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捜索屋は祈らない  作者: 咲茉シオ
第二章
33/37

33 呼ばざる客人

「では、こちらでキッチリ処分させていただきますので」


 ロザリンドの家を出ると、レティは普段よりも数段声を張り上げてそう言った。

 

「よろしくね」

 

 ロザリンドは頷くと、申し訳なさそうに頭を下げた。

 

 ロザリンドの家を後にしたふたりは、並木道の鮮やかな緑を辿って大通りの方へ歩き出した。

 まだ暑さはそこまでではないが、みずみずしい草木の色が春から夏への移ろいを感じさせる。

 

「だいぶあったかくなってきましたね」

「このぐらいがちょうどいい。暑すぎるのはごめんだ」

「それはそうですけど……僕としてはもう少し温かいほうが好きですね。そろそろ果物がたくさん出回ってきますし」

「美味しかったか?さっきのオレンジ」

「ええ。オレンジもそろそろ旬ですし。まだ少し早いかもしれませんが、レアレスは温暖な気候ですからね。この辺よりも早いのかもしれません」

「なるほどね。西部はやはり君のほうが詳しいな」

「たまたまですよ。レアレスはあの辺では一番大きい街ですから。西部に住んでた時は……仕事ばっかりだったので、本当にただ知っているだけですけど」

 

 ユールは少し遠い目をして、苦笑いを浮かべた。

 正直なところあまりいい思い出はない。余裕もなかったし、観光もした覚えがない。

 

「ああ……そうか。すまない」

「あ、いいえ、お気になさらず。今ならいろいろと楽しめそうですから、もう一度行ってみたいぐらいです」

「そうか。レアレスは魔術関係の施設もあるし、私も一度行ってみたいとは思っているんだが……なかなか機会がないな」

「もし行くならわかる範囲でご案内しますよ、もちろん。今思うと食べてみたいものもいろいろありますしね」

「頼もしいね」

 

 レティはにこやかな笑みを浮かべた。

 ユールといれば、美味しいものには事欠かなさそうだ。

 旅行などしばらく行っていない。ある程度落ち着いたら出かけるのもいいかもしれない。

 

「ところで、さっき珍しく大きめの声を出していたのは……狙っている人間をこちらに集中させるためですか?」

「そうだ。彼女をこれ以上困らせたくはないしね。どうせならこちらに集中してもらった方が心配も少ない」

「なるほど。……どうやら、思惑通りのようですね」

 

 ふたりとも振り返りはしないものの、足音が増えていることには気が付いていた。

 大通りに向かって歩いている人自体はふたり以外にもいたが、一定の距離でずっと後ろからついてきている人間は気にもなる。

 

「それにしたってわかりやすくないですか?」

「言ってやるな。相手はおそらくただの魔術師だ。尾行や追跡なんて、普通はやらないんだから」

「そりゃあまぁ、僕たちは訓練を積んでいますけど。学ぶ前もここまでじゃないと思います」

「訓練の最初のころは……君も似たようなもんだったよ」

「ええっ。そうでしたか?」

「うん。……ここまであからさまではなかったかもしれないが」

「…………まぁそれはいいとして。どうします?」

「手出しされていないから放っておいてもいいんだが……昨日襲ってきた人間か?」

 

 ユールは通りの店のガラス戸越しについてきている人物を見やる。

 背格好は似ている気がするが、遠目からでは断定できない。

 

「うーん、どうでしょう。体形は同じぐらいだと思いますが、服装も違いますし……顔は本当にちらっとしか見ていないので」

「そうか。……喫茶店までついてこられると面倒だ。少しお話をしようか」

「了解です」

 

 ユールは踏み出した右足を軸にくるりと方向を変えると、木の陰からこちらの様子を見ていた少年へ駆け寄っていった。

 相手はあわてて逃げ出そうとするがもう遅い。

 足の長さを活かしてすぐに距離を詰め、ユールは相手の顔を覗き込んだ。

 背の高い人間に笑顔でにじり寄られるのは結構怖いものである。

 

「どこへ行くんですか?」

「ひっ」

「やだなぁ、ちょっとお話しましょうよ。ね?」

 

