29、大地の国、首都-3
わたしは、「いつでも遊びに来て頂戴ね!」と名残惜しそうにするザーラさんと別れ、ジジアルさんに抱っこされながら、その時を待った。ジジアルさんに、振られた尻尾がぺしぺし当たるくらいにわたしは興奮していた。ジジアルさんには申し訳ないことをしたと思う。
炎の勇者一行が部屋に入ってくるなり、わたしは駆け出した。ジジアルさんが丁度いいタイミングでわたしを放流したので、阻むものは何もなかった。
「エステレラ!」
「きゅう!」
イドラちゃんは、目の下にくっきりとくまを作っていた。心底ほっとしたような、泣き出しそうな顔をしてわたしの名前を呼ぶものだから、わたしは文字通り言葉も忘れてイドラちゃんに飛びついた。
わたしが駆け寄るのを見ていたイドラちゃんはしゃがみこんでいたので、わたしは遠慮なく、飛びつかれて尻餅をついたイドラちゃんの顔をぺろぺろした。
イドラちゃんが、そんなわたしをぎゅっと抱きしめて、震える声で言う。
「心配したんだから……」
『ごめんね、いどらちゃん』
「!?」
わたしの首筋から顔を離したイドラちゃんは、目を真ん丸にしてわたしを凝視した。
「え、今喋っ……」
「イドラ、その辺にしておけ。王の前だぞ」
アルフォンスに窘められ、初めて場を思い出したらしいイドラちゃんが、素早い動作でわたしを抱きかかえて立ち上がった。
「ははは!別に構いやしねえよ、エステレラが大事にされてるのがよく分かって安心したくらいだ」
グランド王様が大らかに笑ってそう言った瞬間、イドラちゃんの手がぴくりと動いた。
「感謝します。まさかエス坊、いやエステレラがグランド王に世話になっているとは……」
「おう、庭園に迷い込んでんのをジジアルが見つけてな、話を聞いたら『イドラちゃん』とはぐれたっていうからもしかしたらと思ってな」
「……エステレラの口から聞いたのですか?」
「そうだが……さっきの反応からして、エステレラは喋れなかったのか?」
グランド王様が訝しげに尋ねてきた。
「ええ」
「古代竜だよな?喋れないなんて事あんのか?」
「エステレラの場合、事情がありまして……」
グランド王様はふむ、と頷く。
「まあ、その事情とやらについては聞かないでおく。
今日炎の勇者一行を呼び出したのはエステレラに会わせる為だからよ、依頼を要請したい時はまた頼むぞー」
「ええ、その時はまたよろしく」
「大地の勇者には会ってくか?もし会うならひと言言っとくが」
「あー、そうですね。この国にもそんなに来れませんし、会っておこうと思います」
やはり、この国にも勇者がいるらしい。
どんな人なんだろう。女の人か男の人か……岩人族でない可能性もあるのだろうか。
イドラちゃんの腕の中に収まったわたしは、はやくもまだ見ぬ勇者に思いを馳せていた。
「やはり、真っ先に名前を出すだけあってエステレラはリラックスしてんなあ。な、ジジアル」
「左様でございますね」
すっかり解散する雰囲気になったので、みんなは踵を返した。
と、ギャリックさんにグランド王様が声をかける。
「……ギャリック。元気そうで良かったよ」
「ほ。陛下もご健勝のようで。まあジジアルがお傍にいれば心配はいらんでしょうが」
「そうだな……」
「エステレラ~!無事でよかったよ~!」
城から出るなり、イドラちゃんは高速でわたしの背中に頬ずりした。
「イドラは心配しすぎて、夜じゅう探知魔術を使っていたのよ」
『たんちまじゅつ?』
わたしが首を傾げると、イドラちゃんは「そうだった!」と立ち止まった。
「エステレラ、いつ喋れるようになってたの!?初めて喋る瞬間は絶対見逃さないようにしようと思ってたのに!」
『あのね、きづいたらはなせてたからよくわかんないなあ』
「そっかあ~!よく分かんないならしょうがないな~!」
イドラちゃんのテンションがやたらと高い。どうしたのだろう。
【徹夜明けでハイになってるんじゃない?】
ああ、なるほど。言われてみればそんな感じだ。
「ねえ、エラはイドラの事を『イドラちゃん』って呼ぶのね。じゃあわたしの事は何て呼んでいるのかしら」
『まりのさん!』
「あら、さん付けなのね」
『まりのさんとぎゃりっくさんとえりあさんとひりんさんは『さん』なの!』
「え?俺は?」
アルフォンスが自分を指して訊いてきたので、わたしは元気よく答えた。
『あるふぉんす!』
「ぶふっ」
わたしが答えた瞬間、誰かが噴き出した。
みんなの顔を見回してみると、一様に顔を背けてぷるぷるしていて視線が合わない。
「え……俺だけ呼び捨て……?」
アルフォンスの呆然とした言葉で、やっとみんなが何に引っかかっているのか分かった。
……でも、アルフォンスはアルフォンスさんって感じじゃないし。
歩きながらみんなと和やかに喋っていて、ふと空を見上げたら白い鳥が飛んでいた。
『とりさん!』
「ん?」
わたしの視線を辿ったイドラちゃんが、「あれは手紙だよ」と言った。
意味が分からなかったけれど、白い鳥がエリアさんに向かって飛んできて、エリアさんの手の上で解けて封筒になったのを見て、わたしの口は思わず半開きになった。
イドラちゃんが私の下顎に手を添えて、口をぱくんと閉めながら、教えてくれた。
「あれはね、手紙を鳥の形にして飛ばす魔道具だよ。タイミング的にジジアル宰相からかな?結構お高いから一般人はおいそれと使えないんだよね……」
便利な物もあるものだなあ、と感心しながらふんふん頷いていたが、イドラちゃんの言葉を反芻して、首を傾げた。
『さいしょう?』
「ん?ジジアル宰相の事?竜人族と岩人族の混血なんだって。宰相まで上り詰めるのに相当頑張ったんだろうね」
『ほえー』
とかげみたいな尻尾や、肌の所々に浮かぶ鱗は竜人族の血の名残だったようだ。
城にはジジアルさん以外、岩人族じゃない人は見かけなかったので、他種族の血が入っているとすぐ分かるジジアルさんが宰相になるまでにきっと、色々な苦労があったのだろう。
「大地の勇者の居場所についてだった。ヴァッサー女王国との国境近くにいるようだ」
手紙を読み終えたエリアさんが、内容を教えてくれた。
次の目的地は大地の勇者のいる所、そしていよいよ水の国・ヴァッサー女王国だ。
……その前にまた山越えがあるのだろうけれど……。
読んでくださりありがとうございます。
風邪引きました……。季節の変わり目って体調崩しやすいですよね。皆様もご自愛ください。笑




