31、大地の勇者-2
「そういえば、フランメ帝国の貴族達が獣王に炎の勇者の事で揶揄されて、また顔を真っ赤にしてたらしいわよ」
ふと、ジュリアナお姉が出した情報に、アルフォンスは渋面を作った。
「そんなんだから居つきたくねえんだっつーの。勇者は国のものでもないし、もちろんアクセサリーじゃない。気付いて……たら今頃あの国はもっとましになってるか」
「相変わらずフランメ帝国が大嫌いみたいね。でもあの国の元貴族として言わせてもらうと、皇族くらいは毛嫌いしないであげてほしいわ。古い大貴族よりも感性がわたくし達に近いし……まあ皇帝陛下も独裁者ぶって意見を押し通す程我が強くないし、表立っては大貴族に反発できないようだけれど」
「皇族が実は亜人共存派ってのは確かにたまに聞くが、あのフランメ帝国のトップだろ?いくらあんたの情報でも鵜呑みに出来ない」
アルフォンスの言い草は、流石にジュリアナお姉が気分を悪くしそうなものでひやりとしたが、意外にもジュリアナお姉は苦笑しているだけだった。
「まあねえ。アルフォンスがフランメ帝国に歩み寄ろうとなんてしたら空から槍が降るわね、きっと」
「アルとダリアがあんな目に遭ったんだから、あたしもあの国への心証は最悪だしねー」
ジュリアナお姉とイドラちゃんがそう言った後、意外にも万里乃さんも彼女にしては過激な物言いをした。
「ええ。皇帝陛下は悪い方ではないけれど、だからといってフランメ帝国の事を許す必要はないと思うわ」
女性陣の言葉から、アルフォンスとダリアちゃんがフランメ帝国で余程酷い目に遭ったのだろう事が分かる。アルフォンスのフランメ帝国嫌いにはちゃんと理由があったらしい。
……因みに万里乃さん、悪い方ではないって言い方からして皇帝とお知り合いなのですか……?つくづく底知れない人だ。
『ねえねえ、じゅりあなおねえ』
前足をジュリアナお姉に向かってふりふりしながら話しかけると、ジュリアナお姉は相好を崩した。
「なあにー?おちびさん」
『えすてれらだよ!じゅりあなおねえはふらんめていこくのきぞく?なの?』
「えすてれら……エス、テレラ?エステレラちゃんっていうの?可愛い名前ねぇ!
それで、わたくしがフランメ帝国の貴族か、だったかしら?そうよぉ、まあ『元』だけれどね」
元ということは、実家と縁を切ったのだろうか?もしかしたら、女性の格好をする事が家族に理解されなかったのかもしれない。
想像して勝手に落ち込み、耳をへたらせていたら、エリアさんがバッサリと、わたしの中で羽ばたく妄想の翼を断ち切ってくれた。
「貴様の実家は『元』だと思っていないだろう。私の所にまで『実家に一時でいいから顔を出すよう説得してほしい』と手紙鳥が来たぞ。……全く、私の居場所などどうやって知ったのだか……」
「あらあ、迷惑かけちゃってごめんなさいね」
「全くだ」
ぼやくエリアさんは、また爪の形を整えている。というか暇な時間が出来ると爪の手入れをしているような。何なのだろう。爪に形にそんなにこだわりがあるのだろうか。
わたしの視線に気付いたエリアさんが、顔を上げて柳眉をひそめた。
「……何だチビ助」
『つめのおていれすきなの?』
【ナルシストなの?】
美奈の声が聴こえた筈もないけれど、エリアさんは仏頂面になった。
「好きでやっている訳ではない。……昔知り合った変わり者に爪の形を整えられて以来、剣を握る時に爪の形が歪んでいると気になるようになった。……全く余計な事をしてくれたものだ」
エリアさんは言葉とは裏腹に、懐かしむような温かい顔をしていた。
『かわりものー?』
「ああ。エステレラという単語を私に教えたのも同じ者だ。……少し喋りすぎたな」
普段あまり喋らないエリアさんが珍しく自分の事を喋ったので、驚いて目を丸くしていたら、エリアさんはまたすぐ黙り込んでしまった。
「エリアの話にたまに出てくるよね、その人」
「そうか?」
イドラちゃんがこくりと頷く。
「うん。エリアって他人の話なんて基本しないから印象に残ってるもん」
「ああ、分かる。エリアって他人に興味ないよな」
「否定はしない」
アルフォンスとイドラちゃん、つまりエリアさんの弟子コンビに断言されるも、当のエリアさんが頷く。これは「他人に興味とかありませんが、何か?」とでも言いだしそうというか、本気で気にしていないようだ。
「エリアが、というか森人族が、じゃな。他人に興味が薄いのは」
「超長命種なんて、ある程度生きていれば人に対する興味が薄まるか、突き抜けて慈愛になるかだものね」
エリアさんと万里乃さんが、ギャリックさんよりも長生きであることは知っているけれど、万里乃さんの言い草からして、相当に差があるようだ。
あまり長生き過ぎるのも考え物だな、と思う。
「……あたしが死ぬまでにエステレラの大人姿は見れるのかなあ」
「ふきゅ!?」
イドラちゃんの呟きに驚きすぎて、鳴き声が出てしまった。
『こ、こだいりゅうってそんなにおおきくなるのおそいの!?』
「少なくとも他の竜はかなりゆっくりだよ。古代竜については知られてないことが多いから何とも言えないけど、ね」
『そんなにながいきしたくないなあ』
「え、何で?」
イドラちゃんがわたしの顔を覗き込んできた。わたしは溜息混じりに答える。
『だれかとなかよくなっても、さきにしなれちゃう。そんなのなんかいもたいけんしたくないよ』
しん、と場が静かになってしまったので、何かまずい事を言ってしまっただろうかと慌てて顔を上げる。何故だかみんな、目を丸くしてわたしを見ていた。
「幼子のように思っていたが、やはり古代竜なのだなぁ」
「エス坊、そんな大人びた話できるんだな……」
それはつまり、わたしが普段小さい子みたいな話しかしていないという事だろうか。心外である。遺憾である。
「少なくともこの中でなら、私とエリアなんてこの先エラと何千年という付き合いになるのだから、そう悲観したものでもないのよ」
万里乃さんに慈母の微笑みでそう言われ、何千年と生きた自分を想像してみようと思ったけれど、うまく出来なかった。
その頃のわたしは、一体どんななりで、何を考えて生きているのだろう。
読んでくださりありがとうございます。
ちなみに彼ら、前話から一歩も動いていません。笑
そうそう、それからエリアの爪の話は頂いた感想から思いついた話なんです。逆輸入?ですかね?




