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やりたいこと

「ねぇ、今日どうしたの?」

「ん、何が?」

「授業中も上の空だったでしょ?」

「……そうだったか?」


月曜日、天気は雨。放課後、自分の席でボーっとしていると、前の席から柚に話しかけられた。

付き合いが長いだけあって、俺の変化にも気づいたようだ。

あと、そこはお前の席じゃないだろう。ちゃんと元の席に戻りなさい。


「流石に気づくよ。何かあったの?」

「いや、大したことじゃないよ」


よく見ていると思う。実際俺は、今日一日上の空だったと思う。

理由は分かり切っている。リヴィエラで婆さんに指摘されたのが原因だ。


『お前さんがやっていることは、本当にお前さんがやりたいことかえ?』


指摘されて気づいたが、俺には自分から何かをやりたいと思ったことが特になかったように思う。

バイトをしようとしていたのだって、玄さんにお世話になったからだ。恩を返したいと思ったからバイトをしようと思ったんだった。

柚と遊ぶのは、俺が一人だった時に一緒にいてくれたからだ。あの時はすごく嬉しかった。1人で過ごす家は、小学生の時の俺には広く感じ、そしてひどく静かだったのだ。

結局のところ、俺がやってきたことは、全部秋津原家への恩返しのためだったんだろう。


「ただ少し、今までの事を振り返っていただけだよ」

「なんでまた?」

「切っ掛けはリヴィエラでね。婆さんに言われたんだよ。『お前さんのやっていることは、本当にお前さんがやりたいことかえ?』ってさ」

「何でそんな話に?」


それから俺はリヴィエラでの出来事を軽く話した。自分のスキルをどうするかで悩んで、婆さんに相談した事。自分がどういうスキルを取っていくつもりなのか、その説明をした際に婆さんから指摘された事。結局自分がやりたいことが思い浮かばず、気づけばこれまでの自分も、自分から動いていないことを延々と考えていた事。


「……唯のスキルの話題から何でそんな面倒な方に転がっていくのよ」

「まぁ、それはそうなんだけどさ。ただ、ふと思ったんだ」

「何を?」

「このままでいいのかなって」


俺が一番考えていたことはそれだ。

スキルの事だけではない。

自分のこれまでの生き方が、これで良かったのかどうか分からない。

もっと言えば、自分が柚や玄さん達に依存していたような気がしてくるのだ。


小学生の時、両親が居なくなった俺は、恩返しを達成する事だけ考えて、それにすがっていた。他の余計なことを考えてしまったら、自分が壊れてしまいそうだったから。都合よく柚の家が俺の面倒を見てくれて、都合よく玄さんが親しくしてくれて、都合よく柚が一緒にいてくれたから、俺はただ一緒にいた。ただついて行った。それは今までもそうだったし、そしてこれからもそうなのだろう。自分が何かに気づいて、変えようとしない限りはそうなのだろう。


その行動は決して自分がしっかりと考えて出した答えではない。でも、小学生の時はそれでもよかったと思う。結局一度も泣くことはなく、嫌なことに気づかないふりをするだけで、ここまでこれたのだから。

ただ、俺はもう高校生だ。3年も経てば進路の事も考えないといけなくなる。


「柚はさ、将来の夢とか、考えてあるのか?」

「将来の夢?特にないかな。今は高校生活を満喫する事しか頭にないかな!」

「まぁ、そうだろうねぇ」


柚がそう答えることは分かっていた。何よりも楽しむことを一番に考えている奴だから。

ただ、やりたい事が見つかったら、こいつは速攻で動き出すだろう。いつもそうだから。高校生活を楽しみつつ、興味がわいた事への行動はとてつもなく早い。そして恐ろしいスピードで情報を吸収していくのだ。満足したら次の興味のわく対象を探す。

そして、それに俺も巻き込まれるであろうことは容易に想像できる。そうして高校3年間を何だかんだと過ごしていくことが、容易に想像できてしまう。それはきっと大変で、辛いこともあって、でもとても楽しいだろう。


でも、その後は?柚が大学に行くとして、俺もついて行くのか?

