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回収

ドゴォォォォォン!!!!


「なっ」


それしか言葉が出なかった。

一瞬のうちに状況が変わっていた。


のどかな平原はいつの間にか爆発地帯に変わっていた。

一本一本の矢の威力が明らかにおかしい。

一本が着弾するたびに轟音を轟かせて、また一本が降ってくる。

それが自分の周囲で起こっているのだ。

巻き上げられた土埃でメンバーの姿がたちまちに見えなくなる。


ヒュゥゥゥゥゥゥ


「まずっ」


とっさの行動だった。

自分に向かって来た矢から身を守りたい一心で装備からタワーシールドを取り出して、それを背に抱えてひたすら耐える。


ガガガガガガガガガ!!!


「ぐぅううっ!!」


何本着弾した?

背から来る衝撃が凄まじい。

何とか体は守れているらしく、ライフは減ってはいないが、疲労と恐怖心が容赦なく精神を抉っていく。


どれだけ耐えていたのか分からないが、ようやく周囲から轟音が鳴りやんだ。

辺りは土煙でまるで見えないが、パーティー画面には全員居場所がGardenになっていた。

恐らくライフが0になって戻っていったのだろう。


(どうする!このままじゃジリ貧だ。バルムンクを呼ぶか?ダメだ!また鎧しか来なかったら完全にアウトだ。リキャストタイム中にやられる。バインドは——これもだめだ!恐らくレベル差があり過ぎる。モンスター相手でも失敗するのに、明らかに格上の相手にきくはずがない。どうする!)


急がないと次の矢がまた飛んでくることになるだろう。

恐らくだが、今はこの土煙のおかげで敵もこちらの姿は見えていないはずだ。

でもそれも時間の問題だ。

煙が晴れたらこちらは格好の的だ!

どうする、どうすればいい!!


「……何だ?」


ふと気づく。辺りの煙が全く晴れて行かず、それどころかますます濃くなっていくことに。


(煙幕か!矢に何か仕込んでいたのか、それともスキルか。いや、それよりも、煙幕を放ってきたということは——)


ジャリッ


(マズッ!)


慌ててその場から離れる。


ガシャァァァァン!!!


立ち去るその背から何かが通り過ぎる気配を感じた。

ギリギリで気づけたのだろう。

派手に音が鳴ったが、置いてきたタワーシールドに攻撃が当たったのだろう。


(クソッ!悩んでる暇はない!!)


「召喚、バルムンク!!」


(頼む、来てくれ!!)


必死にスキルを唱え、現れる召喚陣。

ただ、その間も敵の攻撃が止まることがなく、すぐそこまで迫っていた。


(トラベラーか?顔が、般若————)


その顔には般若の面が付けられていて、赤い髪と相まって、その者の怒りを体現しているように見え、そしてどこか物悲しくも感じた。


ヒュンッ


恐ろしい勢いで突き出された槍を、避けるほどの気力もステータスも、俺には持ち合わせていなくて棒立ちのまま————



パリィィン!!



辺りに響くのは聞き覚えのある音。


敵の攻撃を弾き返した、待ち望んだ黒き騎士が、そこに悠然と立っていた。




***



『シズさん』


『交信』をバルムンクに繋ぐ。落ち着いていて、安心感に包まれる声に、張り詰めていた体から力が抜けそうになる。時間にしたらそこまで経っていないというのに、体も心も疲労困憊だ。

何気にデュラハン状態で話すのは初めてだな。そんな場違いなことを、必死に体を支えながら呑気に考えてしまう。


『指示を』


敵はまたも煙幕を使って姿を消してしまう。どこからか狙っている事を考えると、事態は全く油断できないというのに、バルムンクがいただけでどうにかなりそうな気になるから不思議だ。


