戦闘
バイトが終わり、家に帰ると机の上には手紙が。
『また遊ぼうね 茜』
『いつでも誘って 千鶴』
『ご迷惑をおかけしました。また機会がありましたら遊びましょう 恵』
『バイトお疲れ様。今日も良かったらリヴィエラやろ? 柚』
どうやら皆帰ったようだ。久しぶりだった気がする。あれだけ賑やかだったのは。
夜もあんな時間まで起きていることがなかった。
皆が来なかったら疲れて何も食べずに、あのまま寝ていただろう。
「ありがとう」
茜と千鶴は、休みの日はなんだかんだ言って来てくれる。
委員長は、まぁ誤解から付き合いが始まったが、これから仲良くなっていけばいい。そういえば恵って名前なんだな。覚えていなかったってバレなかっただろうか。
柚も俺が一人にならないように気を使ってくれていたのだろう。その気遣いが分からないほど俺もバカではない。
「さて、ログインするか」
風呂に入り、晩飯を食べると、ソファに座りながらVR機を装着する。
星空の中に浮かぶと操作を始めていく。
まずはメール。携帯でも良かったんだが、操作に慣れる練習もかねてVR機を使ってすることにする。
『今帰り着いた。手紙見たよ。ありがとう。今からやるか?』
ピロンッ♪
送信ボタンを押すと軽快な音を出して送信される。
ピロンッ♪
直ぐに返信が返ってくる。
「早いな」
目の前に現れたメールのアイコン。
タッチすると文章が表示される。
『あ、今帰ったんだ。おかえり。ちょっと悪いんだけど、先にやっててくれる?』
恐らく手が離せない用事があるんだろう。
『分かった。適当に満喫してる』
『うん、ごめん。私もログインしたら連絡するね』
『分かった。基本的にGardenにいると思う。また後で』
『はーい』
「ふぅ、操作にも大分慣れたな。さて、ログインしてるか」
リヴィエラのアイコンを押すと、自分が黒くなり、装備を身に着けている。
辺りは一面真っ白い空間に。最初にメルヴィさんと会った空間だ。
背後に気配を感じたので振り返ると、いつの間にかメルヴィさんが立っていた。
『こんばんは。紫月様』
「こんばんは、メルヴィさん。お久しぶりです」
『私の名前を憶えていてくださったのですね。嬉しいです』
「お世話になりましたからね。当然です」
メルヴィさんにはチュートリアルの際にお世話になったリヴィエラ最初の知り合いだ。
チュートリアルの時しか会えないのかと思っていたがそうでもないらしい。
「チュートリアル以外でも会えたんですね」
『はい、お知らせなどの案内も私の仕事です』
「そうなんですか、お疲れ様です」
『有難うございます。紫月様はその後どうですか?リヴィエラの世界は楽しんでいただけてますか?』
「ええ、最初から圧倒されてばかりですが、知り合いもできましたし、友人とも一緒にできているので楽しんでますよ」
メルヴィさんはフワッと微笑む。
『それは良かったです。是非リヴィエラを満喫してください』
なんとも嬉しいセリフだ。この世界に受け入れられたような気分になってくる。
「はい、観光気分で楽しむつもりです」
『そうですか、観光ですか。最初の町のユグドラにも観光名所はいくつかあります。是非見つけてください』
「ありがとうございます。そういえば今回メルヴィさんが来たという事は、何かお知らせがあるんですか?」
『はい、紫月様のログイン先の設定をどうするのか、それを案内しに来ました』
「ログイン先?以前はユグドラの入り口でしたよね」
『はい。しかし、紫月様は既に拠点「Garden」を持っていらっしゃいます。拠点を持っているプレイヤーはそこからログインすることが出来ます』
「へぇ、そうなんだ。じゃあ、どうせ行こうとしてたんだし、Gardenにします」
『はい、でしたらそのようにしておきます。変えたい際は私に言ってくだされば、いつでも変更できます』
「いつでも?」
『はい、この空間でしたら私を呼んでくださればいつでも会うことが出来ますので』
「この空間にいつでも来れるんですか?」
『はい。基本的にログインとログアウトの際はこの空間に来れます』
「分かりました。ありがとうございます」
『いえ、では転送を行います。どうぞ、心ゆくまで満喫してきてください』
「はい、楽しんできます」
そうして俺はGardenに飛ばされた。
「ゲッ」
Gardenのリビングに召喚された俺は、リビングに立っていた見知らぬ女の子を驚かせてしまう。
周囲は明るく、こちらではどうやら昼の様だ。
