急襲
「おーい、連れて来たよー、ってなんでまだバルムンク呼んでないの?」
「すまん!バルムンク不在で何とか頼む!」
「はぁ?何で急に?」
「中の人が来てないんだよ!!」
「中の人って何!?」
***
「ふぅ、よし。これで最後かな」
「だと思います」
「いやー、何とかなったね。お疲れー」
「おつー」
あれからモンスター相手に何度か戦闘を繰り返していた。
約一名だけ使い物にならなかったことを除けば、まぁ上手くいった方だろう。
シハンとセンは流石の立ち回りだった。
シハンは敵を引き寄せ、後衛にモンスターが来ないようにスキルを使いつつ立ち回っていた。
センは周囲の敵を殲滅して、シハンが目の前の敵に集中できるようにしていた。
ユズキもイインチョーも特にミスなく活躍していた。ユズキがシハンが引き付けた敵を始末して、イインチョーは攻撃を受けたシハンとユズキを適宜回復していた。最初こそ緊張していたイインチョーだが、いざ戦闘になると冷静に流れを読んで、自分の役割を全うしていた。
敵を引き付ける役割のシハン、各個撃破を狙うユズキ、範囲魔法を使うセン、回復魔法を使うイインチョー。実にバランスのいいパーティだ。これから戦闘をこなすことで無駄がなくなり、連携もスムーズになってくる事だろう。
「いやぁ、シズにぃがいきなり『バルムンクの中の人がいない』って言いだしたときは何事かと思ったけどね」
「ほっといてくれ」
「バルムンクの中の人なんているの?」
(妖艶なサキュバスの姉さんが中の人をしています、なんて言えるわけない。信じてもらえないだろうし)
「しかも来てくれないなんてさ。何か嫌われることしたの?」
(バッチリ裸見てしまったからな。あれが原因かねぇ。これも言えないな)
「シズにぃがネタ要因、珍しい」
「こら、センちゃん。シズ君が傷つきますよ」
「......」
もういい、俺はもうひたすら望遠鏡を楽しむとしよう。
「……はぁ、シズも一応魔法で補助してくれたんだし、そろそろからかうのは終わりにしよ。シズもパーティーでの戦闘経験が出来たから良かったでしょ。そろそろ機嫌直してよ」
「何を言うんだ。まるで俺が機嫌悪いみたじゃないか」
「そう言うんならそろそろ望遠鏡覗くのやめてこっち見て話してくれないかな」
「......はぁ」
まぁ、いつまでもふてくされていたって仕方がない。一度Gardenに戻って話さないといけないな。
「それでどう?3人ともレベルあがった?」
シハンは笑いを隠さず聞いてくる。さっぱりとした性格はいつも見ていて気持ちのいいものだが、今回に限ってはこちらの傷を抉るだけでしかない。
「私は冒険者が10になったね」
「私もプリーストが10です」
「......俺はサモナーと代理人が両方とも7だな」
今の戦闘でようやくレベルが2あがった。やはりサブ職をつけてないユズキとイインチョーは俺よりもレベルが上がるのが早い。心強いことだ。
「新しいスキル増えてる?」
センは俺たちが新しく習得できるスキルに興味があるようだ。
「あ、増えてる。チャレンジャーってスキルがふえてるよ!」
「私もです、キュアですね!」
「俺のは、モデリングってスキルだな」
3人ともそれぞれに習得できるスキルがあるようだ。とりあえず1ずつスキルポイントを割り振って習得していく。
「イインチョーのスキルは私もしってるよ。状態異常を直してくれるんだよ」
「あ、それは助かりますね」
先程の戦闘では、ゴブリンに混じっていたキャップゴブリンにシハンが毒を貰ってしまったので、それのことも念頭にいれてるんだろうな。
「最初は毒だけ回復。スキルレベルあげると回復できる状態異常が増えていく」
「あ、そうなんですか?なら早めにスキルレベルあげた方がいいんですか?」
「うーん、悩みどころなんだよね。あとでサークルキュアってスキルを覚えるんだよね。そっちを上げたほうがいいかも」
「へえ、似たようなスキルなんですね。何か違いがあるんですか?」
「サークルキュアは同時に複数の対象を回復できる。そのぶん消費MPが思い。必要なスキルポイントも多い」
「まぁ、習得できるのは大分後だし気にしないでいいと思うよ。キュアのスキルレベルも必要に応じて習得すればいいよ」
「分かりました」
