紙装甲
凄まじい戦いぶりを披露してくれたバルムンクへの賛辞も終わり、次に戦うのはユズキの番となった。
「よーし、次は私の番だね!」
「気合い入れるのはいいけど、油断するなよ」
「心配してくれてありがと。でも大丈夫だと思うよ。チュートリアルの時も楽勝だったし」
「それは凄いな。俺は動揺して上手く戦えなかった」
正直あの時は狼のリアルな殺意に動揺していたと思う。
日常では滅多に味わう事のない、濃厚な殺意だ。
狼側も殺されないために必死になるのは分かるのだが、チュートリアルで急に相手した時は本当に怖かった。
それを楽勝だったと言っているユズキは戦闘に向いているのだろうと思う。
「いや、私も怖かったけど、スリルがあって楽しめたけどなぁ」
「マジか。情けないが、俺は今でも恐怖を感じているよ」
「そっか。まぁ、このゲームを続けて行けば慣れると思うよ」
「だといいんだがな」
俺は正直モンスターの近くで戦いたいとは思えなかった。
「それに、もし慣れなくても、後衛でモンスター召喚したりしておけばいいし、それでもだめだったら生産職に移行するなり、観光を楽しむなりすればいいんだからさ。そんなに気にしなくていいって」
「まあ、なるべく慣れるようにするさ。とりあえずユズキの戦い方を見てみるか」
「はいはーい、取りあえずスキルを試してみようかな」
「いや、ちょっと様子見たほうが」
「捨て身!トラブルメーカー!」
こちらが止めるのを聞く前にさっさとスキルを使うユズキ。
これがチュートリアルを除いたら初めての戦闘だ。テンションが上がっているのだろう。
仕方がないとは思うが、いくつか心配していることがあるから、スキルは様子を見ながら使ってほしった。
しかも二つ同時にだ。
捨て身はいくつかのステータスを代償に筋力を上げるんだったか。トラブルメーカーは正直何が起こるか全くわからない。いやな予感しかしないんだが……
がさっ
そうしていると正面の草むらからひょっこり顔を出すウサギの姿が。あれがユズキの言っていたファニーラビットってやつなんだろう。
「おっ見つけた。そりゃあ!」
見つけて直ぐに近づき剣で切り付けていく。
「えっ?あれっ?」
ただ、正直想像していたよりもあっけなかった。ユズキも予想外だったのだろう。
なにしろ一度切り付けただけで、ファニーラビットは光に包まれて消えていったのだ。
いくら初心者向けのフィールドだとしてもあっけなさすぎる。ユズキの装備は初期の装備だ。LVも1のままだ。流石に一発で倒れるような難易度ではないと思うのだ。だから、考えられるのは先程のスキル『捨て身』の効果だ。デメリットが痛いが、それを補って余りある攻撃力を有するスキルなのだろう。
「え、ちょっと!待った待った、タンマッ!」
思考をストップしユズキの方を向くと、三匹のウサギがどんどんユズキに襲い掛かっていっている。
ユズキも反撃していて、何体かは倒しているようだが、みるみるうちにHPが減っていっている。
「譲渡!」
HPのバーが赤色まで減っているのを見て咄嗟にスキルを使っていた。
こちらのHPとMPを対象に分け与えるスキル。正直モンスターだけにしか使えないのかもと、イチかバチかで使用したのだが、どうやら効果はあったようだ。
俺のHPが半分以下まで、MPが半分まで減っているが、ユズキのHPが半分まで、MPが全快している。
「バルムンク!」
すかさず俺の近くで待機していたバルムンクに指示を出す。待ってましたとばかりにユズキの元に向かいウサギを倒していく。敵を引き付けるように戦っているようだ。安心感が全然違う。基本的に強すぎる攻撃は使わないようにしてもらっている。
(しかし、凄いものだな)
見るのは剣を片手に必死にウサギを切り裂いていくユズキ。明らかにピンチなのに楽しそうだ。こちらの事を忘れてウサギを狩ることに夢中になっているようだ。どんどん動きが上がっているように見える。
(そういえばHPが減るとステータスが上がるスキルがあったな。たしかスリルだったか?)
『スリル』自分のHPが少なくなるほど筋力と敏捷が上がるスキルだ。モンスターの攻撃を受けることで減っていくHPではあったが、それすらも楽しんでいるのだろう。どんどん自分の動きが早くなっていくのだ。
ハイになっているような状態なのだろう。それはいいのだが、
(モンスターが多くないか?)
バルムンクもユズキも結構ウサギを倒しているのだが、何故かどんどん現れて攻撃してくるファニーラビット。流石におかしい。モンスターがここまでとめどなく襲ってくるなんてあり得るのだろうか。一応初心者エリアなのだ。モンスターも温厚だと思うのだが。
(まさか、トラブルメーカーか!)
考えられる原因はたった一つ。ユズキが戦う前に使用したスキルだ。何かしらイベントが起きるのだろうとは思っていたが、こんな効果だったとは。
「がっ」
マズイ、考えに夢中になりすぎた!
どうやら俺の背後にもファニーラビットがいたらしい。背後から蹴り飛ばされたようだ。俺のHPがゼロになる。
(しまった!譲渡のせいでHPが減っていたんだった)
「シズ!」
こちらを見て慌ててこちらに来ようとするが、
「気にするな!それよりも戦いに集中しろ!」
周囲にはまだウサギが多くいるのだ。恐らくまだ捨て身の効果が切れていないはずだ。であればユズキの防御力は低くなっているはずだ。
俺は回復できるスキルもアイテムもないのだ。どうせ死ぬのなら、より多くのウサギを狩った方がいいだろう。だからこそのあの指示だった。
こちらの意図を理解したのだろう。すぐに切り替えてウサギを狩ることに集中している。
(お、体が光りだした。大体30秒ぐらいか。それを過ぎたら転送されるのだろうな)
見るとバルムンクも体が光っている。俺が消えると恐らく一緒に消えるのだろう。出来ればユズキを守っていてほしかったのだが。
バシュッ
空気の切れるような音と共に、ユズキを残して俺は転送された。




