ネズミ狩り
「さて、着いたな」
『アノス道具店ですか』
「うむ、どうも盗みを働いた者たちがいるようだ」
『以前の者達ですかね』
「であろうな」
私たちがやってきたのは「アノス道具店」だ。以前店の主人が風邪のため店を閉めたばかりに、トラベラーから難癖つけられていた。以前は町の兵士によって止められたようだが、今回は夜中に店に忍び込んで道具を盗まれたらしい。
「バルムンク、私は店の主人と話してくる。周囲警戒頼む」
『お任せください』
「では頼んだ」
警戒をバルムンクに任せて店の中に入る。店の中はがらんとしており、あれほどあった道具が全く見当たらない。町の住民から愛されていた主人の店がこんな被害を受けたことに憤りを感じる。
「主人、来たぞ」
「マザーさん!わざわざ来てくださりありがとうございます。申し訳ないんですが、見ての通り何も道具がないんですよ」
「知っている。知り合いから聞いたぞ。災難だったな」
「ええ、本当に」
相当参っているようだ。疲れが見てとれる。この店で売られている道具は全て主人の力作だ。それが根こそぎ盗まれたとあってはショックも凄まじいだろう。
「さて、さっそく本題に入るとするか。犯人に心当たりは?」
「記録に残っていました。以前のトラベラーの仕業です」
「そうか。取りあえず主人が無事でよかった」
「この度はご心配おかけして申し訳ありません」
「いや、気にするな。知り合いの店が被害に遭ったのだ。心配もする。」
「ありがとうございます」
本当に無事でよかった。トラベラーは死んでも蘇るが、こちらはそうもいかないのだ。主人にもしもの事がある可能性だってあったわけだから、無事でホッとする。
「しかし、町の住民の仕業でなくて良かったよ」
「あなたという存在がいるのにそんな馬鹿なことをする奴なんてこの町にはいないですよ」
「……私は恐れられているのか?」
「いえいえ!そうではなく、感謝しているのですよ」
この町の住民は全員マザーの事を知っている。自分たち住民のために動いてくれていることを知っている。そしてマザーの強さも。だからこの町での犯罪は殆どがトラベラーによるトラブル絡みだ。
「それで、どうでしょうか?」
「トラベラーであれば殺せば持ち物を自動的に落とすが、種類もランダムだし、全部を取り返す事は出来ないだろうな」
トラベラーは道具や素材を異空間に入れている。だが、死ねばその異次元に入っている物がランダムで落ちるのだ。種類も個数もランダム。故に全部を取り返す事は出来ないだろう。幸いトラベラーは死んでも拠点や宿で復活する。だから何度も殺せばいずれは落とすかもしれないが。
「それに、トラベラーは一瞬で自分たちの世界に帰ることが出来るからな。勝算は低いな」
「そうですか。ですがそれでもかまいません。お願いできますか?」
「分かった。ではまた来る」
店を出るとバルムンクバルムンクに詳細を話す。
『やはりそうでしたか』
「うむ、以前兵士に止められたトラベラーで間違いない。今メルヴィにも調査を頼んである」
『分かりました』
話していると目の前の空間が歪み、中からメルヴィが出てくる。手には資料と思われる紙束がある。相も変わらず仕事が早いものだ。
「こんばんは、マザーさん。頼まれたものです」
「うむ、助かる。相変わらず仕事が早いな」
「そもそも現場を見てましたからね。私が手をだすわけにもいかないので、情報を先に集めていました」
「まぁ、それはそうだろうな。さて、少し資料を読ませてもらうぞ」
「はい、どうぞ。バルムンクさんの分もどうぞ」
そう言って私とバルムンクに資料を渡してくる。中には今回の実行犯の顔や体格、情報が網羅されていた。
