30、大地の勇者-1
わたし達がその村に到着した時、大地の勇者は畑にいた。
とても長身な事を除けば、立ち振る舞いも格好も、どこぞのご令嬢みたいな人だった。
彼女はシンプルなドレスの上から茶色のローブを羽織り、楚々とした仕草で手袋を嵌めた手を振る度に、土がぼこぼこと蠢いている。
「……はい、石は取り除いたわよ。ついでにサービスで土に栄養をあげておいたから」
「ありがとうございます!勇者様!」
背が高いからだろうか?声はハスキーで、落ち着いた中性的なものだ。茶色の筈なのに、やけに煌びやかな色味の長い髪がさらさらと風に靡く。
わたし達の気配に気付いたのか、振り向いたその顔は清楚な美女。
「よう、ジョン」
「ジュリアナって呼べって言ってるだろうが!!」
……なので、アルフォンスの呼びかけに反応した時の、般若のような顔は一層恐ろしかったし、どすの効いた、どう考えても成人男性のものとしか思えない怒鳴り声には背中の毛が逆立った。
「ジュリアナはね、間違えて男の体で生まれてきちゃったんだって」
『まちがえちゃったの?』
【所謂オネエってやつかな】
『おねえ?じゅりあなおねえ?』
ほっそりと手袋に覆われた手でアルフォンスの頭を鷲掴みにしていた大地の勇者が、ぐりん!と首を捻ってこちらを見た。
そして、ぺいっとアルフォンスを投げ捨てて駆け寄ってきた。
「いやーん!かーわーいーいー!今ジュリアナお姉って呼んでくれたわよね!?この子古代竜!?」
『そうだよー。よろしく、じゅりあなおねえ』
【あー……ま、いっか】
美奈がもごもごと何か言っていたけれど、大地の勇者改めジュリアナお姉が寄って来ていたので、放っておいた。
ジュリアナお姉は、ずずいっとわたしに顔を寄せた。潤んで輝く瞳は海の浅瀬のようなエメラルドグリーンをしていて、やはり髪と同じで何だかきらきらしている睫毛がボリューミー。くりんと上向きにカールしているので、一層華やかな印象だ。肌もきめ細やかだし、ぽってりとした唇なんて色っぽくて、どこからどう見ても美女だ。
「ちょっとイドラ、この子どうしたのよ!?」
「拾ったの」
「ええ?古代竜の幼体がその辺に落ちてるわけ……」
『ひとりぼっちでゆきにうまってたの。しんじゃうかとおもったなあ』
「まあ……」
ジュリアナお姉は絶句した。
「……詳しい事は分からないけれど、大変な思いをしたのねえ。アルフォンスは頼りないけれど、いい人たちに拾われてよかったわね」
『うん!』
ジュリアナお姉は顔を和ませ、わたしをひと撫でしてから、アルフォンスに目をやった。
「それにしても、貴方達がこの国に来るなんて珍しいじゃない。ヴァッサー女王国にでも行くの?」
「そうなんだよ……。用事が出来ちまってさ……」
アルフォンスが憂鬱そうにぼやいた。
「まだスーラちゃんに苦手意識持ってるの?あんな可愛い子に絡まれるんだからちょっとは喜びなさいよ」
「絡まれてる時点で無理だろ……」
「わたくしは風の勇者が苦手だけれどね。美しくないんだもの」
「知ってる」
てっきりアルフォンスがジュリアナお姉に嫌われているのかと思ったら、普通に会話し始めた。どうやらジョンと呼ばれなければ気にしないようだ。
「――ああ、お客さんを畑で立ちっぱなしにさせるなんて駄目よね。折角来てくれたのだし、もう少しお話ししましょう?せめて木陰に行きましょうか」
「おう」
この村の周りは緑が多く、大きな木もそれなりに生えている。ここでお昼寝したら気持ちよさそうだ。
ジュリアナお姉に先導されて木陰に入ると、ひんやりした風がすうっと吹き抜けた。
ジュリアナお姉がまたも手をひと振りすると、土が盛り上がってもこもこ動き、やがて瀟洒なテーブルと椅子になった。色こそ土の色だけれど、デザインがお洒落だ。凄い。
『わー!じゅりあなおねえすっごい!』
「ふふ、ありがと」
みんなは各々椅子に腰掛けた。
「まず、そこの小人族の彼は新メンバー?」
ジュリアナお姉が視線を向けたのは、ヒリンさんだった。ヒリンさんはその美少年顔ににこりと微笑みを乗せ、首を振った。
「いえ、私の事はお気になさらず。言うなれば臨時メンバーのようなものだとお思いいただければ」
「そうなの?……炎の勇者一行はメンバーが全然変わらなくて凄いわよね」
改めてみんなの顔を見回しながら、ジュリアナお姉がしみじみとそんな事を言う。
「わたくしなんて今1人だから、一行って言えないわよ」
「前のメンバーは解雇したの?」
万里乃さんの問いに、ジュリアナお姉は溜息混じりに答えた。
「ほら、わたくし達は3人だったじゃない?覚えてるかしら、1人派手好きな子がいたの。わたくしは大地の勇者だから、土いじりが得意でしょう?だから基本的に今日みたいに村々の土に関する困り事を解決するのがお仕事なんだけれど……。嫌気がさしたって言ってたわ。脱退しちゃった」
「あー、その人は派手に目立つ事がしたかったんだ」
「らしいわ。それで、その子が脱退する時にちょっと揉めて……それが原因でぎくしゃくして、結局はもう1人の子もいなくなっちゃったわ」
「ジュリアナのとこは本当、メンバーが長続きしないよね……」
イドラちゃんのしみじみとした言葉に、ジュリアナお姉は項垂れてしまった。
「わたくしも気にしてるのよそれ……見る目がないのかしらね……」
「良い縁に恵まれるかどうかは神任せじゃからのう。そればっかりは祈るしかなかろうて」
ギャリックさんが酒を呷りながらジュリアナお姉を慰める。
「そうねえ……。そもそも、わたくしがこんななりだから、男性はほぼ嫌がるでしょう?そうなると既に、世界の半分の人類から拒否されてることになるのよね」
自分で言って、自分で傷つくジュリアナお姉。確かに1人では旅も大変だろうし、何より寂しいだろう。
わたしからも神に祈っておこう。ジュリアナお姉が良縁に恵まれますように。……あれ?良縁だと意味合いが違う?
読んでくださりありがとうございます。
大地の勇者、ジュリアナ登場。
……ヒリンの存在を忘れていて、慌てて加筆したなんてそんなことは……!!




