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捜索屋は祈らない  作者: 咲茉シオ
第二章
32/37

32 見知らぬ友人

 ロザリンドの話を聞いて、ふたりは顔を見合わせた。

 そうだろうとは思っていたが、やはり狙われているのはこの『幸運の手紙』のようだ。

 

「だから、できれば受け取りたくないんだけど……だめかな?」

 

 ロザリンドは手を合わせ、お願いのポーズをとる。

 

「……警察から依頼されている以上、持ち主に返すところまでが私たちの仕事だからね。拒否された場合は宛先の方を探すだけだ」

「そうだよね……でも……こんな変な手紙、あげたくないよ」

「どうしますか?」

「うーん……」

 

 ロザリンドは唇を尖らせ、目を細める。

 指をぐにょぐにょと動かしながら手紙に近づけようとするが、すんでのところで……腕をひっこめてしまう。

 

 見かねたレティは、ふぅと息を吐くと、警察からの委任状を広げた。

 

「ユール。こちらの手続きとしては……受け取りのサインさえもらえれば、別の人の手に渡っても問題はないな?」

「ええ、委託を受けた際の書面を見た限り、受け渡し後の取り扱いに関しては規定されていません」

「え、……引き取ってくれる……ってこと?」

 

 ロザリンドはきょとんとした顔でレティを見やった。

 レティは頷くと、自分の名刺の魔術師の方の肩書を指さす。

 

「私とユールは魔術師でもある。こういった曰く付きの物品の処分に関しては、少し心当たりがあるので……そういった依頼なら力になれるだろう」

「で、でもきみたちに苦労を掛けたいわけじゃ……ないんだよ」

「もちろん……タダで、とはいかないさ」

「はは、商売上手だね」

 

 ロザリンドは笑みを浮かべると、握りしめた拳を開いた。

 ゆっくりと息を吐くと、躊躇いながらも手紙の端に触れる。

 様々な人の手を渡り歩いた手紙は、色は褪せ、文字も少しかすれ始めている。

 ロザリンドは書類の横に並べていたふたりの名刺を手に取ると、何かを思いついた様子でふたりに向き直った。

 

「そうだ。ねぇ、あなたたちって……何だっけ、捜索屋さん? なんだよね?」

「あぁ」

「探してくれない?私の、お友達」

「手紙の宛先の方ですか?」

「そう。出せなかった手紙の顛末を伝えてから……数か月後かな?突然返事が来なくなったと思ったら、引っ越しちゃってたみたいで……それ以降連絡が取れていないの」

「他に共通のお知り合いはいない……感じですかね?」

「ペンフレンドなのよ。……手紙だけのお友達。だから、手紙に書いてあったことしか知らなくて」

「それは……残念ですね」

「数年はやり取りしてたから……ショックだったな」

 

 ロザリンドは口元に笑みを浮かべてはいるが、眉は少し下がり、瞳には悲しみの色が宿る。

 

「もし、もう一度言葉を交わせるなら。探してほしい」


 

 レティは頷くと、ポケットからメモ用紙を取り出した。

 

「依頼を受ける前にお伺いしても良ければ、だが。他に何か……手掛かりはあるだろうか」

「それはもちろん構わないよ。そうだね……彼の名前はここに書いてある通り」

 

 封筒の差出人欄には、角ばった文字で『ニコル・メレディス』の名が綴ってある。

 

「あたしはそう聞いてた。でも……この住所に行っても、彼のことは誰も知らなかったんだよね」

「実際に行ってみたんですね」

「さすがに気になったからね。結局、引っ越した人がいることしかわからなかったけど」

「男性?」

「うん。あ……それも、そう聞いている……としか言えないけどね。……あたしが知ってる彼は、本当はいないのかも」

 

 ロザリンドはどこか遠くを見るような、少し寂し気な眼をした。

 

「あとは確か……どこかのお屋敷で働いているって聞いたことがあるよ」

 

 ロザリンドは本棚から1冊のノートを取り出し、パラパラと数ページめくると、ふたりに開いて見せた。

 開いたページには、花びらが数枚貼り付けられている。

 やや色あせているものの、濃いめの赤い花びらだ。

 

「あ、中の文字はあんまり読まないでね。日記なんだけど……花びらの押し花が手紙に同封されていることがよくあってね。働いている屋敷でたくさん咲いているって何度か書かれていたはずよ」

