イベントモンスター?
「お、いるいる!」
「今日はシズにぃもインしてたんだ」
「……おひさ」
「シズさん、こんにちは」
Gardenで婆さんと話していると入り口からユズキとシハンとセンとイインチョーが入ってくる。
今日は勢ぞろいのようだ。
「おう、久しぶり。皆で何処か行っていたのか?」
「うん、私とイインチョーのLV上げに行ってたの。シハンとセンにも付き合ってもらちゃった」
「いやぁ、今までセンと二人だったからさ。連携に慣れてなくて大変だったよ」
「……色々勉強になった」
「ふふ、二人ともありがとうね」
どうやらイインチョーも慣れてくれたようだ。
話し方が大分柔らかくなっている。
「そうそう、シズにぃ聞いた?珍しいモンスターが出たんだって」
「ん?そうなのか?」
「うん、情報屋から情報を貰ったんだけどね。どうも夜中に現れるんだって」
「へぇ情報屋とかいるんだな」
「そうだよ。お金かかるんだけどね。それで、町を出た平原で襲われたらしいよ」
「そうなんだ。ちなみに、襲われた人は?」
「被害にあったのは八咫烏ってギルドだよ。悪い方面で有名なんだけどね。それなりの実力があるしギルドメンバーも同時にやられたらしいからイベントモンスターなんじゃないかって噂がたってるの」
「へぇ、そうなんだ。でもあの平原って初心者用のフィールドだろ?そんなモンスターがでるもんなのか?」
「ま、嫌われ者のギルドの言う事だから信じている人は少ないんだけど、もしかしたらいるのかもね」
「ふーん」
まあ、マナーが悪ければ嫌われもするだろうし、そんなことが続けば信用もされないか。
シハンとセンは俺たちよりもリヴィエラを長くやっているから、そういう噂や情報を集める行為を重要視しているんだろう。
そして、今回信用できる情報屋を初心者の二人に紹介してたんだろうな。
「でも情報屋って儲かるのか?攻略とか情報はネットでも出てるだろう」
「……だから情報屋が取り扱っているのは新鮮な情報。新しい情報をできるだけ早く。それがモットー」
「へぇ。そりゃ凄いな。情報網も凄そうだ」
「……うん、知り合いの情報屋も顔が広い」
「やっぱりか」
まあそうだろうな。そうでなければ情報を集めるのも一苦労だろうしな。
「そんな事よりも、今はモンスターだよシズにぃ!噂じゃそのモンスター、変身できるらしいよ」
「変身?」
「うん、やられた八咫の証言だと、倒した人物の姿に変わったんだって。ギルマスの八咫だけじゃなくて、他のメンバーも見たって言ってるから間違いないよ」
「そんなモンスターもいるんだな」
「いや、普通はいないから!そんなモンスター初めて聞いたよ」
「おお、それなら珍しいモンスターじゃないか。探して来たらどうだ?」
「もう探したよ!ユズキねぇとイインチョーのLV上げついでに探したんだけど出てこなかったの」
「まあそりゃ、そんなに強いモンスターが頻繁に平原に出てきたら大変だわな」
明らかに設定ミスだ。バグだと騒ぐものも出てくるだろう。風邪で店を閉めてたらバグだと騒ぐ者もいるんだ。理不尽なモンスター相手にバグだと騒ぐ者も出てくるだろう。
「やっぱりイベントのモンスターなんじゃないか?」
「うん、そう思ったんだ。だから皆で発生条件を考えようと思うんだ」
「発生条件?」
「そう、発生条件。イベントのモンスターならそのモンスターはイベントの発生条件をクリアすれば出てくると思うんだよね。他のプレイヤーもその発生条件を探してるみたいだよ」
「ふーん。と言っても俺は余り力になれないと思うぞ?ゲームに詳しくないからさ」
「いやいや、何も答えを見つけようってわけじゃないんだから、真面目に考えなくていいよ。いつもお世話になっている情報屋に協力してくれって頼まれたから、折角だし皆で考えようかなって思っただけだから」
「分かった。それくらいでいいんなら、協力するよ」
新しい情報だから皆楽しみなんだろう。どんなモンスターでどんなストーリーなのか、どうやって攻略するのか、どんな素材を落とすのか。未知の事に皆ワクワクしているんだろう。
