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女子高生とコボルトさん  作者: ぽんこつ少尉@『転ショタ3巻/コミカライズ3巻発売中』
第四章

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32/55

第32話 女子高生は思いを馳せる

前回までのあらすじ!



半笑い騎士団、敗走。

 わたしがボニータに無事に逃げ込んでから十日が経過していた。

 パルフェは未だ、ボニータには辿り着いていない。あの日、別れたままだ。


 あれから数日間、わたしを追う騎士たちの捜索は続けていたけれど、ルアナさんが放ったというわたしの影武者さんが彼らを引きつけながら魔族領域にまで誘導すると、水が引くようにジャンティーユ王国へと引き上げていった。


 騎士たちをうまく誘導してくれた影武者さんのおかげで、隠れ里であるボニータが発見されるようなこともなく、こうして行方不明となってしまったパルフェのことを除いて、一連の事件は収束を迎えた。



 わたしは大きな街であるボニータの端、火口縁から町中へと続く階段下のベンチに座って、今日も階段上を見上げる。ここ数日の日課だ。

 いつかひょっこりパルフェが帰ってくるような気がして。


 見上げる火口縁では、ポムさんたちリザードマンや小さなゴブリンたちといった魔族、そして彼らに負けず劣らず小さな体躯のホビットと呼ばれる人間族が、隠して設置されたのぞき窓から協力して森を監視している。

 近づく存在があれば、すばしっこいゴブリンやホビットたちがボニータの中枢まで走って報せにいき、その間にリザードマン族が森に打って出て、敵接近までの時間を稼ぐのだそうだ。



 パルフェが近づいてくれば、きっとポムさんが真っ先に教えてくれるはず……。



 わたしはため息をついて、ルアナさん宅の執事、オーガ族のブルネッタさんが渡してくれたお弁当箱の蓋を開けた。


 何か極彩色をしている毒々しいタレを絡めて焼いた何かの謎肉と、いまにも悲鳴を上げそうな顔つきの根菜の煮物に、手足が生えている果物らしき物体の輪切りと、ごくごくふつうのパンが入っている。



 うへへ、おいしそー……。ヨダレ出ちゃった……。



 概ね何だかサッパリわかんないものばかりだけれど、ブルネッタさんの作る料理は見かけに反して大体おいしい。だから原材料は考えないことにしたのだ、へへん。



「いっただっき――」

「へいへ~い。にゃ~にをしてんの、魔王様?」

「うぅ?」



 振り返ると、わたしとよく似た背丈にセーラー服姿……っぽく見えるように誂えた服装をした女の子が立っていた。

 一見すれば人間に見えるけれど、花のカチューシャを外せば三角形の黒い耳が頭に立つし、人間のように顔の横に耳はない。それに、プリーツスカートからは黒い尻尾が垂れている。


 ケット・シー族のミレイだ。


 あの日、わたしがパルフェとはぐれて森を逃げていた日、追いすがってきた騎士たちの目を欺いて魔族領域にまで誘導してくれた、わたしの影武者さん。

 数世代前まではほぼほぼ黒猫だったらしいけれど、コボルトたちと同じくしてヴァニールの魔法で強制進化させられ、猫もケット・シーになっていったのだとか。


 身体の大きさはゴブリンやホビットよりは大きく、人間よりは小さい。だからちょうどわたしと同じくらい。元が黒猫だから髪色は黒く、後頭部で束ねて横髪を垂らせば、遠目にはわたしと見分けがつかない。

 ルアナさんが言うには、顔つきもちょっと似ているらしい。魔族の中には人間族の顔に違いに疎い種族もあるらしく、彼らはカチューシャのあるなしで判断するしかないのだとか。

 そう言えばわたしも魔族の人たちの容姿を完全に見分けられる自信はない。柴犬型のコボルトが他にも出てきたら、……や、さすがにパルフェのことはわかるか。



 うち(わたし)のパルフェが一番可愛いし!



「わたし魔王じゃないってばぁ」

「ニャヒヒヒ! いいじゃん! だって前の魔王様も最初はそうだったんっしょ? 召喚されただけの、ただの人間ちゃん?」



 ミレイはわたしの腰掛けたベンチにドカっと座ると、猫が構ってほしいときにそうするように、ぐいぐいと頭を寄せてきた。



 こいつめ、パルフェの次くらいに可愛いなっ。ポムさんはちょっとグロいけど。



 ちなみにミレイはパルフェとは違って、どちらかというと猫より人間に近い容姿になっているから、他のケット・シーたちと見分けるのは簡単だ。たぶん、進化の度合いが早い個体なのだろうと、ルアナさんは言っていた。