(実行犯の名前は『八咫』か。体格の良い男で、ファーストが格闘家、セカンドが追跡者か。LV47か。ほぉ、ギルドのリーダーなのか。これは単独ではないかもしれんな。ギルドネームは『八咫烏』ね。悪い噂はよく聞くが、全く迷惑なことだ)
「はぁ、面倒だの」
『八咫烏ですか。住民からもトラベラーからも評判の悪い連中でしたね』
「そうです。今はユグドラを出た平原にいるようです。人数は14人です。恐らく戦利品を調べているのではないでしょうか」
「ふむ、では移動される前にさっさと済ませるとするかの」
「お願いします」
「さて、と」
すると、マザーの体が光に包まれる。
中から出てくるのは長い銀の髪の赤い目をした女。
「『変化』を解いていいのですか?」
「ま、構わんだろう。どうせ『認識疎外』するし、本気でやる以上こっちの方がいい」
『本気でやられるのですね』
「仕方なかろう。急いで処理する必要があるのだ。さぁ行くぞ」
『了解しました』
すると、女性とバルムンクはその場から消える。
残されたメルヴィは一人祈る。
「お気をつけて」
***
ククク、今回は実に気分がいい。
あの気にくわないNPCの道具屋からアイテムを全ていただくことが出来たのだから。
あいつのせいで兵士から無理矢理締め出されるし、周囲は嫌な目で見れた。
これはその慰謝料ってわけだ。
他のプレイヤーも馬鹿なものだ。
わざわざお金稼いでアイテムを買わずともこうやって奪えばいいじゃないか。
ま、賢い奴が何事も得をするんだ。
「八咫さん、早く道具分けてくださいよ」
ギルドのサブリーダー、アカシアが催促してくる。今回協力の報酬として頂いた山分けすることになっている。
「分かった。今回はよくやってくれた。今全員に渡した」
全員に同じようにプレゼントしていく。
「おっ、マジっすか!」
「やりぃ、コレ欲しかったんすよ」
「はは、金払わねぇでこんなにアイテムが手に入るなんて、楽なもんですね」
皆報酬に満足してくれているようだ。
俺の今回の目的はあのNPCから慰謝料としてアイテムをいただく事だったから、アイテムを分ける事には特に思う事はない。これでギルドメンバーの士気を高められるのなら万々歳だ。
俺はこのギルドが気に入っている。リアルの面倒を忘れられて、俺と似たような仲間とバカやれて、他の連中の悔しがる顔が見れる。しかもこちらに被害がない。それが実に楽しい。
「さて、それじゃあ——」
「がぁっ!」
『!???』
一瞬何が起こったか分からなかった。全員そうだろう。いきなりメンバーの一人、金守が吹っ飛ばされたのだから。
ドサッと後ろで音が鳴る。振り返ると倒れている金守の背に黒い剣が刺さっている。そのまま消えていった。今の一瞬でHPが0になったのだろう。
(何だあれは!?何が起こった!?)
「おいリブ!周囲警戒しろって言ってたろうが!?」
「それが八咫さん、反応がねえっす!」
「なっ!」
思わず絶句する。
(反応がないだと!?んなわけあるか!!リブはLV45の盗賊とトレハンだぞ!いくら真夜中とはいえ索敵能力はギルド1だ。それなのに反応がないなんて——)
「ぎゃぁ!」
「リブ!」
次に吹っ飛ばされるリブ。丸い体に5本の赤い爪痕がのような傷が。そのまま消えていく。
「誰だっ!」
リブを吹っ飛ばした相手を見る。
しかしそこに立っているのは装備を外したリブだ。
(何が起こっている!!今吹っ飛ばされたのは確かにリブだ!じゃあこいつは——)
「この野郎!」
「死ねぇ!」
ギルドの戦闘要員のサボと37564がリブに襲い掛かる。
だが、
「がっ!」
双剣士のサボよりも鋭く、
「ぐふっ!」
アサシンの37564よりも早い。
しかもそこに立っているのが37564に変わっている。
(こいつ、倒した奴に化けてるのか?何なんだよそれ!?そんなモンスター聞いたこともねえぞ!?)