皆楽しそうだ。ユズキ達も、そして婆さんまで笑顔だ。
ユズキが紙を出してそれに情報を書いていく。
「じゃあとりあえず今出ている情報を共有しようか。一つは町を出た平原で襲われたってこと。夜中だったらしいよ」
「二つ目は倒した人物に変身できるってことだよね。今まで聞いたこともないスキルだから、八咫烏の勘違いかもしれないけどね」
「……三つ目。やられたのは八咫烏のメンバー14人。それなりの手練れが全滅」
「4つ目は武器ですね。剣で切られた人もいたようですし、5つの爪跡があった人もいたようです」
俺が見ている前でどんどん情報が揃っていく。
さて、難しいのはこれからだ。これらの情報を吟味したうえで、発生条件を見つけろって言うんだから大変だ。
書き終えたユズキが顔を上げて質問や気づいた事はないか聞いてくる。
手を挙げたのはイインチョーだ。
「まず私から質問なんですけど、モンスターって1体なんでしょうか。」
「ああ、剣で切られた人と、5つの爪痕の事?」
「はい、モンスターが2体いて、それぞれ異なる攻撃手段なんじゃないかと思うんですが」
「……シハン、情報屋はなんて言ってる?」
「うん、その連中は1体しか見ていないらしいよ」
どうやらシハンは知り合いの情報屋と適宜連絡を取り合っているらしい。
そして確認できたモンスターは1体か。これは八咫烏の証言でしかないから、もしかしたら2体いた可能性もあるな。
次に手を挙げたのはシハンだ。
「私が気になったのは変身したってことだね。スキルなのかそのモンスターの特性なのか知らないけど、常時姿が変わっているんであれば見つけようがないんだよね。噂だとドッペルゲンガーなんじゃないかって噂もあるんだけどさ」
「そういったモンスターは今まで確認されてたんですか?」
「……今まで確認されていない。イベントでも出てきていない。モンスターの種族としても全く情報がない」
「そうなんだよねー。おまけに敵の情報を見れるスキルも通用しなかったらしいからさ、手の打ちようがないんだよね。情報も得ようがないからさー」
まあモンスターの特性かスキルかは分からないが、姿が変わっていて、それを見つけられるスキルがないんじゃ手の打ちようがない。
次に手を挙げたのはセンだった。
「……私が気になるのは人数。八咫烏は14人でいたから、ひょっとしたらレイドボスかも」
「レイドボス?」
「……レイドボスは大人数で挑む戦闘の事。パーティ数最大5名。それがいくつも集まって戦う。私が知っているのだと25人のレイドだった。5パーティ分」
「ああ、あれね。面倒だったよねぇ。自分勝手な連中が多かったからさ。作戦を全く守らないんだもん」
「へぇ」
「まあでもレイドボスはないんじゃない。だって神出鬼没じゃ準備のしようがないんだから」
「……だから決められた人数を超えていることが条件かも」
「うーん、どうだろ」
シハンはどうもこの意見には否定的のようだ。
まあ俺は今レイドという言葉を聞いたばかりだから何とも言いようがないが。イインチョーも一緒みたいだ。二人の話を聞いたり、質問したりしている。
相変わらず真面目だな、イインチョー。
「後はシズにぃとユズキねぇだね。何か意見ある?」
「私が気になるのは好感度ね」
「好感度?」
「うん、その人たち、迷惑行為とかしていたんでしょ。だったら町の人たちの好感度が低いと思うのよね」
「それが条件ってこと?」
「多分その人たち、その日何かしたんじゃない?好感度が下がるような迷惑行為を。それで、その条件に引っかかって、そのモンスターが出て来たとか」
「あーそっか、そういう考え方もあるか」
シハンは予想していなかった意見に目を光らせている。
そもそも噂でしかない住民の好感度システム。これがあるのかどうかは分からないが、あるのであれば、条件としても成り立つことになるな。流石に目の付け所が違うな。
「……シズにぃは?」
「俺が気になるのは、八咫烏はその場所で何をしていたのかってことだな」
「どういう事?」
