アノス道具店
「さて、次はアノス道具店だね」
「わかった」
そう言ってどんどんシハンが先導していく。俺が買い物している最中、ユズキ達も各自で買い物を楽しんでいるようだった。流石女性陣、アクセサリー類に興味があるようで、それぞれの戦果を自慢し合っていた。
「いやー、いい買い物が出来たかな。いい感じの手袋が見つかってよかったよ。効果も筋力のステータスが上がるし、隠密系のスキルもつくから丁度いいしね」
ユズキが買ったのは茶色の指なし革手袋のようだ。簡素なデザインだが肌触りがよく、腕にもフィットするので気に入っているようだ。おまけに自分にあっているスキルが付与されているんだ。そりゃ気に入るだろうな。
「私はイヤリング。掘り出し物。効果が高いし追加効果が破格」
センが手にしているのは知力のステータスが上がる月の形をしたイヤリングだ。どうやらMP自動回復が付与されていたらしく、相当レア物のようだ。かなり高かったらしいが、古参プレイヤーであるセンにはそこまで高くないらしく、普通に買っていた。
「私は帽子ですね。ふふ、物語の魔法使いになったみたいですね」
イインチョーが手にしているのは、いかにもな魔女の帽子だ。特に効果はないようだが、精神のステータスはアップするようで、回復魔法の効果が上がるようだ。本人も気に入っているようだからいいだろう。
「シハンは自分の買い物しなくて良いのか?」
「うん、別にいいよ。私は前にログインした時に買ってるから」
「そうか」
まあ、気にする必要はなかったみたいだな。シハンも古参プレイヤーなのだからこちらがあれこれ言う必要もないか。折角あれこれ紹介してくれてるんだし、おとなしくついて行くことにしよう。
「さて、ここだよ」
案内されて来たのは中央通りから少し東に離れた場所にある店だ。アノス道具店と看板が出てる意外は普通の建物だ。
「アノスさーん、こんにちはー。お客さん連れて来たよー」
そう言いながら入っていくシハンに続いて、俺も入っていく。
「おお、シハンさん。お久しぶりだね」
出迎えてくれたのは実に人当たりの良さそうな店主だった。
「今日はお客さん連れて来たんだ。シズにぃ、こちらアノスさん」
「どうも。私、アノスといいます。道具屋を細々と営んでいます」
「どうも、シズっていいます。よろしくお願いします」
自己紹介をして、周囲を見回す。幾つか棚が置かれており、その棚には道具がいくつも並べられている。
「すごい数ですね」
「シズにぃ、この棚に置かれてある道具全部、アノスさんが作った物なんだよ」
「へぇ、この量をか、すごいな」
並べられた道具は様々な種類があり、それら全部を作っているということだから、相当な技量があるんだろうな。
「いやいや、元々道具作りが趣味でね、気づいたらいつの間にかこんなに出来てただけなんだよ」
そう言いながら照れくさそうに笑っている。
「それでさ、アノスさん。シズにぃが使えるような、初心者用の道具はどんなのがある?」
「そうだね、シズさんがどのような戦い方をするのかにもよるけど、とりあえずはポーションじゃないかな」
そう言いながら机に置くのは青い水の入ったガラスの試験管だ。飲むときは入り口に積めてあるコルクを外して使うのだろう。
「そうだね。やっぱり必需品だもんね。一応3つぐらい買っておこうかな。一本100Gだったよね?」
「うん、そうだよ。使い終わったら試験管を私のところに持って来てくれたら、また100Gで入れ直すよ」
「あ、はい。分かりました」
シハンがどんどん先に進めてしまうので、ついていくのに必死だったが、アノスさんが丁寧に説明を加えてくれるので、すごく助かった。
「えっと、後シズにぃのお財布には700Gあるから、何か戦闘のサポートが出来るようなアイテムがないかな」
「700Gか。そうだねぇ、店にあるやつだと、後はこれなんかどうかな。直接戦闘には関わりはないけど、割と重宝するよ」
机に置かれたのは望遠鏡だ。ってかこれも自作なのか、凄い技術だな。
「あー、望遠鏡かぁ。懐かしいなぁ。私もはじめの頃買いましたよね」
「そうだったね。あの頃から贔屓にしてもらって、助かってるよ」
思い出話で盛り上がっている二人にはわるいが、正直ゲームでのアイテムで余り馴染みのない望遠鏡を出されて戸惑っている。