「本物のヴァニールと会ったことないから、そんなのわかんないよ。人づてだとそうらしいけど」

「そりゃまそっかぁ」



 ミレイがお弁当をじっと見つめている。



「ミレイお腹空いてるの? 半分食べる?」



 仕方なくそう言う。

 だってトランペットをほしがる子供みたいな目で見るんだもの。それに、影武者なんて危険な役割をやってくれてるからね。



「いいの?」

「うん」



 両手を頬の横でパシンと合わせて、ミレイが舌を出した。



「うぇっへ! 食ぁ~べるーっ! いっただっきにゃーす!」



 わたしは二つあるパンのうち、一つを取りだして謎肉と謎野菜を挟み、ミレイに渡した。彼女はそれを引ったくって、おいしそうに頬張る。

 わたしも同じようにして、パンを頬張った。

 おいしい。おいしいんだけれど。



「……」



 ブルネッタさんには悪いけれど、やっぱりパルフェと食べた何の変哲もない食事のほうが、わたしには合ってる気がした。



「おいしいや……」



 違う、違うな。味じゃないんだ。パルフェと一緒だから、よかったんだ。

 それだけでよかったの。



「あんれま。魔王様ったら、(にゃ)いてんの?」

「泣いてませんけどー?」



 知らず知らずのうちにうつむいていたわたしは、バッと顔を上げた。



「パルパル帰ってこないから?」

「そーですけどー? でも泣いてませんけどー?」

「泣いてるように見えたんですがにゃー?」

「そんなこと言う子にはお弁当分けてあげませんけどー?」

「じゃそゆこと言うのやめますけどにゃー?」



 すりすり、すりすり、身体をこすりつけてくる。

 どうもケット・シー、ミレイは、わたしのことがいたく気に入ったらしい。任務じゃないときでも、こうして近寄ってくる。



「まあまあ、パルパルおらずとも、このミレイがいるじゃにゃい」

「犬派なんだよ、わたし」

「がびょ~ん……」



 口ではショックを受けたようなことを言っていても、あいかわらず擦り寄ってくる。

 こういうとこってほんとに猫だね。気が向いたらグイグイくるけど、気乗りしないときは呼んでも無視だもん。



「ま、そのうちくるって! た~だの気休めだけどさっ」

「気休めなんだ……」

「ウチらケット・シーほどじゃあないけど、コボルトだって相当すばしっこいっしょ。簡単にゃぁ捕まらにゃいよ、たぶんにゃ」



 そうだね。すばしっこい上に、とんでもなく強いもん。本気の【火炎斬り】なら、数百人を相手にしたってどうにかなると思う。

 でも、だからこその不安なんだ。



 無事でいるなら、どうしてここにきてくれないの? わたしの面倒はもう見切れないってこと? それとも、こられない理由ができたの?

 パルフェに何があったの? 本当に大丈夫?



 心配で胸が痛い。お腹は減るから食べるけどさ。



 ミレイがぼそりとつぶやく。



「もーちょい待ってみてもパルパルがこないようなら、ルアナに頼んで捜索隊でも出してもらやいいのさ。ルアナもどういうわけかパルパルにはご執心だから、一個師団くらいは貸してくれるんじゃにゃ~いの?」

「うん。そだね。帰ったらルアナさんに早速頼んでみよっと」



 んで、わたしも同行するの。

 今度は鞘ベルトをちゃんと肩から斜めがけで胸の高さにつけて。パイスラだよ、パイスラ。あんましってかほとんどナイから悲しいけど。

 とにかく、腰じゃなくて背中からなら、わたしにも剣が抜けるはず。抜いたからって何なのって疑問はあるんだけどさ。



「いやいやいやいや。いまはまだだめにゃよ。ジャンティーユの王国騎士たちが完全に引き上げたかどうか、わかんにゃいから。もーちょい待ちにゃよ」

「うー……」



 ミレイがため息をついた。



「絶対だめにゃ。これはもう魔王様とパルパルだけの問題じゃにゃい。ボニータの戦力は人魔そろってわずか一千しかにゃいの。王国騎士は周辺都市の警護も合わせりゃその数十倍だし、ボニータの位置が王国にバレちゃったら、あっという間に派兵されて、人間たちに街が蹂躙されちゃうからにゃ。万に一つもあっちゃだめにゃことでしょ」

「うう、そりゃあだめだよね。第一、パルフェに叱られちゃう」

「うんうん。ま、あと一月もすりゃあ、ここらにも雪が降る。そしたら食料がもたないから、残ってる騎士たちがいたとしても、確実に引き上げるさ」

「一月……」



 わたしは焦れながら空を見上げた。

 火口縁に丸く切り取られた青空には、白い雲がゆっくりと流れている。風の冷たさは感じない。それは、わたしたちの足下にはマグマがあるからかもしれない。



「雪、早く降ればいいのに……」

「ウチは寒いの苦手だにゃあ」

「……」



 じっとりと睨む。

 ミレイが慌てて残っていたパンを口内に詰め込んで嚥下した。



「でもでも降ればいいと思ってるからにゃ?」

「うん」



 もう少し。

 もう少しだけ待っててね、パルフェ。あなたがどこにいても、どんな状態になっていたとしても、わたしが必ず迎えにいくからね。


そこそこ有能な影武者。

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