見る見るうちに倒れていくメンバー。
敵との実力差が嫌でもわかる。
そもそも俺たちは戦闘ギルドじゃないのだ。戦闘が強いサボも37564も倒されたんでは戦いようがない。
「くそっ、追跡!」
急いで敵の正体を暴こうと「追跡」を使う。このスキルは追跡者の基本スキルだが、敵の名前やLV、居場所などが分かるのだ。追跡のストック数は最大3で、一度死ぬまでストックできる。本来はプレイヤー相手に使うスキルだが、モンスターにも使用できる。
「なっ!」
だというのに出てくる情報は「アカシア LV—42 居場所—ギルドホーム」なのだ。
(あり得ない!俺はアカシア相手に使っていない!何であいつの情報が出て———!)
気づくといつの間にかアカシアが目の前に立っていた。
残ったのは俺だけのようだ。
「くそぉ、この!」
急いで格闘家のスキル、「ジャブ」を使用する。格闘家の中では威力のないスキルだが、俺はスキルレベルをMAXまで上げている。リキャストタイムが無くMPが無くなるまで何度でも使用できる状態になっている。ほぼ対人用だ。ひるんだ隙に別の強力なスキルなスキルにつなげることが出来る。
「オラオラオラオラオラァ!」
隙の無い連続攻撃を浴びせているというのに、
(何なんだこいつは!オートガードでもついてんのか!)
その全てを片手で捌かれてしまう。目の前のアカシアが笑みを浮かべてくる。
「このぉぉぉぉぉ!」
遂に耐え切れずに「ブレイズキック」を使う。ほぼ隙のないスキル連携だというのに、
(くそっ、これも片手で!)
結局片手で捌かれてしまう。そのままこちらの隙を待ってくれはしない。一気に近づかれて——
「ぐっ!」
気づいたら地面に倒れていた。
HPがどんどん0に近づいていく。
「テメェは何なんだ!?」
答えてくれるはずもないのに、俺は最後にそう叫んでいた。
「————」
だが俺の近くに歩いてくる敵は、ただこちらを見ているだけ。
姿はもうアカシアから俺になっていて、笑みを浮かべながらこちらを見ている。
「くそっ」
周囲を見ると、やられたギルドメンバーの位置には道具屋で奪ったアイテムが。
分配したせいで全員がそれを落としたという事だろう。
「ちくしょぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
消えていくその時まで、目の前の俺を睨みつける。
***
「ほれ、主人よ。これでいいか」
「こんなにですか!?」
「うむ、今回は運が良かったようだ。主人の日ごろの行いが良いおかげだろうよ」
「マザーさん、今回は本当にありがとうございました。この御恩はいずれ」
「ふふふ、そうだな。実は私に代理人が出来てね、そいつを今度紹介に来させるかもしれんからよろしくしてやってくれんか?」
「なんと、マザーさんに代理人が!分かりました。誠心誠意対応させていただきます」
「あー、そんなに硬くせんでいい。普通に接してやってくれ」
「分かりました。それ以外でも何か御用があればどうぞ遠慮なくおっしゃってください」
「ま、今はいいさ。困ったときに頼る。ではな」
「はい、それでは、また。ありがとうございました」
店を出てGardenに戻ると椅子に座ってバルムンクが待っていた。
『主人は喜ばれていましたか?』
「おお、嬉しそうだったぞ。アイテムをかなり取り返せたからな。良かった良かった」
『そうですか。それはよかった』
今回は特に運が良かった。何しろ14人全員に分配されていたのだから。14人とも落としたのは道具屋のアイテムだった。
道具屋の笑顔も取り戻すことが出来た。万々歳だろう。
「さて、じゃあスープでも飲みながらシズでも待つとしようか」
『マザー、口調が戻ってませんよ』
「おっと、失敬失敬」
一度元に戻ると、どうしても癖で出てくる。
姿が婆さんなのに口調がおかしい事になってしまう。
「ふぅ、今日は来るかの」
『マザーがあんなことを言ったから今日も来ないかもしれないですよ』
「なんじゃとぉ!」
のんびりと語らいながら、今日も来訪者を楽しみに待つ。




