23、紹介された小人族
「ああ、来たね」
再び舞い戻ってきた冒険者組合にて、バルバラ組合長の隣には男の子がいた。
「貴方がたが炎の勇者御一行ですね?私は小人族、ヒ家のヒリンと申します。よろしくお願い致しますね」
「炎の勇者、アルフォンスといいます」
「パーティメンバーのイドラです」
「同じく、万里乃、と申します」
「ギャリックじゃ」
「エリアだ」
後ろ2人の雑な挨拶にぎょっとしたけれど、ヒリンさんはむしろ嬉しそうに笑った。
「普人族のうえに、『炎の』勇者だというので少し心配していたのですが、杞憂だったようですね。亜人のメンバーが虐げられている様子はないですし、むしろ自由そうだ」
「命を預けるパーティメンバーを虐げる訳ないでしょう」
アルフォンスがややむっとした様子で反論するが、ヒリンさんは首を横に振った。
「私の知っているフランメ帝国の普人族パーティはほぼ、メンバーの亜人達の立場は奴隷でした。当然、扱いもその立場に準ずるものでしたし」
「ああ、フランメ帝国は亜人を奴隷にするのが合法ですしね」
炎の国・フランメ帝国が大嫌いなアルフォンスは、吐き捨てるように言った。
「すまんの、この勇者はフランメ帝国を毛嫌いしとるんじゃ」
「普人族なのに、ですか?変わった方ですね」
ヒリンさんは、本気で不思議そうに首を傾げている。確かに、自分の種族が治める国を嫌いなのは、あんまりない事かもしれない。
「あのう」
イドラちゃんが遠慮がちに声を上げた。
「どうしました?」
続きを促すヒリンさんを見て、ごくんと唾を飲み込んでから、イドラちゃんは尋ねた。
「その、あたし達が信用に足ると思ったら妖人族の国の場所を教えてくれるんですよね?」
「はい、そうなりますね」
「どうやって判断するんですか?」
ヒリンさんは、にっこりと人好きのする笑みを顔に乗せ、答えた。
「それは、短時間言葉を交わした程度では判断できかねますので、貴方がたにしばらく同行させてもらえればな、と思っておりますが」
「え?」
「ああ、皆様には到底及びませんが、自衛できる程度の力はありますので、ご心配なく」
「謙遜してるがヒリンは強いよ。強いが、だからといってしつこく勧誘したりするんじゃないよ?」
バルバラ組合長がにやりと笑って釘を刺した。
「分かってるよ」
こうして、パーティメンバーに一時、小人族が加わった。
冒険者組合の1階の椅子に腰を落ち着けて、一行は改めて口を開いた。
「一応、これから俺達はヴァッサー女王国に向かおうと思ってるんだ」
「おや、それはまた長い旅になりそうですね」
「ああ、そうだな」
アルフォンスは、ヒリンさんに敬語を止めてほしいと言われて、あっさり元の口調に戻っていた。
「一つ、尋ねてもよろしいですか?」
おもむろにヒリンさんがそう言ったので、みんなが続きを促した。ヒリンさんは一礼してから話し始める。
「皆さんは、その古代竜の赤ん坊の為に動いていらっしゃいますよね?」
「そうだね」
「なぜ、偶然拾っただけの他種族にそこまで出来るのですか?皆さんには冒険者組合に古代竜を預けるという選択肢もあったでしょうに」
……それは、わたしも薄々気になっていた事だった。考えても考えても、結局分からなかったから、考えるのをやめてしまったけれど。
「何だよ、改まって聞くから何聞かれるのかと思ってたら、そんな事か」
アルフォンスは拍子抜けしたように肩を竦めた。
……と、(主にヒリンさんが)緊張している、緊迫した空気をぶち壊すように、私の鼻が異臭をとらえた。この忌まわしい匂いは……?
「きゅう!?」
【お酒だ!?】
申し合わせたかのように、頭の中の声とわたしの鳴き声が被った。
見れば、ギャリックさんが呷っている水袋……中身、お酒では?ギャリックさんはものすごい真面目な顔で、お酒をぐびぐびやっている。というか、アルフォンスと緊張しているヒリンさん以外、みんな気付いているようだ。
わたしの呆れが伝わったのか、ギャリックさんは水袋の蓋を閉め、至極真面目に呟いた。
「エラちゃんや、これはの……命の水なんじゃ。定期的に飲まんと、儂ら岩人族は元気が出なくてのう」
「岩人族の酒好きは病的だからな」
エリアさんも、真面目な顔を崩さずに呟く。
「そういうエリアも、爪の形を整えるのは今じゃなくてもいいでしょう」
「今くらいでないと中々機会が無くてな。お前こそ牙の手入れは今やることか?」
大人げない言い合いに無性に笑いが込み上げてくるのに、追い打ちをかけるようにみんながみんな、真面目な顔でぼそぼそ呟く。……まさか、アルフォンスとイドラちゃんが真面目な話をしている時、いつも飲酒や爪、牙のお手入れをしていたのだろうか。万里乃さんの牙のお手入れに至っては、魔術でやっているのか全く分からない。それ以前に万里乃さん、牙生えてるの?
「きゅふっふ」
「ちょっと大人組、エステレラが笑ってるじゃん」
「変な鳴き声だと思ったが、笑ったのかそれは」
「独特ね」
思わず出てしまった噴き出し笑いにつっこまれた。酷い。
「――つまり、困ってる迷子の幼児を家に送り届けるのに理由は必要か?って事だな」
「なるほど……。疑ってかかっていた私が馬鹿みたいな返答ですね」
パーティメンバーのお馬鹿なやり取りに全く気づかず、アルフォンスは見事に、ヒリンさんのわたし達に対する警戒を一段下げていた。
初対面では頼りなく見えたものだが、案外アルフォンスが一番しっかり者なのかもしれなかった。
読んでくださりありがとうございます。
大人達は案外不真面目な、取り繕うのが上手い人達です。笑