就職するかもしれないし、留学するかもしれないし、この町に残るかもしれないし、都会に出ていくかもしれない。そんなことに気づかないふりをしている時点で、相当依存している証拠だ。


「ま、少し将来の事を不安に思っただけだよ」

「ふーん、そっか」

「心配させてしまったな、悪かったよ」

「ううん、それは別にいいんだけど」

「そっか、じゃあ帰ると——」

「でもさ!」


帰ろうと鞄を手にしようとした瞬間、柚が急に体を乗り出してくる。

急なことで思わず体を引くが、座っている状態だったため、そこまで体を引けず、あと少しで唇が触れるところだった。


(他に生徒が居なくてよかった!こんなところ見られたらまた誤解される!)


心臓はけたたましく鳴っているが、頭はありがたいことに冷静だ。柚はどうも怒っているらしく、今どんな体制なのか気づいていない。唇が触れそうだったことにも気づいていないのではないだろうか。


「何で相談してくれないのかな?」

「……え?」

「だから、そんなに考えていたんなら何で一言も言ってくれないのかな?」

「……」


やっと体を戻してくれる。腕を組んで、唇を尖らせている。怒っているというよりも、拗ねているのだろう。


「将来の事が不安になったんでしょ?なら言ってよ」

「……」

「まだ私たち高1じゃん。3年かけて考えればいいでしょ?」

「……そうだな」

「いつも私に付き合ってもらってるんだからさ。紫月に頼まれたら私だって付き合うよ」

「……そっか」

「答えが出なかったら村の皆に聞けばいいじゃん。紫月はいつも皆の手伝いしてたんだから、皆も相談に乗ってくれるよ」

「……ああ、そうだといいな」

「こんなところで一人で抱えこんでないでさ、もっと頼ってよ」


俺は一人で抱え込んでしまってたんだろうか?でも、こんな悩みは恐らく誰だってするはずだ。皆自分で考えて、それぞれの道を選んで進んでいくのだ。

俺も高3になったら出来るのだろうか?ゲームのスキルすら取捨選択できてなかった俺が、自分の人生において重要な選択を決めることが出来るのだろうか。


将来の事はまだ分からない。

ただ、今するべきことは分かる。


「ああ、ありがとう。頼りにさせてもらうよ」


こんな自分を心配してくれる幼馴染に感謝の言葉を伝えることだ。


「分かったなら良し!さっ、帰ろ!」


差し出される手は昔と何一つ変わらない温かさに溢れていた。



***


「うにゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


自宅に帰り、自分のベットにダイブする。


(やり過ぎでしょ、私!顔、顔があんなに近くに!唇が、あと少しで)


「にゅぁぁぁぁぁぁぁ!」


思い出すしたら余計に顔が熱くなってくる。

いつも一人で抱え込む紫月に、勢いに任せて行動した結果、色々と相談してくれるようにはなった。帰り道も色々話した。


(考えすぎだよ、紫月は!何でもっとシンプルに考えれないんだよぉ!)


今回の話だって、マザーの言葉を曲解したからこその出来事だろう。

きっとマザーにも悪気はなく、他人を気にしている紫月に、自分の好きなようにスキルを取ればいいと言ってくれてるのだ。

それを今までの事や将来の事に当てはめて曲解したものだから、あんなに悩むことになってしまっているのだ。


「ほんと、昔から変わってないや」


思い出すのは小学生の頃、私の話を真剣に聞いてくれる紫月の顔だ。

自分が難しい事を話している自覚はあった。理解が難しい事であることも分かっていた。

でも、それでも紫月はいつも真剣に話を聞いてくれるのだ。分からないことに質問して、本を読んだりして理解しようしてくれる。


そんな中はまったのがシチュエーションパズルだ。有名な『ウミガメのスープ』の問題を親が出してくれたのが切っ掛けだ。二人で父の書斎に探検に入った時だ。『ウミガメのスープ』の本を見つけ、それを父に持っていったら問題を出してくれたのだ。私にはすぐ理解できることでも、紫月にはすぐ理解ができない。でも、一緒に理解しながらその問題について考察しあうのが楽しかったのだ。


「今でも覚えるのかな」


きっと覚えていないだろう。私はいつも笑っていたけど、彼が笑うのを見たことはあまりない。私にとって全てが輝いて見えたあの頃は、彼にとっては苦痛でしかなかったのかもしれないのだから。だから聞くのが怖い。


「また、一緒にやれるといいな」


一人で家にいるであろう彼の姿を思い浮かべ、次は何をして一緒に遊ぼうと考えながら夜を過ごす。

胸に一冊の本を抱きかかえながら。

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