(どうするか。倒すか?いや、ダメだ。相手は高LVのPKだ。それなりにレベルの高かったシハンとセンを一瞬で倒せるほどの強さだ。それを倒したってことになったら、今度はバルムンクに目をつけられてしまうことになる。それは好ましくはない。なら————)


『Gardenに帰還出来るスキルはあるか?』

『リターンのスキルがあります。直ぐに発動して帰還しますか?』

『そうだな、さっさと帰ると————』


直ぐにリターンを使ってもらおうと指示をしようとして、動きを止める。

土埃も、煙幕も晴れたからだろう。

見てしまった。


それは茶色の指なし革手袋。月の形をしたイヤリング。いかにもな魔女の帽子。見覚えのある望遠鏡。



「あれは————」



『いやー、いい買い物が出来たかな。いい感じの手袋が見つかってよかったよ。効果も筋力のステータスが上がるし、隠密系のスキルもつくから丁度いいしね』


『私はイヤリング。掘り出し物。効果が高いし追加効果が破格』


『私は帽子ですね。ふふ、物語の魔法使いになったみたいですね』


『あー、望遠鏡かぁ。懐かしいなぁ。私もはじめの頃買いましたよね』



「……」


『それではリターンを——』

『ちょっとまった』

『シズさん?』

『バルムンク、2、3分でいい。俺に時間をくれ』

『————ああ、成る程』


周囲を見回して理解してくれたようだ。

察しが良くて助かるな。


『索敵を頼む。敵は何人いる?』

『————1人です。先程の仮面の者です』

『そうか。そいつは遠距離からは弓で大量射撃を、近距離は槍で攻撃してくる。俺を守りながら時間を稼げるか?』

『いえ、守りながらは逆に厳しいかと。この惨状を見るに遠距離からの攻撃は手数が多すぎます。私だけなら大丈夫だと思いますが』


やはりいくらバルムンクでも大量の矢の攻撃を、俺を守りながら全て撃ち落とすなんて出来るわけがないか。


『分かった。じゃあ近接戦に持ち込めるか?』

『はい』


だとしたら、敵に至近距離で張り付いて、弓の攻撃をさせないようにする。それが最善だろう。


『それじゃあ、敵に一気に近づき接近戦に持ち込んでくれ。そして、倒さないように時間を稼いでくれ」

『倒さないようにですか?』

『下手に恨みかったり目を付けられるのも面倒だからさ』

『それもそうですね』

『よし、敵に遠距離攻撃をさせる隙を与えるな』

『分かりました』


バルムンクはそう言うと、緑色に光りに包まれだした。何かのスキルを使ったのだろうか?

すると、俺の体も同じく緑の光に包まれだす。

そして目の前に


『バルムンクがライフシェアリングを使用しました。ライフのシェアを承認しますか?』


という文字が出てきた。直ぐに承認を押す。


『これは?』

『私とシズさんのライフが一緒に計算されます』

『それって俺もバルムンクのHPが得られるということか?』

『ただ、注意点が二つ。一つは私とシズさんのどちらかが攻撃を喰らうと、二人とも同じようにHPが減るということ。そしてもう一つは、ステータスはシェアしないので、シズさんが攻撃を喰らうと大ダメージを喰らうことは変わりません』

『なるほどな、HP管理がシビアになるということと、俺が何度も攻撃を喰らうと、いくらバルムンクの凄まじいHPでも耐え切れないってことだな』

『はい、特に、あの者とシズさんはステータスが違いすぎます。持って4、5発程度だと思ってください』

『分かった。ありがとう』

『いえ、それではご武運を』

『ああ、そっちもね』



さて、さっさと回収するか————




***



赤夜叉は駆ける。獲物を狩るために。



5人の内、4人は始末した。

一人はタワーシールドによって凌ぎ切ったようだが、動き自体は初心者のそれだ。

見た目真っ黒の、あの男をPKするのは何ら問題ない。


一つ懸念することは、先程召喚されたデュラハンだろうか。

自分の攻撃をパリィして見せるあの剣技。

何度か遠距離攻撃で牽制したが、それすらも剣で弾いてしまう。

恐らく近距離戦では分が悪いだろう。


ならば狙いをあの男に絞るだけだ。

遠距離で仕留めるなり、状態異常を与える矢で攻撃すればいい。先程は運よく状態異常にかからなかったみたいだが、もう一度毒やマヒの状態異常の煙玉を使えば、今度こそ状態異常になるはずだ。、

