第13話 女子高生は牢の中
前回までのあらすじ!
なんてこったい……。
拝啓、おじーちゃん。おばーちゃん。シバスケ様。
季節の変わり目、いかがお過ごしでしょうか。体調など崩されてはおりませんでしょうか。
わたしはといえば、学校帰りに気づいたらファンタジックな異世界に召喚されたあげくに魔王呼ばわりされ、勇者さんからは命を狙われるというお尋ね者になってしまいました。
コボルトさんに助けられたけれど、彼と訪れた安全なはずの新しい街でもなぜか逮捕され、現在は粛々と刑を待つ身でございます。
不詳の孫&飼い主をお許しください。
「うあーっ、嘆かれちゃう!」
わたしは鉄格子に張り付いて、声を上げる。
「あのー。すみませ~ん。わたし、何の罪で捕まったんですか~?」
地下牢だからか声は反響しているけれど、誰も返事をくれない。牢屋の並ぶ廊下の端には、槍を持ったトカゲ頭のヒトが椅子に座って牢番をしているのに。
雑誌らしきものを読んでるけれど。
わたしは彼に視線を向けて尋ねる。
「あの、なんで無視するの? 喋っちゃだめって言われてるの?」
「……」
「ねえ、ねえってば? トカゲさん。トカゲさ~ん?」
「……」
「へい、へーい、トカゲさんびびってるぅ~!」
「……」
わたしの渾身の挑発を無視して、彼はぺらりとページをめくった。
「……やっぱり言葉が通じてないのかな。あなた魔族のヒトよね? トカゲさ~ん。お~い。そろそろお昼ご飯の時間だけど、わたしの分もあるのかな? トカゲさんは何を食べるの? やっぱり虫とか食べちゃう系なの? あ、もしかして、わたしを食べ――」
「あーもーやかましいわッ!!」
雑誌の向こう側から長い首をヌボっと持ち上げて、頭を突き出したトカゲさんが、突然大声を上げた。
「野良魔物じゃあるまいし、人間なんて食うわけないだろ! まったく……っ」
目が蛇の目みたいでちょっと怖い。舌の先っちょも二股に割れてるし。
トカゲの頭が、雑誌の向こうにすっと消えた。
「こんにちは」
「ハイコンニチハちょっと黙っててくれるっ? 喋るなって言われてっから!」
「やっぱりそーなんだ。誰から?」
一度引っ込んだ頭が、またヌボっと現れる。
「偉い人に決まってるだろっ!」
「町長さんとか? あ、もしかして異世界だから国王様?」
「ここは国じゃないんだから国王なんていない! ただの都市! だから選挙でみんなから選ばれた人が、みんなの意見を総括してやりくりしてるんだ!」
民主主義だぁ。なんか感動。
わたしが召喚された王国とは大違いだねえ。
トカゲさんはパチパチと瞬きをしている。
気になったのは、そのやり方が人間とは違うところ。わたしたちの瞼は垂直に動くけれど、彼の瞼は水平方向に動いて瞬きをしているの。
瞬膜だ。
「わあ~」
思わず感嘆の声が出ちゃった。
トカゲさんが口をねじ曲げる。
「な、なんだよ」
「あ、ううん。別に。なんでもないよ」
トカゲさんが雑誌を小さな一人用の円卓に置いた。
鎧のようなものを着込んだ胸を反らせて、緑色の両腕を組む。おっきいし、緑だし、ちょっとイグアナっぽい。
「途中でやめるなよ。気になるだろ」
「え、でも喋っちゃだめって偉い人に言われてるんだよね?」
「そうだけど、でも気になるだろ! 言えよ! 言いたいことがあるなら言えよ!」
瞬膜が不思議だったなんて言ったら傷つけちゃうかもしれないよね。よくわかんないけど。
「なんでもないったら」
「いや。いやいやいや。そこまで言ったんだから言いなさいよ! 言ってくださいよ! 気になって夜眠れなくなるだろ!? おれそういうのに弱いんだからな!」
肝っ玉小さっ!!
