膝の上のアズキ
2日目。
ネコ部屋は2重扉になっている。
1つ目の扉をくぐると、そこは小さな水場と倉庫だった。
ネコのエサやオヤツがいっぱいストックされている。
作業部屋って感じかな。
それから、大きなはかりと、ネコを入れるためのかご。
今日から、私の仕事に体重測定が加わった。
マグネット式のクリップボードに体重を記載していく。
かごにアズキを入れて重さを測り、かごの重さを引く。
かごに入れても暴れないのは助かる。
今日は、私のほうをじっと見てくる。
「ん? どうした?」
「ニャ~」
何か答えてくれたがよくわからん。
まあ、ネコだし。
2つ目の扉を開けてネコ部屋に入る。
ネコ部屋に着くと、アズキはスルリと私の手を離れ、ガラス扉のそばに駆けていった。
こちらを見ながら鳴く。
「ニャ~。ニャ~」
何だ? この扉。
ここもカードキーがないと開かない。
カードをかざして扉を開ける。
「うわっ。なんだ、ここ……」
扉の向こうは、屋外だった。
脱走防止のために作られた中庭らしい。
でも、そんなことより――。
小さな丘がある。
そこから水が流れ、小さな滝になっている。
小川もある。池もある。
その中では、小さな魚まで泳いでいる。
いろんな草木が植えられ、季節の花も咲いていた。
これが、ネコ庭と呼ばれていた空間か?
ネコ庭というから、もっとこぢんまりしたものを想像していた。
ベンチもあるのか……。
座ると、近くの木々から、とても心地よい風を感じる。
葉っぱのあたりから、ひんやりした空気が流れてくる。
ミストみたいな、涼しくて爽やかな感じだ。
木がいっぱいあるからかな?
なんだか、すごく気持ちいい。
アズキが、私の足のまわりをぐるぐる回っている。
こちらを見上げている。
なんだか得意げだ。
「お前、ここを見せたかったの?」
「ニャ~」
「うん。ありがとう」
そういって、アズキの頭を撫でた。
「ニャ~」
確かに、ここは心地いい。
う……ん……。
ハッと目を覚ます。
「やば、勤務中に寝ちゃってたよ」
膝のあたりが、ほんのり温かい。
誰か、ひざ掛けかけてくれたのかな。
そう思って下を見る。
え?
アズキ?
アズキが膝の上で寝ていた。
いつもは私の膝に乗っても、4本脚で立ったままだった。
それが今日は違う。
ちゃんと脚をたたんで、丸くなって眠っている。
そっと撫でてみる。
起きない。
ひざを通じて、アズキの呼吸のリズムが伝わってくる。
それがまた心地よい。
「お……おお……」
これはかなりの進展じゃないか?
ふと気になって、時計をみる。
もうすぐお昼の時間だ。
ネコ庭では家内放送が聞こえないので、ネコ部屋へ戻ることにした。
アズキは、まだ起きない。
起こさないように。
起こさないように。
静かに。
静かに……。
ネコ部屋に戻る。
私は椅子に座り、膝の上で眠るアズキを眺めていた。
家内放送で呼ばれた。
=結望ちゃん、お昼できたよ~。昼休憩入って~=
その放送で、アズキがビクッと反応した。
「あ……」
起きちゃった。
私はアズキを置いて、リビングへ向かう。
「アズキのお昼ご飯、あげてみてもいいですか」
「いいわ、まかせるけど。今、勤務時間外なんだけど」
「趣味の時間ということで……」
私は、急いでお昼をかっこむ。
美味しいご飯だから、ゆっくり味わいたい。
でも、今はアズキとの時間が優先だ。
私は急いでネコ部屋へ戻った。
手から直接あげたい気もしたが、
嫌がられたら申し訳ないので、今は、ふつうに接しよう。
いつもの食事皿に、いつものカリカリを入れ、お水も交換。
私は、カリカリを食べるアズキを、少し離れたところから眺めていた。
近づきすぎたら食べにくいだろうし。
幸い、ネコ部屋は広いので、遠くから眺められるのだ。
ご飯のあと、トイレに行くアズキを見た。
あれ? 初めて見るような。
今までは、私のいない時しか、してなかったらしい。
もしかして、今までは我慢してたのかな?
だったら、ごめんよ。
さっそくトイレの掃除。
思えば、子どもの頃以来だ。
懐かしい。
うちでも昔、ネコを飼っていた。
私が拾ってきた白いネコで、ホイップと名付けていた。
お母さんに頼み込んで、飼わせてもらった。
だけど――。
ホイップはいなくなった。
あれ以来、動物と直接向き合うのを避けてきた。
でも、ネコは嫌いになれなかった。
ネコのトイレ掃除をしていて、思わず涙が出た。
「ニャ~」
アズキが心配そうにこちらを見ている。
「大丈夫だよ。
ちょっとね、うれしかったんだ。懐かしかったんだ。
決して、トイレ掃除が嫌だからじゃないぞ!」
涙まみれの顔で、ニカッと笑ってみせた。
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