プリーストであるイインチョーは仲間の状態を出きるだけ正常にして被害を少なくする必要がある。ヒールもキュアも今は単体にしか効果はないが、今後スキルが増えていけば、パーティーの安心感が増すことだろう。
「さて、次は私だね。『チャレンジャー』の効果は『残りMP量に応じて筋力が上昇する』ってあるよ」
「予想していたけど、ユズキねぇはどんどん脳筋になっていくね......」
「最終的に一撃の威力がひどい事になりそう」
「私としては何も考えずに思いっきりぶったぎればいいから、凄いスカッてするよ」
「ユズキさんらしい勢いのあるジョブですね」
「えへへ、これからも楽しみだよ。最終的にボスも一発で倒せるように慣れるかもしれないね」
確かに攻撃は凄い事になりそうだが、同時に物凄く立回りに気を使うジョブだと思う。何しろ敵の攻撃が一発でも当たれば瀕死なんだから。周りがサポートして環境を整えることでより一層輝くジョブなんだと思う。
そしてそれはユズキも理解しているんだろう。だから今回も色々立ち回りを試していたのだろうしな。
「んじゃ、最後はシズにぃだよ」
「はいはい、えーとだな、『契約した対象のスキルを真似して学習する』、だそうだ」
つまりどういうことだ?俺が真似をするのか?それに一体何の意味が?何で俺のスキルは漠然としか説明書かれてないんだ。
「多分ラーニング系のスキル」
「ラーニング?」
「多分バルムンクのスキルを覚えれるようになるんだと思う」
なんだそれは。それが本当なら、サモナーのスキルはおかしくないか?つまりバルムンクが使っていた『死の恐怖』等のスキルがつかえれるようになるということだろう。明らかに調整ミスだ。序盤に取得できるスキルじゃないだろうに。
って、普通に考えれば序盤に仲間に出来るモンスターなんてゴブリンやらファニーラビット辺りなんだ。それらのスキルが得られると考えれば普通のスキルではあるのか。
ただ俺はGardenでバルムンクと契約をしたから、序盤から色々おかしくなってるだけなんだ。
とはいえ、何かしら制限もあるのだろうな。何しろあのバルムンクのスキルだ。消費MPがアホみたいに高かったりするかもしれない。
「いやぁ、シズにぃも大概チートだよね」
「最初からバルムンクとかおかしい」
ま、シハンとセンの言いたいことも分からなくもないんだが。
「まぁ、でもそれがリヴィエラの良いところなのかもね」
「最初から予測不能」
「そうなのか?」
「うん、そうだよ。トラベラーは同じジョブについてる人は何人もいるけど、同じ方法でジョブを得ているトラベラーは少ないからね」
「運が良ければ最初からチートスタートも可能。ただ、それが続くのも最初の内だけ」
「最初の内だけって言うのは?」
「チートに胡坐をかけばスキルを鍛えた他のプレイヤーに抜かれる。進行事態で誰でもチートになれる可能性がある。プレイスタイルは無限」
「ほら、このゲームってスキルのレベルを上げれるでしょ。それによってもゲームの難易度も変わってくるし、運よく壊れ性能の武器を手に入れる可能性だってあるんだよ。パーティーの組み合わせや連携によっても強さは変わってくるし、まだ発見されてないジョブもあるかもしれない。それにジョブも複数育てることが出来るわけだし。だから強い事を追求しようとするときりがないんだよね」
成る程なぁ。俺は運よく序盤にバルムンクと契約できたけど、研鑽を怠ったら簡単に追い抜かれるってことなんだろう。っていうか、何年も流行っているゲームを始めたばかりの俺からすれば、既に追い抜かれていると言えるわけだ。まあ、強さはそこまで重要でもないからな、俺にとっては。
それよりも、契約した相手のスキルを手に入れることが出来るとすれば、マザーのあのアッパーも使えることが出来る日が来るかもしれないということだ。これは楽しみだ。あの時は俺が吹っ飛ばされたわけだが、あの勢いでモンスターを吹っ飛ばせたらさぞ気持ちのいい事だろう。
***
戦闘も終わり、スキルも増えたことで、完全に気が緩んでいたんだ。
だから気づけなかった。
自分達の立っている場所がいつの間にか薄暗くなっていたことに。
最初に気づいたのはセンだった。
「!?皆っ、逃げ————」
そこで彼女の声はかき消された。
無数に降ってきた弓矢によって、それが着弾する轟音によって。
俺らが気づいたのは既に数百もの矢が放たれた後だった。
そして、矢は今も放たれ続ける————