トカゲさんが立ち上がって、わたしの牢の前までペタペタと歩いてきた。
裸足だ。靴とか履いてると、壁を登れないからかな。
なんかこのヒト、見た目と違ってあんまり怖くないや。
「全然大したことじゃないの」
「いいから。何? 今日の髪型が変とかそんなのか?」
トカゲさんが自分の手で自分の頭をペタペタ触った。
わたしは真顔で返す。
「……え、あの……ちょっと言いにくいんだけど…………髪ないじゃん?」
「今のジョークだからなっ!? リザードジョーク! なんだその同情に満ちた視線は!? これだから人間族は! 普通だからな!? リザードマンの毛なんて、掌と足の裏に生えてりゃそれで十分で、それだって壁とか登るためなんだからな!?」
なんでこのヒト、こんな必死なの? ほんとになんでもないことなのに。もしかして頭髪が欲しいのかな。朝にセットとかしたいのかな。
てかやっぱりリザードマンなんだ。
「トカゲさん、リザードマンなんだね」
「種族はな。名前はポムだ」
「ポムさん! わあ、カワイイ名前だね~!」
「いや……まあ……それは、よ、よく言われっけど……?」
照れてる。トカゲなのに。
パルフェはカワイイって言われたら怒るのに、ポムさんは嬉しそうだよ。ひとくくりに魔族って言っても、人間と同じでいろいろな性格があるんだね。
「わたしはカリンだよ」
「聞いてねえし! ……まあ、よろしく」
「よろしく~。さっきはね、ポムさんの瞬膜に感動しちゃったの」
「はあ? 瞬膜って瞼のことか?」
ポムさんが長い首を豪快に傾げた。
怖。地面と水平、直角に曲がってる。
「あのね、わたしが前に住んでたところだと、ポムさんみたいに大きなトカゲはいなくって、瞬膜も小さなものしか見たことなかったの。だからびっくりしちゃって」
「お、おう。ま、まあな。なんせリザードマンの瞬膜は、ドラゴンの次に立派って言われてっからよ?」
うん。すっごく調子に乗ってる気がする。でも乗せとこう。
だってポムさんったら、あんなにも嬉しそうなんだもん。
「ふふ。そーなんだ」
「へへ」
なんか、結局いろいろ話した。
どーでもいい話だったり、こっちの世界の種族のことだったり。けれど念のため、自分が魔王ヴァニール扱いされていることは喋らなかった。
だってわたし、ほんとに魔王なんかじゃないもん。
でも話の途中に、ポムさんの頭にゴンって拳が振り下ろされて。
「痛えッ!? だ、誰だ! って、あああああ……、ル、ルアナ様!?」
ポムさんの背後に立っていたのは、すっごく身長の高い、けれどもとっても綺麗な女の人だった。
炎のような長い赤毛に切れ長の瞳。まつげなんてとっても長いの。
服装はヨーロッパ貴族のようにきっちりとしていて、腰には剣を吊している。女性にしては少しがっちりしているけれど、それでも美人。すっごく。うん。
何より、カッコイイの。物語の中の騎士様みたい。
背の高いルアナさんが、首の長いポムさんを至近距離からギロリと睨む。
「囚人と話すなと言ったはずだぞ、ポム。牢番もろくにできんのか、おまえは」
「あ、ああああああ! く、くそ、おれとしたことが! 小娘の口車に乗せられて、いつの間にか――なんて狡猾な娘だ! 許さないぞ!」
ポムさんがわたしを指さす。
「ええ、そんな~……。わたしのせいなの……?」
「他人のせいにするな」
ルアナさんの鉄拳が、再度ポムさんの頭上に落とされた。
「ぶぎゃっ!!」
すっごい音がした。
ポムさんの鱗が硬いのか、ルアナさんの鉄拳が硬いのかはわかんないけど、痛そう。
「あと、年若いおまえは知らんかもしれんが、このお嬢さんとコボルトは歴とした客だ」
「へ? そうなので?」
そのときになってわたしはようやく気がついた。
ルアナさんの隣。彼女の太ももあたりまでしかない柴犬のようなコボルトさんが、ニヤニヤと彼らの様子を眺めていたことに。
「パルフェ! 心配しちゃったよ! 大丈夫だった? 痛いことされてない?」
パルフェが呆れたような表情で肩をすくめる。
「まずは自分の心配をしろ、と言いてえところだがな。もう問題はねえ。話の通じるやつがしゃしゃり出てきてくれたからな」
ルアナさんが端正に整った顔をしかめた。
「やれやれ。自分から呼び出しておいてなんて言い草だ。相変わらず不遜な犬だ」
「ゲハハ! ま、そう言うな。――さてと、カリン。こんな辛気くせえところからさっさと出て、市に昼飯でも食いに行くぜ」
「わ、やったっ! お腹ぺっこぺこだよ!」
それに、や~っと替えのお洋服や下着を買えるよ。森でいっぱい汗かいちゃったからね。
パルフェがルアナさんを見上げて言った。
「鍵を借りるぞ、ルアナ」
「お好きに」
パルフェがルアナさんの持っていた鍵束の針金を勝手に引き延ばし、わたしの牢屋の鍵穴へと差し込んでくれた。
愛され系リザードマン。




