鍛冶師クウネル
「買い物か」
「そ、私はセンやシハンに教えてもらったから結構アイテムと武器を揃えたけど、シズはまだでしょう?」
「ああ、そうだな。行くか」
Gardenでのんびり紅茶を楽しんでいると、ユズキがログインして来た。そして、ショッピングに出かけないかと提案してきた。
今考えるとリヴィエラに来てから未だに買い物していなかった。当然装備も初期武器。アイテムは0だ。ゴブリンを倒してから金は多少溜まったのだが、今のままでも十分だったので、装備を買い揃える必要性を感じていなかったのだ。
「なになに、シズにぃとユズキねぇは買い物に行くの?」
「ついて行く」
「私も一緒に行っていいですか?」
今回はシハンとセンとイインチョーもログインしていたので、一緒に買い物に出かけることにした。
ユグドラの中央にある噴水広場に着くと、いくつか出店が出ていた。
「そう言えばシズにぃは今回なに買うの?」
「とりあえず防具かな。後はアイテムにしようかなって思ってる」
「そっかそっか、んじゃあっちかな」
そう言ってシハンが先導してくれる。
今回俺が買おうと思ってるのは防具だ。武器も捨てがたかったんだが、正直攻撃はバルムンク任せだし、俺は攻撃をある程度くらっても耐えれるぐらいの堅さがあれば十分だ。
後は戦闘のサポートができるアイテムだろう。自分で出来る事にも限りがあるから、アイテムでカバーする事にした。
それをシハンに伝えると、
「それじゃあアイテムはアノス道具店だね。あそこは種類も豊富で安いからさ。防具を先に買って、残ったお金でアイテムを買おっか」
そう言って店の候補を上げてくれる。
俺よりも長くリヴィエラを楽しんでいるからか、店の良し悪しも分かるのだろう。経験者に任せるとするか。
「分かった。助かるよ」
「えへへ、任せてよ。っと、ここだね」
そう言ってテントの前で立ち止まった。
外から見た感じ、実に多種多様の装備が飾られている。剣や槍、刀に杖、ボウガンなどの遠距離用の装備もある。盾や鎧などの防具も充実しているみたいだ。
シハンは気軽な感じに入っていく。他のメンバーは外で待っているようだ。
「クウネルさん、こんにちはー」
「やあやあ、戦姫さんじゃないかぁ。久しぶりだねぇ」
「もう、いつまでそれ言ってるのさぁ。今日はお客さんだよ」
「はは、これは失礼。今日は何をご所望で?」
「今日は私じゃなくて、一緒に来た兄ちゃんに初心者用の防具を揃えてほしいんだよね」
そう言って俺の方を向く。クウネルと呼ばれた男性もそれにつられて俺の方を向いてくる。
自己紹介しとくか。
「どうも、シズです。最近リヴィエラ始めました。どんな装備がいいのか分からないんで、教えてくれるとありがたいです」
「これはご丁寧にどうも。私はクウネルと申します。鍛冶師をやってます。今後とも御贔屓に」
終始ニコニコと笑顔を張り付けているのは商人だからだろうか。
「シズにぃ、この人はクウネルさん。かなりの古参プレイヤーで、商人プレイを楽しんでる人だよ。ふざけているように見えるけど、鍛冶の腕は確かだよ」
「んっふっふ、ひどいなぁシハンさん。私は別にふざけてはいませんよ。ま、鍛冶の腕を信用していただけるのは素直に有り難いですがね」
そう言いながら棚からいくつかサイズの違う盾を取り出す。そして机の上においてこちらを見てくる。
「さて、シズさんは初心者さんですよね」
「はい」
「戦いはもう経験されました?」
「そうですね、何度かは」
「そうですか。因みにシズさんは後衛ですか」
「そうです」
「敵からの攻撃はどうしてました?」
「攻撃ですか?杖で受けるような感じでしょうか」
「ふむふむ、成る程」
そう言ってどんどん盾を取り出しては元の場所に戻し、また別の盾を出していく。
「さて、話を聞いた限りではこの二つですかね」
そう言って机に置かれたのは二種類の盾だ。
一つは小型で円形の盾。腕に取り付けるタイプの盾のようだ。
もう一つはかなり大きいサイズの盾だ。完全に前は隠れてしまうほどの大きさだ。
「一つはスモールシールドですね。腕に取り付けて、敵からの攻撃を受け流すように使う盾です。軽いし動きやすいので扱いやすいですけど、あくまで攻撃を受け流すことに特化しているような設計なんで、多少扱いに慣れがいります」
そう言って小さい方の盾の説明を初心者でも分かりやすく教えてくれる。
「次にタワーシルドですか。こちらは完全に防御特化型ですね。構えているだけで正面からの攻撃をある程度防いでくれますが、立ち回りを気を付けないと囲まれたら背後からの攻撃は防ぎきれないです。」
今度は大きい方の盾の説明だ。どちらも一長一短あるようで、どちらがいいか悩むところだ。
「あとシズさんは戦士職じゃないので扱いは大変だと思います。スモールの方だったら杖を持って戦えますけど、タワーだったら両手で持って攻撃に耐えるような形になるでしょうねぇ。まあパーティーで戦うんだったらそれもありだとは思いますけど、魔法での補助はしづらいと思います」
ふむ、盾と言っても色々あるようで、自分の戦い方に合わせて選んだ方がいいようだ。
俺の場合はバルムンクを読んだ後は戦闘補助で魔法を使うような形だからな。まあタワーシルドで守って敵を引き付けている間にユズキに倒してもらうって形でもいいんだが。今後便利なスキルが増えていくであろうことを考えると、魔法での補助も多くしていくことになるし、広く視野を保っておきたい。となるとタワーよりもスモールってことになるんだろうな。
「今の説明を受けてる感じでは、スモールかなとは思ってるんですけど」
「そうですね。それが無難だとは思います。まあ、二種類とも持っていて、場合によって使い分けるのも手だと思います。せっかくですので、セットでサービスしておきますよ。色々試してみてくださいな」
「商売上手ですね」
「ええ、まあ。折角の新規さんです。色々楽しんでもらいたいじゃないですか」
「ありがとうございます。それじゃあシールド二つをお願いします」
「毎度ありー」
セットで1000Gだった。ゴブリンを倒したことで俺の資金は合計で2000Gあったので、残りで戦闘補助用のアイテムを買うことにする。
「それじゃあクウネルさん、またねー」
「今日はありがとうございました。また利用させてもらいます」
「へへ、毎度どうも。今後とも御贔屓にー」
挨拶をしてクウネルさんのテントを出る。実にいい買い物だった。それに良い出会いだった。それを提供してくれたシハンにも感謝を伝えておく。
「ありがとうな、シハン。いい買い物だった。いい人だったな」
「あはは、それは良かった。面白い人だったでしょ?」
「ああ、本当、商人プレイを楽しんでいるのがよく分かるよ」
「うん、損得勘定を無視してやってるからね。完全趣味人だと思うよ。あれでも凄い鍛冶師なんだよ」
「そうなんだ」
そうやって話しながら次の店に行く。
それが『気まぐれ鍛冶師』、またの名をを『マルチウェポン』と呼ばれる凄腕プレイヤー、クウネルとの初めての出会いだった。




