27、大地の国、首都-1
エーアト・ボーデンって、素晴らしい!
「おーおー、飲んでるな。ほらエス坊、ナッツもあるぞ」
アルフォンスが、おつまみに頼んでいたナッツの皿を差し出してきた。
塩が振られていたようで、しょっぱい味が甘いお酒と合う。
そう!お酒大好きな岩人族の国だけあって、なんと甘いお酒もあったのだ!
今飲んでいるのはりんごのお酒だそうだ。ぱちぱちしていて、りんごの味と、ちょっと独特な香りがする。
「あれ?エステレラ、ちょっと赤くない?」
「あら、本当ね。毛で分かりにくいけれど、地肌が赤いみたい」
「ほほ、酒が回ったんじゃろ」
何だろう、覗き込んでくるみんなの顔が、二重にぶれているような?
【エスちゃん、酔っちゃったんじゃない?】
「りゅう……」
そんなことないよ、と頭の中で答えたつもりが、鳴き声が漏れてしまった。しかも発音が怪しい。
「呂律回ってないよ!エステレラ、もう飲んじゃ駄目!」
「呂律が怪しくなってからが本番じゃぞ?」
「飲兵衛は黙ってて!あたし達、宿に帰ってるから!」
「りゅ、りゅう!」
抵抗したつもりが、全然力が入らない。
でもわたし、酔ってないよ。
イドラちゃんの頭に張り付いて、人の多い通りを進む。
ヴィント獣王国では、日が暮れるともう、大通りにも人はほぼいなくなっていたけれど、この国、というか岩人族達は夜になっても出歩くようだ。今日到着したここは特に、首都だからか街灯も多くて、道が煌々と明るい。
「岩人族ってね、遅くまで飲み会するからこんな時間になっても人通り多いんだって。ギャリックが言ってたけど、実際に見たらちょっとびっくりするね」
「りゅ、きゅう」
夜風がさわさわとわたしの毛を揺らす。体がかっかと熱を持っているので、生ぬるい風も程よく冷たく思える。
「……て、いうか……人、多い!」
飲み屋街に入ってしまったのか、急に人がぐんと増えた。イドラちゃんは12歳なので身長も岩人族とさして変わらず、したがってわたしも人波に揉まれて息苦しい。
「うぎゅう!?」
「エステレラ!?」
そして、遂にわたしとイドラちゃんは分離した。違う、はぐれた。何故だか力がいつもより入らなかったのも原因だろう。
わたしは強かに地面に叩きつけられ、呻いた。しかし固そうな靴先に蹴られそうになって、慌てて痛む体に鞭打って起き上がった。
人はいっぱいいるのに、イドラちゃんはどこにもいない。わたしはたまらなく心細くなって、がむしゃらに駆け出した。
【エスちゃん落ち着いて!まずは人がいない所に行こう!このままじゃ蹴られちゃう!】
「きゅう!きゅうきゅう!」
だって足がいっぱいでそんなこと分からないよ!と言い返しながら、走る。
思えば生まれてこの方、こんなに走ったことはなかった。わたしは息が切れても走り続けた。
がむしゃらに走り続けて、いつの間にか人気のない場所にいた。
しんと静かで、わたしの息遣い以外音が無い。
「きゅう……くぅん……」
わたしの頭の中では、真っ白な雪の中で凍えていた記憶が蘇り、寒くもないのに勝手に体が震え始めた。
喉から勝手にか細くて哀れっぽい鳴き声が転がり落ちる。
けれど、いない。
イドラちゃんも万里乃さんもアルフォンスもギャリックさんもエリアさんも、誰もいない。
【エスちゃん……】
『みな、みな、さみしいよぅ……みんながいないよぅ……』
ぺたんと耳を伏せていたからだろう。わたしがその人の接近に気付いたのは、俯いていた視界に靴のつま先が映ってからだった。
「見た事の無い形だが竜か。という事は古代竜……?何故こんな場所に古代竜が落ちている?」
『……だあれ?』
わたしがのろのろと顔を上げると、暗くてよく見えないけれど、人がいるようだった。
岩人族だらけのこの国では珍しく、身長が高いので違う種族のようだ。よく見ると、蜥蜴のような鱗の生えた、立派な尻尾を持っているようだ。
『……りゅう?』
「竜と間違えられるとは光栄だが、私はただの混ざりもの……半端者だ」
『はんぱもの』
その人がしゃがみこんだので、ようやくぼんやりと顔が見えた。
肌の所々に鱗が散っていて、白っぽい顎髭が生えている。モノクルの向こうの顔は厳めしく、眉間の皺が凄い。
「その幼さで喋れるという事はやはり古代竜だな?何故ここにいる?」
『いどらちゃんとはぐれたの』
「イドラ?聞いた名だな」
モノクルのおじさんは、ふむ、と一拍置いた後、何やら頷いた。
「着いてくるか?会わせてやれるかもしれない。私の知っている人物と君の言うイドラという人物が同じなら、だが」
モノクルのおじさんは躊躇いがちに手を差し出してきた。わたしはその手に前足を乗せる。
『いく』
「ふむ。……抱えても?」
『うん。……ものくるおじさん、やさしいね』
モノクルのおじさんは、わたしを抱きかかえながら、すごく嫌そうな顔をした。
「モノクルおじさん、というのは私の事か?出来れば名を呼んでくれ。私はジジアルという」
『じじあるさん?わたしはえすてれら!だっこうまいね!』
「それはどうも」
ジジアルさんに抱えられてすっかり安心したわたしは、だらんと体の力を抜いた。
「それにしても、古代竜にしてはこう……。……警戒心が無さすぎないか?」
『そうかなあ』
「話に聞いていた古代竜とはずいぶん違うな……」
百聞は一見に如かずっていうもんね!
わたしはいつの間にか、すっかり安心して、ジジアルさんの腕に収まっていたのだった。
読んでくださりありがとうございます。
何気に自分の足で長距離移動するのは初めてなエステレラなので、恐らく肉球はぷにっぷにですね。笑




