第12話 女子高生は歓喜する
前回までのあらすじ!
臭い。食えん。
山を登る。ひたすら登る。うん。
結構な斜面だよ。
パルフェは普通の犬みたいに、地面に両手と両足をついてスタスタ登っていく。わたしは生えてる細い樹木に手をかけて、離されないようについていく。
不思議なことに、この山に生えている樹木は、ここまで続いていた森の樹木よりは若くてまだ細いように思える。でも、そのおかげでつかみやすい。
「もう少しだ。頑張れ、カリン」
「うん」
額に浮いた汗を手で拭って、わたしはうなずいた。斜面の足場は濡れた落葉でいっぱいだから、滑らないようにするだけで精一杯だよ。
やがて正午になる頃、わたしたちは山の頂上にようやく到着した。
頂上っていうと三角形の頂点を思い浮かべちゃうけれど、わたしたちが見た景色は。
「火口?」
ぽっかり口を開けた火口の縁、カルデラ地帯を囲む環状山稜に立っていたの。それも大きな、大きな、特大の。
あっち側が霞んでしまうくらい、大きな火口。
こんなのが爆発したら、大陸ごと死滅しそうだよ。
「火口縁っつーんだ。ほら、下を見てみろ」
「わあっ! すっごい! ゲームみたい!」
パルフェが指さす先、火口の中には大きな大きな街があった。
全体の半分くらいは畑や畜産と思われる動物だか魔物だかがいる地域が見えていて、残り半分はお家がいっぱい建っている。遠目に小さく映る動いている影が、たぶん住んでるヒトたちだ。
「これが隠れ里のボニータ? ほら見て、いっぱいヒトがいるよ! それに、区画整理がされててとっても綺麗! へえ、へえ、楽しみぃ~!」
確かにここなら立派な隠れ里だよね。探そうったって、こんなところに街があるだなんて誰も思わないもの。
おもしろいなあ、異世界! なんかワクワクするよ!
えへへ、この世界は見たことのないものだらけで楽しいなっ!
「そうだ。これが隠れ里ボニータだ。たまに野良ワイバーンが空を通るくらいのもので、竜騎郵便屋にさえ、この里の位置は知られてねえ。何せここから北には魔族領域しかなくて、南には人類領域しか存在しない、境界線の地域からな」
人間族と魔族の間で手紙のやりとりでもない限りは、この空は野良の魔物くらいしか通らないってことか~。
よく考えられてるなあ。この街を創ったヒトってどんなヒトなんだろう。
「火山は大丈夫なの? 死火山? 休火山?」
「あまり活発じゃねえが、活火山だ。だが、ここに住んでる魔導師たちが竜脈をいじくって別のところにマグマを定期的に逃がしているから噴火の心配はねえ」
ええっ!?
魔法ってそんなことができるの? 科学文明もびっくりだよ! 自然に対する影響力は科学よりも魔法の方が強いのかも!
わたしが魔法を覚えて向こうの世界に帰れたら、すっごいことになりそう!
「あ、そっか。だから山には若い樹木だけが残ってたんだね。だとしたら、ボニータの歴史はまだ浅いね」
パルフェがちょっと驚いたようにわたしに視線を向けた。
「何さ?」
「そんなふうに見えて、案外ちゃんと考えてんだな」
「褒めてる? 貶してる?」
「ゲハハ、両方だ」
もー、なんだよぅ。
「カリンの言う通り、ボニータ自体が、まだ拓かれて五十年程度の若い街だ。自然と周囲の樹木もそれ以下の樹齢しかない。それ以前はマグマが流れていたからな」
「五十年……。勇者のシャルマンさんが生きてた頃?」
パルフェがなぜか顔をしかめた。あきらかに失言だったと言わんばかりに。
小さなため息をついて。
「顔に似合わず鋭いな、カリン」
「顔に似合わずって……もー!」
パルフェってば、わたしをポンコツ娘だと思ってたのかしら。
「あいつが――シャルマンが表舞台から姿を消した年だ」
ふと気づく。
ここは隠れ里なんだって。
「え……。あ……、もしかして……」
「そうだ。シャルマンは剣を捨てて人間族からも魔族からも姿を眩ませ、ボニータを切り拓いた開拓者の一人となった」
魔王と呼ばれた普通の人を殺めてしまった勇者が、魔族と人間族が一緒に暮らせる街を切り拓いたって……やっぱり贖罪だったのかな。
なんだか切ない話……。
「もっとも、ボニータの自給自足が成り立つようになって以降は、あいつはそこからも姿を消しちまったらしい」
「そーなんだ……」
パルフェの表情がよくわからない。
ただ、足下に広がるボニータの街並みを眺めている。
どうしてそんなにシャルマンのことに詳しいのか聞いてみたいけれど、あんまり話したくなさそうなんだよね。
「コボルトの寿命って長いの?」
「はっきり聞いても別に構わんぜ。俺とシャルマンは、少なくとも顔見知りじゃねえ。コボルト族の寿命は、せいぜいが長くて三十から四十年程度だからな」
「犬よりは長いんだね」
「魔族の中でも獣人族と呼ばれるやつらは大体そんなもんだ。ライカンスロープなんかもな」
ライカンスロープ!? 狼男さんとか猫娘さんもやっぱりいるんだ!
「パルフェは三十には見えないね。まだ五歳くらい?」
パルフェが頭に両手をあてて、照れくさそうにくねくねっと身体をねじった。
「よせやい! ……お、俺はそんなに若くねえさ」
少なくとも今の態度で、若く見積もられて喜ぶ年齢であることはわかった。
なんてカワイイおじさんなの!
「おっと、迎えが来たようだぜ」
「へえ、お迎えがあるくらい、パルフェはボニータで顔が利くんだぁ。どんなヒトが来るんだろう。魔族かな? 人間族かな? ああん、楽しみだよ!」
いっぱいのコボルトさんたちが来てくれたら、すっごい幸せ!
柴犬タイプにポメラニアンタイプ、セントバーナードとかも気持ちよさそうで捨てがたい!
「あ、来た来た! 来たよ、パルフェ! ほら、ほら見て!」
「はしゃぐな。見えてる」
火口にある階段から、武装したヒトたちが結構な勢いで駆け上がってくる。
人間の兵士さんもいるし、なんだかトカゲみたいな頭をしたヒトもいる。やっぱりリザードマンかな。
コボルトさんをもっと大きくした狼のヒトは、ライカンスロープさんだ。
カワイイっていうより、なんかもうカッコイイ。犬界のイケメンだよ。
わあ、わあ、みんなすっごいなあ! 言葉通じるのかな!
「やっほー! こんにちはー!」
あのヒトたち全員がパルフェのお迎えだなんて、すっごい待遇だよ。
パルフェってほんと何者なんだろう。
と、思っていたのに……。
結論から言うと、わたしたちは捕縛された。
あれだけ豪語していたパルフェもだよ。
あれよあれよという間に腕を背中に回されて手首を縛り上げられ、「歩け!」って背中を押されて。
火口まで続く長い長い階段を下りさせられて、縛られたまま街を歩かされ、ボニータの中央にある四角くて一番大きな建物に通され、最終的にはパルフェと離れ離れにされた上に、わたしは牢獄に叩き込まれた。
「ちょ、ちょ、なんでーっ!?」
一転どん底……。




