33、水の国-2
「待たせたの」
部屋のあれこれを楽しく見ている内に、どう見ても地位が高そうな女性と、男の子2人が部屋に入って来た。
『ん?』
「む」
わたしが顔を上げて女性を見上げると、丁度こちらを向いた女性と視線がかち合った。
藍色のさらっさらの髪が膝あたりまで伸びていて、着ているドレスがあまり見えない。ぷっくりと潤った真っ赤な唇、つんと尖った鼻、垂れ気味の瞳は深海みたいな重たい青色。
美人は美人でも、お色気たっぷりなタイプの美人さんだ。
「竜……?古代竜かえ?また随分と珍しいのを仲間に加えたの」
『じょおうさま?』
「如何にも。妾こそ水の国・ヴァッサー女王国の女王、アクアじゃ」
アクア女王様が豊かなお胸を張ると、たゆんと揺れた。万里乃さんと違って、結構谷間まで見えるドレスを着ているから、たゆん!という感じだった。迫力がある。
『あくあじょおうさま?わたしはね、えすてれら。よろしくね』
「うむ、よろしくな」
アクア女王様はゆったりと頷くと、ついっとアルフォンスに視線を移した。
「久しいの、炎の勇者」
「そうですね。4年ぶりくらいか?」
「5年ぶりじゃ。そなたが我が国の勇者を苦手としておるからの」
「に、苦手って訳じゃ……」
口籠もるアルフォンスを尻目に、アクア女王様は部屋の中のみんなに座るように手で指示した。
何だかマイペースな人のようだ。
「それで?そなたらは我が国に何ぞ探しに来たと聞いたが」
「その前にアクア女王、その子達は……?」
イドラちゃんが控えめに声を上げると、アクア女王様は「おお」と手を打った。
「忘れておったわ。こやつらはの、妾の子じゃ。両方男故、王位継承権はないがの」
「初めまして、炎の勇者様方。ヴィーズと申します」
「イシュケだ!5さいになった!」
礼儀正しい利発そうな少年と、訊いていないのに手をぱーにしてみせるやんちゃそうな幼児。
【王子じゃん!?将来有望そうな顔面だ……!】
何やら美奈が興奮している。頭の中で叫び声が響いて、ちょっと煩い。
「まあ、王にはなれずとも、将来はこの国を支えたいと申しておる故、こうして人脈作りの為に妾に着いてくることを許しているというわけじゃ」
「へえ、偉いな」
「恐縮です」
と言っても、終始丁寧にみんなと接しているヴィーズ王子はともかく、イシュケ王子にそのあたりの意思があるかは怪しい気がする。幼児だし。
「それよりもアルフォンス、さっさと本題に入れ」
エリアさんに促され、アルフォンスがアクア女王様に向き直る。
「ああ、そうだった。アクア女王、月華草はご存じですか?」
「ふむ?……その性質上、我が国とは縁がある故一度見た事はあるが」
「どこにあるかご存じですか?」
流石にその質問で、わたし達が求めているものを察したらしく、アクア女王はむむむと唸った。
「それはのう、妾も知りたいくらいじゃ。妾が見たのは戴冠の儀式の時にしか入れぬ場に咲いている1輪だからの。無論国宝並みの価値故、譲ってやることは出来ぬ」
「そうですか……」
肩を落としたアルフォンスを余所に、ヴィーズ王子が尋ねた。
「その、月華草とはどういった見た目なのですか?」
「清い水の中に生えとる花よ。白い小ぶりな花が鈴なりに生えておっての、ぼんやりと光っている。それはそれは幻想的であった……」
「ははうえ!」
と、それまできょろきょろと落ち着かなかったイシュケ王子が目を輝かせて挙手した。
「む?何じゃイシュケ」
「わたしもそのはなをみたことがあります!」
「……何じゃと?」
「まのもりにいっぱいはえているところがあるのですよ!」
「イシュケ?そなた……」
アクア女王様はとても、とっても優しげな声でイシュケ王子を呼んだ。
イシュケ王子は褒められるのを期待してか、「むふー」と自慢げだったが、アクア女王様と目が合った途端に顔を引き攣らせた。
そして落ちる、特大の雷。
「――魔の森に勝手に入りおったな!!!」
「ひっ」
「妾にねだって辺境の視察に着いてきた時の事か!!妾は言ったぞ、『勝手に出歩くな、特に魔の森には近付く事も許さん』とな!!!」
イシュケ王子の大きな瞳が見る間に潤んで、涙目になる。
わたしは、気怠げな美人の突然の豹変に、ぴょっと飛び上がった。飛び上がって、イドラちゃんのお腹に頭から突っ込んだ。
「大丈夫大丈夫、あれはエステレラを怒ってる訳じゃないからね」
イドラちゃんが小声でわたしを宥めながら背中を撫でてくれる。わたしはそれでようやく落ち着いて、般若と化したアクア女王様とイシュケ王子のやり取りを眺めた。
アクア女王様の叱責は、ただヒステリックに怒鳴る訳ではなくて、言いつけを破ったらどんな事が起こるのか、護衛の騎士達にも責が及ぶかも……と、幼児にも分かるような内容だった為に、イシュケ王子はしゃくりあげながら謝罪を繰り返していた。
「――イシュケ。何故悪かったのか、何故妾が怒ったのか、理解出来たな?月華草の発見はお手柄だが、妾はおぬしを褒めることはせぬ」
「ぅぇ、ひっく……あい……」
「褒められぬから月華草の群生地を言わぬ、と言うても妾は怒らぬぞ。さあ、どうする?」
「いいまず……」
「……そうか。ありがとう、イシュケ」
アクア女王様が優しく微笑むと、イシュケ王子はびええと大泣きした。ヴィーズ王子がちょっぴり羨ましそうな顔をしていたのは、武士の情けとして黙っておいてあげようと思う。
……とはいえ、1年程前の話で、実際はイシュケ王子も場所をほぼ覚えていなかったのだけれど。
読んでくださりありがとうございます。
アクアの性格及び喋り方は趣味100%です!!!