 ユールはにこりと笑うと、建物の陰に隠れていた、もうひとりの少年の首根っこをつかんで引き寄せた。

 そうしてそれぞれの肩に腕を回すと、がっちりと掴んでじりじりとレティのもとへ引きずっていった。


 レティとユールに両脇を固められた少年たちは、冷や汗をかきながら両手を握り締め、すっかり縮こまってしまった。

 おそらく10代後半の学生だろう。来ているジャケットの下には、学生服がうっすらと見える。

 

「あの……その……ご、誤解で」

「ほう」

「え、えっと、その……」

 

 レティはわざと懐から手紙をちらりと見せる。

 それまでもじもじして伏し目がちだった少年も、それに気づくと、食い入るように目を見開いた。

 

「あっ、それ」

「やはりか」

「あ……」

「ルシーア学院の生徒さんには面白い遊びが流行っているようだね」

「遊びなんかじゃな……」

「どうして僕たちが学院の生徒だと……」

 

 少年はしまった、とばかりに口を手のひらでふさぐが、滑り出た言葉はもうふたりの耳に届いている。

 

「ふむ。となると……ファウラーの弟子か、学院で彼の授業を取っているとか……そんなところか」

「えっなんでそれを……あ」

「君たちは面白いぐらい口を滑らせますね」

 

 さすがのユールも気が抜けて2人をつかんでいる手が緩みそうになる。

 どうやら、追跡どころか隠し事もできなさそうなタイプだ。

 

「まぁ……ひとつ言うのであれば、追跡中にある程度所属がわかるような服装をするべきではない、ということかな」

「あ……」

 

 少年たちはハッとした顔で己の服装を見やる。

 どうやらそこで初めて思い至ったようだった。

 レティは深いため息をつく。

 

「学院に関りがあって、私に対抗意識を燃やしていて、かつこんな変な物に飛びつくのは彼ぐらいだろうと思ったが、当たりのようだね」

「えっと……ファウラー先生のお知り合い……なんですか?」

「まぁ、知り合いではあるか」

「ファウラーさんって……毎月のように熱心な"お手紙"を送ってくる方のうちのひとりですよね?」

「ああ。人柄はともかく、腕はいいからね。学院で外部講師としてたまに授業をしているらしいよ」

「へぇ。……君たち、人付き合いもあるだろうけど、考え直した方がいいと思いますよ」

 

 学生二人は顔を見合わせる。

 

「ちょっとした暇つぶし感覚で……」

「割がいいバイトだと思っただけで……」

「ふむ。詳しく聞かせてもらおうか」

 

 話を聞いてみれば、学生たちは手紙に関して追跡するために雇われたアルバイトらしい。

 が、どんな意味を持つ手紙なのかも、何を目的として入手しようとしているかも知らされていなかった。

 ただただ、手紙を手に入れるため追え、奪えそうなら奪えとだけ言われていたという。

 

「なんというか……中途半端だな」

「彼はリスクの方もわかっているんでしょうか?」

「きっと幸運につられているだけだろう。やつは自分を運がないとものだと解釈している節があるから」

「あぁ、なんかそんなようなことをお手紙にも書いてましたね」

 

 ユールは思い出してつい指に力が入る。

 飽きもせず同じような文言で、まぐれだの運が良かっただけだのと、レティへの妬み嫉みを書き記してくる。

 毎回引きちぎって可燃ごみに捨てたい衝動に駆られるのなんとか抑えて証拠として残してはいるが、そろそろ殴り込みに行ってもいいかもしれない。

 

「あのう……僕たちはもう……いいでしょうか」

 

 学生たちは控えめながらも帰りたさそうに手を挙げた。

 

「ああ。もう付きまとわないというのなら、構わないよ」

「も、もちろんです。あっでも……あ、いやなんでも……」

「でも?」

 

 少年たちは言うか言わないか少し迷っていたようだが、ふたりの視線を感じ、意を決した様子で口を開いた。

 

「僕たちはただの見張りみたいなもので……魔術師のお弟子さんたちも同じように狙っているはずです」

「ええ……」

 

 ユールは眉を寄せ、あからさまに嫌そうな顔をする。

 レティは呆れた顔でため息をつき、額を抑えた。

 

「……同じようなことがずっと続くかもってことですか」

「そう思いたくはないが……そうかもしれないね」

 

「先生……やっぱり不運の手紙の間違いでは?」

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