「驚かせたようですまない」
「いや、大したことはない、気にしないでくれ」
そういってこちらを向く女の子。なんとも大人びている。銀の長い髪に赤い目。
「婆さんの客だな。私も用事があったので、呼んでくる」
「あ、ちょっと」
自己紹介する間もなく奥に行ってしまう。
不躾に見たのがまずかったかもしれない。
「おー、今日も来たのかい」
そういって奥から現れたのはマザーという名の婆さん。
先程の女の子は見当たらない。
「婆さん、女の子と一緒じゃないのか?」
「おぉ、あの子はマリアという子でな。なんじゃ、婆さんじゃない方が良かったか?」
「いや、そうじゃなくてな。さっき驚かせてしまってな。どうも避けられたようだ」
「あの子は恥ずかしがり屋なんでな。今は自分の家に転移して帰ったが、また会った時にでも仲良くしてやっておくれ」
「分かったよ」
さて、予想外の事があったが、今日はなにをするか。
フレンドリストを見ても、今日ログインしている者はいないようだ。
外に出て戦闘を経験しておくか、町を見て回って適当にクエストするか。それとも婆さんの手伝いをするか。
「婆さん、今日は何か手伝う事はあるか?」
「いや、特にないねぇ。水やりも済ませたし、掃除も終わってるから、外に出かけてきたらどうだい?」
「まあ、外に出るのは構わないんだが、金もないし買い物もできないからな。やっぱり戦闘するしかないな」
「おや、お前さんはまだ戦闘経験がないのかい?」
「いや、この世界に来た時、狼と戦ったことはあるんだが、それ以外は特にないな」
「戦闘は嫌いなのかい?こちらの世界に来る者は強くなることに必死になっておるが」
「うーん、正直強くなることに、そんなに興味はないんだが」
「なに、心配せんでも、お前さんには強い味方がおるから大丈夫じゃ」
「……」
その味方が懸念している事なんだが。
あの威圧感のあるデュラハン、バルムンクを思い出す。黒い鎧、禍々しい剣。LV150でレイドボスの表記。
ため息しかでない。
「そういえばお前さんはスキルは取ったのかの?」
「いや、まだだな」
「じゃあとっておいた方がいいぞ。じゃないと全く召喚できんからの」
「分かった」
そして、婆さんの説明に添いながらスキルを取っていく。
正直なんのスキルを取ればいいのか分からなかったので、婆さんの説明がすごく助かった。
今回俺がとったスキルは3つ。
『契約』
対象と契約を結ぶことが出来る。
『召喚』
契約した対象を召喚することが出来る
『譲渡』
自分の生命力と精神力を譲り渡すことが出来る
この3つだ。
契約は文字通りモンスターとの契約をするスキル。デュラハンの時は例外だったが、基本的にこれを使う事でモンスターを仲間にできる。自分のモンスターにできる数はLVが5,10,15,20……と上がるごとに1体ずつ増えていく。
召喚は契約したモンスターを呼び出すことが出来るスキル。モンスターごとに使用するMP消費量が違う。また、リキャストタイムも存在し、モンスターが倒れてしまうと、一定時間待たないと召喚できないようになっている。ちなみにバルムンクは相談の末、MP消費量が2分の1と、現在だと60取られることになった。リキャストタイムも120秒という事になっている。相談の末というのは、最初バルムンクのMP消費量、リキャストタイム共に1だったのだ。つまり、実力隠したデュラハンが死んでも死んでも、お手軽に蘇ってくるチート仕様だったのだ。流石にまずいという事で、自重してもらう事になった。
譲渡は対象に自分のHPとMPを分け与えるスキル。対象は自分が使役しているモンスターだけでなく仲間のプレイヤーにも使えるようだ。何かと便利だと婆さんに進められたので取ってみた。確かにHPだけでなくMPが回復できるというのは便利だし、召喚した後手持ち無沙汰な状態で余ったMPを分け与えるのもいい。サポート面で使えるスキルだと思う。
「さて、こんなものかの」
「ありがとうな、婆さん。参考になったよ」
「ほっほ、お礼は良いから戦ってくるといい」
「分かった」
その瞬間、目の前の空間からユズキが現れる。どうやらユズキも召喚先をGardenに設定したようだ。確かに便利だしな。
「お待たせ―。あ、マザーさんこんにちは」
「はい、こんにちは。ユズキは元気だのぉ」
「うん、元気にいかないとつまらないからね」
どうやら婆さんとも大分仲良くなったようだ。
