何がしたいのか
「それじゃまた明日ね」
「ああ、また明日」
ユズキはもう寝るらしく、先にログアウトしていった。結局あれからモンスター討伐やクエストを繰り返し、ユズキのレベルは7、俺は5まで上がった。
俺はサモナーと代理人のジョブをつけているからユズキよりもレベルアップが遅いのだが、サモナーと代理人が両方とも同じように上がるため、どのスキルを取るか迷う。
Gardenに戻ると婆さんが笑顔で出迎えてくれた。
「おや、お帰り。どうだった?上手くいったかい?」
「ああ、なんとかなった」
「そうかい。それは良かった。席に座るといい。ハーブティを入れよう」
「ありがとう」
リビングの席に座り、どのスキルをリストを見ながら考える。
(さて、次は何のスキルを取ろうか。サポート方面を揃えるといいかもな。敵の妨害も『バインド』だけじゃ心もとないし、ユズキのステータスを上げれるようなスキルがあればそれでもいい。イインチョー達と組む時の事を考えると……)
「ほい、マザー特製のハーブティーだよ」
「ありがとう、いただきます」
スッキリとしたハーブの香りが口いっぱいに広がる。
疲労した頭を優しく癒してくれる。戦闘も繰り返し、周囲に気を張っていたから、気づかないうちに疲労が溜まっていたのだろう。
「何か悩みごとかい?」
「いや、悩みごとってわけじゃない。何のスキルを取ろうか考えてただけだよ。」
「そうかい。何か聞きたいことがあれば相談に乗るよ」
正直有り難い申し出だ。俺は正直ゲームには慣れていないから、どのスキルを取ればいいのか悩んでしまう。今までも婆さんにスキルを説明してもらってから取っている。
ただ、優先度がまだ決まっていない。ユズキと進めるためのスキルを取るのか、冒険を楽にするスキルを取るのか、それともスキルのレベルを上げるのか。
「ありがとう。正直迷っててさ、どうスキルを取っていくのかの方針が全く決まってないんだ」
「ふむ。方針とは?」
「たとえばユズキ達と一緒に戦うためのスキルを取っていくのか、冒険用のスキルを取るのか、みたいな感じかな。」
「成る程の。例えばじゃがお前さんがこの世界でどう生活していくのかを考えてみるのはどうじゃ?」
「どう生活していくのかって言われてもな。ユズキ達と冒険するとなると戦闘メインになりそうだが」
「そうではない」
「?」
婆さんはため息をはく。何かおかしなことを言っただろうか?
基本的にユズキと冒険することになる。予定が合えばイインチョ―達も加わってくれるだろう。ただ、どこかに行こうにも外はモンスターがいる。戦闘のためのスキルは必須だと思ったんだが。
「私が聞いているのはお前さん自身の事じゃよ」
「俺自身?」
「お前さんは基本的にあのお嬢ちゃん達に合わせてスキルを選ぶようにしておるだろう?」
「そりゃそうだろ。一緒に戦うんだから」
「それはお前さんがやりたいことなのかえ?」
「え……」
「お前さんがやっていることは、本当にお前さんがやりたいことかえ?」
「……」
「お前さんはちっとばかし、あの嬢ちゃんたちに引っ張られすぎておると、見ていて思ったの」
「そうか?」
「うむ、そもそもお前さんはサモナーじゃろ。なんで先程の方針にモンスターのサポートが入っておらんのだ?」
「それは……」
確かにそれはそうだ。バルムンクが強すぎるから意識していなかったが、本来であればサモナーとしてのスキル選びをするべきだ。だけど俺はユズキ達と戦う事を意識してスキルを考えている。
「お前さん自信がこの世界でどうしたいのか、それがあまり感じられんからな。それを先に考えてみたらどうだ?」
「確かにそれもそうだな。考えてみるよ」
「こんなもんで良かったかの?」
「ああ、助かったよ。ありがとう」
流石年長者。よく観察していると思う。俺自身が気づいていないことも気づいているのだから。
「俺自身がどうしたいのか、か」
俺はそれを考えることがとても苦手だ。
「自分が何をするべきなのか」は簡単に答えが出るのに、「自分が何をしたいのか」は中々出てこない。今思うと現実世界でもそうだった。バイトも恩返しが目的だ。高校生活でも何かしたいという思いは特にない。リヴィエラを始めたのも誘われたからだ。
(バイトやら家事やら勉強が忙しかったとはいえ、ここまで何も浮かばないとはな)
現実世界でもゲームでも自分がやりたいことが思いつかない。気づかないうちに余裕がなくなっていたのかもしれない。
結局何も思い浮かばず、そのままログアウトした。
***
「ふむ、あやつは帰ったか」
『何故あのようなことを?』
「む、おお。聞いておったのか」
食堂で調理していると、一体の鎧ががやってくる。
『盗み聞きしてしまい申し訳ありません。しかし、彼はリヴィエラの住人じゃないのです。好きにさせてよいのでは?』
「あのなぁ、バルムンク。私はスキルを好きなように選べばいいと言っただけじゃよ」
『彼女たちに引っ張られ過ぎていると言っていたではないですか』
「ああ、あれか。あやつはバルムンクの主なんじゃ。少しはバルムンクにも意識を向けてもらわんとなぁ」
『あ、いえ、私の事は別にいいのですが……ってそうではなくて!』
話を逸らされたことに気づいたバルムンクは慌てて話を戻す。
『先程も言ったように、彼は向こう側の人間です。彼女たちに引っ張られているとしても、別に指摘するようなことでもないではないですか』
「そうだのう」
『何かしらの意図があると思ったのですが、違ったのだとしたらすみません』
「いや、謝らなくていい。何しろ正解じゃからな」
『!』
「ま、大したことはないのだが。あやつはこの世界でやりたいことが見つかっていない。だから彼女たちに合わせて行動しておる」
『はい』
「じゃあこの世界に彼女たちが飽きてしまった場合、彼はこの世界に一人で来ると思うかの?」
『……それは、来ないでしょうね』
「だろう。私の予測では向こうの世界でも恐らく似たようなものだろう。であれば、一人になった時、彼はどうなるだろうの」
『……しかし、それは』
「確かに関係のない事じゃの。向こうで誰かが孤独になろうが知った事ではない」
『……』
「だが、もう知り合ったではないか。であれば、その者を心配することはおかしな事かえ?」
『……いえ』
「ならばよし。なに、ただの親切心じゃよ」
『分かりました』
「それにバルムンク。あやつはあの嬢ちゃんたちの誰かと恋に発展するするかもしれないではないか」
『……』
「いやぁ、楽しみだのぉ。私は甘酸っぱいのが大好物じゃからのぉ」
『……はぁ』
ため息を吐くバルムンク。
「まあ、彼の成長を見てみたいと————」
急にマザーの空気が変わる。
『どうしました?』
「……」
『マザー?』
「バルムンク、ネズミ狩りに付き合え」
『……』
「トラベラーの者が問題を起こしているようだ」
『了解しまた』
「飛ぶぞ。準備は良いな?」
『いつでも』
「そうか、では行くとしよう」
瞬間、食堂にいたマザーとバルムンクはその場から消えた。