「これは……何の花でしょうか」

「薔薇の花びらだ」

「あら、お花好き?花びらだけでわかるんだ」

「まぁ……ね。毎回同じ花?」

「うん、年中いつも薔薇。あたしの名前にちなんでバラをくれた……んだと思っていたんだけど……違うのかな」

「さて……ね」

 

 レティとユールは顔を見合わせた。

 アルディアで花……それも薔薇が咲く屋敷でまず思いつく人物といえば、あの人だ。

 

「先生、もしかして……」

「その人からの手紙……筆跡を見たいんだが、何か見せてもらうことはできないか?」

「いいよ。ちょっと待ってね」

 

 ロザリンドは棚の箱から封筒を1通取り出し、レティへ差し出した。

 

「どう?知ってる人の文字かな?」

「いや……マリス師の筆跡じゃないな」

 

 キャシーの字は全体的に丸く、流すところはやや長く、曲げるところはやや大きく、自信があふれ出ているような文字を書く。

 対して、手紙の筆跡は角ばっていて、全体的に細くコンパクトな文字だ。

 レティは幼いころから何度も見ている。間違えるわけがない。

 

「そう……」

「さすがにうまくはいかないか」

 

 少し落胆するレティとロザリンドに対し、ユールは文字を見てどこか引っかかりを覚え、頭をひねっていた。

 

「この文字……」

「見覚えが?」

「うーん、それが……ちょっと思い出せなくて。見覚えがあるような、ないような……。でも僕は……いえ、やっぱり気のせいかもしれません」

「君は日々沢山の書類を読んでいるしね。……もし思い出したら教えてくれ」

「ええ、もちろんです」

 

 ユールは目を細めた。どこかで見たような気はする。

 けれど、もやがかかったようではっきりとは思い出せない。記憶の奥底に沈み込んでいるようだ。

 あれは、いつだっただろう。

 

「他に思い当たることは?」

「そうだね――」

 

 普段の手紙の内容は街についての話が多かったようだ。

 魚が好きな食べ物だとか、街歩きが趣味だとか……いくつかの特徴を聞いたものの、どれも直接特定に繋がるものではなさそうだった。


「最後の手紙ではどんな話を?」

「ああ……それが、もしかしたらそれで嫌がられちゃったの、かもしれなくて」

「というと?」

「来年この街を離れるから……できたらその前に会いたいって話を、書いたの」

「彼の反応は……芳しくなかったわけですか」

「うん。会うことはできないと、はっきり書かれてた。それでもお願いって書いたら……返事もこなくなっちゃった」

 

 ロザリンドはおどけたように笑みを浮かべて告げたが、顔はすぐに俯いてしまう。

 

「何か……事情があったんだろう」

「そう、だよね」

 

「それで……どうかな。手紙の処分と、ペンフレンドの捜索。お願いできそう?」

 

 ロザリンドは自信なさげにふたりへ問いかけた。

 

「処分の方は問題ない。捜索の方は……実際に調べてみないことには明言はできないが、概ね……方向性は見えている」

「そっか。まぁ……手紙の処分さえできれば。おいくらかしら?」

「ユール、料金表を」

「こちらに」

 

 いつの間に用意したのか、ユールはすぐに横から料金表をロザリンドへ手渡す。

 オプション欄の『曰く付きの品』『競争相手あり』『処分』にチェックが入っている。

 ロザリンドは苦い顔をした。

 

「この『競争相手あり』っていうのは……もしかしてもう……」

「正直にお伝えしますと、既にこれをお預かりしたことで僕たちは狙われているみたいなんですよね」

「あ、やっぱり。ごめんねぇ。処分をお願いするとなるともっと狙われそうだけど……いいの?」

「まぁ……そのあたりの厄介ごとも含めての金額にはなっている」

 

 ロザリンドは料金表を今一度じっくりと眺めた。

 確かに、『曰く付きの品』『競争相手あり』『処分』欄の追加料金については他のオプションと比べても遥かに金額が高い。

 

「前金で半分いただきます。残り半分は成功報酬です」

「なるほどね。わかった、お願いするよ。幸運の手紙のおかげ……とは思いたくないけど、おかげさまでお金には困ってないんだ」

「では受け取りの書類と、こちらの契約書にサインをお願いします」

 

 ロザリンドはユールから書類を受け取ると、丁寧に名前を綴った。

 

「お願いします」

「承りました」

 

 ロザリンドは手紙を手に取ると、まだ少し震える手で宛名の文字を懐かしそうになぞった。

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