「へぇ、スキルとったんだ。丁度いいや。戦闘を体験してみようって言うつもりだったの」
「そうか。まぁバルムンクがどんだけ戦えるのか見てみるのも面白いかもな」
「それじゃあ行こっ」
「ああ。婆さん、また後でな」
「ほっほ、楽しんでおいで」
そして俺たちはGardenを出る。
向かうはユグドラの町を出た草原。そこには初心者用のモンスターがいるらしい。
「まず戦おうと思っているのはファニーラビットかゴブリンね。ファニーラビットは動きが素早いけど攻撃は弱いから戦う練習にはもってこいなの。ゴブリンもそれほど強くないって話よ。慣れるいい練習になると思うんだ」
「そうか。わかった」
パーティ登録を済ませて草原にたどり着くと、見えるのは一体の醜悪な小人。手には包丁らしき刃物を持っており、意地の悪そうな笑みを浮かべながらこちらを見ている。あれが恐らくゴブリンだろう。
ギャッギャッと言いながらこちらに向かってくる。
「それじゃあまずシズのデュラハンの実力を見てみよ!」
「分かった。『召喚』バルムンク!」
召喚のやり方は婆さんに教えてもらった。基本的に名前を呼べばいいようだ。
呼び声に応じてバルムンクが空間から召喚される。
片手に持った禍々しい剣を構え、ゴブリンと対峙する。
するのだが……
「ねぇ、何か敵さん怖がってない?」
「……確かにそう見えなくもないな」
モンスター同士、格の違いが分かるのだろうか。
確かに見ると動揺しているようにも見える。
まあ、ゴブリンの気持ちも分からなくはない。明らかにこの場に出てくるはずのない存在が急に出てきたんだ。そりゃ驚く。
ギャウ!
手に持った包丁で何度も切り付けていくが、涼しそうに剣で捌いていくバルムンク。
因みにバルムンクには事前に手加減するように打ち合わせしてあるのだが……
キィン、キィン、キィン、キィン、キィン
……うん、あの剣技からして、きっととんでもない技術なんだろう。
何しろ剣で弾くごとに目の前に表示されていくのだ。
『バルムンクがパリィに成功しました』
『バルムンクがパリィに成功しました』
『バルムンクがパリィに成功しました』
『バルムンクがパリィに成功しました』
・
・
・
一度も攻撃を受けずに捌ききるバルムンク。立っている場所から殆ど動いていない。
「……なぁ、ユズキ。俺は知らないんだが、パリィて凄いのか?」
「……うんとね、敵の攻撃を弾くスキルなんだけど、タイミングがかなり難しいスキルよ」
「……やっぱりあれって凄いのか?」
「……そうだと思うよ。剣技が半端なく高い。ステータスが下がっているはずなのにあの動きは凄まじいとしか言いようがないよ」
「……」
キィン、キィン、キィン、キィン、キィン
俺とユヅキはその戦闘に見入っていた。それほどまでにバルムンクの剣技が美しいと感じたのだ。バルムンクの動きは無駄がなく、必要最低限のの力しか込められていないことが初心者でも分かる。
ザシュッ
切り裂かれる音と共にゴブリンの首が飛んでいく。光に包まれて消えていった。
バルムンクは剣についた血を取るように剣を振るっている。
強い事は予想できていた。だが俺の考えが足りなかったのだろう。
表示されるログを見てそう思う。
『バルムンクはゴブリンに9999のダメージを与えた』
オーバーキルというやつだろう。ゴブリン相手に大人げない。
何が恐ろしいってバルムンクはスキルを使っていない。通常攻撃でこの威力なのだ。
「想像以上だ……」
呆然としているとバルムンクが俺の方に来る。顔がないから何んとなくしか分からないが、まるで「これでいいですか?」というよな反応だ。
正直手加減が足りない。あんなオーバーキルは必要ないのだ。俺は別に「俺tueee」と呼ばれるものをやりたいわけではないのだから。ただのんびり旅したいだけ。だからとりあえず「手加減が足りない」というつもりだったのだが、
「————」
こちらの反応を待っているバルムンクをみて止めた。
バルムンクはしっかり手加減をしてくれていたのだ。倒そうと思えば、さっさと倒せたのだろうから。わざわざ時間をかける必要もなかったのだ。だからあれがバルムンクなりの手加減だったのだろう。言えばそれを守ってくれることは分かった。後は細かくステータス面を決めて行けば何とかなるはずだ。
だからとりあえず今は労いの声を掛けよう。
「お疲れ様、バルムンク。これからもよろしく頼むよ」
どうせこれから長い付き合いになっていくのだ。
気長に行こう。