「ゲームで望遠鏡かぁ」
「うん、色々使うんだよ。モンスターと戦うときにある程度離れた所から先制をする必要があるし、銃や遠距離魔法で戦う人がいる時はサポートとしても必要なんだ。他にもPK対策だったり、モンスターの素材を効率よく集める時にモンスターを探すのにも便利なんだよ」
「成る程な。確かに事前に情報を集めるのは大事だな」
「うん。あんまり使ってる人は少ないんだけどね。アノスさんの店しか売ってないし」
「そうなのか?」
「うん、道具を自作している人って余りいないんだよね。ポーションとかは多いんだけど、余り戦闘に使うことのない望遠鏡なんかは利用されないんだよね」
成る程な。確かに前に出て戦っているときは望遠鏡使ってる暇はないだろうしな。ポーションのような効果の分かりやすい道具でもないから、人気は低いのだろうな。
「シズにぃはどうする?ポーションだけでも別にいいけど」
「いや、せっかく教えてくれたんだ。買うよ」
「まいど。500Gになるよ」
合計800Gを渡してポーションと望遠鏡を回収していく。アイテムに触れると、回収のコマンドが出るので、それを押すとメニューにあるアイテムに入れられていく。
「戦闘の時に一々アイテムを開いて取り出すのも面倒だから、ショートカットに登録しておくといいよ」
「へぇ、ショートカットか。分かった」
説明を受けながらアイテムのポーションにショートカットの登録をしていく。
戦闘の際は、ショートカットに登録したアイテムを言うだけでアイテムが出てくるのだそうだ。
「うーん、でも200G余っちゃったね。どうする?ポーションを後2つ買っておく?」
「いや、別に使いきらなくてもいいだろう。貯めておいて別のアイテムを買えば良いじゃないか」
「いや、まぁシズにぃがそれでいいんなら別にいいよ」
何が問題なんだ?ってそういやシハンは余り貯金をしないやつだったな。村の駄菓子屋でもお小遣いを全部使ってしまっていた。
「いや、シズにぃ。一応私も今は貯金するようにはなったんだよ」
「そうなのか?」
「あのねぇ、私ももう中3だよ。ちゃんと貯めておくぐらいの事はするっての」
「はは、悪い悪い。つい、昔の事を思いだしてしまってな」
「もう、いい加減子供扱いは恥ずかしいからやめてね」
「分かった。善処するよ」
「はぁ」
確かにもうシハンもセンも中3だ。複雑な年頃なんだし、子供扱いに思うところがあるのだろう。なるべく気を付けるようにするか。
俺とシハンが話してる間、いつの間にかアノスさんは倉庫に行っていたようで、小さ目な箱を持って戻ってきた。
「アノスさん、その箱は?」
「実はね、僕が作った物なんだけど、売れ残っちゃってね。シズさんさえ良かったら200Gでサービスしておくよ」
流石商人、ちゃっかりしている。処理に困った売れ残り商品を押し付けようとしているんだろうけど、それでも金とるんだから。
「どんなものなんです?」
そう聞くと箱を開けてくれた。中には丸い団子状の包みが5つ入ってある。
「これはね、対象に投げつけると煙がでて、煙を吸い込んだ対象を状態異常に出来るんだ。ただね」
「ただ?」
シハンはまだ気づいていないようだけど、俺は何となく察した。
「吸い込んだ対象がモンスターだけでなく仲間も巻き込んでしまうんですね?」
「まぁ、うん」
「状態異常の種類は?」
「とりあえずそこにあるのは全部マヒだね。他にも色々な状態異常の物を作ってみたんだけど、全て大惨事を引き起こしてしまっちゃってね」
そんなことだろうと思った。大方戦ってる最中にモンスターに投げつけたんだろう。そこでモンスターが状態異常になったまでは良かったが、仲間も一斉に状態異常になったものだから、大惨事になったんだろうな。
「まぁ、今も色々と改善のしているから、完成したらお金貯めてそっちを買ってくれれば良いんだけど、せっかく作ったから何かしら用途がないか検討中でね。サービスってことで5個で200にしておくから、冒険で色々試してくれないかな」
成る程。実験もかねてか。商魂たくましいな。
「はぁ、分かりました。色々試して見ますよ」
「お、本当かい。助かるよ」
そして、状態異常の玉5つをしまって、200Gを渡してから、アノス道具店を後にした。
「毎度ありー♪」




