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ネコ・シッター石川結望の業務日誌:9話完結:毎日更新(昼12時)  作者: 秋月心文


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3/8

膝の上のアズキ

2日目。


 ネコ部屋は2重扉になっている。

 1つ目の扉をくぐると、そこは小さな水場と倉庫だった。

 ネコのエサやオヤツがいっぱいストックされている。

 作業部屋って感じかな。


 それから、大きなはかりと、ネコを入れるためのかご。


 今日から、私の仕事に体重測定が加わった。

 マグネット式のクリップボードに体重を記載していく。

 かごにアズキを入れて重さを測り、かごの重さを引く。

 かごに入れても暴れないのは助かる。

 今日は、私のほうをじっと見てくる。

「ん? どうした?」

「ニャ~」

 何か答えてくれたがよくわからん。

 まあ、ネコだし。


 2つ目の扉を開けてネコ部屋に入る。


 ネコ部屋に着くと、アズキはスルリと私の手を離れ、ガラス扉のそばに駆けていった。

 こちらを見ながら鳴く。

「ニャ~。ニャ~」

 何だ? この扉。

 ここもカードキーがないと開かない。

 カードをかざして扉を開ける。


「うわっ。なんだ、ここ……」


 扉の向こうは、屋外だった。


 脱走防止のために作られた中庭らしい。


 でも、そんなことより――。


 小さな丘がある。

 そこから水が流れ、小さな滝になっている。


 小川もある。池もある。

 その中では、小さな魚まで泳いでいる。


 いろんな草木が植えられ、季節の花も咲いていた。


 これが、ネコ庭と呼ばれていた空間か?


 ネコ庭というから、もっとこぢんまりしたものを想像していた。


 ベンチもあるのか……。

 座ると、近くの木々から、とても心地よい風を感じる。

 葉っぱのあたりから、ひんやりした空気が流れてくる。

 ミストみたいな、涼しくて爽やかな感じだ。


 木がいっぱいあるからかな?

 なんだか、すごく気持ちいい。


 アズキが、私の足のまわりをぐるぐる回っている。

 こちらを見上げている。

 なんだか得意げだ。


「お前、ここを見せたかったの?」

「ニャ~」

「うん。ありがとう」

 そういって、アズキの頭を撫でた。

「ニャ~」


 確かに、ここは心地いい。


 う……ん……。


 ハッと目を覚ます。

「やば、勤務中に寝ちゃってたよ」

 膝のあたりが、ほんのり温かい。

 誰か、ひざ掛けかけてくれたのかな。

 そう思って下を見る。


 え?

 アズキ?


 アズキが膝の上で寝ていた。

 いつもは私の膝に乗っても、4本脚で立ったままだった。


 それが今日は違う。

 ちゃんと脚をたたんで、丸くなって眠っている。


 そっと撫でてみる。

 起きない。


 ひざを通じて、アズキの呼吸のリズムが伝わってくる。

 それがまた心地よい。


「お……おお……」


 これはかなりの進展じゃないか?

 ふと気になって、時計をみる。

 もうすぐお昼の時間だ。

 ネコ庭では家内放送が聞こえないので、ネコ部屋へ戻ることにした。


 アズキは、まだ起きない。

 起こさないように。

 起こさないように。

 静かに。

 静かに……。

 ネコ部屋に戻る。


 私は椅子に座り、膝の上で眠るアズキを眺めていた。


 家内放送で呼ばれた。

結望ゆのちゃん、お昼できたよ~。昼休憩入って~=

 その放送で、アズキがビクッと反応した。

「あ……」

 起きちゃった。

 私はアズキを置いて、リビングへ向かう。


「アズキのお昼ご飯、あげてみてもいいですか」

「いいわ、まかせるけど。今、勤務時間外なんだけど」

「趣味の時間ということで……」

 私は、急いでお昼をかっこむ。

 美味しいご飯だから、ゆっくり味わいたい。

 でも、今はアズキとの時間が優先だ。

 私は急いでネコ部屋へ戻った。


 手から直接あげたい気もしたが、

 嫌がられたら申し訳ないので、今は、ふつうに接しよう。


 いつもの食事皿に、いつものカリカリを入れ、お水も交換。

 私は、カリカリを食べるアズキを、少し離れたところから眺めていた。

 近づきすぎたら食べにくいだろうし。

 幸い、ネコ部屋は広いので、遠くから眺められるのだ。


 ご飯のあと、トイレに行くアズキを見た。

 あれ? 初めて見るような。

 今までは、私のいない時しか、してなかったらしい。

 もしかして、今までは我慢してたのかな?

 だったら、ごめんよ。


 さっそくトイレの掃除。

 思えば、子どもの頃以来だ。

 懐かしい。


 うちでも昔、ネコを飼っていた。

 私が拾ってきた白いネコで、ホイップと名付けていた。

 お母さんに頼み込んで、飼わせてもらった。


 だけど――。

 ホイップはいなくなった。


 あれ以来、動物と直接向き合うのを避けてきた。

 でも、ネコは嫌いになれなかった。


 ネコのトイレ掃除をしていて、思わず涙が出た。


「ニャ~」

 アズキが心配そうにこちらを見ている。


「大丈夫だよ。

 ちょっとね、うれしかったんだ。懐かしかったんだ。

 決して、トイレ掃除が嫌だからじゃないぞ!」

 涙まみれの顔で、ニカッと笑ってみせた。

 お読みいただき、ありがとうございます!


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