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どらどら  作者: 山吹 てまり
1章、拾われたどらどら
26/42

26、声

 みんなでわいわいと夕食を摂り、体を休める為に早めに就寝した。

 窓の外には大きな月がまんまると浮かんでいて、夜とは思えない明るさだ。

 わたしは寝床代わりの毛布の塊を窓際に引きずっていって、鼻面で整えたあと、気に入る形になったので、上に乗って丸くなった。月明かりが煌々とわたしに降り注いでいるが、不思議と意識はすとんと落ちた。




 * * *




 真っ暗闇に、2つのスポットライト。

 前回と違うのは、向かい合った女性の顔が見える事だ。


【また会ったね、ええと、エスちゃん?】

『そうだね』


 返事をしてから、わたしはびっくりして前足で口を押さえた。この空間では、考えた事を言葉に出来るらしい。


【あはは、目がまんまるだ】

『おねえさん、だあれ?』


 舌っ足らずでつたない話し方に、少しむっとしたけれど、だからといってどうこう出来る訳でもない。ひとまず気にしないことにした。

 気を取り直して、女性の露わになった顔を見上げる。

 イドラちゃんたちと違って、肌は黄みがかっているというか、クリーム色?そんな色だ。焦げ茶色の瞳は大きくて、ちんまりした鼻や薄めの唇も相まって、あどけない感じがする。


【むふん。お姉さんはねえ……エスちゃんの前世の記憶なのだー!】

『……そうなんだ?』


 正直言ってあまりぴんと来なかったけれど、取り敢えず頷いておいた。


【あーん、満を期しての登場なのにエスちゃんぴんと来てないー】


 ばればれだった。

 女性は、こほんと咳払いをして、話し始めた。


【ほら、エスちゃん。知らぬ間に知識増えたりしてるでしょ?段々記憶の蓋的なものが緩み始めてるんだよ】

『うーん?』

【ええっと……例えばさ、サファイアって宝石、何色だったっけ?】

『あお!……あれ?』


 わたしは確か、万里乃さんの瞳をルビーに例えた頭の中の声、いや、この女性の言う『ルビー』が何なのか分からなかった。けれど、きっとルビーのお仲間だろうサファイアの色はすんなりと出てきた。わたしがエステレラとして生まれてからサファイアなんて見た事がないのに。


【その内、わたしの……『佐々木美奈』の経験した事も思い出しちゃうかもしれないね】


 佐々木美奈。それが彼女の名前であるらしい。区切る場所も不思議とわかる。美奈が名前で、佐々木が違うやつ。佐々木の意味はまだ分からないけれど、こういうのもその内分かるようになるのだろうか。


『おねえさん、みなっていうの?』

【ん?うん、そうだよ】

『わたしのあたまのなかでときどき、みなのこえがするよ』

【うえ!?うそお……独り言、聴こえてた!?恥ずかしい!】

『はずかしいの?』


 全然気にしていないのかと思っていた。いつも暢気そうに独り言を響かせているから。


【そりゃあ恥ずかし……くないな、あんまり】


 美奈はえへへ、と締まりのない笑い顔を浮かべた。


『みな、へんなの』

【うぐっ。その言葉はわたしに効くやつ……】


 大げさな挙動で胸を押さえた美奈は、ふとしゃがみこむとわたしの頭を撫でた。


【あ、ほら、そろそろ寝ないと明日に差し障るぞう】

『いまもねてるんじゃないの?』

【それはそうなんだけど、起きたらばっちり疲れが残るタイプの夢だからね】

『ふうん?みながそういうならねるね』


 わたしはその場に蹲って、丸くなった。


【また会おうね、エスちゃん】




 * * *




【朝だーーー!】

「きゅう!?」


 先ほど別れたばかりの美奈の雄叫びで、わたしは強制的に起こされた。


「ふきゅう……」

「うん?どうしたの、エステレラ……。ふわあ……」


 これはいけない、またもやお疲れのイドラちゃんを起こしてしまった。

 わたしは、美奈の声がまだがんがんと反響している気がする頭を押さえていた前足を、そっと下ろして、項垂れた。


【わー……ごめんよエスちゃん……】


 この声が聴こえると分かっているからか、美奈が謝ってきた。次から気を付けてね、と念じたら、【肝に銘じます……】という返事が。

 あれ?会話が成立しているような。


【エスちゃんが満月の光を浴びてパワーアップしたから、声が聴こえるようになったみたいだね!】


 パワーアップ?どの辺が?と思っていたら、起きてきたイドラちゃんと万里乃さんがまじまじとわたしを見て、首を傾げた。


「あれえ?何か……エステレラが昨日と違うような……?」

「ええと、大きくなった?のかしら」

「え?あ、ほんとだ」

「きゅ!?」


 一晩で見て分かるほど大きくなったって、それは驚きだ。美奈の知識が正しければ、生き物はそんな成長の仕方はしない筈だ。


「うーん、肩に乗せるとバランスが取り辛いなあ」


 大きくなったという事は重さも増したようで、イドラちゃんの肩からは卒業しなくてはいけないようだ。少し寂しい。

 しばらくイドラちゃんと色々な姿勢を試してみた結果、イドラちゃんの頭にへばりつくような形に落ち着いた。


【肩車だあ……】


 美奈の言葉通り、一番近い姿勢は肩車だろう。傍目から見たら少しおかしいかもしれないが、わたしもイドラちゃんも納得しているのだから、何の問題もない。


「ようし、今日も張り切って歩くぞー!」

「きゅーう!」


 わたしを頭に乗せ、拳を振り上げるイドラちゃんに同調して、わたしは勇ましく鳴いた。


「うふふ、可愛い鳴き声ね」


 可愛い……?あれえ?そんなつもりは……勇ましかったよね?

 あれえ?


読んでくださりありがとうございます。


エステレラは美奈の記憶を情報として持っているだけの別個人です。魂が同じなら同一人物、というわけではないのです。

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