第14話 女子高生は悶絶する
前回までのあらすじ!
所詮は爬虫類。
わあ、わあ! すっごい!
市場って言うから魚市場みたいなのを想像していたのに、全然違った。
露店がずら~って並んでいて、果物とかお魚とかお肉とかいっぱい売ってて、魔族も人間族も一緒くたになってそれに群がって買い物をしてるの。
歩けばヒトと肩がぶつかりそうなくらいに混雑していて、無秩序に置かれた木製の円卓にはいっぱいの食べ物が並べられていて、みんな夢中で食べてる。
「屋台村だねえ」
「村ってほど広かねえが、まあこの一角はそんなところだ」
子供たちは串に刺さった肉を食べながら走り回っていたり、それを狼と人間の間くらいの女の人が、怒りながら追っかけてたり、お酒を酌み交わしていたり。
とにかく喧噪、喧噪!
あっちで笑いが起これば、こっちでは喧嘩!
猫みたいな耳と尻尾のついた踊り子さんがジャグリングを見せれば、食事中の人からは拍手喝采!
それを見ている間に、さっき喧嘩していたヒトたちが、お役人さんっぽいヒトにしょっ引かれてったり!
こんな活気のあるところ、元の世界にだってそうは多くない。
どこか既視感もあるのに、なんだかとってもファンタジック。
なんか、なんか、ワクワクする!
これがボニータって街なんだ!
「カリン、なんか食いてえもんはあるか?」
「あれ! あれ食べたい!」
漫画で見るような、骨付きのマンモス肉っぽいのが並んでるの。いっぱい。
すっごくでっかい。ケバブみたいに薄い肉を貼り付けながら焼いたわけじゃないらしくって、一塊だよ。火ぃ通ってるのかしら。
ああ、でも、お肉の誘惑。いい匂ぉ~い。
「わかった。俺が買ってくるからカリンは席を取っててくれ」
「うん! あ、お金は?」
「おまえが暢気に捕まってた間に、カラクサ村からの道々で採取した山菜やキノコを売っ払ったからたんまりだ」
「おー……なんと抜け目のない……」
キノコって案外高く売れるからね~。
お爺ちゃんも裏山でとった松茸で荒稼ぎしてたもん。
パルフェが走り回る子供を器用に避けて、テクテクとお肉の露店に歩み寄る。
わたしは近くの丸テーブルにつきながら、その様子を遠くから眺めた。
パルフェは露店のおばちゃんと一言二言交わして、お金っぽいものを渡して特大肉を二つ受け取る。
尻尾フリフリしてる。パルフェもあれ食べたかったのかな。犬はお肉好きだからね。
おばちゃんがまた何か話して、パルフェが両手にお肉を持ったまま、頭を下げた。
「何してんだろ……。お辞儀文化はなさそうなのに」
そしたらおばちゃんがパルフェの頭に、お皿にのったソースをポンと置いた。
パルフェはまた走り回る子供たちを器用に避けて歩いて、さらに彼らを追いかける狼ママさんの突進も、熟練のウェイトレスみたいにするりと躱して戻ってきた。
「待たせたな、カリン」
無駄にカッコイイ。
「ううん。ありがとね、パルフェ。よくぶつからないで来られたね」
「あの狼母ちゃんの突進は、さすがにちょいとやばかったぜ。昼飯をおじゃんにしちまうところだ。ゲハハ。ライカンスロープってのは、獣人族の中でも肉体性能が飛び抜けて高え上位魔族だからな」
「コボルトの上位互換?」
「ま、生物的にはそんな感じだ。といっても、俺ほどの漢になりゃあ、生物的な差なんざ有って無きというか、埋めて余りあるくれえ個人の――」
「お腹空いた」
パルフェの漢自慢はなんだか長くなりそうだから遮った。
「へいへい」
わたしはパルフェの頭からお皿を取ってテーブルに置く。それからお肉を一つだけ受け取って、パルフェが席に着くのを待つ。
「うっし、じゃあ昼飯だ」
「わーい。いっただきまーす! あ、お皿のソースはどうしたらいいの?」
綺麗なオレンジ色をしたソースが、お皿の中で陽光を反射しているの。果物のソースかな。とってもおいしそうだよ。
「あちらのご婦人のオリジナルソースだそうだ。一応塩味は肉についてるらしいが、合わせてソースもつけて食うとうまいらしい」
「へえ~」
わたしはワクワクしながら、オレンジ色のソースをお肉の端っこにつけた。両手で骨を持って口を近づけ、オレンジ色のソースのついた部分を嗅ぐ。
「いい匂いがするね! 爽やか!」
「ゲハハ、食わなくてもうめえって顔してるぜ」
「だってわかるもん。食べなくてもおいしいよ、これ」
食べるけど。
はしたなさなんて忘れて、わたしは大口を開けてお肉にかぶりつく。
「……っ」
ぶじゅっと溶けた脂の香ばしい肉汁が滴って、慌てて吸いながら舐めとる。
背筋がぞわぞわっとした。
「おいしっ! 牛肉だよ、これ! こんな食べ方、超贅沢!」
「ミノタウロス肉ってんだ。牛が進化した魔物でな。基本的には草食でおとなしいが、怒らせると面倒なやつだ」
「へ~! へ……え……ぅ……?」
わたしの口の中で、突然刺激が爆発した。喉が灼けて涙が浮いて、全身の毛穴から汗がじわりと滲む。
舌に激痛が走った。それだけじゃなくって、鼻の粘膜にも。
「辛っ!? か、か、辛いぃぃぃぃ~~~~~~~~~~~~~~~……! みじゅ、おみじゅぅぅ……ああぁぁぁぁっ」
こ、これ、唐辛子と和辛子を混ぜたようなやつ……!
わたしは舌を突き出して、涙目でパタパタと手で仰ぐ。
熱いし、痛いし、冷やしたいし。
そんなわたしを見て、パルフェが笑った。
「ゲハハ。大げさだな。これだからお子ちゃま舌は哀れってもんだ。この大人のうまみも味わえねえとはな」
「う、う……」
パルフェはオレンジ色のソースの部分に、漢らしく豪快にガブリとかぶりついて食い千切り、もぐもぐと咀嚼する。
「ゲハハハ、うめえうめえ。お子ちゃまは塩だけで食うんだな」
「ぅぅ……ひどいよ~……」
小さくてカワイイけれど、やっぱり大人なんだなって思った矢先。
パルフェの表情が唐突に凍った。
「ゲハハ、ゲハ? ゲ……ゲ……グァァ~……? ……グ……グ……ゲァ~……?」
白地に茶をかぶったような全身を二度、ぶるりと震わせて。
「あぐぁあああぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ、火いいいいぃぃぃ~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!」
パルフェが椅子から地面に落ちて、のたうち回っている。
「み、みず……みずヲ……」
わたしたちの様子を見かねたのか、結局露店のおばちゃんが木のコップに水を入れて持ってきてくれた。
わたしたちはそれを一気飲みして、おばちゃんにコップを返す。
わたしが塩味で十分においしいミノタウロスの骨付き肉を食べ終えた頃、パルフェはまるで数十年の修行を終えた僧のような悟り顔で、お皿に残ったおばちゃんの地獄ソースを眺めていた。
「……」
「……」
無理しなくていいからね? 格好つけなくたってカッコイイからね?
ちょっとドジなところは、やっぱりカワイイけれど!
泣いてたそうです。




