28、大地の国、首都-2
わたしが迷い込んだ場所は、なんとお城だった。もっと詳しく言うなら、お城の庭園だった。
そしてジジアルさんは、恐らく偉い人だ。
何故そう思ったかって、王城の奥まで顔パスで入れて、簡単に王様と会っていたからだ。
今、わたしはジジアルさんの腕の中で、この国の王様とご対面している。
「これが古代竜の幼体か……。ちっせえな」
「幼体ですからね」
王様は、黙っていれば威厳があって、緊張してしまうような相手だったけれど、今は王様の頭に出来たこぶが気になって、それどころではない。
王様のこぶを生み出した張本人であるジジアルさんは、全く気にしていないけれど。
ジジアルさんが、「お!ジジアルが小動物抱えてやがる!似合わねえ!」と大笑いした王様の頭を躊躇なく殴りつけた時は、どうしようかと思った。けれど彼等にとっては慣れたやり取りだったようで、王様は痛い痛いと笑っていた。
「この古代竜は『イドラ』という人物とはぐれたと申しているのですが」
「イドラ?炎の勇者一行にそんな名前の奴いなかったか?」
『あるふぉんすはゆうしゃだよ!いどらちゃんはなかま!』
わたしがもつれる舌を必死に動かして言い募ると、王様は仰け反った。
「おう!?……そうか、古代竜だもんな。そりゃ喋るか」
「炎の勇者の名も一致している。あの一行と旅をしていたのか?」
『うん!わたしをさとにつれてってくれるの!』
「へえー、良かったなあ」
『うん!』
王様が、ごつごつした手で頭を撫でてきたので、もうすっかり撫でられ慣れているわたしは、王様の手に頭をこすりつけた。
「……なあ、ジジアルよ」
「何でしょう」
「これはこれで最高に可愛いが、話に聞く古代竜とずいぶん違うよな?」
「幼子の魂が古代竜となったのではないかと愚考します」
「なるほどなあ……。そうかもしれねえな」
王様が、慈しみのこもった目でわたしを見てきた。ジジアルさんも眉間の皺が薄まっている。
わたしの前世が、成人済みの美奈だという事は秘密にしておこうと思った。
「炎の勇者一行といえば……ん?そういやお前さんの名前はなんていうんだ?」
『わたし?わたしはえすてれら!おうさまは?』
「えすてれら……エステレラ、か?ほう、綺麗な響きだなぁ。おれはグランドってんだ。よろしくな!」
『ぐらんどおうさま?よろしくね!』
「おう。それで、エステレラ。炎の勇者一行と一緒にいたってことは、ギャリックとも一緒にいたんだろ?元気そうだったか?」
何故ギャリックさん?と思ったが、そういえばギャリックさんはこの国の出身だった。
……いや、だとしても、故郷の王様に名前を出されるくらいの関わりがあるって、ギャリックさんは一体何者なのだろうか?
『げんき!いっつもおさけのんでるよ!しりあいなの?』
「ぶはっ!そうか、いっつも酒飲んでるか!変わってないようで何よりだ!
奴とは知り合いっつうか、幼馴染みだなぁ」
幼馴染み!王様の幼馴染みという事は、ギャリックさんって本当は立場の高い家に生まれたりしていたのだろうか?
わたしの脳裏に、優しい顔で笑うギャリックさんの顔が浮かんだ。次いで、みんなの顔も。
急にはぐれて、心配をかけてしまっただろう。怒っているだろうか?
「んきゅ……くぅん……」
みんなの事を思い出していたら、寂しさがぶり返してきて、また勝手に喉が鳴った。
「おお!?古代竜って鳴くのか!?」
「きゅっ」
グランド王様が間近で大きな声を出すものだから、じわりと滲みかけていた涙も、ついでに鳴き声も引っ込んだ。
「突然素っ頓狂な声を出さないでください。エステレラも驚いているでしょう」
「お、おう……すまん、エステレラ」
『いいよ』
そうだ、別に今生の別れでもないのだし、ジジアルさんはわたしをみんなに会わせてくれると言っていた。だから寂しがらなくていいのだ。
【そうだよー、エスちゃん。この人達いい人そうだし、きっと明日にでも合流できるよ】
美奈の言葉を聞いていたら、安心からか、眠たくなってきた。ふわっと欠伸も零れる。
「眠いのか?」
『ちょっとだけ』
「ソファーでよけりゃ寝てていいぞ」
許可が出たので、わたしはグランド王様が晩酌しながらくつろぐソファーの隣に降ろしてもらった。
ソファーはさらさらとした触り心地で、座り込んだらわたしの体がもふんと沈んだ。わたしは何周か回って、いいポジションを見つけてから、丸くなって瞼を下ろした。
「あらあ!どうしたのこの子!可愛い!」
耳にきいんとくる黄色い声で、わたしは強制的に起こされた。
「ふきゅ!?」
慌てて起き上がってきょろきょろ周囲を見回すと、寝ぼけ気味だった頭が段々覚醒してくる。
そうだ、わたしは今イドラちゃん達とはぐれて、お城でお世話になっているのだった。
「ああ、馬鹿お前……エステレラが起きちまったじゃねえか」
「あっ、ごめんなさいね」
グランド王様と並んで、全体的にころんとした体形の、気風の良さそうな女性が私を覗き込んでいた。
『おはよ』
「まあ!まああ!お話出来るのねぇ!おはよう、おちびちゃん!」
「いきなり起こしちまって悪いな。こいつにお前さんの話をしたら、どうしても見たいってうるせえから……」
『ぐらんどおうさまのおくさん?』
「そうだな」
「ザーラというの、よろしくね!エステレラちゃん!」
ザーラさんは肉厚な手で、そっとわたしを撫でた。
「炎の勇者達には、城に来るように言ってあるからな。多分そのうち来るだろ」
わたしはその言葉を聞いて、嬉しくて思わず、そわそわ前足を踏み変えたり、立ったり座ったりを繰り返した。
尻尾も勝手にぶんぶん振られている。いつの間にか、炎の勇者一行は、わたしにとって帰る場所になっていたようだ。
読んでくださりありがとうございます。
晩酌中に突然ちっさい竜を連れ込まれた王様の心情はいかばかりか……。笑




