して、また出掛けて行きましたよ」
「そっか、心配かけてしまったかな。帰ってきたら謝っておこう」
「そうしてあげてください」
話しながらリビングの席について紅茶を貰う。ついでにバルムンクの分も渡す。
「ほい、バルムンク。今回は助かったよ。いきなりですまなかったな」
『いえ、今回こちらの不手際で一度召喚に失敗しているので、気にしないでください』
「ああ、そう言えばそんなこともあったな……」
すっかり忘れていたが、ゴブリンたちと戦闘した時に鎧だけ召喚された事だろう。とはいえ、バルムンクも常に鎧姿でいるわけではないのだ。今回はまだ鎧だったから良かったが、以前のような風呂の時に召喚でもしようものなら大変なことになる。
「今度からちゃんと伝えてから町の外に出ることにするよ」
『いえ、召喚する際に一度交信のスキルを使って、ひと声かけてくださればいいですよ』
「あれ、交信って離れた対象に使えるの?」
『そもそも交信はモンスターと連絡をとったりする時に使用するスキルですから、契約した相手なら、どれだけ離れていても使用することもできますよ』
「分かった。ならこれからは召喚する前に交信のスキルを使って確認をとるよ」
『はい、よろしくお願いします』
よし、これで先程のようなイレギュラーは起きないだろう。
流石に呼び出されたのが鎧だけだと脱力感が半端ないからな。
視線を感じたので、顔を横に向けると、ユズキとイインチョーが目をパチクリさせていた。
「どうかしたか?」
「いえ、その、バルムンクが……」
イインチョーは震える手でバルムンクを指す。
一体なんなんだと、そっちを向くと丁度バルムンクが紅茶を飲むところだった。
顔に認識疎外を掛けたままで。
「……」
まぁ、二人が驚くのも分かる。一応俺はあそこに顔があることを知っている。
ただ、何も知らない二人からしたら、何もないところにカップを持っていき、ごくごくと紅茶を飲んでいるのだ。顔のないデュラハンが。ちゃんと紅茶は減っていて、どこにもこぼれてもいないのだ。
『ふぅ、美味しかったです。ご馳走様でした』
「……」
『どうしました?シズさん?』
「いや、気にしないでくれ」
まあ、バルムンク本人が紅茶を楽しんでいるなら、今は余計なことを言わなくていいか。
そこで俺の肩をユズキが叩いてくる。
「あのさ、シズ。シズは今バルムンクと話せてるの?」
「ん?ああ、話せてるよ」
「何で話せてるの?」
「いや、ユズキには交信ってスキル使ったから分かるだろ」
「でもさ、以前使った時、バルムンクって話してなかったよね」
「……そうだっけ?」
「そうだよ。今は会話できているんだよね?」
「……ああ」
「じゃあ、話してみたいかな!」
……なんですと?
「話したいの?」
「うん!」
「バルムンクと?」
「うん!」
「今?」
「今!」
「皆が揃ってからじゃ」
「ダメ!」
「……」
あー、これはいけない。
この目はダメだ。柚が興味を持った時の目だ。好奇心を抑えられない時の目だ。
『バルムンク、いいか?』
『はは、こうなったら仕方ないです』
皆の前で顔を出すのは恥ずかしいのだと思っていたから、まだ正体を黙ったままだった。まあこうなった以上、正体を隠したままでいるのは難しいだろう。
そして、バルムンクは顔の認識疎外を解く。
美しい金髪と整った顔が禍々しい鎧の上に現れる。
「こんにちは、ユズキさん、イインチョーさん。挨拶するのは初めてですね。バルムンクです。よろしくお願いしますね」
『……』
あれ、ユズキとイインチョーが固まっている。
まあ、驚くか。バルムンクの事を今までデュラハンだと思っていたんだ。
それがいきなり顔が出てきたとなれば————
「えぇぇぇ!!バルムンクって女だったの!!!」
あ、そっちかぁ。
そりゃ驚くか。恐らくユズキ達もデュラハンを男だと思っていたんだろう。
俺もそうだったから、女だと思っていたからよく分かる。
どうやらゆっくり紅茶を飲めるのはまだ先らしい。
***
「おや、珍しいですね。赤夜叉、あなたが訪ねてくるとは」
——シズというプレイヤーについて
「ふむ、シズというプレイヤーの情報が欲しいと?」
コクコク
「分かりました。そのプレイヤーの特徴を教えてもらえますか?」
——服以外真っ黒。動きからして初心者だと思う。デュラハンを召喚した。
「……」
——どうしたの?
「いえ、なんでも。それで、なぜその情報が欲しいのです?」
——詮索はしないんじゃなかったの?
「いえ、少しそのプレイヤーに心当たりがありまして。それにあなたが情報を欲しがるのも珍しいですからね」
——私だって他人に興味を持つくらいある
「それは良かった。ようやくボッチから脱却する気になったのですね」
——私はボッチじゃない
「PKしたのを一緒に遊んだとは言いませんからね」
スッ
「ちょっと待ちなさい。何故顔を逸らすのです。まさかもうPKしたなんて言わないでしょうね」
——PKしていない
「あ、そうなんですか。それは良かった」
——逃げられたから
「襲ってるんじゃないですか!」
——嫌なことを思い出したから、つい
「……はぁ。あなたの事情は分かっていますが、だからと言ってそれがPKしていい事の理由にはなりませんよ」
——だから謝罪しに行く
「……本気ですか?」
——本気
「……はぁ、わかりました。実は今度食事に誘われていたんです。一緒に行きますか?」
——いいの?あなたのフレンドなんでしょう?
「仕方ないですよ。他ならないあなたからの依頼なのですから」