「確認だけど、今までそんなモンスターは出てこなかったんだな?」
「うん、そうだよ」
「八咫烏がそのモンスターに出会ったのは意図したわけではないわけだな」
「……そうみたい」
「じゃあユズキの言ったように町で何かして、そのまま平原に行ったんだろう。気になるのはなんで拠点に帰らなかったのかなってことだ」
「……あ」
「普通だったら見つからないようにギルドの拠点に帰ると思うんだよな。」
「それはそうだね」
「何で平原にいたんだろう。拠点に帰ればいいだけなのにさ。モンスターに会うためにいたわけでもないし、そもそもあの場所は初心者のフィールドだ。大した素材も経験値も手に入らない場所に、わざわざ夜中にいる理由って何なんだろうな」
俺が気になったのはせいぜいそんなものだ。
シハンが何かに気づいたように言う。
「運営の仕業かな」
「どうだろうな。運営が迷惑行為に対してプレイヤーを殺して、それで解決になるか?」
「……ならない」
「そもそもそんな事してたらゲームにならないよ」
「ですね。悪事を裁くためとはいえ過激すぎだと思います」
「だよねぇ」
中々難しいものだ。
だが所詮高校生の推理だ。こんなものだろう。
「もしかしたら情報屋が何か掴んでるかもしれないぞ。聞いてみたらどうだ?」
「そうだね。これ以上考えても出てこなさそうだし、気分転換に情報屋の所に行ってくるかな」
「……私も」
「私も早く場所に慣れるために一緒に行きますね」
「んじゃ私は待ってるね」
「俺ももう少し考えてみる」
「何かあったら連絡してねぇ」
「ああ、わかった」
そういってシハンとセン、イインチョーは情報屋の所に向かった。
***
Gaedenに残ったのは俺とユズキ、あと台所で婆さんが笑顔で料理している。
しれっと話し合いの時もハーブティーを出してくれていた。
のんびりハーブティーを楽しんでいると、ユズキがこちらを見ているのに気づく。
「何か聞きたい事でもあるのか?」
「うん。ねえ、シズはさ。モンスターの仕業だと思う?」
「思わない」
「何で?」
「今回初めてのモンスターというのが気にかかる」
「それはリヴィエラが発売されて、何年もたってるからだよね」
「そうだな。それまで迷惑行為をしているしている人はいただろうから、今回初めてそんなモンスターが確認されるというのはおかしいと思う。もっと噂されててもいいはずだ」
「運営の話はどう思った?」
「俺は運営の話は別に否定はしていない」
「どうして?」
「もしかすると八咫烏はギルドホームに戻れなかったのかもしれない。だから、そんなことが出来るのは運営ぐらいしかいない」
「まあそうだよね。あの平原にいたってどう考えてもおかしいもんね」
「ああ、だけど彼らをPKしたのは運営じゃないと思う」
「殺す必要がないから?」
「ああ、仮に運営であれば注意をすればいいし、ペナルティを与えてもいい」
「じゃあ今回は誰の仕業だと思う?」
「NPCじゃないのか」
「やっぱり?じゃあ八咫烏がやった迷惑行為ってなんだと思う?」
「窃盗だろうな」
「うん、やっぱり私と一緒の事考えてたね」
「ユズキの言った好感度もありだとは思うんだがな」
「まあでもプレイヤーを殺すってなるとね。目的は殺した際に出るアイテムかな、やっぱり」
「だろうな。って考えると、後は店をしらみつぶしに調べて行けば、一件落着だろうな」
「そうだろうね」
随分話していたと思う。正直話す中で気づいた事も多々あるが、まあ納得のいく結論にたどり着けたから良しとしよう。外れている可能性だってあるのだから。
後はゆっくり、シハンたちの帰りを待って、答え合わせをしていけばいい。
***
「そういえば久しぶりだな」
「……え?」
「いや、こういうのってさ。昔ユズキの親父さんに出された『ウミガメのスープ』を思い出すよ」
「……覚えてたんだ」
「そりゃ覚えてるだろ。俺、あれ割と好きだったからさ。今でも本を買ってるんだ」
「そ、そうなんだ」
「またやらないか。ユズキが暇な時でいいからさ」
「……うん!」