あの男に掠る程度でいい。それだけで終わる。



だというのに、何故目の前にデュラハンが立っているのか。

主を守っているはずの騎士が、どうしてここにいて切りかかってくるのか。



ガキンッ!!



慌てて弓から槍に持ち替えて攻撃を防ぐ。

そして、攻撃を捌きつつ、距離を取ってヒット&アウェイに切り替えようと試みるが、直ぐに距離を詰めてくる。


成る程と思う。

恐らくあちらは、こちらに弓を撃たせると手の打ちようがないのだろう。だから剣の腕でまさっているこの騎士が接近戦を挑んで、弓を撃たせないようにすると。

確かに効果的だ。おかげでこのままでは弓を使うことはほぼ不可能だ。


ならば!!!


赤夜叉は槍を持って駆ける。

獲物を狩るために。


今守りがいない、あの男の元へと————



***


「よし、これで最後————」


急いでユズキの革手袋を回収しようとする


『シズさん、避けてください!!』


「なっ」


目に映るのは槍を持って突っ込んでくる仮面の敵。

回収しようと中途半端な体勢でいたので、避けようと思っても避けれない。


(クッソ、こうなったら——)


左腕に付けていたスモールシールドを構える。

頭に思い浮かべるのはバルムンクのあの動き。

無駄のない動きで敵の攻撃を弾くあのスキル。


『モデリングが発動しました。パリィが習得可能です。1ポイントを使い習得しますか?』


「はいぃぃぃぃぃぃぃ!!!」


出てきたコマンドに叫んで返事をしながら、こちらに伸びてくる槍に向かって左手の盾を動かす。

途中から動きが自然に動くようになって、流れに身を任せる。



パリィン!!



聞きなれた音だ。敵の槍は俺から逸れた場所を突き刺している。

こちらが弾くことが予想外だったのだろう。

敵の動きが止まっている。


『お見事!』


そしてすぐにバルムンクが間に入り、剣劇を浴びせていく。

俺はその内にユズキの革手袋を回収する。


『よくもたせてくれた、バルムンク!回収終わったぞ!』

『少しだけ待ってください。転移のスキルが発動する際に無防備になってしまうので、この者をある程度動けなくしてから転移します!』

『大丈夫だ。その内動けなくなる!』

『え?』


すると俺の言葉通り、仮面の敵は体勢を崩し、膝をついた。


『これは……』

『アノス道具店でもらった道具だ!今のうちに!』

『はい!』


戻ってきたバルムンクが転移のスキルを使用する。

魔法陣が出てきて、どんどん光が周囲を包んでいく。

ふと、仮面の敵を見ると、膝をついた体勢から動かず、こちらをずっと見ていた。

離れているというのに、目が合っているという感覚がある。


襲われたときに、この敵から感じていた怒りを、もう感じることはない。

ただただこちらを静かに見ている。


な、なにか言った方がいいのだろうか。


「じ、じゃあ、またな」


そんな言葉しか出てこない。

手をぎこちなく振って、その場からあっという間にいなくなった。



***


「ウゥゥゥゥゥゥ」


赤夜叉は見つめる。


あの特異な男を。

初心者であるはずなのに、槍をパリィしてみせたあの男を。

異常な強さのデュラハンを従え、その動きを真似したあの男を。


あれだけの目にあいながら、それでも「またな」と口にしたあの男を。


転移で飛び去った後も、赤夜叉はただただ見つめ続けた。


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