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ネコ・シッター石川結望の業務日誌:9話完結:毎日更新(昼12時)  作者: 秋月心文


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5/8

爪切り歌が、うつりました

4日目。


「痛い、痛いよ。アズキ」

 アズキが私の体を昇ってくるようになった。

 カワイイ。カワイイのだけど……。

 爪伸びすぎてない?


 ちょっと爪切るか。

 あれ? ないぞ。

 ちょっと聞いてみるか。


「あのぅ、爪切りありませんか? ネコ用の」

「爪切り?」

「はい。ネコ部屋になかったので……」

結望ゆのちゃん、爪切りできるの?

 うちは、いつも病院でやってもらってたわ」

 そうなんだ?

 この仕事についた時は、爪切りもやるものだと思っていたんだけど。


「子どものころ、飼ってたときにはしてました」

「ちょっと買ってくるわね」

 奥様は買いに出かけてしまった。


 ん? アズキの様子が……

ケホッ、ケホッ……

オエッ……

 何度かえずいて、その後に細長い毛の塊と胃液などを吐いた。

 いわゆる毛玉というヤツだ。

「大丈夫かぁ、アズキ」

「ニャ~」

 すっきりしたみたいだな。片付け、片付けっと。

 まず、口元についた胃液を拭き取る。

 それから、床の汚れもきれいにする。


 毛の塊は、ネコ好きとしては、ちょっと欲しい気もした。

 でも、胃液臭のする塊でもある。

 ゴミ箱にポイした。


 前に飼ってたホイップは長毛種で、月に1度は吐いてたな。

 アズキは短毛種なので、それよりは少ないだろう。


 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


「何種類か、買ってきたわ」

 動物病院に置いてあったヤツを全部買ってきたらしい。

 豪快な。

 子どものころ使ってたヤツを使おう。


 なんだか見慣れないものも混じってる

「これは?」

 なんだかネコが着るチョッキみたいなのが混じってる。

「爪切補助具とか書いてあったわ」

「ホントだ」


 動きを制限するグッズみたいだな。

 最近は、こんなのあるんだ。

 せっかくだし使ってみるか。


 アズキに着せてみたけど、嫌がられなかった。

 グッズに掲載されていた写真を参考にして、膝の上に乗せる。

 さぁ、爪切りをはじめようか。


 子どものころ、勝手に作った歌を口ずさむ。

「♪たのしい、たのしい、つ~めきり~。はい、つ~めだして」

 と肉球をやさしく押す。

 爪がニュッと出るので、パチッと切る。

「♪はい、え~らいぞ」

 同じフレーズを繰り返しながら続けていく。

 とにかく、私自身が楽しそうにする。


「♪たのしい、たのしい、つ~めきり~。はい、つ~めだして」

 と肉球をやさしく押す。

 今度は「ニャ~」と声も出た。

 爪がニュッと出るので、パチッと切る。

「♪はい、え~らいぞ」

「ニャ」

 ……そんな感じで爪切りを終えた。


 ホイップのときは、爪切りのたびに何度も抵抗された。

 そのうち、「切りすぎたら怖いな」とビビっている自分に気づいた。

 もしかすると、ネコも私の不安を感じ取っているんじゃないか。


 そこで、自分が楽しそうに爪切りするために編み出したのが、爪切り歌だ。


 これを歌い出すようになってから、私のビビりも減り、

 ホイップも楽しそうに合わせてくれるようになった。


 微妙にクセになるフレーズにしたせいで、

 何でもないときまで口ずさんでしまうようになったけれど……。

 子どものころに作った歌なので、ちょっと幼い感じがする。

 そこが玉にきずだ。

 人前で口ずさむと、超絶恥ずかしい。

「あ!」

 ふと気がつくと、奥様がそれをじっと見てた。

 目が合った。恥ずかしい。超絶恥ずかしい。

「私も楽しくなっちゃったわ。今後も爪切りお願いね」

 こうして、私の仕事が増えた。

「そろそろお昼作るわね。何か希望はある?」

「ん~。なんでもいいなら、ソウメンとか」

「冷たい方? 温かい方?」

「温かい方で」

「わかったわ。ちょっと待っててね」


「あ、奥様!」

「名前で呼んでって、言ったじゃない」

「ああ、すみません、智子さん」

 でも、つい奥様と呼んでしまう。雇用主だしな。

「なぁに?」

「アズキが毛玉吐きました。一応、報告を……」

「毛玉は?」

「もうゴミ箱に……」

 かなり臭いからなぁ。

「あら残念」

「胃液ベッタリなので、かなり匂いますよ」

「そうなのね。一度見てみたかったわ」

 ゴミ箱から取り出して見せた。

「こんな感じです」

「なるほど。こんな感じなのね。ありがと」


 それにしても、爪切りを何種類も買ってくる人がいるとは。

 お金の力か、ネコに対する愛の力か。


 少しして、家内放送で呼ばれた。

=♪結望ゆのちゃん、お~昼だよ~。昼休憩~=

 爪切り歌のフレーズじゃん。移っちゃったか。

 お読みいただき、ありがとうございます!


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